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なぜ沖縄「ジャパンサマーリーグ」に参加したのか?4人のコメント

広尾晃のBaseball Diversity

夏の甲子園が行われている期間に合わせて、沖縄県で「ジャパンサマーリーグ」が開催された。参加者は、選手権地方大会で敗退した高校の野球部員など30数人。彼らは3つのチームに分かれて1週間に及ぶリーグ戦を戦った。

「思い」を完全燃焼する機会

参加費は5.5万円(昼食付)、沖縄県外から参加する場合は、別途交通費、宿泊費がかかることになる。経済負担を考えれば、だれでも参加できるとは言えないが、2年半の高校野球で満たされなかった思いを完全燃焼する機会でもある。

球場は、今年4月に新装なった嘉手納野球場。全面人工芝の美しい球場だ。来年2月の春季キャンプでは横浜DeNAベイスターズのB組が使用する予定だ。しかも運動公園内にあるので、室内練習場でもトレーニングができる。

また、球場には弾道測定器「トラックマン」が設置され投打のデータが具に記録される。また、バットにはスイングスピードを計測する「ブラスト」が装着される。自分がどのレベルの選手か?何が必要なのか、をデータ野球で知ることができるのだ。

さらに試合後は「レベルアッププログラム」で、トレーナーやデータ野球の専門家から、トレーニング法やデータの理解の仕方などを学ぶことができる。

ホームベース後ろに設置された「トラックマン」

サマーリーグには様々なキャリアの選手が参加している。この中から4人に話を聞いた。

「試合に出られなかった分アピールしたい」 帝京高校、高橋大翔

高橋大翔

帝京高校の高橋大翔は捕手。中学時代は佐倉リトルシニアに入り1年生から日本選手権や全国大会に出場するなど注目されたが、帝京高校では正位置を獲得することはできなかった。

「高校2年生の春からベンチ入りしたんですけど、公式戦には一度も出ることなく、3年の夏が終わってしまって。沖縄でサマーリーグがあると言うのを聞いて、参加することにしました。

昨年の秋の大会の前までは、レギュラー捕手だったのですが、前日にレギュラーを外されました。

直前まで練習もして、ベンチに入っていて、次の試合出ることになっていたのですが、出られなくなりました」

自分の持ち味はどんなところだと思いますか?

「僕の持ち味はバッティングだと思います。捕手としてはスローイングに自信があります。

それを試合で見せることができなかったので、サマーリーグでアピールしたいと思いました。

最初の試合の前は緊張しましたけど、みんな野球を楽しんでいるので僕も楽しめました。いろいろなピッチャーと対戦するので、どんどん打っていければと思います。

それから今日は(ドラフト候補の、札幌第一高校の)半田悠君の球を受けましたが、すごくいい球で、上には上がいるんだな、と思いました。実は彼とは中学時代、全国大会で対戦したことがあるんです。

将来的にはプロに行ければと思っています。実績を上げてドラフトにかかるように、これから努力したいですね。自分が好きなのはカブスの鈴木誠也選手なので、パワーアップ頑張っていきたいです」

コーディネーターは、高橋がリーグ戦の初日から熱心に質問するなど「目の色が変わっていた」と話す。この1週間で何かを掴んでほしいと思う。

帝京高のチームメイトの黒木大地から二塁打を打つ

「男子の中でも大丈夫です」福井工大福井、大里成海

大里成海

参加選手中唯一の女子選手が、福井工大福井の大里成海だ。

女子選手の応募は想定外だっただけに、主催者側も当惑した。彼女は「選手が無理なら、レベルアッププログラムだけでも受講させてほしい」と伝えてきた。送られてきた動画を、リーグの監督にあたるコーディネーターが確認したところ「問題ない」と判断して、参加が決まった。

「地元沖縄県の出身です。中学は北谷ボーイズでプレーをし、福井工大福井では女子野球をしていました。大学でも野球を続けたいと思っていますが、レベルの高い野球を学びたいと思っていました。女子にはサマーリーグのようなものはありません。地元でサマーリーグがあると聞いて、男子のリーグでもぜひ参加したいと思いました。自宅から通っています」

後はみんな男子ですが、戸惑いはなかったですか?

「かなり戸惑いましたが、みんな優しくしてくれています」

昨日(初日)は、初めて試合に出てDHで打席に立ちました。2試合目は一塁を守りました。ベンチからは「普通に守っている」と男子の選手が驚いていましたが。

「一塁はずっとやっていました。私はバッティングが持ち味ですが、女子と男子ではピッチャーの球の伸びが違います。打席で見ても、全然違うと思いました」

限られた人数の上に、毎日試合をしますから、ほとんどの試合に出場することになると思いますが。

「きついとは思いますが、大丈夫だと思います。このサマーキャンプは、母がテレビで見て、こんなのがあるよって薦めてくれたんです。将来についてはまだ何も決まっていませんが、大学でも野球をする中で、決めていきたいと思います」

このインタビューの後の試合で、大里は見事なタイムリーヒットを打った。打席の構えも「野球選手そのもの」という感じだった。

彼女はこのサマーリーグで、どんな成果を持ち帰るのだろうか?

タイムリーヒットを打つ

「ここでやっていけたら大学でも通用する」日本ウェルネス高等学校沖縄キャンパス、伊波遠莉

伊波遠莉

このサマーキャンプには、通信制の高校で野球をする選手も参加している。

日本ウェルネス高等学校、沖縄キャンパスの伊波遠莉は外野手。

「高校時代、自分は怪我ばっかりで、あまり試合に出られなかったんです。母が『やってみたら』と言ってくれたので、挑戦することにしました」

なぜウェルネス高校に行こうと思ったのですか?

「練習時間がしっかりとれるのと、みんな伸び伸びできるのがいいと思いました」

どんな外野手でしたか?

「学校ではセンターを守っていました。足が速くて、肩も良くて、バッティングも良かったのですが、2年生の時にひざの前十字靭帯を断裂して、夏に間に合えばいいなと思ったのですが間に合わなくて、大学でも野球をしようと思ったのですが、この怪我で無理になったなと思いました。

でもサマーリーグがあるのを知ったので、ここで大学で野球をやる道が開ければと思いました。

今はまだ木製バットに慣れていないので、木製でボールをとらえられるようになりたいです。それと守備力も上げたいですね。

ドラフトにかかりそうな選手など、すごい選手がごろごろいるので、ここでやっていけたら大学でも通用するんじゃないかと思います」

「投手でもアピールしたい」日本ウェルネス高等学校沖縄キャンパス、上地守隼

上地守隼

同じく、日本ウェルネス高等学校、沖縄キャンパスの上地守隼も外野手。

「ウェルネス高校は、監督さんの考えとか良いなと思って選びました。自分は野球が好きなので、ずっと練習ができる環境も気に入っています。

もともと投手で入ったのですが、1年の時に肘の軟骨の除去手術をして、外野手に転向しました。沖縄県大会は1回戦で負けてしまったので、サマーキャンプに参加しました。

全国から選手が集まると聞いて、楽しみだなと思いました。親も大学はまだ決まっていないから、いいチャンスじゃない、と言ってくれました。

自分はバッティングが持ち味なので、それを出せればと思っています。本当にすごい人ばかりなので、自分も負けてられないな、と思いました。

バッティングや守備もアピールしたいですが、投手としても希望して参加しているので、できたらマウンドでもアピールしたいです」

レベルアッププログラムに参加する選手たち

しみじみ感じるのは、昨今の高校野球の「多様性」だ。同じ高校野球選手と言っても、育ってきた環境も、夢も目標も全然違うのだ。サマーキャンプで、彼らが可能性を掴んでほしいと思う。

嘉手納野球場に掲げられた横断幕

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