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目指すはプロ野球、3年春に投手デビューをした明治学院大のエース・佐藤幹が首都一部で勝利を目指す

 9月3日、首都大学野球秋季リーグ戦が開幕した。 

 首都リーグは一部6校、二部10校の2部制。毎シーズン終了後、一部6位と二部1位のチームが入替戦を行い、2勝した方が次のシーズンを一部で迎える。春季リーグ戦で二部1位となった明治学院大は、帝京大との入替戦に勝利し、2008年春以来の一部昇格を果たした。 

 その明治学院大で投手の柱となっているのが、右腕の佐藤幹(もとき)投手(4年・駿台甲府)だ。大学2年まで内野手だった佐藤は、3年春に投手デビューをし、4年春には二部の最優秀選手に選ばれるまでの成長を見せた。

明治学院大の右のエース・佐藤幹投手

 投手のキャリアは2年にも満たないが、目指すはプロの世界。すでにプロ志望届も提出し、この秋のシーズンに臨んでいる。そんな佐藤が先発したここまでの2試合を追った。 

首都一部でも戦える右のエース 

 ほがらか。初めて間近で佐藤を見たときに、そんな言葉が浮かんだ。 

 前のシーズンで6位だったチーム、または6位のチームとの入替戦で二部から昇格してきたチームは、前のシーズンの優勝チームと開幕カードを戦う。春の王者・東海大を相手に7回0/3 2失点(自責1)と好投した佐藤は、笑顔で取材に応じてくれた。 

「これまでずっと二部だったので、一部にめちゃくちゃびびっていました。(東海大のユニフォームの)縦縞を見た瞬間はすごく緊張しましたし、首都の開幕というところで、第一試合の(試合開始の)号砲にもめちゃくちゃ緊張しました」 

 ふわっとした空気をまとい、柔らかい笑みを浮かべながら自分のペースでゆっくりと話す。「びびっていた」と正直に口に出す飾らない様子が、より取材の雰囲気を柔らかくする。投球内容で良かった部分について訊くと「まっすぐのスピード自体はそんなに出ていなかったと思うんですけど『威力』という部分をこの夏練習してきたので、140キロ前半でも空振りを取れたり、しっかりファウルを打たせて次の決め球に繋げることができたところは良かったと思います」と、また笑顔を見せた。 

 課題も見つかった。野手陣の頑張りで明治学院大が2点リード、佐藤も7回まではランナーを背負いながらも無失点の投球を続けていたが、8回の先頭から二者連続で四球を与えてしまった。「9回まで投げるつもりでしたが、東海大のバッターは簡単に抑えられないのでひとりひとり丁寧にと意識した結果、へばってしまいました」。 

 好投を続けていただけに、交代のタイミングが難しかった。金井信聡監督も「開幕ということで最初から飛ばして予定よりも多くいけたので、ちょっと欲を出して最後までいかせたいと思ってしまいました」と、苦笑い。8回無死一、二塁でリリーフ陣にあとを託したが、バッテリーエラーや犠飛で同点に追いつかれ、9回にも犠飛で勝ち越し点を与えて悔しい逆転負けとなった。 

 投手として投げ始めた当初は短いイニングを任され、完投できるようになったのは今年の春。スタミナ面に関しては、これから登板を重ねていくうちに向上していくことだろう。結果的に敗戦となったが、140キロ前半のストレートを軸に、キレのいいカットボールなどで打者を打ち取っていく投球を見せた佐藤は、一部でも十分に戦えることを証明した。 

マウンドでもときおり笑顔を見せる

 第2週、明治学院大は春季リーグ2位の日体大と対戦。この日、取材会場に現れた佐藤に笑顔はなかった。成績だけ見ると、7回 106球4安打5四球2失点で、東海大戦の7回0/3 124球5安打5四死球2失点(自責1)とそれほど違いはないように思える。だが、佐藤は納得していないようだった。 

「東海大のときはわりとバットを振ってくれて、ファウルとかでカウントが有利になって、全体的には押せていたのかなと思っていましたが、(日体大は)2ストライクになってからの粘りがすごくて、ボール球は振らないという感じでした。自分の得意球でも三振が取れず、結果的に球数も多くなり苦しくなってしまいました」 

 三振を狙ってカットボールやフォークなどの決め球を投げても、バットを振らない日体大の打者に苦戦。四球で出したランナーが失点に繋がるなど、思い描く投球ができなかった。野手も日体大の投手陣を前に無得点に終わり、最終的には0-4で敗戦。「フォアボールから失点して、チームの流れを持って来られなかった。結果的に完封負けしてしまったというのは、やっぱりピッチャーが流れを作れなかったからだと思うので、次回の登板までにしっかり克服したいです」と、沈んだ顔のまま反省と抱負を語った。 

内野手から投手へ 

 今でこそ投手の柱となっている佐藤だが、2年秋まではショート、サードなどを守る内野手だった。過去の投手経験は、小学生のときに「投げる人がいない試合で投げた」程度だという佐藤が、なぜ投手へ転向することになったのか。 

2年生まで内野手だった

 当時のことを金井監督が振り返る。「4年生の子が『僕、ピッチャーやりたいんです』と言うので、リーグ戦で投げさせたんですよね。それで、他にピッチャーをやりたい子でいい球を投げる子、肩が強い子はいるか、と言ったら『佐藤がいい』という話を聞いたんです。佐藤が立ち投げしているところをスピードガンで測ったら、140キロ出ていました」。 

 そこから二刀流となった佐藤だったが、投手の練習がどんどん楽しくなってきたため、投手に専念することにした。今では、最速150キロ、常時140キロ台前半~中盤のストレートと、二種類のカットボール、フォーク、チェンジアップ、カーブを操る。左のエース・大川航希投手(4年・志学館)と共にチームを二部優勝に導き、最優秀選手に選ばれた。いまや一部でも戦える投手となった佐藤は、指揮官の目にどう映っているのだろうか。 

 「素直です。すごく素直です」開口一番、金井監督はこう言った。そして「野球を楽しんでいる。何よりも野球が大好きで楽しくてしょうがないみたいです」と続けた。佐藤のそんな人間としての魅力のあとに、プロの世界も見据えた身体的な魅力を語った。「ずっとピッチャーをやっていなかったので、肩の消耗もしていないですし、体が強いです。(見た目は)ぽっちゃりしているんですけど、筋力はしっかりついています。強靭な体とバネがある。正直言うと、この短期間で東海大さんを苦しめるようなピッチングができるまで成長するとは、ちょっと想像していなかったですけどね」。 

 本人いわく「まあ、ふとやってみたいと思ったんですよね」という投手への挑戦が、想像以上の今を生んでいる。さらに伸びしろをたっぷり残しているとなると、この先が楽しみで仕方がない。内野手出身という点では、フィールディングにも期待したいところだ。 

 武蔵大、筑波大、桜美林大との対戦が控えてる明治学院大。佐藤幹がチームに一部リーグ初勝利をもたらすのか、その投球に注目だ。 

好きな時に好きなだけ神宮球場で野球観戦ができる環境に身を置きたいと思い、OLを辞め北海道から上京。 「三度の飯より野球が大好き」というキャッチフレーズと共にタレント活動をしながら、プロ野球・アマチュア野球を年間200試合以上観戦する生活を経て、気になるリーグや選手を取材し独自の視点で伝えるライターに。 大学野球、社会人野球を中心に、記者が少なく情報を手に入れづらい大会などに自ら赴き、情報を必要とする人に発信することを目標とする。

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