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本気な大人って、カッコ悪いくらいカッコいいと思う② 2回戦に進んだチームに迫る・後編~第89回都市対抗野球大会~

毎日熱戦が繰り広げられる東京ドーム。アマチュア最高峰の戦いは、どれも見ごたえのあるものばかりで目が離せません。7月13日から6日間で1回戦がすべて終わり、16チームが2回戦進出を決めました。

その16チームの中で5チームをピックアップし、前編・後編に分けて、監督や選手のコメントをご紹介します。

後編はこの3チームです。

 

ルーキー三遊間・日本通運(さいたま市)

 
次は、昨年準優勝の日本通運(さいたま市)です。3日目の第1試合でHonda熊本(大津町)と対戦しました。

2回、先発した生田目翼投手(流通経済大・2年目)の右膝に打球が当たり、3回途中で降板。思わぬアクシデントもありましたが、4-2で勝利した日本通運。決勝点を挙げたのは、ルーキーの稲垣誠也選手(中部学院大)でした。

実は、対戦相手のHonda熊本には稲垣選手の兄、稲垣翔太選手(明豊高・7年目)がおり、6番ショートで出場していました。初めて兄と対戦した気持ちなども含めた、稲垣選手のお話です。

決勝打を放った稲垣選手

――大学ではショートでしたが、社会人ではサードを守っていますよね。藪監督が諸見里匠選手(國學院大・1年目)には守備、稲垣には足がある、ということで諸見里選手はそのままショート、稲垣選手はサードをやることになったようですが、初めてのポジションに戸惑いはありませんでしたか。

「諸見里は守備がいいので、特にありませんでした。高校はセカンド、大学はショート、今はサードですね。試合ではセカンドやショートを守ることもあります」

――社会人になってから大学とは練習内容も異なると思いますが、ご自身では何を一番強化してきましたか。

「全部ですが、守備ですね。サードは速い打球が来るので、ハンドリングを強化しています。あとは、差し込まれないようにとバットをよく振り込んでいます」

――チーム内で目標とする選手は誰ですか。

「浦部(剛史/神奈川大・8年目)さんです。体は大きくないのにスイングが力強いので」

――お兄さんがいるHonda熊本に勝ったというのは、どんな思いでしょうか。

「嬉しいけど…もうちょっとお兄ちゃんのプレーも見たかったですね。複雑な気持ちです」

最後は弟らしい幼い苦笑を見せた稲垣選手。今後の活躍も楽しみです。

 

安定感のあるバッテリー・トヨタ自動車(豊田市)

 
4日目の第3試合は、一昨年の優勝チームであり、昨年の秋の日本選手権で優勝したトヨタ自動車(豊田市)がこちらも6年連続出場の強豪、東京ガス(東京都)と対戦しました。2時間8分と短い試合時間が引き締まった試合だったことを物語っていますが、その中にも両投手の好投、ベテランの奮起、そしてスタンドも沸く華麗な守備、と見どころしかないくらいの試合内容でした。

トヨタ自動車だけではなく、いまや社会人野球界のレジェンドとなっている佐竹功年投手(早稲田大・13年目)が先発したこの試合、佐竹投手のお話を聞きました。
 

1失点完投の佐竹投手

――ご自身にとって今日の投球はいかがでしたか。

「臼井(浩/中央学院大・2年目)はいいピッチャーなので、先に点を取られないようにしていたのに取られちゃいました。地引(雄貴/早稲田大・6年目)に打たれましたが、(4番の)笹川(晃平/東洋大・2年目)は絶対抑えてやろうと思っていたので抑えられて良かったです。山内(佑規/明治大・7年目)に打たれたのは悔いが残りますけど(笑)。楽しい、いい戦いができました」

――6回途中で一度ベンチに戻りましたが、何かアクシデントだったのでしょうか。

「足がつったんです。回の頭から右足がつってなおってを繰り返していて、(4人目の打者)笹川のライトフライのカバーに入ったところで完全につってしまった。緊張や地面の高さ、暑さなど要因はいろいろあったと思います」

――足がつっている状態なのに、小走りで行き来していましたよね。

「お客さんが待っているので!(笑)」

さすがスター佐竹! 観ているこちらは、そんなに無理しないでください、という気持ちですが、気遣いがさすがですね。

佐竹投手とバッテリーを組んで、さらに同点ホームランを打った細山田武史選手(早稲田大-NPB・3年目)にもお話を聞きました。


 
――実は社会人初ホームランなんですよね? 感触はどうでしたか。サイレントトリートメントも受けていましたね。

「そうです。打った瞬間ホームランだと思いました。でも全力疾走しましたよ! 常に全力疾走が決まりですからね(笑)。かわいい後輩たちが喜んでくれて嬉しいです(笑)」

――佐竹投手が、笹川選手は絶対抑えたかったとおっしゃっていましたが、笹川選手を抑えるためにはどんなことに気をつけたのでしょうか。
 
「インコースを打つのがうまいのでそこを気をつけて、単打は良いからホームランだけは打たれないように、ですね。それが今日はうまいこといって単打も打たれなかったですね」


 
ホームラン打ったら引退するっていつも言ってるんで、もう引退です! などと冗談もいいながら、終始取材陣を笑わせて楽しくお話をしてくれた細山田選手。

 佐竹投手と細山田選手は、別々の場所で同じ質問をしても必ず同じ答えが返ってきます。常に意思の疎通ができている状態で試合に臨めているのだなと感じます。NTT東日本の上田捕手の「バッテリーとしてどこに向かっているか」という言葉の意味が、はっきりとわかりました。
 

スタミナの秘訣は? 三菱重工神戸・高砂

最後は5日目の第2試合、七十七銀行(仙台市)と対戦した三菱重工神戸・高砂(神戸市・高砂市)です。初回に一気に5点を挙げ、そのまま勝利となりました。
 
三菱重工神戸・高砂と言えば、守安玲緒投手(富士大・9年目)です。以前よりは少し減ったとは思いますがとにかく登板機会が多いことなどから、社会人野球ファンからは「守安重工守安・守安」と呼ばれたりも。チームメイトの尾松義生投手(拓殖大・3年目)もそれに触れて、今シーズンは「守安重工守安・尾松」に変わっていくところを見てほしい、と公式サイトのプロフィールページに書いているくらいなのですが、実際ご本人はどう思っているのか、他の質問に何気なく交ぜて聞いてみました。

――グローブのラベルがBENのラベルに似ているように見えたのですが、よく見ると少し違いますよね?
 
「ボナンザというメーカーのグローブです。関西のメーカーで、先輩がそこにいて使うようになりました」

――ボナンザ、知らなかったです。以前はローリングスを使っていましたよね?
 
「そうですね。今はこのグローブがしっくりきています」
 
――守安投手は登板機会が多くスタミナがあるイメージですが、どのようにスタミナを保っているのでしょうか。
 
「元々それほどスタミナがあるわけではないですけど、大学時代や社会人になってからも小さな大会からたくさん登板機会をもらっていくうちに、投球術を身につけました。キツイなと思うこともありますよ(笑)」

――キツイな、と思ったときは自分から言う方ですか? 交代と言われるまで我慢するんですか?

「言わないで、キツイと思いながらも自分でなんとかしようとします」

――ところで…「守安重工守安・守安」と言われることはどう思っているのでしょうか。

「嬉しくないことはないですけど、後ろで守ってくれている野手もブルペンで準備してくれているピッチャーも、みんながいるので本意ではないです」
 

大量の援護点で守安投手を楽にする野手陣

――都市対抗をもっとたくさんの人に観てもらいたいと思っているのですが、まだ観たことがないけど観てみたい、という方にあと一押しのメッセージをお願いします。
 
「都市対抗は独特な雰囲気だと思いますが、アマチュア最高峰と言われているだけあって、一球にかける必死なプレーが魅力だと思います。ぜひ観てください!」
 
――守安投手自身については、どこを見て欲しいでしょうか。
 
「球は遅いしプロみたいに派手ではないけど、バッターひとりひとりに向かっていくピッチングです」
 
最初から最後まで優しく穏やかに丁寧に答えてくれた守安投手、「守安重工守安・守安」についての答えも期待通り満点でしたね。ファンの言葉遊びを理解してくれつつ、野球はチームプレーなのでチームメイトへのリスペクトも忘れない、そんな守安投手を私たちはまた追い続けるのでしょう。
 
都市対抗野球大会も後半戦。7月24日には日本一のチームが決まります。黒獅子旗を手にするのはどこの都市になるのか。

 毎試合、見逃せない戦いが行われている。写真は勝利に沸くJR西日本(広島市)

東京ドームの正面、22番ゲート前の広場では各地域から名産が集結した物産展も開かれています。毎日違う地区の名産を購入できる物産展は7月22日(日)まで、毎日10~18時の間行われています。
 
東京ドームの中でも外でも日本全国の良さを感じながら、野球観戦も楽しんでください。
 
カッコ悪いくらい全力で、カッコ良くプレーする野球選手の本気を観に行こう!
 

山本祐香
好きな時に好きなだけ神宮球場で野球観戦ができる環境に身を置きたいとふと思い、OLを辞め北海道から上京。「三度の飯より野球が大好き」というキャッチフレーズと共にタレント活動をしながら、プロ野球・アマチュア野球を年間200試合以上観戦。気になるリーグや選手を取材し独自の視点で伝えるライターとしても活動している。記者が少なく情報が届かない大会などに自ら赴き、情報を必要とする人に発信する役割も担う。趣味は大学野球、社会人野球で逸材を見つける“仮想スカウティング”、面白いのに日の当たりづらいリーグや選手を太陽の下に引っ張り出すことを目標とする。


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