「新B1参入を本気で目指しています」京都ハンナリーズ代表取締役社長・松島鴻太氏

B.LEAGUE・京都ハンナリーズ(以下ハンナリーズ)が新体制となり、可能性を感じさせている。古都のバスケットボールがおもしろい。クラブの陣頭指揮を執る代表取締役社長・松島鴻太氏に聞いた。

新体制となりコート内外で大きな可能性を感じさせてくれる。

「第二創業・ウイニングカルチャーを構築するためのベースづくりと捉えシーズン開幕を迎えました」(5月7日、松島氏)

ハンナリーズは今季開幕前の2022年7月1日から新体制となった。自動車ディーラー業を主とする株式会社マツシマホールディングス、ホテルや駐輪場の建設、運営を行う株式会社アーキエムズの2社による共同経営体制となった。

代表取締役社長には松島氏が就任、掲げたのが第二創業だった。クラブ全体のリボーン、生まれ変わる覚悟を持って新たな一歩を踏み出した。

~気付いたら大きく取り残されていた

「クラブが生まれ変わる覚悟です。上位クラブとは歴然とした差がある中でのスタート。簡単ではないですが、追いつけ追い越せです」

2008年、当時のbjリーグ参入のためにハンナリーズは誕生した。国内リーグ再編によってできたB.LEAGUEへは初年度の15-16年シーズンから参入、歴史あるクラブとして欠かせない存在だ。

「ハンナリーズは創設以来、全力でクラブ運営を行なってきました。しかしその間に他クラブはオーナー企業等が多額の資金を投入するなど、経営規模が莫大になった。気が付いたら大変な差ができてチーム力や人気面に現れていました」

「莫大な資金投入ができるわけではありません。しかしやれることは多く残されていました。必要なことを整理してスピード感を上げて取り組んでいます。経営規模は別にしても、他クラブと同じスタートラインには立ちつつあるはずです」

京都ハンナリーズ代表取締役社長・松島鴻太氏は、元ラガーマンでスポーツを心から愛している。

~リアルな交流ができる地上戦

「(ハンナリーズは)ポテンシャルがあるのに、もったいない」と考え続けていた。

チームとしての可能性、京都ブランドを活かせていなかった。世界中に認知される日本を代表する土地でありながら、知名度は低く観客動員にも苦しんでいた。

時間をかけて地元の人々の元を訪れ、会話を重ねることから始めた。足を使い汗をかきながらの地道な活動をすることで、人々の心に刺さるものは違うと信じているからだ。

「ホームタウン(京都)との交流を担当する部署を作り、可能な限りコミュニケーションを取っています。対面で交流を図ることで気持ちを伝えることが何より大事。スポーツは人々の心を動かすものなので、ベースとなるのはリアルな交流ができる地上戦だと思います」

「特に子供たちに興味を持ってもらいたいです。そうすれば必然的に親御さん等にも広がり、会場に足を運んでいただく人数も増えます。『三つ子の魂…』ではないですが、今後もずっと好きでいてくれる可能性も高まるはずです」

イケ猫・はんニャリンは、老若男女に幅広い人気を誇るアイドル。

~スポンサーの方々に会場へ足を運んでもらう

ホームタウンを大事にするのと並行して行ったのは、パートナー(スポンサー)企業を増やすこと。「広告=お金」を出してもらうことはもちろん、試合会場へ足を運ぶ「きっかけ」作りと考えている。

「これまで結果(価値)が残せてなかったので、22-23シーズンは未来価値での営業活動です。『こういう未来のためにやっていますから応援してください』という、情緒に近い部分でお願いしていました。その上で『せっかくならぜひ観に来てください』とお願いしてチケットをお渡ししました」

「応援(協賛)してください」、「観に来てください」という2ステップでお願いする。ハンナリーズに触れたことがない人が、協賛をきっかけに興味を持ってくれるようになっている。

「パートナーとしてお金を出していただくのはありがたい。でも試合も観ていただかないと意味がないと思います。昨年はパートナー企業様へ準備した権益のチケットの消化率が30%程しかありませんでした。これでは何のための応援(協賛)なのか分かりません」

「パートナー企業様に試合を観に来ていただけないのは、クラブの価値が伝わっていないから。試合を観てチームの魅力を感じてもらえれば、ご家族、ご友人にも良さを伝えていただけるはず。もちろん協賛金を増額いただける可能性もあります」

スポンサー企業は今季だけで115社を増やすことができて、現在は255社に支えられているという。

ホームタウンとスポンサーの両方を大事にすることで来場者を増やす。

~方法次第では満員にもできる

地道なホームタウン活動やスポンサー企業の増加は、集客面に好影響を及ぼした。シーズンを通じて4試合の完売を含む、約2,700人の平均観客動員数を記録した。チーム成績は決して芳しくない中(22勝38敗戦、西地区7位)、前年比約220%という成果は驚異的と言える。

「昨年が約1,200人でしたので、正直タフな作業でした。フロントスタッフ全員が地道な活動を行ってくれました。営業部だけではなくクラブに関わる誰もが、会う人ごとに魅力を伝えようとしています。地道に対面することの強さを感じます」

「パートナー企業様との対話も重視します。『今日の試合、スポンサー様のチケットは○○枚』と言う数字が試合前に出ます。その席が空いていたら『何かあったのですか?』と事後のケアを忘れません。チケット権益を取得してもらって終わりではなく、徹底的に話しかけます」

シーズン4試合をフルハウスにしたことも評価に値するだろう。人気クラブとの対戦や、相手クラブのB2降格がかかった状況もあったが、実績を残したと言える。

「自信になりました。スタッフは経験値がないメンバーが集まっています。例えばチケット担当は、以前は自動車ディーラーの営業とホテルマンだった人です。イチから覚えて全力を注いでくれています。満員にできたことは大きな成功体験です」

「『やれることをやろう』とクラブ全部が団結、ビラ配り等も行いました。様々な条件が重なっての満員でしたが、『やり方次第でできる』とも感じられました。今後は常に満員を目指していきたいです」

オフィシャルチアダンサー「はんなりん」が行う和洋折衷の応援にも注目。

~最短で新B1へ参入する

第二創業の出だしは順調だが、2026-27年からの新B1参入基準という宿題も抱えている。5千人以上収容のホームアリーナ確保、平均入場者数4,000人以上、売上高12億円などを乗り越えなければならない。

「最短で新B1へ行きたいと考え、諦めずにやっています。売上高に関しては、しっかりとしたプランを立てて全力かつ地道に実行すれば自力で到達可能だと考えています」

「観客動員も決して不可能ではない。今季は4,000人以上入った試合もありました。調子に乗らず、できること全てを継続的に行う。来季は最低10試合以上の4,000人超試合を作り出したいです」

売上高と観客動員に関しては光が見えつつある中、課題はホームアリーナ(箱)。新B1参入を目指すクラブにとっては高いハードルになりつつある。

「箱に関しては、様々な要素が関わります。その中で新B1参入のため、自分たちの最大限の努力をしています」

全国各地から新B1基準に合ったアリーナ建設の話が聞こえてくる中、今後どうなって行くかに注目したいところだ。

古都・京都の可能性を信じて前進するのみだ。

~スポーツでは本気が必ず伝わるはず

松島氏は東海大仰星高(大阪)、東海大、トップリーグのコカ・コーラレッドスパークスでラグビーをプレーした。スポーツの価値や可能性を熟知しており、ハンナリーズを通じて多くの人が幸せになれる場所を作り出したいと考える。

「ビジネス面は重要ですが、スポーツなので心に刺さることも大事。夢や感動という言葉に表せない特別なものが商材です。自分たちが本気を出して訴えれば必ず伝わるはずです」

「選手時代はラグビーのことしか頭にありませんでした。今では選手たちに『バスケだけではダメ』と偉そうなことを言っている(笑)。チーム運営に関わり、多くの人に支えてもらっているのを痛感しているからです。感謝の気持ちはコート内外で常に感じて欲しいです」

「クラブの本気の姿勢を見せていきます。選手は勝利を目指して必死に戦う。スタッフは環境を少しでも良くするように動く。ハンナリーズに関わった人たち全てが幸せになれるように、突き進んでいきたいと思います」

クラブの本気度は試合結果にも見え始め、今季は強豪・島根スサノオマジックにも勝利した(4月12日、87対72)。歯車は確実に回り始めており、立ち止まるわけにはいかない。

バスケット界の京都ブランドが幅広く認知されるのは、想像以上に早そうな気配が漂う。第二創業・ウイニングカルチャー構築が始まったハンナリーズ、今後の動きから目が離せない。

(取材/文・山岡則夫、取材協力/写真提供・京都ハンナリーズ)

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