2年目を迎えるジャパンウィンターリーグ、成果と課題
広尾晃のBaseball Diversity:17
高校、大学、社会人、独立リーグと様々なカテゴリーでプレーする野球選手に、新しいトライアルの機会を与える「ジャパンウィンターリーグ(以下JWL)」は、昨年11月、沖縄県で始まった。
1か月近い試合の機会は、多くの選手に「野球をする楽しさ」を改めて認識させた。
また、参加者の中から、新しいチームに進む選手も出てきた。
初めてできた本格的なトライアウトリーグ
2年目を迎えるにあたり、ジャパンウィンターリーグの鷲崎一誠代表は、1年目の振り返りと新たな方針を表明した。
JWLは参加者が30万円前後の参加費(滞在費用含む)を支払って、沖縄で1か月弱にわたって行われるリーグ戦に参加するというものだ。
JWLのミッションは
「選手にチャンスを与え、野球界の底上げを行います。」
であり、
①実戦での出場機会を提供すること
②才能を発掘し、野球界の底上げをすること
を目的にしていた。
従来、日本で行われていたトライアウトは1日限りであり、個々の選手が走攻守投の技量を示す機会は極めて限定的だ。NPBの「12球団合同トライアウト」でいえば、投手は3人の打者、打者は3~4人と対戦するだけ。独立リーグや社会人のトライアウトも同じようなものだ。多くは「予め有望と目印を付けた選手の最終確認をする」機会にすぎない。
しかしJWLは、1か月20試合以上の出場機会を与え、選手の技量を存分に発揮させる。
また試合の様子は、すべてYoutubeで配信するとともに球速、打球速度などのデータも提供し、選手のポテンシャルを内外に発信していた。
特筆すべきは「リモートスカウティング」を実施したことだろう。
こうしたトライアウトは、アメリカなどでは行われてきたが、日本国内では初めてのことだった。
10人の選手が契約を勝ち取った
JWLの1年目の成果としては
参加選手は総勢66名。
企業選手もトヨタ、ホンダ、パナソニック、東京ガス、沖縄電力から20名を数えた。高校生、高校・大学卒業生、独立リーグ在籍選手、さらには海外からもウガンダ2名、キュラソー1名、アメリカ4名の参加者があった。年齢も15歳~33歳までと広がりがあった。
1年目から多様な経歴の野球選手が世界各地から集まった。これは大きな成果だと言えよう。
また、MLB、NPB、独立リーグ、社会人野球の 31チームのスカウトが沖縄を訪れ試合を観戦し、実際のプレー、選手を目の当たりにした。
また前述のとおり、リモートスカウティングにより国内外、プロアマの多くのチーム、関係者がJWLの動画を視聴し、選手のスカウティングを行った。
その結果として、30人以上の選手がスカウトされ、10人が独立リーグや海外リーグと契約した。
鷲崎代表は
「今回選手契約をした10人が今後、WBC(ワールド・ベースボール・クラシック)のメンバーに選ばれるかもしれません。5年、10年と長く続いていけば、ここからプロに行くのが当たり前というリーグになると思っています。今後もジャパンウィンターリーグの発展にご期待ください」
とコメントしている。
ただ、ジャパンウィンターリーグは開催時期が、NPBのドラフト(通常は10月)の開催後であり、NPBからの直接の指名はない。NPBでは日本のアマチュア選手(独立リーガーを含む)は、年1回のドラフトを経なければ入団できない。どれだけ有望な選手であっても、翌年1シーズンはどこかでプレーをしなければならない。
この問題は、構造上ずっとついて回ることになる。
選手数、地元振興などに課題も
しかしながら、JWLは初年度に達成できなかったこと、問題点もあったと率直に認めている。
1つは選手数が予定数に達しなかったこと。
計画数120人に対して66人の参加にとどまった。
この原因として、選手募集が周知不足だったことがある。また同時期に同じ沖縄で「アジア・ウィンターリーグ」と言う別の主催者によるウィンターリーグが予定されていて、結局中止になったことが、少なからぬ影響を与えたとは言える。
また、大学、高校の現役野球部員(引退後)の参加が、プロアマ規約、学生野球協会、高野連との関係でできなかったことも大きい。
もう1つは観客動員、さらには地域の盛り上げができなかったこと。
球場での観戦は無料としたが、観客動員は延べ1500人にとどまった。球場ではキャッチボールクラシック、ももいろクローバー高城れにさん参加イベントなども行ったが、それでも最大で、200人の参加にとどまった。キッチンカーの出店も一部あったし、ミニコンサートなども行ったが、地域を盛り上げるとまではいかなかった。
本来であれば、試合は有料とし、球場周辺に賑わいを創出すべきだったが、そこまでの準備に手が回らなかった。
これは準備不足に加えて、この時期に沖縄の独立リーグチームの活動休止などもあり、沖縄県におけるJWLのイメージは必ずしも良好とは言えなかった。
ただ、こうした問題点があったにもかかわらず、JWLの運営自体は黒字だった。
ヘッドスポンサーの全保連株式会社をはじめ、69社のサポートを受けることができた。鷲崎代表以下の営業力に加え、地元沖縄のスタッフが一致団結してスポンサー集めに動いたことが大きい。
さらに、沖縄県が令和4年度スポーツツーリズム戦略推進事業において県内で開催するスポーツイベントのモデル 事業にJWLが選出された。これによって支援金を獲得できたほか、沖縄県内での周知が進んだ。
※当初、参加選手数は69人と発表があったがその後修正された。
2023年の基本方針
では、2年目の2023年はどのような目標を掲げているのか?
まずリーグを2つのカテゴリーに分ける。
1「JAPAN WINTER LEAGUEトライアウト」
これは、プロになるためのトライアウトリーグであり、15歳以上の野球経験者、高校生、 大学生、一般、外国人を対象とする。
2「JAPAN WINTERLEAGUE アドバンス」
こちらは実践目的のスキルアップリーグであり、N P B球団の育成選手、CPBL(台湾プロ野球)、日本国内の独立リーグ、JABA(日本野球連盟)所属の社会人野球チームが対象。
カテゴリーを分けることによって日本球界のプロアマ規定に抵触することがなくなる。
また昨年は、選手のレベルの違いを感じさせることもあったが、2つのカテゴリーにすることでこうした格差を小さくすることもできるだろう。
CPBLは、JWLと交渉して沖縄への選手の派遣を決めた。CPBLは長く4球団でペナントレースを行ってきたが2019年に5球団、2022年に6球団となり、人気も高まっている。
CPBLは2019年まで「アジア・ウィンターリーグ」を開催。NPB、KBO、JABA(日本の社会人野球)の選抜チームを受け入れ12月にリーグ戦を展開していた。ヤクルトの村上宗隆などこのリーグで活躍して注目された選手もいた。コロナ禍で中断したが、台湾では注目度の高いイベントでもあり、2023年に再開する予定だが、それとは別個に数球団が選手の派遣を決めている。
JWLは、選手だけでなく、データアナリストやトレーナーなども参加していた。インターンや若手が現場で選手のサポートをすることで経験値を高めていった。そうしたスポーツ関連のスペシャリストにとっても「トライアウト」の機会だったのだ。事実、この期間中に計測機器「ラプソード」のメーカーにインターン派遣が決まった若手アナリストもいる。
こうした側面も充実させていく必要があるだろう。
「毎日試合をする」ことの重要性
取材を通してJWLの最大のメリットは「毎日野球の試合をする」環境を、選手が経験することにあると思った。
日本ではプロ野球、独立リーグを除いて、週末、夏休みくらいしか試合をしない。多くのアマチュア選手がプロに進んでとまどうのは「毎日試合をする」ことの過酷さだ。試合に出続けるためには、どんな準備が必要なのか?どうしてコンディションを維持するのか?
JWLに参加した選手の中には、疲労困憊した選手もいた一方で、試合出場をし続ける中で進境を示した選手もいた。こういう経験をするのも有意義だろう。
高額の参加費がネックではあるが、例えば奨学金やスポンサードなどで選手の負担を軽減することも考えられる。
今年は11月25日(土)から12月24日(日)まで開催予定。160人の参加者を目指しているという。様々な課題はあるが、野球と沖縄県の振興のために発展してほしい。