【DDTプロレス 夢虹】高校生プロレスラーが目指す世界の頂点

2008年2月8日生まれ、大阪府出身。身長160㎝体重53Kgの華奢な体型で、空中殺法やバック宙を鮮やかに決め、優れた運動神経を兼ね備えている。現在15歳、DDT初のキッズレスラーとして8歳でデビューした「ゆに」は、覆面レスラー「エル・ユニコーン」として10代選手育成プロジェクトを経て、今年3月21日、本名である「夢虹」に改名しDDT再デビューを果たした。

幼少期の「夢虹」はどんな思いでプロレスと向き合ってきたのか。そして今後の夢虹自身が考えるプロレス人生のビジョンについて話を聞いた。

DDTへの入門は高木三四郎社長に自ら直談判

8歳の少年が、倍以上体格の大きいレスラーとリング上で対峙している光景をはじめて観た時、私は目を疑った。その少年は「ゆに」の名で2016年12月にプロレスデビューしたキッズレスラーだった。

4歳まではジャニーズを夢見た可愛らしい男の子。運命は5歳の時に訪れる。大阪を中心に活動する団体「プロレスリング紫焔(しえん)」の試合で、政岡純が繰り出す空中技に魅せられて、すっかりプロレスにハマってしまった。それ以来、プロレス以外のものに興味を抱かなくなり、DVDやテレビ、YouTubeで夢中になってプロレスの試合を探した。

優れた身体能力で飛び技を繰り出す「エル・ユニコーン」時代の夢虹(右)

2015年9月、夢虹が8歳の時、地元大阪でDDTの大会が開催。プロレスリング紫焔のキアイリュウケンエッちゃんが出場することを知り会場に足を運んだ。その時、憧れていた飯伏幸太も観ることができた。その大会を観て「DDTはめちゃくちゃ面白いし、この団体は楽しそう」と感じた。

それまでは、「プロレス界は厳しいイメージがあり無理かもしれない」と少し躊躇していたが「DDTでデビューしたい」と真剣に考え始めた。そして会場で高木三四郎社長を見つけ、夢虹自身が独学で習得したムーンサルト(プロレス技名)の動画を見せて直談判。履歴書を送り、DDTプロレスの入門テストを受けて見事合格した。

夢虹の両親もプロレス好きで、「自分が好きなものをやればいいよ」と理解を示した。

プロレスと並行し、小学3年まで、格闘技に音楽とダンスの要素を加えたブラジルの伝統武術「カポエイラ」を学んでいた。その後、人間離れした飯伏幸太の空中殺法に憧れ、小学4年から小学6年までの3年間は器械体操に取り組んだ。夢虹の身体能力が優れている理由の一つである。

8歳でデビュー戦、9歳でチャンピオンベルト獲得!

キッズレスラーとしてリングに立つ8歳の「ゆに」

2016年12月4日大阪大会、8歳の夢虹は、キッズレスラー「ゆに」としてデビュー。試合は6人タッグマッチ。「緊張しすぎて気づいたら全て終わっていた」とデビュー戦を振り返る。

2017年9月後楽園大会、自身初のタイトル、「アイアンマンヘビーメタル級王座」を平田一喜から獲得。この王座は、“いつでもどこでも”レフェリーさえいればタイトルマッチが成立する、DDTを象徴するタイトルの一つだ。

「めちゃくちゃ嬉しかった(笑)。やっぱりプロレスラーになったらベルトを獲るという目標は共通認識だと思うんです。DDTにはKO-D無差別級王座やEXTREME王座など色々なタイトルがあるけど、やっぱりアイアンマンヘビーメタル級王座のタイトルはDDTの象徴的な感じもあるので、獲れて本当に嬉しかった。獲得直後に大石さん(大石真翔)に敗れて、ベルトを手にしたのは一瞬だったけど、大石さんに肩車されてベルトを持って後楽園ホールの会場を見渡すというのはすごく気持ちよかった」と当時の喜びをかみしめた。

マスクマン「エル・ユニコーン」としてデビュー

2021年にはDDT10代プロジェクト(10代選手育成プロジェクト)に参加。8月21日、高木社長の意向でプロジェクト期間はマスクを着用しリングネーム「エル・ユニコーン」としてデビュー。

10代プロジェクト興行の「DDTeeeen!!」ではライバル選手イルシオンをはじめ、他団体のヴァンヴェール・ジャック、ユーセー☆エストレージャ、佐藤大地、今井礼夢ら10代選手が参戦。彼らと共に切磋琢磨しながら経験を積んだ。同年10月新宿大会「DDTeeeen!!」初興行ではメインイベントを務め、イルシオン相手に激闘を繰り広げた。

試合後、マスクを脱ぐことを選択した夢虹(右)とイルシオン(左)、高木社長(中)

マスクを脱ぎ素顔の「夢虹」として新たな幕開け

2023年3.21後楽園大会で、「DDTeeeen!!卒業試合」が開催された。高校進学を機に10代プロジェクトを卒業。試合後、高木社長から、「マスクマンで続けるか、素顔になるか」の選択を迫られ、マスクを脱ぐことを決断した夢虹。

「僕は、『素顔でプロレスをやりたい』っていうのが強くありました。マスクマンもかっこいいんですけど、素顔だと表情が見えて気持ちや状況が伝わりやすい。マスクを被っても身元がバレバレで噂されることもあったので、大人になって成長した自分を見せたい」と思ったことがマスクを脱ぐ決断の理由だ。

観客の視線が集まり、マスクを脱ぐのが怖いと感じた夢虹。だがマスクを脱いで顔を上げた瞬間、清々しい気持ちになり、15歳の少年の心は開放感に満ちていた。それがプロレスラー「夢虹」としての新たなるスタートとなった。

4.9後楽園大会、「夢虹」としての初戦、上野勇希との一騎打ちが組まれた。健闘むなしく敗れたが、大先輩を相手に奮闘し夢虹の成長を感じる一戦となった。10代プロジェクトのコーチとして上野だけでなく、現在AEWで活躍する竹下幸之介にも指導を受けた夢虹。

「練習を見てくれていた上野さんとシングルで戦えるというのはすごく嬉しかった。自分の成長を上野さんに見てもらいたかったので、試合は全力で挑みました。レスラーとして挑むので『負けたくない、勝ちたい』っていう気持ちもあったけど、それ以上に上野さんに認めてもらいたい気持ちも強かったです」

上野勇希(左)とのシングルマッチで奮闘する夢虹(右)

「夢虹」としてデビューし数カ月が経った現在、DDTの一人としてシングルマッチをはじめ、タッグマッチや6人タッグマッチなど様々なスタイルのプロレスに挑戦している。

7月15日青森大会「Road to PETER PAN 2023 in AOMORI」では大鷲透&平田一喜vs岡田佑介&夢虹のタッグマッチ、7月16日福島大会「ゴージャスナイト」では平田一喜&夢虹vs赤井沙希&岡谷英樹のタッグマッチと、地方への遠征も精力的に参戦する。そして7月23日には東京・両国国技館「WRESTLE PETER PAN 2023」が開催され、高木三四郎&川松真一朗&夢虹vs高梨将弘&小嶋斗偉&瑠希也、6人タッグマッチが行われる。

「ユニークなエンターテイメント性のあるプロレスはDDTらしいし、DDTにしかないプロレスだと僕は思うんです。そういうスタイルで戦うことは嬉しいし、実際リング上で戦うことは楽しいです」

試合を重ねるごとに飛躍的に成長している夢虹

将来は海外での活動も視野に。誰もが知っているプロレスラーになりたい

夢虹が目標としている選手はDDT UNIVERSAL王座の現王者・遠藤哲哉。「飛び技、空中技が得意な遠藤さんは一番僕の目指すスタイルに近いと思っています。体が大きいのに華麗に空中で回転したり、飛び技を決める遠藤さんを目指したい」と目標を掲げた。

夢虹が目標としているタイトルはDDTの最高峰に位置するKO-D無差別級王座。「KO-D無差別級のベルトは高校生のうちに獲りたい」と口にする。3年以内にKO-D無差別級を獲るのは簡単なことではない。その上で、「なぜかわからないけど、『獲れるんじゃないか』と謎の自信が僕の中にあるんです(笑)」

また夢虹は海外でタイトルを獲るという目標を持っている。

「自分の中に海外で試合をしてみたいという思いがある。竹下さんもアメリカのAEWで活躍しているし、海外のプロレスを観る機会も増えてきた。観客の盛り上がりも日本とは熱量が違う。その中での試合は絶対楽しいに違いないと思うので、海外で戦ってベルトを獲るのが目標の一つになっています」

最後に将来の夢を聞いてみた。
「世界一のプロレスラーになること。世界最大の団体WWEで、観客が興奮し印象に残る試合をしたいですね。そして一般の人に『知っているプロレスラーは?』と質問し、『夢虹』と言われるくらい知名度の高いレスラーになりたい」

常に目標と向上心を持って歩み続けることは成功に繋がる。夢虹の描く未来はそう遠くはないかもしれない。

8歳からキッズレスラーとしてリングに上がり、「DDTeeeen!!」ではメインイベントも経験。確実にキャリアを重ねる夢虹。心が折れそうな時、同じような経験をした先輩たちが夢虹の周りにはたくさんいる。その先輩たちの言葉に耳を傾け、前を向き精進すれば、必ず夢は形になるだろう。
(おわり)

取材・文/黒澤 浩美
写真提供/DDTプロレスリング

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