「当てて倒すために闘う」フルコンタクト空手は最高に熱い

「来年5月にはWFKO第1回全世界フルコンタクト空手道選手権大会の開催も決定しました。選手、関係者が一丸となって着実に前進しています」

全日本フルコンタクト空手コミッション(=JKC)代表・酒井寿和氏に、フルコンタクト空手の現状や魅力について伺った。

フルコンタクト空手は拳や足を相手に直接当てて「倒す」ことを目指す。

~五輪種目の空手とフルコンタクト空手はルールが異なる

「フルコンタクトでの最初の目的は、技を実際に相手に当てて倒すことです。倒せなかった場合に判定で決着がつきます」

「技を実際に当てた上での一本勝ち、技あり、判定勝ちで勝敗が決まります。小中学生は手、スネ、顔に防具をつけ、一般と大学生は防具なしの素手、素足で闘います」

フルコンタクト空手の「一本勝ち」とは相手を3秒以上ダウンさせるか、戦意喪失させた場合。または審判の判定による「技あり」を2本取った場合だ。

「東京五輪の種目だった空手とフルコンタクト空手はルールが大きく異なります。五輪種目の空手には形と組手があります。組手は実際に闘いますが相手に当てない寸止めで行います」

五輪競技の空手は「型」と「組手」の2種類。「組手」はフルコンタクト空手同様に対戦形式で行われる。しかし頭部や腹部など決まった部位を狙っての寸止めしか許されていない。

「空手という名前は共通していますが、『相手に当てるかどうか?』の部分で異なります。例えば、野球とソフトボールが同じ様なグラウンドを使用する競技でも、ボールの大きさを含めたルールが違うのと似ています」

「空手」という一括りで考えがちだが、五輪競技の空手とフルコンタクト空手の両方を経験した選手すら少ないという。

五輪競技の空手とフルコンタクト空手の両方を経験する選手は限りなく少ないという。

~「まだ見ぬ強豪」が来日する世界大会

5月25、26日の2日間、JFKO第9回全日本フルコンタクト空手道選手権大会がエディオンアリーナ大阪で開催された。今大会は日本一を決めるのみでなく、来年5月31-6月1日に東京・有明アリーナで行われる世界大会への出場権をかけたものだった。

「記念すべき第1回大会への出場は大きな名誉。また日本一の先に世界への道が開けたという部分でも、選手個々のモチベーションの高さが伝わってきました」

男子256名、女子119名がエントリー、男女各5階級の上位3選手に与えられる世界大会代表権を目指して熱い戦いが繰り広げられた。

「初めての世界大会、どんな選手が集まるかを考えただけでワクワクします。世界は広いので凄い選手もいるはず。日本代表選手が勇敢に闘い、世界の頂点を極める瞬間を見たいものです。皆さんにもぜひ足を運んでいただければと思います」

プロ野球やサッカーの来日外国人選手やプロレスにおける初来日レスラー等、「まだ見ぬ強豪」の存在は大会を大いに盛り上げてくれる。その中で我らが代表選手が存在感を発揮、勝ち進む姿に期待がかかる。

来年開催のWFKO第1回全世界フルコンタクト空手道選手権大会へ向け、選手たちのモチベーションは高い。

~選手が競技を長く続けられる環境整備のために

フルコンタクト空手は少しずつ盛り上がり始めたが、選手の置かれた状況は他競技とはまだまだ比べ物にならない。JKC代表として酒井代表が考えるのは、選手が競技を長く続けられる環境整備だ。

「選手の環境を作るのが最初の目標です。ジュニア年代ではフルコンタクト空手の競技人口は非常に多い。習い事感覚で女子も非常に多いのが、小・中・高校と進むにつれ減少します。世界大会はもちろん、年代別の国内大会がなかったのも理由の1つでした」

2023年からインカレ(=大学)を立ち上げ、ジュニアと一緒に大会行う形式を始めた。社会人の大会に出場するしかなかった大学生の環境が改善、そしてジュニア年代選手にとっても近い年代の目標ができた。

「ジュニア年代選手にとってインカレという目に見える形の目標ができた。まずは大学まで続けてもらいたい。そして国内大会に加え来年からは世界大会もできるので、そこへ向かって歩んでもらえればと考えます」

フルコンタクト空手は世界へ繋がる道ができたのは、選手にとって大きな喜びとやりがいになるはずだ。

2023年からインカレ(=大学)が始まるなど、フルコンタクト空手を取り巻く環境は変わりつつある。

~大会によって会場の雰囲気が大きく異なり勝敗も変わってくる

酒井代表がJKCと共に代表を務めるJKJO(=全日本空手審判機構)主催大会が今秋も行われる。まずは9月22日、大阪・東和薬品RACTABドームでの「第16回JKJO全日本空手道選手権大会(社会人)」と「第4回JKJO全日本シニア空手道選手権大会(年齢40歳以上対象)」だ。

「社会人の大会は5月の大会に出た選手も出場しますが、結果が同じになるとは限りません。両大会では会場内の雰囲気が異なり、普段の実力を発揮できないという選手もいるくらい。実際に戦っている選手しかわからないような、独特な空気感がそれぞれにあります」

11月17日には、東京・代々木第一体育館において「第3回全日本学生フルコンタクト空手道選手権大会(インカレ)」および「第18回JKJO全日本ジュニア空手道選手権大会(同ジュニア)」が開かれる。

「昨年は選手関係者や観客など7,088人が会場に集まった。ジャッジの正確性を高めるためにビデオリプレイシステムを採用したことも話題になりました。今年も多くの人たちに足を運んでもらいフルコンタクト空手の面白さを感じて欲しいです」

各カテゴリーの選手たちが注目を浴びる場所で闘えることは素晴らしいことだ。選手個々のモチベーションが高まり、レベルアップにも繋がるはずだ。

全日本フルコンタクト空手コミッション(=JKC)代表・酒井寿和氏は、選手のための環境整備を大事に考える。

~携帯電話、スマートフォン、イヤホンは失格

「携帯電話、スマートフォンを持ったままの選手。イヤホンをつけたままの選手。それぞれ失格となります」というアナウンスが会場内に流れた。伝統ある武道にも時代の流れが押し寄せていることを感じさせた。

「武道なので、絶対に無くしてはいけないものがあります。倒すことが目的ですがルールに沿わないと喧嘩で終わってしまう。相手への敬意を持って闘い、試合が終わったらノーサイドの精神は時代が変わっても不変です」

「必要な部分は変えていくことが大事です。例えば、根性論だけを押し付けることで競技をやめる選手がいるかもしれない。選手個々によって考え方もさまざまです。その辺も見極めて競技をやりやすい環境を作っていきたいです」

時代は変化しても勝負に賭ける選手の思いは変わらない。

時代の流れの中、武道という伝統競技も難しいフェーズに入っているのかもしれない。しかし、試合が始まれば選手たちは必死に闘い続ける。相手選手の返り血を浴びている者もいる。試合に負けて号泣する選手も少なくない。勝負に対する強い思いはいつの時代も変わらない。

「フルコンタクト空手は面白いです。熱くなれます。ぜひ会場で生の試合を体感してみてください」

フルコンタクト空手を実際に会場で見ると強烈な打撃音に驚かされる。選手、関係者の皆様に失礼を承知で敢えて言いたい。

フルコンタクト空手は最高のエンターテインメントだ。

(取材/文:山岡則夫、取材協力/写真:全日本フルコンタクト空手コミッション、全日本フルコンタクト空手道連盟)

関連記事