甲子園ボウルで直接対決した2人、アサヒ飲料チャレンジャーズ攻守の柱が語る学生アメフト最高峰の舞台!!
アメフト・Xリーグのアサヒ飲料クラブチャレンジャーズは来季からのX1SUPER(=1部)昇格を決めた。
攻守で大きな貢献をみせたのがワイドレシーバー(WR)#81阿部拓朗とディフェンスバック(DB)#24山下大樹。2人は学生時代に『毎日甲子園ボウル』(以下甲子園ボウル)で直接対峙したライバル関係。日本スポーツ界有数のビッグイベントに対して今でも強い思いを持つ。
~甲子園ボウルは勝つことだけが求められる決戦の舞台
甲子園ボウルは国内フットボーラーにとって特別な舞台だ。関東、関西それぞれの王者が一発勝負で対戦して学生日本一を決める場所。47年の第1回大会から数えて今年で76回という伝統を誇り、野球の聖地として有名な甲子園に多くのファンを集める。
「甲子園は憧れの舞台だけど勝たないといけない場所。負けることは許されない」(阿部)
「日本一決定戦でしか立てない。出て勝って日本一になる場所で決戦の地という感じ」(山下)
国内のボウル・ゲームには社会人王座を決めるライス・ボウルも存在する。昨年までは学生と社会人間での日本一決定戦形式だった。しかし両者の実力差が開き過ぎたため近年は社会人チームの無双状態。人気も下降気味で今年から社会人王者決定戦に様式が変わった経緯がある。甲子園ボウルは学生同士が日本一を争い予想外の結末を迎えることもあるため人気は変わることなく高い。
「大阪の人間なので子供の頃は甲子園といえば野球、阪神と高校野球だった。でもアメフトを始めてからは変わった。高校生の時に初めて甲子園ボウルを見た時の印象が忘れられない。関西学院大(以下関学大)と日本大の対戦だったけど、こんなすごい舞台があるのかなと感動した。今でも同じ思いが残っていて甲子園ボウルはフットボーラーの頂点だと思う」(阿部)
「(高校まで)野球をやっていた時は甲子園は夢舞台で球児の誰もが目指す場所という感覚。アメフトで初めて出場した大学1年の時は少し野球の延長のような感じで憧れが強かった。投手だったので(アメフト時に)マウンドがないことに衝撃を受けたくらい(笑)。でも負けて泣いている先輩を目の当たりにして考え方が変わった。大学3、4年で出場した時は勝ちに行く場所という感じに変わった」(山下)
ボウル・ゲームの呼称は米国にならい用いられている。レギュラーシーズン終了後、各カンファレンス等の成績優秀校によって開催される一大イベント。ローズボウル、シュガーボウルなど各地でいくつものゲームが開催され全米中が注目する年末年始の風物詩だ。対戦カードによってはプロスポーツ以上に大きな盛り上がりを見せる。甲子園ボウルも本国に負けないほどの熱を生み出し続けている。
~学生4年間の経験すべてが現れる場所 ヘルメット奥の表情に注目
19年12月15日、第74回甲子園ボウルで阿部の関学大と山下の早稲田大(以下早大)が激突。WR阿部をDB山下がマークする形での直接対決が繰り広げられた。阿部が2タッチダウンを挙げMVP獲得の活躍をするなどして関学大が38-28で勝利を挙げた。
「早大のDB陣はうまいので攻略しないといけない、と話をしていた。山下の名前も当然知っていた。対戦前はそこまで時間もなくデータ確認などの準備も完璧にはできなかった。実際に対戦するとシンプルに身体能力の高さを感じた。速さを活かしたディフェンスをしてくる感じでやっていて嫌でした。さまざまな要素も絡み結果が出せて本当に良かった」(阿部)
「(阿部は)3年の時から大活躍していて『関学WR三銃士』と言われるスターだったので意識していた。データ等はあまり頭に入れずに試合に臨んだが試合では対人の部分、手の使い方や身体の使い方のうまさに焦った。最後の球際、身体の入れ方や抜かれないように手を添えているのを払われたりするところなどが本当にうまかった」(山下)
勝者の関学大は地元・甲子園で勝利を挙げ関西の英雄となった。また対戦当時のレギュレーションでライス・ボウル出場権を獲得、社会人に勝てばアメフト日本一の称号を得る可能性も手にした(20年1月3日のライス・ボウルでは富士通フロンティーズに38-14で敗戦)。逆に敗者の早大は出場した事実は残ったが試合終了と同時に4年生は現役引退となった。学生たちは甲子園ボウルが終わった時に何を考えるものなのだろうか。
「甲子園ボウルは学生同士でやる最後の試合だから自分のやってきたことすべてを出す場所。学生の4年間でいろいろなことがある中で最後にどういう姿を見せるか。親や友人など、いろいろな人が見にきてくれる中でどういう姿を見せるか。試合を通じて僕がどう見えるのか。それだけ考えて戦っていた」(阿部)
「今振り返っても一番悔しい思いをした場所。あの頃の気持ちを思い出させてくれる自分の原動力に近いもの。これは一生変わらないかもしれない。4年生にとって集大成と言える場所だから、甲子園ボウルを見る人はテレビなどでヘルメットの中の表情も見て欲しい。そこに学生時代の経験すべてが詰まっているはずだから」(山下)
~甲子園ボウルでの直接対決を経験したから社会人での成長度合いがわかる
直接対決した2人は社会人となり同じユニフォームに袖を通すこととなった。就職して関西勤務になった山下がチャレンジャーズの説明会に足を運ぶと見た顔があった。甲子園でやり合い結果的に苦渋を味わわされた阿部がいた。
「関西勤務になったのでチャレンジャーズに入ろうと思った。僕は周囲に知り合いがいなかったけど阿部は人気者で関西の仲間を惹きつけていた(笑)。正直、甲子園ボウルでやられた印象が強く、あまり良いイメージを持っていなかった(笑)。でも同じチームになると愛があって尊敬できる奴だった。こういう男になりたいなと(笑)」(山下)
「何人か友人と説明会へ行ったらイケメンの山下がボーッとしていた(笑)。甲子園やな、というきっかけから話すようになった。それまで早大の選手との接点がなかったので最初は多少の距離はあったかもしれないけど、一緒にプレーしてみると一番真面目で尊敬できる奴だった。全体練習が終わっても1人でやっていたりする。たまに抜けていますけどね(笑)」(阿部)
20年からチームメイトとなりプレーをより近くで見ることができるようになった。練習中には直接対決する機会も度々あり、お互いの成長や進化を身を持って体感できている。学生時代から認識しあっていた2人は選手としてそれぞれを客観視している。
「甲子園ボウル時はベタベタのマンツーマン・マークは少なく、距離をとりロングパスのケアをしていた。当時はわからなかったが実際に練習でついてみると対人や身体の使い方がうまい。WRとして相手の嫌なことをするのがうまい。ディフェンス側がやることを逆手に取れる頭の良さがある」(山下)
「身体能力の高さは変わらない。学生時代から速さに注意していたが最近はうまさも加わった。練習で1体1をやったりするとすぐに僕のプレーに対応してくる。マークが外れていると思っても対応されたりする。練習中はやりにくいのでムカついたりする。頼れる存在だしポジション違ってもライバルだと思う」(阿部)
~個々のレベルを上げX1SUPERで戦いチャレンジャーズを魅力溢れるチームにする
12月19日の甲子園ボウルが終わるとあっという間に年が明け1月3日にはライスボウルが開催される。今大会からは社会人チーム同士の日本一決定戦となる場所。来季X1SUPERで戦うチャレンジャーズが次に目指すべき舞台だ。
「SUPERとAREA(=2部)ではフィジカルがまったく違う。ここ2年間は仕事との両立もあったりしてトレーニングなど追い込めない部分があったことも確か。学生時代に名前がある選手がたくさんいるので、その中でも実力を発揮できるようにすることが大事。技術、トレーニングはもちろん、スカウティングなど準備を欠かさずに挑みたい」(山下)
「課題はたくさんある。技術や身体の強化はもちろん、取り組む姿勢やメンタルも必要。また僕らのプレーや姿勢を見てチャレンジャーズに入りたいと思ってくれる人が増えるチームにしたい。入ってみて良いチームと実感しているのでそれを伝えていきたい。そういうチームが作れれば同じ方向を向いて進めるので結果にもつながるはず」(阿部)
20年10月にチームは兵庫県尼崎市と包括提携協定を結んだことで甲子園と目と鼻の先の場所が実質的本拠地となった。甲子園での勝利へ命をかけるようだった学生時代の気持ちを忘れないためには最適な場所。今後2人のような甲子園ボウル経験者たちも続々と入団してくるはずでありチームの今後に向けても好環境といえる。甲子園のお膝元からライス・ボウル覇者を目指す。アサヒ飲料クラブチャレンジャーズのX1SUPERにおける大躍進を期待せずにいられない。
WR#81阿部拓朗
178cm80kg。大阪府出身。池田高から関西学院大を経て入団。21年は25レシーブ、298ヤード、5タッチダウン。
DB#24山下大樹
173cm75kg。埼玉県出身。早大本庄高から早稲田大を経て入団。21年は4.5タックル、1インターセプト。
(取材/文・山岡則夫、取材/写真協力・アサヒ飲料クラブチャレンジャーズ、写真一部は選手提供)
2021/12/18 一部大会名表記を修正して更新