3年連続全日本選手権準優勝の東北フリーブレイズ、チームトップが感じた課題とアイスホッケー界の未来
第89回を迎えた伝統のアイスホッケー全日本選手権(以下全日本)。年末風物詩と言える大会が昨年12月16日からの4日間、長野市『ビッグハット』で開催された。参加12チームの頂点に立ったのは名門・日本製紙がルーツのひがし北海道クレインズ。17年以来の日本一を目指した東北フリーブレイズ(以下ブレイズ)は3年連続決勝で涙をのむ形となった。
~氷都・八戸のフリーブレイズは近年、低迷に苦しんでいる
08年創設のブレイズはアジアリーグ(以下AL)優勝3回、全日本優勝1回を誇る強豪。本拠地の青森県八戸市は氷都と形容されアイスホッケーなどウインタースポーツが盛んな土地。20年には多目的アリーナFLAT HACHINOHEが開場するなど日本屈指のホッケータウンだ。しかし地元の期待を背負いながらも近年は結果を出せない状態。ALは14-15年を最後にアジア制覇から遠ざかっている。
17-18年の3位を最後に低迷期に突入。18-19年は韓国、ロシアの4チームを加えた8チーム中最下位。19-20年も同3チームを加えた7チーム中最下位。20-21年はコロナ禍で国内チームのみ参加の『ALジャパンカップ』形式で行われたが5チーム中4位。今季21-22年は同5チーム参加での前後期制で開催、前期は14試合で5勝9敗の4位に終わった(中止などあり試合数は各チームでばらつきあり)。
~若い選手中心に新チームとして立て直しの真っ最中
12月開幕の後期を1勝1敗でスタートした段階で全日本を迎えた。2度目の日本一とともにチーム全体の巻き返しを図るためにも重要な大会だったが悔しい結果に終わった。17年の日本一も経験、状況を常に把握しているチームマネージャー加賀昌一氏がまず現状を説明してくれた。
「伝統ある大会で勝ちに行きました。ここ数年結果が出ない状況でチームは苦労しています。17年以来の日本一になることで雰囲気などを良い方向へ持って行きたかった。リーグ戦と違い一発勝負は何が起こるかわからないので勝てる可能性は高い。ALと全日本で優先順位をつけているわけではないが流れを変えるきっかけにしたかったです」
「変革期の真っ最中。昨年はFLAT HACHINOHEができ監督も変わった。選手入れ替えも進み若い選手中心に立て直しにかかっています。今季も勝ててはいないが紙一重の試合が多い。今いる選手が経験を重ねて逞しくなるしかない。コロナ禍で経営も厳しい中、背伸びしないで我慢して前進しています」
20年4月開場のFLAT HACHINOHEはIH開催時3500人収容可能の専用アリーナとも言える形状がウリ。6月には大久保智仁新監督が誕生、前監督・若林クリス氏が総監督となり現場強化も図られた。心機一転の年となるはずだったがコロナ禍が直撃。調子に乗れないまま現在に至っている。常にチーム帯同している加賀マネージャーのジレンマも伝わってくる。
~全日本選手権はチームにとって難しい大会
「現在のチーム状況からすると準優勝は良くやったと思うけど、あと少しだったという気持ちも強い。日に日に悔しさが強くなるような感じもあります」
長野での熱戦から1週間後のAL再開初戦、悔しさの余韻が残っているようなアウェー・横浜グリッツ戦にブレイズ代表取締役・中村考昭氏の姿があった。全日本では勝利を目指したのは当然ながら経営者視点から現状の客観視ができたと語る。チーム、リーグの現状や今後についての個人的思いがある。
「NHK-BSが生放送するので放映権料、露出などありがたいが、考えさせられる難しい大会です。よほどのことがないとシード枠扱いのAL所属チーム間での優勝争いになります。19年からは優勝賞金が出るようになったことは本当にありがたい。しかしその為にかかっているコストと比較すると決して大きな額ではありません。また優勝という栄誉のため全力で試合をしてもスタンドは空席が目立ちます」
「チームの継続的運営を考えます。勝つのは当然ですが必要以上に背伸びはできません。コロナ禍もあり各チーム経営状態は厳しく外国人選手の入国制限等のリスクもある。そのような中でチームや競技そのものの持続性・継続性を考えると、近視眼的な勝利至上主義だけに引きずられずに堅実経営をしていくべきと考えています」
「リーグ加盟金を滞留しながら外国人選手獲得や選手補強を繰り返すといったアンバランスな運営、勝利だけの追求はしたくない。現状を選手、スタッフには理解してもらい、その中で最大限の取り組みをしています。予算内でやって行くために報酬は安くなってしまいます。選手としては現実的な生活や引退後のセカンドキャリアの心配もあるはず。モチベーションを保つのも大変なはずです」
~経営状態など考慮しながらアイスホッケー界全体でできることからやる
アイスホッケー界を取り巻く状況は想像以上に厳しい。世間への露出も少なく観客動員数は激減、多額の興行収入は見込めない。各チームが企業チームでなくなり予算も限られる。競技人口や社会的注目度など他競技とは比較にならないほど低い中でも依然として比較的恵まれた年俸で契約しているプロ契約選手もいる。経営的視点からは暗中模索が続いている。
「例えば外国人選手には報酬以外にも住居、通訳など多くのコストがかかります。経営状態が良くない状況下、無理に招聘する必要があるのか。事実現状1チーム4名まで登録できるが契約しているチームの方が少ない。日本人選手が増えれば日本アイスホッケー界の底上げにもつながるという考え方もあります」
「リーグモデルを『シングル・エンティティ・システム』に進化させるのも手です。米国プロサッカーリーグ・MLS(メジャーリーグ・サッカー)が有名ですが、リーグが選手と契約して給料を払う。同時にFAやドラフト、ラグジュアリータックス等のルール整備。大学、実業団、クラブチーム選手がALに所属できる『ツーウェイ契約』もある。選手年俸とのバランスを取りながら各チーム間の戦力均衡が図れます」
中村氏はプロの視点から具体的な改革案まで示してくれた。アイスホッケーは実際に観戦すればおもしろさが確実に伝わる競技。サッカー同様1点を争う攻防、相撲のような激しいぶつかり合いなど日本人が好きになる要素が詰まっている。人気爆発の可能性は十二分に秘めている。
「目先のものからでも1つずつクリアしていく姿勢が必要です。バスケットも数年前までは注目度が高くない状態が続いていました。今ではBリーグや3×3.EXE PREMIERなどを筆頭に画期的に変化しています。アイスホッケーにもできないことはないはずです」
プレー、環境など全ての面でレベルアップすることが関わった人みんなを幸せにする。1プレーごとに一喜一憂できて他競技と肩を並べるプロリーグになる。その先、五輪などの国際大会での結果にもつながる。今は究極の理想論かもしれないがまずは1歩を踏み出すこと。アイスホッケーの明るい未来を期待したい。そして最高の舞台でのブレイズ復活を待ち望みたい。
「準優勝監督、おめでとう。次はもう1つ上が待ってるよ」
話の途中でブレイズ大久保監督が会場入りした。両者がっちり握手を交わした時だけ中村氏に満面の笑みが溢れた。愛するチームの奮闘ぶりに対して誇りを感じているのが伝わってきた。アイスホッケー界全体の繁栄、ブレイズ復活の日が今から楽しみである。
(取材/文/写真・山岡則夫、取材協力/東北フリーブレイズ、アジアリーグ)