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仙台の「真央」がジュニア女子V  宮城県スケート連盟会長杯で光った無数の個性

 3月4日、仙台市泉区のアイスリンク仙台で、「第6回宮城県スケート連盟会長杯」が開催された。仙台で開催される2022-23年シーズンの地方競技会は、今大会が最後。宮城県スケート連盟に登録している男女約80人が出場し、磨いてきたフリースケーティングを披露した。  

 今回は出場選手のうち、小学生、中学生、高校生、大学生の選手1人ずつを取材した。数々の名スケーターを育んだ仙台の地で、今も無数の個性が光っている。

世代を引っ張る有望選手が歩むトップスケーターへの道

 全カテゴリーで最多の12人がエントリーした「ジュニア女子」では、園田真央選手(仙台FSC/仙台市立将監中3年)が2位と8.95点差の78.51点をマークし、頂点に立った。

 冒頭、トリプルループをほぼ完璧に着氷する。大会数日前から調子を崩し、6分間練習でも不安要素を残していたジャンプを決めると、波に乗った。演技前半はその他のジャンプでミスが出たものの、基礎点が1.1倍になる後半の三つのジャンプは全て成功。スピンやコレオシークエンスでも大きな取りこぼしはなく、高い技術点を獲得した。  

 この日披露したプログラムは「シザーハンズ」。映画の主人公である両手がハサミの人造人間・エドワードを想起させる振り付けが、ところどころに散りばめられている。映画の不思議な世界観を、工夫を凝らした振り付けと体を大きく使ったスケーティングで表現した。

総合力の高さが光った園田

 日本が誇る氷上のスター・浅田真央さんとは、名前が漢字一文字違い。「よく聞かれるんですけど、文字数とかで決めたそうでたまたまなんです」と笑うが、スケーターの一人として、浅田さんの存在を意識せずにはいられなかった。今では「憧れの選手」として真っ先に挙げる人物になっており、ジャンプの着氷姿勢などを動画で見て参考にしているという。

 今季は東北・北海道選手権大会のジュニア女子で3位に入り、全国中学校スケート競技会(全中)に2年連続で出場するなど、仙台の同世代を牽引する活躍を見せた。  

 一方、東日本ジュニア選手権大会では結果を残せず、全日本ジュニア出場はかなわなかった。「東は自分の実力を出せなくて、ボロボロだった。大きな大会でも自分らしい演技を見せられるようになりたい」と来季を見据えている。高校に進学する来季も仙台を拠点に競技を続ける予定。名前に負けない偉大なスケーターへと成長するため、次の一歩を踏み出す。

「ジャンプだけでない」魅せ方を追求する高校3年生

 ジュニア女子で3位に入った森本美羽選手(東北高3年)は、長い手足を生かしたエレガントな演技と美しいスピンで魅了した。スピンはオールレベル4を獲得。特にこだわったという終盤のコレオシークエンスも高い評価を得た。  

 今回のプログラムでは、ミュージカル映画「グレイテスト・ショーマン」の劇中曲「Never Enough」を使用。フリースケーティングでこの曲を丸々使うのは珍しく、映画を繰り返し鑑賞したり、歌詞の意味を調べたりして、感情を込めて滑れるよう丁寧に作り上げてきた。

指先までこだわった華麗な演技を披露する森本

 仙台で生まれ、東京で育ったのち、小学3年の頃に再び仙台へ。仙台出身の羽生結弦さんに憧れを抱いていたこともあり、羽生さんの元コーチである阿部奈々美コーチのもとでスケートを始めた。

 「羽生君を教えていた奈々美先生に指導してもらえるのはすごく嬉しい」。仙台で競技人生をスタートさせたことで、毎日が貴重な時間になった。阿部コーチからは、ジャンプだけでなくスピンやスケーティングも磨くことの大切さを学んだという。  

 大学で競技を続けるかは未定といい、今月末に出場予定となっている高校最後の大会・北日本フィギュアスケート競技大会に向けては「ノーミスで自己ベストを更新したい」と力を込めた。

感謝と努力を忘れず、山形から仙台へ

 9人がエントリーした「Aクラス女子」では、花等貴咲乃選手(仙台泉F.S.C./山形市立金井小6年)が優勝した。演技後半にダブルアクセル+ダブルトーループ、ダブルフリップ+シングルオイラー+ダブルサルコーと二つのコンビネーションジャンプをいずれも加点付きで成功させるなど、高さのあるジャンプを立て続けに着氷。「Help a Girl Choose」の明るい曲調に合わせた軽快な動きも際立った。  

 自宅のある山形県内には通年型のスケートリンクがない。近所にある冬季限定営業のリンクはジャンプやスピンの練習が禁止されているため、クラブに入った小学4年時以降ほぼ毎日仙台に通っている。

スタートポジションに立つ花等

 アイスリンク仙台までは車で約1時間半を要する。小学校の授業が終わって直行しても、リンクに到着するのはクラブの練習が始まる午後5時前後だ。「自分は車に乗せてもらっているだけなので、そんなに大変ではない。送ってくれているお母さんに感謝です」と話すように、周囲に支えられながらスケートを続けている。

 ただ、クラブの他の選手は仙台市在住がほとんどで、全体練習の前からリンクに入るケースが多いため、練習量には差が生じる。それでも土日をうまく活用するほか、空き時間にバレエや体幹トレーニングに取り組んで体の使い方を学ぶことで、補完してきた。  

 4月からは仙台市内の中学校に進学する予定。「練習時間を確保して、スケートに集中できるようになる。今は滑ることで精一杯なので、もっと演技中に表情を作れるようになりたい」と思い描く。トリプルジャンプ2種の習得も直近の目標だ。仙台の地で過ごす、充実の日々が待ち遠しい。

できることを、できる限り増やし続ける大学生スケーター

 「Bクラス男子」には、小学生2人とともに大学生の水野彩葉選手(東北学院大1年)が出場した。前半にジャンプやスピンのミスが相次ぎ3位に終わったものの、大きな体を存分に使った滑りで「弦楽六重奏曲」の壮大な音楽に乗った。

 小学4年から氷に乗り、クラブに入ったのは中学1年の頃。2級までは中学生のうちに取得できたが、高校の定期テストとバッジテストが何度も重複したことや、身長が急激に伸びたこともあり、3級取得には時間がかかった。高校3年時にようやく3級を取得するも全国大会の参加資格は満たせず、高校までは大舞台を目指すことさえできなかった。

インカレを上回る得点をマークした水野

 大学生になった昨年、東日本学生選手権大会(東インカレ)、日本学生氷上競技選手権大会(インカレ)で県外の大会に初出場(いずれも男子3・4級)。「井の中の蛙だった」と実力不足を痛感した一方、出場選手の演技を見る中で多くの技術を吸収した。例えばジャンプの跳び方。インカレを終え仙台に戻ったその日、他の選手を真似てサルコージャンプを跳んでみると、いとも簡単に降りることができた。

 「できないことができるようになるのが楽しい」。フィギュアスケートの魅力を問うと、水野はそう答えた。大学の授業がある時期の練習は週2回で、1日1~2時間程。決して多くない時間の中で、少しずつできることを増やしてきた。だからこそ、大きな目標を立てるよりも、「続けられる限り続けたい」とマイペースに楽しむことを大切にしている。

 東北学院大のスケート部フィギュア部門は、4月から部員が水野一人となる予定。部員が増え、互いに高め合える仲間ができる未来も望んでいる。

(取材・文・写真 川浪康太郎)

読売新聞記者を経て2022年春からフリーに転身。東北のアマチュア野球を中心に取材している。福岡出身仙台在住。

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