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大分トリニータ・小澤正風代表インタビュー 大分から世界へ羽ばたく育成型クラブになるために

 7月6日現在、J2で第3位につける大分トリニータ。昨年はJ1への昇格争いを盛り上げたチームである。

  そんな大分トリニータは、この数年J1昇格を目標に勝てるチームを作りつつある一方で、同時に育成型クラブへとその役割を広げようとしている一面もある。こうしたトリニータの変化には、どのような背景があるのだろうか。

 今回のインタビューでは、大分トリニータ代表の小澤正風(おざわ まさかぜ)代表に、現在クラブが実行しているプロジェクトについて、話を聞くことができた。

人を大事にするチーム

小澤代表は東京都のご出身で、以前はJTBにお勤めだったと伺っています。そこからどのような経緯で、大分トリニータの運営に関わるようになったのでしょうか。

小澤正風代表(以下敬称略)「私自身、学生時代にサッカーをしていました。そしてJTBに勤め始めてからも、同社の社会人サッカー部に入って、週末などにはサッカーを楽しんでいました。

 2000年にペイントハウスの星野社長が大分トリニータの代表取締役社長になりまして、そのペイントハウスで働いていた先輩が、『誰かサッカー経験があって、大分トリニータのマネージャーの仕事をできる人はいないか』ということで、人を探していたんです。それで私が旅行会社に勤めていたこともあり、大分トリニータでマネージャーとして誘われ、働くことになりました。」

そんな小澤代表から見て、大分トリニータのチームとしての特徴とは、どのようなものだと思いますか。

小澤 「大分トリニータが長年持つ変わらない特徴があるとしたら、それは他のクラブと比べても『人を大事にするチーム』ということではないかと思います。

 例えば、かつて大分トリニータにいた選手やスタッフたちが、休日になると大分に遊びに来ることも多いです。もちろん、選手やスタッフたちはクラブと契約関係にあるので、契約が終わるとチームを離れることになります。でも、トリニータではクラブの気質がアットホームというか、契約が終わってからもまだ大分という土地に愛着を持ってくれる人が多いと思います。

 そのためか、色々なクラブでプレーした後『プロとして最後はトリニータでプレーしたい』と言ってくれる選手がいるのは。クラブとしては嬉しいことですね。」

昨年ぐらいから、トリニータは「育成型クラブ」へ進化しようとしている動きがありますが、そのベースにはお話にあった「人を大事にするチーム」という伝統があるのかもしれませんね。

小澤「地方にある規模が大きくないクラブは、人を育てて羽ばたかせるという育成型のクラブに変革することが必要になってきている、という現状もあります。

 また、トリニータで育成された選手が日本のビッククラブや海外の強豪クラブに移籍し、またそうしたクラブで経験を積んだ選手が将来的にまたトリニータでプレーしたり、指導者として戻ってアカデミーを指導してくれることで、その選手の経験が次の若い世に引き継がれていってほしいという思いもあります。」

J1昇格を超えて、大分県人がつながる場となるために

大分県人の喜怒哀楽に貢献するために

今回のプロジェクトについて、詳しく伺えますか。

 小澤 「今回は『共創プロジェクト』という名前のプロジェクトを進めています。その根本にあるのは、大分トリニータが、様々な人をつなぐ場になりたい、大分トリニータの歴史を一緒に創っていきたいという思いです。そういったプロジェクトになっていければいいと思います。」

実は、私(對馬)は昨年の大分トリニータさんのプロジェクトでも、選手・監督にインタビューをさせていただきました。その時、下平監督が「トリニータは文化」ということを話していたことをよく覚えています。それは、今の小澤代表のお話と通じるものがあるように思うのですが。

小澤「もともと大分トリニータの企業理念は『サッカーを通じて大分の活力に貢献する』ということです。いわば、『大分県人の喜怒哀楽に貢献する』ということですね。試合に勝って喜びや楽しさだけを皆さんにご提供することができれば最も理想的なのですが、実際には勝つ時も負ける時もあるので、ファンやサポーターの皆様には、時には悲しさや怒りの感情も提供してしまうかもしれない。でもトリニータがあるからこそ、そうした人間の感情にもトリニータが寄与することができると思っています。

 それも含めて、大分県人の皆様から応援される存在になること、生活の一部になる事、『昨日のトリニータはどうだった?』と気にしていただけるような存在になることが存在意義だと思っています。

 ちなみに『大分県人』とは、現在大分県に住んでいる方はもちろん、日本中そして世界中で大分県にゆかりのある方々のことを指しています。」

では、今回の「共創プロジェクト」の目的は、どのようなものでしょうか。

小澤「今回は、大分トリニータの環境を整えることに少しフォーカスしたいと考えています。

 強いチーム・成長するチームになるためには、良い選手・良いスタッフ・良い環境の3つの要件が必要であると考えています。一般的には良い選手と良いスタッフがいれば、強いチーム・成長できるチームになるように思われますが、実際は違います。

 例えば、アンドレス・イニエスタのような名選手がいて、世界的に有名な監督やスタッフがいたとしても、日頃練習している環境が悪かったら、やはり良い結果を出すことは難しい。しかし、彼らが日常的に活動している環境を良くしていくことの重要性は高いものであるにも関わらず、なかなか資金的にも手がつけられてこられなかったのも事実です。

 今回のプロジェクトでは、そのように選手やスタッフをとりまく環境に少しフォーカスしています。」

現在の大分トリニータのクラブハウスの様子。廊下でトレーニング後のケアをする選手たち。

具体的に、どのような環境を改善していきたいという計画はありますか。

小澤「まずは、クラブハウス周辺の環境整備ですね。現在のクラブハウスは18年前に建築されたもので、大分県サッカー協会様の施設の一部を私たちが利用させて頂いています。選手のロッカールームも狭く、選手たちは廊下でトレーニング前後の体のケアをしたりしています。また、食堂や選手たちが気楽にコミニュケーションする場所もありません。選手たちがオンとオフを分けたり、トレーニングに集中するためにも、そのような空間も必要だと考えています。

 また、今の環境下ではトップチームの選手たちが使うスペースしか確保できないため、アカデミーの選手たちは着替えやミーティングをクラブハウスの外でしているのが現状です。

 海外ではクラブハウス内にアカデミー用の更衣室もあり、選手たちは私服でトレーニングに来て、トレーニング後はちゃんと私服に着替えてから家に帰ります。その辺も、アカデミーの選手に『プロの予備軍』として見られているという意識を持たせるためのものだと伺ったこともあります。

 決して、華美なクラブハウスである必要はありません。でも、必要なものがきちんとそこにある環境を作ることが、今後トリニータが成長していくためには重要なことだと考えています。

 環境整備というのは一度に出来るものではなく、長い年月がかかるかもしれません。当然、資金も必要です。それは非常に大変な作業ではあるのだけれども、目を背けずに少しでも改善していく事こそが結果としてクラブの成長に欠かせません。出来るところから始めていくことがが大事だと思っています。」

 大分県の人々の日常に存在するチームとして、その存在意義を見出している大分トリニータ。その存在意義は、チームが生まれて20年以上経っても、変わることはない。

 大分に愛されるチームであり続けるために、世界で活躍できる選手をトリニータから生み出し、その後そうした選手がトリニータに選手や指導者として戻ることで彼らの経験を大分の地に蓄積する。そのための場を整える第一歩が今回の「共創プロジェクト」の目的と言えるのではないだろうか。

(インタビュー・文 對馬由佳理) (写真提供 大分トリニータ)

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