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日本通運・古田島成龍、「本当のエースになるために」都市対抗野球で積んだ経験

 日本通運の2年目右腕、古田島成龍投手。初めて取材したのは2021年、古田島が中央学院大4年のときだった。千葉県大学野球秋季リーグ戦で優勝した中央学院大は、明治神宮大会出場をかけた横浜市長杯争奪関東地区大学野球選手権大会に出場していた。

 全3試合に登板した古田島は、チームを優勝に導く投球をしただけではなく、マウンドでもベンチでも、豊かな表情を見せ、大きな声を出し、仲間を鼓舞していた。その姿が印象的だったため、準決勝、決勝の試合後に取材をさせてもらい記事を書いた。当時、副主将でもあった古田島は、自身のこと以外にもチームの現状についてなど、幅広く丁寧に話してくれた。一見、無邪気だが、その実どこか冷静に周りを見ている部分もあり、責任感の強い選手という印象を受けた。

 その後、中央学院大は明治神宮大会でも勝ち進み、日本一のチームとなった。最高の思い出とともに大学野球を終えたあと、古田島は社会人野球の名門のひとつである日本通運で野球を続けることになっていた。新しいステージ、新しいチームでまた一から自分のポジションを確立していく古田島のその過程を継続的に追っていくべきか。普段なら気になる選手がいたら細かく取材を重ねるのだが、悩んだ末、古田島を次に取材するのはアマチュア野球最高峰の舞台である都市対抗野球大会にしようと決めた。古田島の場合、日々の小さな変化についてそのたびに尋ねるよりも、節目のときの話の方が深みが出るように感じたからだ。東京ドームのマウンドで躍動し、笑い、叫び、飛び跳ねる姿を見たあとに、そこまでの道程と現在地への思いについて訊こう。

 そして、そのときがやってきた。

エースに任せる試合

 2023年の都市対抗野球大会に、9年連続48回目の出場となった日本通運(さいたま市)。澤村幸明監督は、トーナメント戦であるこの大会の初戦、3回戦(準々決勝)を「エースが投げる試合」と言った。そして「今年頑張ってくれていますし、本人もそこを重々わかっていると思うので」と、それらの試合の先発を古田島に任せた。

 ミキハウス(八尾市)との初戦では、1回表から単打、盗塁、適時二塁打で先制点を献上。しかし、2回裏に味方が無死満塁のチャンスを作り逆転、3-1とした。古田島も2回、3回は三者凡退とし、4回には無死満塁のピンチを作ったが、二者連続の空振り三振、一ゴロとここも無失点で切り抜けた。5回に1点を失い、1死一、二塁としたところで降板。4回1/3 91球を投げ2失点という成績だった古田島に勝ち星はつかなかったが、チームはその後得点を重ね、7-2と快勝。2回戦へと駒を進めた。

 Honda熊本(大津町)との2回戦は、相馬和磨投手(7年目・国際武道大)が先発。日本通運は初回に北川利生外野手(8年目・創価大)、3回には大谷昇吾外野手(9年目・上武大)が2点本塁打を放ち、最後は6-3で勝利。これでベスト8だ。

打者を抑えて吠える古田島

 準々決勝の相手は、昨秋の社会人野球日本選手権大会を制したトヨタ自動車(豊田市)だった。すっかりチームの顔となった嘉陽宗一郎投手(5年目・亜細亜大)が初戦のHonda(寄居町・小川町)戦で先発し、1失点完投勝利。2回戦は、前年の覇者であるENEOS(横浜市)を倒した。

 準々決勝、トヨタ自動車はもちろん嘉陽が先発だ。澤村監督は「まっすぐ、カットボール、フォークが一級品。追い込まれてからではなかなか打てないピッチャーなので、シャープにコンパクトに、早いカウントからしっかり自分のスイングをしていかないと」と嘉陽の攻略を期待したが、日本通運は6回まで無安打と苦戦。古田島も、絶対に先制点を与えるわけにはいかなかった。「(トヨタ自動車の打者は)まっすぐが刺さりぎみというデータがあったので、前の試合(ミキハウス戦)よりもまっすぐを多く使っていって、そこから反応を見て他の球種もという感じでした。今年は自分の持ち味もまっすぐなので、腕の見せどころだなと思いました」。

 ロースコアの試合になることを覚悟してマウンドに上がった古田島は、1回裏に1死三塁、2回裏には2死二、三塁とピンチを作ったが、いずれも無失点で切り抜けると、3回から5回はひとりもランナーを出さなかった。守備につく味方がアウトを取るたびに大きくリアクションし、3アウトを取ってベンチに戻るときには明るい声を響かせた。

チームメイトに迎え入れられる古田島(右)

 6回裏、2死から久々に安打を打たれた。さらに二塁打も打たれ2死二、三塁となった。「こういう試合は、絶対にピンチが来るから想定内でした。ブルペンにも、こういう試合は急にバタバタすると思うのでよろしくお願いします、と言っていたくらいです。自分の頑張りどころはここだ、と思って臨んだんですけど……」と投げた初球は「コース、高さともに甘くなってしまい」ライト前に運ばれた。1点を失った古田島はここで降板、後続の投手たちにすべてを託した。ところが、その後も安打やバッテリーミスで、この回4失点と厳しい展開に。7回には森松裕次郎内野手(8年目・九産大)の適時打で1点を返したが、その裏にまた1点を返され、日本通運は1-5で準々決勝敗退となった。

 試合後、澤村監督は「終盤に粘られながらワンチャンスをモノにされて、そこからずるずると4失点はやっぱり痛かったですね。あそこが1失点だったら。選手もそれはわかっているだけに……」と悔しさを口にした。古田島の投球内容については「まっすぐに強さがあり、変化球も面白いチェンジアップを持っています。今日は緩急を使いながらいけたんじゃないかなと思います。1回戦は変化球が高くてそれを捉えられていましたが、今日は低めに決まっていて良かったと思います。まあ、打たれたところはちょっと甘かったですけどね。そこはこらえきれるようになって欲しいと思います」と、ねぎらいと期待を込めて話した。

社会人2年目の現在地

 負けた試合のあとの取材は、選手の気持ちを考えると気が重い。マウンドで見せていたような明るい笑顔も見られないだろう。だが、大学野球で日本一になったあの日から、2年近くの時を経て、今の古田島がどう成長し何を考えているか知りたかった。

 昨年、社会人1年目の都市対抗野球大会ではセガサミー(東京都)戦で6回裏から登板し、1安打3四球で1アウトしか取れずに降板した。今年は大事な試合を任されるようになり、1回戦は4回1/3、準々決勝では5回2/3を投げ、投球内容も少しずつレベルアップしている。試合後、率直な気持ちを訊いた。

「どっちも譲らないという緊迫した状況で、あの1点は絶対に取られちゃいけなかった。先発ピッチャーとして、前回(1回戦)は5回まで投げられず、今回は5回までは投げていますけど6回を投げ切れずに、2アウトから3連打で結局点を取られてしまい、その後の大量得点につながってしまいました。自分がそういう流れを作ってしまったことが敗因だと思います。今日の敗因は、完全に自分の技術不足です。それしかないです」

 相手投手が嘉陽であり、ロースコアの試合展開が予想されていたため「無駄なランナーを出さないように、四死球だけは出さないようにしようと意識していました」との言葉通り、四死球はひとつもなかったが「ランナーを出してもとりあえず返さないように、足も使ってくるけどそれでも動じずにやっていこうと思っていましたが、結果打たれてしまった。あっちの方が一枚上手でしたし、ただただ自分の技術不足です、本当に」と「技術不足」を繰り返した。

好守の外野手に感謝

 結果はともかく、5回まで無失点でゲームを作ったことは評価すべきことだと思うが「チームを勝たせられていないので。前の試合もチームは勝っていますけど、自分の勝ちではないですし、5回も持たなかった。大会を通して成長していきたいと思ったけど、今日も結局勝たせられませんでした。一番いいところで監督さんから先発に指名していただいたのに、応えられなかった。自分では1勝もできずに、都市対抗が終わってしまいました」と、古田島は厳しい言葉を続けた。そんな中でも「相手の頭にないカーブでカウントを取れて、もう一段階上のピッチャーになるためにはそういう部分が必要だと明確にわかった試合でした。それから、1回戦でシンカーをうまく拾われていたので、もう少し遅いチェンジアップで打ちとることを課題にしていた中で、思うように投げられました」と、収穫もあったようだ。

 今回の大会を経て、今後はどんな投手を目指していくかを問うと「1球の重み。インコースまっすぐにいいのが決まってから、次の球でちょっと甘くなってしまう。本当に細かいコントロールで、もう1個厳しくてもいいところ、絶対に間違っちゃいけないところを今日は間違ってしまったので、そこを投げられるようにならなければいけないです。何よりもチームを勝たせられないとピッチャーとしてはダメだと思うので、そこは目指していきたいですし、これでは日通のエースにはまだなれていない、(相馬)和磨さんをやっぱり超せていないので、超すためにもいろいろと振り返って反省して練習します」と答えた。

 中央学院大のエースだった男が、日本通運のエースへなりつつある。大学野球から社会人野球へとステージが上がり、そこでまた名実ともにチームの柱になることを目指し、古田島はどう変化してきたのだろうか。

「1球の重みだったり、(先発投手として)5回をまたげたあと(の投球)など、社会人になってよりその重要さがわかりました。いいバッターがいっぱいいますので、飲まれないように、すぐ切り替えないといけません。メンタルは強くなったのかなと思います。まっすぐも変わってきたと思いますし、コントロールもましになったと思うので、そこは成長したと自信を持って言えるところですね」

 ストレートの質が良くなった理由として、ウエイトトレーニングを始めて筋肉量が58キロから63キロに増えたことがあるという。トレーナーに聞いたり、自分で考えながら、下半身を中心に全身に筋肉をつけた。筋肉量が増え、体脂肪率が変わり、体重が落ちたことで、昨年の都市対抗野球大会のころはバランスを崩してうまく体を扱えなかったそうだが、今はプラスに働いている。「ウエイトは大学ではまったくやっていませんでした。社会人で本格的にそういうトレーニングを始めて、大学よりも社会人の方が自分と向き合える時間が多いので、その結果が徐々に出始めているのかなと思います。MAXはそんなに変わっていないですけど、平均球速が上がってきています」。

 最後に、いつも喜怒哀楽を見せながら全力で野球をしている古田島に、一度訊いてみたいと思っていたことを訊いた。

「野球は楽しいですか?」

「そうですね。もうここでしか楽しめないと思っているので。そのためにいろんなことをやっていますし、そこで開き直れるというのが自分の中であって、本当にここで楽しまなきゃなと。同期でベンチに入れていない人もいますし、そういう中で投げさせてもらっているという感謝の気持ちを持って、中途半端なことはできないと思っているので。去年は、本当にちっちゃくまとまってしまったんですけど、今年はまだ自分の思ったようなパフォーマンスはできたなと。で、結果ダメなんで、もっと練習します」

 古田島は、少し笑顔を見せながらそう言った。

 古田島には大きな舞台が似合う。「また来年返せるのであれば、この借りを返したいと思います」と力強く言った古田島の言葉は、きっと現実となる。

好きな時に好きなだけ神宮球場で野球観戦ができる環境に身を置きたいと思い、OLを辞め北海道から上京。 「三度の飯より野球が大好き」というキャッチフレーズと共にタレント活動をしながら、プロ野球・アマチュア野球を年間200試合以上観戦。気になるリーグや選手を取材し独自の視点で伝えるライターとしても活動している。 大学野球、社会人野球を中心に、記者が少なく情報が届かない大会などに自ら赴き、情報を必要とする人に発信する役割も担う。 面白いのに日の当たりづらいリーグや選手を太陽の下に引っ張り出すことを目標とする。

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