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今春「開幕投手」務めた仙台大・南勝樹 野球人生を変えた巨人OBの恩師との出会い、追いかける元エース左腕の背中

 好投手を多数擁する仙台大。激しい競争を勝ち抜き、今春の仙台六大学野球リーグ開幕戦のマウンドに上がったのは、2年次までリーグ戦未登板の南勝樹投手(3年=白鴎大足利)だった。本人も「全く予想していなかった」という開幕投手の大役を任されるきっかけとなったのは、リーグ戦開幕前に行われた「部内リーグ」での好投。身長166センチの左腕はいかにしてチャンスをつかんだのか。

武器を磨いてつかんだチャンス

 仙台大の部内リーグは、春季リーグ戦、秋季リーグ戦が開幕する前の期間に実施される。上位リーグと下位リーグに分け、各リーグ、4チームが総当たりで戦う形式。部員約250人を抱える仙台大だからこそできる取り組みだ。

 今春の部内リーグで最優秀防御率に輝いたのが南。南は好成績を残した要因を「自分でもあまり分からない」としつつ、「自分の持ち味や投手としてのタイプを理解した上で磨いてきたことを、対打者で試すことができた」と振り返る。昨秋に自己最速を更新する139キロを計測したが、自身の武器は球速よりも変化球のキレや制球力だと認識し、オフ期間はそれらを徹底的に磨いてきた。

東北福祉大2回戦では時折笑顔を見せながら6回1失点と好投した

 部内リーグでの活躍を首脳陣に認められ、開幕投手に抜擢された。南は「部内リーグは相手の癖や弱点が分かっている中での試合。そこで結果を残したとしても対外試合で抑えられるのか」と一抹の不安を感じながらも、開幕戦では3回3安打無四死球1失点と上々のリーグ戦デビューを果たした。

 その後も東北学院大2回戦、東北福祉大2回戦と大事な試合で先発を任され、4試合、18回3分の1を投げ防御率1.47と安定した投球を続けた。全日本大学野球選手権では2回戦の東日本国際大戦で先発。3回でマウンドを降り、本人は「まだまだ力不足だな」と悔しがったものの、Bチームが主戦場だったこれまでの2年間では得られなかった貴重な経験を積んだ。

胸に刻み続ける元プロ恩師の教え

 南は奈良で生まれ、大阪で育った。大阪にいた小学3年生の頃に野球を始め、中学は茨城の友部リトルシニアでプレー。中学時代に「恩師」と出会う。チームの監督で現在も友部リトルシニアを率いる原田明広さんだ。プロ野球・巨人に投手として7年間在籍した経歴を持つ原田さんに、投手の全てを教わった。

 技術面だけでなく、人として大切なことも教わった。原田さんが口にした「野球は生きている中でなくてもいいものだ」との言葉を、南は今でも鮮明に覚えている。野球以前に挨拶やコミュニケーションを重視すべきとの教えだった。南は「中学生のうちから大人の考えを持たせてもらった。原田さんと出会って野球人生がガラッと変わったし、原田さんに出会ったから今がある」と感謝する。

今春は抜群の制球力を披露した南

 白鴎大足利では投手として芽が出ず、高校3年次に外野手転向を決意する。野手転向を後押ししてくれたのも原田さんだった。「自分のやりたいことを優先してはダメだ。チームのためにできることは何かを考えた時に、外野が不足しているなら外野手をやればいい」。恩師が自らの考えを尊重してくれたからこそ、新型コロナの影響で次々と公式戦が中止となる中、迷いなく選んだ道を進むことができた。

 高校野球引退後は「大学4年間は絶対にピッチャーでやり抜く」と誓い、原田さんと二人三脚で一から投手力を鍛え直した。大学進学後もたびたび原田さんのもとを訪れており、悩んだ時はアドバイスを求めている。今春の活躍については、「チームのために活躍できてよかったね。まだまだ伸び代があるから、エースを目指してもっと頑張れ」と言ってもらえた。喜びを感じるとともに、「チームのために」という信念を再認識させられた。

偉大な元エースを追い越すために

 仙台大では入学当初、ライバルの多さに怖気づいた一方、明確な目標を見つけた。目標となったのは、一時的にAチームに合流した際に見た当時のエース左腕・長久保滉成投手(現・NTT東日本)の存在だった。

 身長、体重は南とほぼ同じで小柄な上、直球の球速は驚くような速さではない。第一印象では「この人がエースなんだ」と思う程度だったが、実際に投球を見ると衝撃を受けた。「長久保さんの打ち取り方をすれば長いイニングを投げながら抑えることができる。こういうピッチャーになって、チームを勝たせたい」。投手の理想像がチーム内にいたことで、モチベーションは向上した。

全日本大学野球選手権のマウンドにも上がり経験を積んだ

 長久保の投球動画を繰り返し見て、研究を重ねた。投球術を参考にしてコースの投げ分けを意識するようになったほか、長久保が投げていたカットボールを習得するなどし、徐々に投球スタイルを確立していった。長久保が在籍していた1、2年次は「同じタイプのピッチャーが二人いれば、絶対に長久保さんが選ばれる。今は無理して長久保さんを追い越そうと思わなくてもいい」と考え、じっくりと投球術や変化球を身につけた。

 長久保が卒業してからは「近づくだけでは物足りない。追い越すためにもっと頑張らないといけない」と気持ちを改め、3年春は結果を残した。高校時代、豊富な投手陣の中で埋もれて個性を見失い、一度は投手を辞めた。投球スタイルが結果に結びつき始めたことでようやく、自身の存在価値を理解できるようになった。今春のリーグ戦は長久保同様の「打たせて取る」投球に徹してゴロアウトを量産し、奪三振はわずか4。同時にゲームメイク能力の高さも発揮した。

秋はさらなる飛躍に期待がかかる

 今夏、投手陣で話し合った結果、南が次期「投手リーダー」に内定した。自分のことで精一杯だった春とは違い、「4年生を勝たせる」という自覚を持って秋に臨む。「長久保さんは『長久保で負けたら仕方ない』というくらいの信頼感があった。自分も『南で負けたら仕方ない』と言われる投手になりたい」。「チームのために」という信念を胸に、エースへの階段を駆け上がる。

(取材・文・写真 川浪康太郎)

読売新聞記者を経て2022年春からフリーに転身。東北のアマチュア野球を中心に取材している。福岡出身仙台在住。

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