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スケートボード・パーク 草木ひなの~現在、世界ランキング3位。パリ五輪出場を目指して跳躍

2024年パリオリンピックへ向けてスケートボード・女子パークの世界トップに挑み続ける若き逸材、草木ひなの。国内外で10代の選手がトップ争いを繰り広げるスケートボードの世界で、13歳で出場した日本選手権で3代目の女王として表彰台の頂点に立った。翌2022年の同大会では2連覇を達成し国内での金字塔を打ち立て、2023年からは世界大会にも出場し始め、現在は世界ランキング3位まで上りつめた。将来有望視されている草木ひなの選手に話を聞いた。

スケートボードをはじめたきっかけは母親へのライバル心

2008年4月4日生まれの15歳。茨城県つくば市で生まれ育った。幼いころは好奇心旺盛ないたずらっ子。外で駆け回って遊ぶことが好きで、室内でもジッとせずに常に動き回る子供だった。

幼少期から体を動かすことが好きなひなの選手は、2、3歳くらいからスイミングを始め、4歳ごろからヒップポップやジャズ等のストリートダンス、サッカー、体操、アクロバットを習っていた。「特に何も考えずに、好きで一日中体を動かしていました。一日に2個習い事をやっていた時もあります」と話す。小さい頃から運動神経が良かったひなの選手。体力テストは常にA判定を継続していた。

スケートボードを始めたきっかけは、小学2年生(8歳)のころ。趣味でスケートボードをやっている母親をみて、対抗意識を燃やしたひなの選手は「ずるい!私もスケートボードやる!」と始めた。自分の好きなように放課後に公園や人通りのない道路で遊ぶ息抜き感覚だった。

初めてスケートボードを見てカッコいいと思ったジャンルがパーク

オリンピックで行われるスケートボードの種目は、街中のようなコースで競う「ストリート」と、複雑なすり鉢状のコースで競う「パーク」の2つがある。ひなの選手は、パーク種目を専門としている。

ひなの選手の練習拠点が、地元つくば市にあるAXIS skate board park(アクシススケートボードパーク)。初中級者から熟練者まで幅広く対応している施設。アール(湾曲部分)、バンク(斜面)、バーチカルランプ(アーチ部分が垂直になっているセクション)、コブなどパーク向けのセクションが豊富なフルコンクリートパークだ。普段の練習する環境が「ストリート」よりも「パーク」のセクションスタイルだったことから、パーク種目のほうが身近だった。

また、ひなの選手がスケートボードを始めて半年くらい経ったころ、初めて「カッコイイ!」と思ったのが、自身の師匠と呼ぶスケーター、染谷凱さん。スケートボードのパークスタイルの選手で、AXISというスケートパークに所属。2022年のスケートボード強化指定選手にも選ばれている。地元のパークで練習を共にし、アドバイスや激励の言葉をかけてもらったスケーター仲間だ。「染谷さんの滑りを見てから、『スケートボードを頑張りたい』と思って練習に励みました。でも、楽しみたいという気持ちは強かったので、遊び感覚はまだ抜けなかったです。純粋に『上手くなりたい』という気持ちが芽生えた瞬間でした」

チャーミングな笑顔で明るい性格。周りを和ませるひなの選手

大会前日に骨折、だが強行出場!

ひなの選手が本気でスケートボードと向き合い、成績を残していきたいと大会に挑み始めたのは、中学1年の時。2021年12月に開催された、日本最高峰の大会『日本スケートボード選手権大会 』(日本選手権)で初優勝を果たしたことをきっかけに、競技者として本格的に活動を始めた。

この日本選手権は、ひなの選手にとって自身初優勝という偉業の他にもエピソードがあり忘れることが出来ない大会だ。
「恥ずかしい話ですが…大会の予選前日、自転車通学で学校からの帰り道、十字路で猫が飛び出してきたんです。急ブレーキ掛けたらそのまま前に突っ込んで、顔を骨折してしまいました。母に出場を止められたけど、この大会に向けて練習してきたから絶対出たかったんです。それで、骨折したまま出場しました」万全の状態ではなかったにも関わらず優勝を掴んだひなの選手。あどけない笑顔とは裏腹に強い精神力を持つティーンネイジャーだ。

これまで、手首の骨折、足首の靭帯断裂、肩の脱臼と、ケガは多かった。1年前の7月に骨折した手首にはまだボルトが入っている。タイミングをみてボルトを抜く手術をするという。「ケガで痛い思いをして競技をやめようかと思ったこともあります。でも少し時間が経ち冷静に考えると、スケートボードが『好き』だという感情が溢れ出してきて、ケガの怖さや痛さよりも上回る。やりたくなる衝動に駆られるんです」とひなの選手は言う。

最近はケガをしないように練習しているが、新しいトリックに取り組むときはケガのリスクもある。しかし、注意しながらも、一か八かで、恐れずやるだけやってみるというのが「ひなの流」のやり方。

スケートボードの魅力は個性が際立つスポーツ

ひなの選手の地元のパークには同世代のスケーターはほとんどいなかった。スケートボードを始めたころから年の離れた大人のスケーターと一緒に練習していたが、その経験がレベルアップに繋がった。「スケートボードは個性が出るスポーツだと思う。一つ一つの動作やトリックがあり、それを『どのように組み立てるのか』で、スケーターの個性が発揮されます。例えば、フィギュアスケートには『トウループ』、『サルコウ』、『ループ』などのジャンプがあります。Aの選手は最初に『トウループ』、2番目に『ループ』のジャンプ。Bの選手は初めに『サルコウ』、次に『トウループ』。このように同じジャンプでも順番をどのように組み立てるのかで選手の個性がでます。スケートボードでも同じことで、一つ一つの動作やトリックをどのように組み立てるのかが選手の個性になります。スケートボードの魅力は、スケーターの個性がパフォーマンスに現れること。一つ一つの動作やトリックにそれぞれ個性が出て同じものなんて一つもないところが面白い。そこが好きです」と語った。

例えば、バーチカルやランプなどで大きく宙に飛び出すエアー系トリックは高い技術が必要不可欠だが、デッキや体の使い方、その人なりのテクニックを駆使することで独創性が生まれる。滞空時間が長いとか、エアーの高さ、空中でのシルエットの綺麗さとか見え方も違ってくる。スケートボードの基礎中の基礎であるプッシュ(片足をデッキに乗せながらもう片方の足で地面を蹴って前に進むこと)でも、動きに個性が現れるので、一連の流れがその人らしさの滑りになる。

スケートボード・女子パーク種目、世界ランキング3位の草木ひなの選手

数々の偉業を成し遂げ実績を重ねる若き偉才

8歳でスケートボード始めて5年後の2021年12月、13歳で日本選手権初優勝を遂げた。
「達成感がありました。『やったー!』っていう感じです。その大会では、自分がやりたいことができて、すごく気持ちよかったですね。半年間練習した『540』を初めて出した大会だったし、自分がやりたかった技もフルメイクできた。やりたいことを出し切れたのがすごく大きかったです」と満足のいく大会だったと話す。

そのあと2022年4月日本オープンで優勝、同年11月の日本選手権で2連覇を達成した。この11月の日本選手権はルーティンやトリックの出来栄えも然ることながら、同年代の 仲間との交流で親睦を深めることが出来て最大限に楽しめた大会となった。

2023年2月、アラブ首長国連邦のシャルジャにて開催されたパーク世界選手権では、日本代表選手として国際大会デビューを果たす。2024年パリオリンピックの代表選考につながるスケートボードの世界選手権。決勝では3位の四十住さくら選手と0.65点差で表彰台にわずかに届かず4位。上位3名は、東京オリンピック2020で銅メダルのイギリスのスカイ・ブラウン選手、銀メダルの 開心那(ひらきここな)選手、そして金メダルの四十住(よそずみ)さくら選手。それに続く4位が国際大会初のひなの選手である。
「予選がとても緊張してしまいましたが、1位をとらなきゃいけないっていうプレッシャーも感じず、初めての世界選手権はすごく楽しくできました」と当時の心境を話してくれた。

2023年5月、アルゼンチン・サンフアンで開催の2024年パリオリンピック予選対象大会第2戦でも表彰台にはあと1歩届かず4位。本大会の結果を受けて、2024年パリオリンピックのポイントランキングは3位に浮上。オリンピック出場にも前進した。

ひなの選手の輝かしい功績からも、短期間で飛躍的な成長を遂げていることが実感できる。

しかし、時には悔しい経験もしている。今年5月に開催された世界最高峰のアクションスポーツの国際競技会「X Games Chiba 2023」では、予選敗退。初めてのX Gamesでは自分の実力が発揮できず涙をのんだ。

1本45秒の制限時間内で構成がしっかり組めず、得意な技『540』も出すことができなかった大会。今まで出場した大会は練習期間もあって、構成も考えて挑めた大会だった。しかし今回の「X Games Chiba 2023」は特設会場で練習時間も満足に取れなかった。それでも、「いい経験はできたのかな。どんな状況でも対応していけるように、これからの課題にもなりました」とひなの選手は前向きに捉える。

ペドロ・バロスとクレイ・クライナーをリスペクト

ひなの選手が目標としている選手として、2人の男性スケーターを挙げた。
1人は、東京オリンピック2020スケートボード男子パーク銀メダリストであるブラジルのペドロ・バロス選手。「スピードが人一倍速い選手です。スピードが速いと技に高さも出てくるし、グラインド(縁石やレールなどにトラックを当てて滑走するトリック)の流す距離も長くなるんですよね。そういうのが本当にかっこいいと思います」

そして2人目は、アメリカのクレイ・クライナー選手。X Games Chiba 2022の男子スケートボード バート ベストトリックで銅メダルに輝いている。「クレイ・クライナー選手とはスポンサーが同じです。全部が憧れですね。特に滑りのスタイル。ダイナミックな滑りと高難度のエアートリックなどを初めて見てスキルの高さに感動し、引きつけられました」と絶賛した。

目指すは2024年パリオリンピック金メダル、そして『世界一』

負けず嫌い!目標は、パリオリンピック金メダル&「世界一」!

最後に今後の目標を聞いた。「まずは2024年パリオリンピックに出て金メダルを獲得することが1つ。あとは海外を拠点に 活動していきたいです。遠征も始めるようになったんですけど、やっぱり目標は海外。アメリカをはじめ、いろんなところに動いていけたらいいなと思っています。それに向けて英会話も勉強中です」

国内ではすでにトップクラスに位置するひなの選手。しかし世界に目を向けると、目指す選手がいて、自分が追う立場。「東京オリンピック2020で銅メダルを獲得したスケートボードのスカイ・ブラウン選手。2023年2月と5月の世界大会で2連勝。そこに食らいついていきたいです。前に目指す人がいるっていうのがモチベーションになる。負けず嫌いなところがあるので、トップを獲って追うものがなくなってくると、また次の楽しみを新しく探して、楽しさを追求していくタイプなので。先頭を追ってトップの座を目指していくのが好き。目標は世界一」

2020東京五輪で金メダルを獲得した四十住さくら選手や、同大会銀メダリストの開心那選手と切磋琢磨しながら『スケートボード界の逸材・草木ひなの』は大舞台に果敢にチャレンジし続けている。世界一のスケーターを目指し、まだまだアップデートしていく草木ひなの選手の今後に期待しよう。
(おわり)

文:黒澤浩美
取材協力/写真:株式会社SFIDA

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