上智大学アイスホッケー部~氷上に新たな歴史を積み重ねるために
日本で、アイスホッケーの試合を観に行ったことがある人は、決して多くはない。そして、アイスホッケーをプレーした経験のある人は、本当に少ないだろう。
一方で、アメリカやカナダでは、アイスホッケーは大学スポーツの中でも人気のあるスポーツである。冬になると毎週末に大学対抗の試合が組まれ、キャンパスをあげて応援に盛り上がる風景は、冬の風物詩とも言えるだろう。
日本でも、上智大学アイスホッケー部は65年の長い歴史を持ち、2023年には春と秋のリーグ戦を制覇している名門チームである。今回は、上智大学アイスホッケー部の現主将である橋爪英斗さん(4年・獨協高校)、次期主将の萩原昴さん(3年・都立文京高校)、マネージャーの猪股咲音さん(3年・関西学院千里国際高等部)の3人に話を聞くことができた。
初心者もアイスホッケー選手として活躍
上智大学アイスホッケー部の部員の構成について、教えてください。
橋爪英斗現主将(以下、敬称略)「現在、19人のプレーヤーと9人のマネージャーがいます。そして、社会人でアイスホッケーをプレーされている2人のコーチがいます。」
プレーヤーは、大学入学前からアイスホッケーをプレーしていた方ばかりなのでしょうか。
橋爪「いいえ。19人のプレーヤーの中で、大学前にアイスホッケーの経験があったのは、6人しかいません。部員のほとんどはアイスホッケーの経験がなく、大学に入ってからアイスホッケーを始めた人が大半です。アイススケートの靴を本格的に履くのが初めて、という部員もいます。私自身も、大学からアイスホッケーを始めました。」
萩原昴次期主将(以下、敬称略)「私も、アイスホッケーをプレーするようになったのは大学に入学してからです。高校まででアイスホッケーをしたことがあるのはだいたい部員の1/3くらいしかいなくて、大学に入ってからアイスホッケーを始める人がほとんどです。」
猪股さん、マネージャーは、大学に入ってからアイスホッケーに触れた方が多いのでしょうか。
猪股咲音さん(以下、敬称略)「 マネージャーは、大学に入っ てからアイスホッケーを初めて生で観たという人がほとん どです。でも中には、テレビでアイスホッケーをテーマにしたドラマが好きだったから、という理由でアイスホッケー部のマネージャーになった人もいます。また、幼少期のころロシアで生活していた日本人で、ロシアにいたころアイスホッケーをプレーしていたというマネージャーもいます。」
スケートの初心者が、アイスホッケー選手としてゲームに出られるようになるまで、どのくらいの時間が必要なのでしょうか。
橋爪「チームの状態にもよりますが、最低1年くらいの時間は必要だと思います。スケート靴を履いて氷の上を走り、また止まることができるようになるまでは、そのくらいの時間はかかります。
また、選手はスケートの技術が上達しなくてはなりません。同時にアイスホッケーの戦術を理解し、試合の雰囲気に慣れる必要があります。そうすると、やはり1年以上はかかってしまいますね。」
萩原「私も、本当にアイススケートの初心者の状態でアイスホッケー部に入りましたが、試合に出られるようになったのは、大学3年生になってからでした。スケート靴を履いて氷上を走るのは、下半身の筋力はもちろんですが、上半身の筋肉もかなり必要なんです。だから、最初のうちは、いつも筋肉痛でした。」
そのように初心者も多い部活ながら、今年の上智大学アイスホッケー部は、春と秋のリーグ戦を両方優勝するなど、輝かしい成績を納めています。その秘訣はどのようなことだと思われますか。
橋爪「実は、昨年の成績があまり良くなかったんです。自分たちが結果を出せなかったことはもちろんですが、ご支援いただいたOBの方々の期待にも応えられなかったことが、非常に悔しかったです。
でも、今年はその悔しさをゲームにぶつけて、春と秋のリーグ戦を連覇することができました。上智大学アイスホッケー部は65年の歴史があるのですが、春と秋両方で優勝したのは、今年が初めてです。
キャプテンとして、こうした結果が可能になった背景としては、まず、アイスホッケー部のみんなが同じ目標を向いて、その目標のために一人一人の行動に落とし込むことができたことが、第1の理由にあげられると思います。例えば、アイスホッケー部の1年生は試合に出ることがほとんどできないのですが、そうした中でも試合中は積極的に声を出して、試合中の雰囲気を良い方向に持っていけるように努力していました。また、マネージャーのみんなもプレーヤーのことを考えて、自発的に動く場面が非常に多かったと思います。
また、今年は部内全体が前向きというか、気持ちを切り替えるのがすごくうまくなりました。かつて、上智大学アイスホッケー部は一回負けてしまうと、気持ちの切り替えができず、負けが続いてしまうことが多かったんです。実は今年の秋大会の2戦目でチームが負けてしまったのですが、みんなで声を掛け合って気持ちをうまく切り替えることができたことが、秋大会の優勝につながったと考えています。
そして、今年アイスホッケー部では『愛されるチーム』という目標を掲げました。私たちが活動できるのは、大学内やアイスホッケー部を支えてくださる保護者の方、ゲームを開催してくださるアイスホッケー連盟の方々など、たくさんの方々のおかげです。そうした方から愛されるようになるためにはどうしたらよいのか、ということを部員みんなで考え行動できたことが、今年の活躍につながったと思います。」
猪股「『愛されるチーム』ということについて、マネージャーとして、何ができるかみんなで考えました。
先日、上智大学の応援団が今年最後の応援に来てくれました。その試合が終わってから、お礼の意味を込めて応援団の皆さん一人一人にお礼のお手紙とささやかなお菓子を、アイスホッケー部からプレゼントさせていただきました。そしたら、チアの方がものすごく喜んでくれて、『また、アイスホッケーの応援に来たい』と言ってくれたんです。
そうした形で、アイスホッケー部の応援に行きたいと思ってくれる人を増やすことが、『愛されるチーム』の意味かな、とも思います。」
夜23時過ぎから練習開始
練習があるときの部員の皆さんのスケジュールは、どのような感じなのでしょうか。
橋爪「朝から夕方までは、基本的にみんな授業に出ています。そして夕方から夜にかけては、アルバイトに行く人や仮眠をとる人もいて、21時から22時くらいにみんな練習会場に集合します。そして、23時くらいから1時間半程練習をして、練習が終わるのは日付が変わった後です。そのあと帰宅するのは朝4時くらいですね。」
夜遅くまで練習しているようですが、帰りは電車が運行していない時間帯ですよね。
橋爪「実は部内では車を持っている人が配車係を担当しているので、同じ方面に住んでいる部員がグループを作って、車で帰るようにしています。」
夜が遅くなると、女性のマネージャーは活動が大変そうですね。
猪股「そのため、アイスホッケー部の活動は、親の許可が必須となっているんです。私自身も1年生のころは、両親にアイスホッケー部の活動を反対されたことがありました。」
お話を伺ったところ、非常にハードなスケジュールの中、アイスホッケー部の活動をされていることがわかります。それでも、アイスホッケーを続ける原動力というのは、どのようなものなのでしょうか。
橋爪「私自身アイスホッケーが大好きですし、アイスホッケーの部員が大好きです。それは、大学1年生のころから今まで全く変わりません。自分が主将だからこのように言うわけではないのですが、この大好きという気持ちが一番の原動力なのだと思います。」
萩原「確かにスケジュールはハードですが、やはりみんなアイスホッケーが好きなんだと思います。自分を含めて、寝る間を惜しんでもアイスホッケーをしたい人、アイスホッケーに熱中している人、アイスホッケーを楽しむ人が集まっている部ですし、そうした思いが原動力となって日々活動しています。」
今回、アイスホッケー部は、多くの方にご支援をお願いすることになりました。その主な動機はどのようなものなのでしょうか。
猪股「一つには、自分たちの後輩に、新しい資金調達の方法のノウハウを伝えておきたかった、という側面があります。
実は今の3年生が卒業してしまうと、部員の数が半分以下になってしまうんです。そうなると部費も半分以下になってしまうので、近い将来に部の活動資金が足りなくなってしまう可能性があります。そのようなときに、資金を調達する方法を後輩に伝えておきたいと思いました。
また、先ほど1日のスケジュールについて、練習後の配車係の役割についてお話ししました。でも、最近は車を持っている人も少ないです。練習場から自宅まで帰るための手段がないから練習に行けない部員がいる、という状況は避けたいので、部でレンタカーを借りることになるのですが、その資金が必要になっています。そして、私たちが練習に使っているリンクは学外のものになりますので、そちらのレンタル代も毎年必要になります。
また、私たちの部はOBの方々や保護者の方々のご支援を頂いているのですが、幸いほかにも関係者で、アイスホッケー部をバックアップしたい、とおっしゃってくださる方もいらっしゃいます。そうした方々の窓口にもなればと思い、今回ご支援をお願いすることになりました。」
最後の質問です。10年後の上智大学アイスホッケー部は、どのような存在になっていて欲しいですか。
橋爪「アイスホッケー自体が、大学に入ってから始めるスポーツとして、メジャーな存在になっていて欲しいです。今は、アメリカンフットボールやラクロスなどが、大学に入ってから始めるスポーツとして人気ですが、近い将来そのような立場にアイスホッケーがなっていて欲しいと思います。」
萩原「上智大学=アイスホッケーと多くの人に思ってもらえるようになっていればよいですね。私自身『人生をやり直したとしても、またアイスホッケーをプレーしたい』と思うくらいアイスホッケーが好きなので、大学から始めた人でも、熱中することができるスポーツだと思います。」
猪股「私は、上智大学アイスホッケー部が『愛されるチーム』であって欲しいです。たくさんの方による応援のおかげで活動できることを部員自身が理解して、部員同士はもちろん、周りの方とも喜びを分かち合える部であって欲しいですね。」
上智大学アイスホッケー部にはアイスホッケーが大好きな部員によって構成されていること、そしてその大好きなアイスホッケーを良い形で未来の後輩たちに伝えたいと思っていることがよくわかる、今回のインタビューとなった。
過去に積み重ねられた65年の歴史に、新しい物語を加えるため、上智大学アイスホッケー部の奮闘はこれからも続く。
(インタビュー・文 對馬由佳理)(写真 上智大学アイスホッケー部)