宮城で「旧帝大」の頂上決戦、東北大は東大に敗れ準優勝~七大戦硬式野球の部~
全国七大学総合体育大会、通称「七大戦」。北海道大、東北大、東京大、名古屋大、京都大、大阪大、九州大の旧帝大7校による体育大会が、3年ぶりに開催されている。
今年で第61回となる長い歴史を持つ大会。主管は各校持ち回りで、40を超える競技・種目ごとに順位をつけ総合得点で競う。新型コロナウイルス感染拡大の影響で昨年、一昨年は中止となったが、今年は東北大の主管で無観客開催されることに。9月下旬まで、宮城県内を中心に熱戦が続く。
8月11~13日には、石巻市民球場で硬式野球の部が実施された。13日、東大との決勝戦に臨んだ東北大を取材。2対5で敗れ準優勝に終わったが、8月27日に開幕する仙台六大学野球連盟秋季リーグ戦に向け、確かな収穫を得た。
瀬戸崚生、小池侑生の二枚看板が七大戦でも好投
主管の東北大は2日目から登場。名大戦は4回に4点を先制し試合の主導権を握ると、春季リーグ戦で二枚看板の一角を担った瀬戸崚生投手(4年・桐光学園)が9回途中3失点と力投し、6対3で勝利した。翌日の決勝戦では、二枚看板のもう一人である小池侑生投手(4年・前橋)が先発のマウンドへ。今春、東北福祉大戦で完投勝利を挙げた右腕が、東大打線に立ち向かった。
初回、先頭打者に安打を許すと、その後3四死球が絡みいきなり3失点。実戦感覚が鈍っていたこともあり制球が定まらず、苦しい立ち上がりとなった。それでも2回以降はストレート主体の投球で立て直し、凡打の山を築く。5回には先頭打者にこの日初めての長打を浴びたが、落ち着いて後続を抑え追加点を防いだ。結局2回から7回は四死球0で無失点。勝利には結びつかなかったが、瀬戸に続き七大戦でも先発の役割を果たした。
最後の秋季リーグ戦では、「チームの勝利、Aクラス(3位以内)入り達成、そこだけを意識している」という小池。「東大打線は左打者が多かった。東北福祉大や仙台大には左の好打者が多いので、七大戦での経験をリーグ戦でも生かしたい」と次を見据えていた。
畑古悠人主将が感じた課題と収穫、そして七大戦の醍醐味
東北大打線は名大戦こそ6得点を奪ったが、決勝戦では東大投手陣に5安打2得点と抑え込まれた。そんな中、決勝戦では「9番・遊撃」でスタメン出場した主将の畑古悠人内野手(4年・江戸川学園取手)が、第1打席に四球、第2打席に左前打で出塁し存在感を示した。七大戦は1年次以来。試合後、「力が拮抗している大学が集まっている中で、ガチンコ対決ができて面白かった」と白い歯を見せた。
遊撃の守備位置から見た東大の野手陣は「振りが強く、打球も速かった」。「東大に入った人たちがあれだけバットを振れている。自分たちはまだまだだし、見習わないといけないところはたくさんあると感じた」と、ハイレベルな東京六大学野球連盟で揉まれている東大ナインから刺激を受けていた。秋季リーグ戦に向け、チーム全体で打撃力の強化を図る。
一方、畑古が手応えを感じたのは守備面だ。七大戦は2試合を通じて無失策で、今春は守備の課題が露呈していただけに、チームにとって大きな収穫となった。春季リーグ戦は最初のカードで東北学院大相手に1勝すると、翌週には東北福祉大から32年ぶりの白星を奪取。勝った2試合はいずれも無失策だった。しかし、東北福祉大戦で勝利した後の7試合は毎試合失策を記録。その間は2勝5敗と苦戦し、最終的に4位で目標であるAクラス入りを逃した。
守備のミスが勝敗に直結した春を終え、秋に向けてはチーム全体で「ゲームライクな練習」をテーマに掲げ、鍛錬を積んできた。これまではノックを受けるだけだった時間に投内連携を行い、フリーバッティングの際も内外野の守備につくなどし、実戦に近い、強い打球を捕ることを心がけている。決勝戦では東大の打者の鋭い打球が何度も飛んだが、畑古と橘内優太内野手(4年・仙台三)の二遊間を中心に安定した守りを貫いた。練習の成果が早くも現れだしている。
ピンチをチャンスに、下級生が秋に向け猛アピール
今大会は新型コロナ感染者や怪我人が続出し、打線は主力の多くを欠いていた。普段出場機会の多くない下級生にとっては、アピールの場となった。
その一人が植木祐樹外野手(2年・長野吉田)。2試合とも「7番・中堅」でスタメン出場すると、決勝戦ではチーム唯一の複数安打をマークした。「がむしゃらにバットを振った」という第1打席は一、二塁間を抜けるチーム初安打。9回二死で迎えた第4打席は、「東大さんはめちゃくちゃ強かったけど、なんとか一矢報いようと思った」との言葉通り、懸命に一塁を駆け抜け内野安打をもぎ取った。塁上では東大の選手と会話し、「勉強だけでなく、野球に対しても真摯な人が多かった。大人な雰囲気で、知性を感じた」。この日の2安打を自信に変え、秋はレギュラー獲得を誓う。
決勝戦の9回は二死から植木の安打をきっかけに一、二塁の好機をつくると、代打・大橋周吾捕手(2年・八戸)の適時打で1点を返した。下級生を中心に奪った1点をベンチから見た畑古は、「4年生を追い出してスタメンに入るような選手が出てくると、チームとしては強くなる」と後輩たちのさらなる奮起に期待していた。部内競争を活発化させ、秋には進化した東北大の姿を見せたい。
次に“国立大旋風”を巻き起こすのはどこだ?意地と意地がぶつかった白熱の3日間
6年ぶりの優勝を果たした東大は、圧巻の戦いぶりを見せた。阪大戦は8対1、京大戦は11対2といずれもコールド勝ち。決勝戦は先発した左腕・鈴木健投手(3年・仙台一)が、仙台一時代のチームメイトで4番に座った桜井郁実内野手(4年)を2打席連続で打ち取るなど、4回1安打無失点と好投し流れを呼び込んだ。打線は初回に3点を先制すると、2点差とされた8回には秀島龍治内野手(3年・東筑)が2点適時打を放ち突き放した。
今春は勝利こそならなかったが、早稲田大相手に2試合連続引き分けと善戦するなど奮闘した。七大戦では阪大戦で先発し好投した井澤駿介投手(4年・札幌南)をはじめ、個の実力も磨かれてきている。強豪揃いの東京六大学でまずは昨秋以来の1勝をつかみにいく。
今大会は、東大、東北大以外の大学も次々と好ゲームを展開した。関西学生野球連盟で関西大から40年ぶり、立命館大から20年ぶりの勝ち点を奪い、過去最多タイの5勝を挙げた京大は、東大にコールド負けを喫し3位。それでも、北大戦は3点を追う9回に4点を奪いサヨナラ勝ち、3位決定戦は終盤に打線がつながり、9対4で名大を下した。
その名大は愛知大学野球連盟の2部リーグに所属している。3位決定戦では、プロ注目右腕の本田健悟投手(4年・明和)が7回8奪三振3失点と力投した。今春、札幌学生野球連盟で18年秋以来の1部で戦った北大は京大に敗れたが、阪大戦は4対3と接戦を制し、5位に入った。連敗した阪大は6位で、九大は諸事情により棄権した。
東北大の鈴木得央監督は、今大会と自身が東北大の選手だった頃に参加した七大戦を比較し、「かなりレベルが上がっている。私立大との実力の差が縮まり、国立大で野球を続ける選択肢が増えるのはいいこと」と話した。時代の流れとともに、練習方法や体の作り方、戦略の立て方は多様化してきている。学業に励みながら、日々、勝つための努力と工夫を重ねている国立大野球部。どの大学も、“国立大旋風”を巻き起こす可能性を秘めている。
(取材・文・写真 川浪康太郎)