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初開催の宮城県高野連選抜VS仙台六大学連盟選抜 球場を彩った笑顔と熱戦

 8月4日、宮城県の石巻市民球場で、宮城県高野連選抜と仙台六大学野球連盟選抜による交流試合が開催された。高校生の県選抜チームを結成するのは、宮城県高野連として初の試み。その経緯や、参加者の思いを取材した。

最後の夏を終え…高校球児にプレゼントされた「もう一つの夏」

 当初は、宮城県高野連選抜と石川県高野連選抜で試合を行う計画が持ち上がっていた。両県は2011年の東日本大震災以降、交流が続いており、野球を通じた新たな試みを模索していたのだ。しかし、新型コロナウイルスの感染拡大が収まらず、計画は白紙に。代替案として仙台六大学野球連盟に話を持ちかけ、今回の交流試合が実現した。

全員でガッツポーズを取る選手たち。それぞれの学校のユニホームを着て参加した

 高校生にワンランク上の野球のレベルを体感してもらうことはもちろん、少年野球、高校野球の普及・振興を図ることも狙いの一つ。宮城県高野連は近年、子どもたちの野球離れを阻止すべく、野球教室の開催などを行ってきたが、コロナ禍で難しい状況が続いている。今回の交流試合は入場無料とし、少しでも多くの子ども、ファンに足を運んでもらうことを期待した。

 高野連選抜は、甲子園に出場する仙台育英や新型コロナの影響を受けた選手を除く高校3年生を対象にセレクションを行い、40人を選抜。2チームに分け、第1試合で仙台六大学1、2年生選抜、第2試合で東北福祉大1、2年生と対戦した。仙台六大学選抜は下級生とはいえ、リーグ戦ですでに主力級の活躍している選手も多数。平日にも関わらず多くの観客が見守る中、第1試合は4-1、第2試合は12-1といずれも大学生が高校生を圧倒した。そしてなによりこの日の球場には、特別な一戦を楽しむ選手たちの笑顔があふれていた。

マウンドで、打席で、ベンチで―光った東北・伊藤千浩の存在感

この日の参加選手のうち最も輝いていたのは、プロ注目右腕の伊藤千浩投手(東北)だろう。身長188センチ、体重83キロの恵まれた体格が目を引くスター候補。今秋プロ志望届を提出する意向で、この日は大学生相手に「当たって砕ける」思いで臨んだ。

 第1試合は「4番・投手」でスタメン出場。初回、一死から連打を浴びるも、4番、5番を連続三振に仕留める。2、3回は三者凡退に抑え、3回5奪三振無失点と圧巻の投球を披露した。2回の第1打席では、相手先発・石川岳人投手(東北学院大2年・石巻西)のスライダーを捉えチーム初安打となる右前打。投打での活躍にスタンドが沸いた。

第1試合で初回のピンチを抑え、笑顔でベンチへ戻る伊藤(中央)

 第2試合も8回に代打で登場し、9回はマウンドへ。西川侑希外野手(東北福祉大2年・浜松開誠館)に2点ランニング本塁打を打たれたが、「『まっすぐで来いよ』という顔をしていた」という高校の先輩・佐藤琉河捕手(東北福祉大2年)には真っ向勝負を挑み空振り三振。マウンド上で雄叫びをあげた。

 グラウンドのみならず、ベンチでも大きな声を出しチームを引っ張った。「高校野球が終わったあとにもう一回野球ができたことに感謝したい。野球の楽しさを感じ、気持ちが高まった」。この夏は仙台育英の最大のライバルと目されながら、チームメイトの多くが新型コロナに感染したことも影響し準々決勝で敗退。無念の思いを高校生活最後の一戦にぶつけた。

「実感が湧いてきたところで…」コロナに泣かされた選手の救いの場にも

 新型コロナは、全国各地の高校球児に悲劇をもたらしている。宮城大会では、東北が準々決勝でメンバー12人を入れ替えたほか、創部初の4強入りを果たした仙台南が準決勝で、近年力をつけてきていた東北生文大が3回戦で、部員の感染により出場を辞退した。

第2試合で打席に立つ及川

 今回は仙台南と東北の伊藤を除くメンバーは時期的な問題から参加できなかった一方、東北生文大からは及川峻良外野手と小松光成捕手が選抜された。及川は第2試合の第2打席で中前へ抜ける安打をマーク。「辞退が決まった時は正直、実感がなかった。後輩への引き継ぎをしてようやく実感が湧いてきたところでチャンスをいただき、ありがたかった」。大学生から打ったことを自信に変え、次のステップでも野球を続ける。

「高専のピッチャーでは来ないような球」高専の捕手が得た経験値

 夏ベスト16に入った仙台高専名取で「4番・捕手」を務めた鈴木悠人捕手は、高野連選抜で唯一、高専から選抜された。第1試合の7回に代打で登場すると、8回には古川学園の好投手・三浦龍政投手を好リードし三者凡退を演出。「高専のピッチャーでは来ないような球を受けることができて楽しかった」と貴重な機会を振り返った。

三浦の球を受ける鈴木

 その裏の9回には二死一塁で打席に立ち、左翼への特大の適時二塁打。この試合唯一の得点をたたき出し、二塁上で控えめにはにかんだ鈴木は、「(高専から一人で)正直心細かったけど、周りが元気な人たちばかりで助けられた。緊張感の中でいいプレーができてよかった」と安堵した。9月には全国高専大会が控えている。経験を仲間に伝え、次なる戦いに挑む。

いつも通り、でも特別な「久々で最後の左中間」

 第1試合の高野連選抜で唯一、フルイニング出場した菅井惇平外野手(日本ウェルネス宮城)は、戦友との最後の共闘を楽しんだ。日本ウェルネス宮城は2020年に創部された新鋭校。今回選抜された菅井と早坂海思投手は、1期生として1年次からチームをけん引してきた。昨春、今春、そして今夏とベスト8入りしたが、いずれも準々決勝で仙台育英に敗れ、悔しさも味わった。

第4打席で四球を選び出塁した菅井

 この日は菅井が「1番・中堅」でスタメン出場。早坂は6回に登板し、7回からは左翼を守った。ここ最近はエース早坂が完投したり、早坂とポジションを入れ替わるかたちで菅井が継投したりすることが多く、二人で左中間を守ったのは久々だった。マウンドでは2失点と苦しんだ早坂に対し、菅井はいつも通り、外野から「自分のリズムで!」と鼓舞。次の回、守備についた際には、「大学生相手によく投げた」とねぎらいの言葉をかけた。「見慣れた光景だけど、海思と外野でコミュニケーションを取るのは久々で楽しかった」。3年間頑張ってきた二人にとって、かけがえのない時間が流れた。

「高校生たちはすごい」大学生が肌で感じた、後輩たちの頼もしさ

 交流試合に参加した大学生も、高校生から刺激を受けていた。第2試合で3打数3安打4打点と大暴れした小熊慎之介内野手(東北福祉大2年・東北)は、「久しぶりに母校のユニホームを見られてうれしかった」と笑顔。そのユニホームを着た伊藤については、「打って守って走って、しかもベンチでも声を出していた」と目を細めた。頼もしい後輩たちの姿を見て、「初心を忘れずに、これからも頑張りたい」と気を引き締めていた。

 最速155キロのスーパー1年生・堀越啓太投手(東北福祉大1年・花咲徳栄)は、第2試合の最終回に登板。大学に入ってからの公式戦で無失点、今春のリーグ戦では被安打さえ0と”無双状態“だった堀越だけに、高校生を圧倒するかと思われた。しかし、先頭の石垣友希外野手(利府)に右中間を破る三塁打を打たれると、二死後、菅原直太朗内野手(佐沼)に適時二塁打を浴びまさかの失点。堀越は「苦しかった高校時代を思い出した」と苦笑いを浮かべつつ、「初見で対応できる高校生たちはすごい」と賛辞を贈っていた。

1失点ながら奪ったアウトはすべて三振。この日も速球が光った堀越

 この日一番の盛り上がりをもたらす一打を放った菅原は、以前ユーチューブで堀越のストレートを見て衝撃を受けていた。初球から来たそのストレートを思い切り振り抜き、大仕事をやってのけた。「野球っていいな、楽しいな」。試合後、かみしめるようにそう口にした。

 高校野球は甲子園で頂点に立ったチーム以外、最後は悔しさを味わってユニホームを脱ぐ。夏の戦いのあと、野球の楽しみを再認識しつつ、先輩たちの胸を借りてプレーできることは、高校生たちの財産になるはずだ。今後、宮城の野球はどう発展していくのか。年齢やカテゴリー関係なく手を取り合い、未来をつくっていく。

(取材・文・写真 川浪康太郎)

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