「フルコンタクト空手の熱闘宣言」インカレとカラテ甲子園が熱過ぎる
フルコンタクト空手の「インカレ」(大学)と「カラテ甲子園」(ジュニア)が大変な盛り上がりをみせた。「フルコンタクト空手の聖地」国立代々木競技場第一体育館には選手たちの情熱が溢れ、熱戦が繰り広げられた。
~フルコンタクト空手の未来を担う大会
11月17日、JKC全日本フルコンタクト空手道選手権大会(以下インカレ)とJKJO全日本ジュニア空手道選手権大会(以下全日本ジュニア)が同日に開催された。
「2022年からインカレを立ち上げ、全日本ジュニアと一緒に行う形式にしました。インカレができて大学生にも明確な目標ができた。ジュニア年代はインカレを間近に見て、『出場してみたい』と思える。フルコンタクト空手の未来へ繋がる大会になるはずです」(全日本フルコンタクト空手コミッション代表・酒井寿和氏)
フルコンタクト空手は習い事と同感覚で始めるジュニア年代の競技人口は多い。しかし、年齢が進むに連れて同年代で対戦する機会が減少するため競技人口も右肩下がりになっていた。大学生日本一を決める大会を立ち上げることで、ジュニア層が競技を続けるモチベーションを高めたい思いがあった。
同大会を始めるにあたっては、インカレとジュニアを同じ会場でやることにこだわった。ジュニア選手たちに、自分たちが試合をしている横のコートで行われているインカレ決勝を見て欲しい。「いつか自分も同じ場所で戦って、勝ちたい」と思ってもらいたかった。
「大会を重ねるごとに少しずつ進化していると思います。良いと思えるものは取り入れ、選手たちが前向きに楽しんでフルコンタクト空手へ取り組む環境を作りたい」(酒井氏)
競技運営面ではビデオリプレイシステムを導入してジャッジの正確性を重視。演出面で今年はSEGAキャラクター「ソニック&シャドウ」とのコラボを行ない、国歌斉唱に有名アーティストを起用するなど大会への関心度を高めた。大会自体の価値を上げることが、選手自身の「やりがい」へも直結するはずだ。
~「文部科学大臣賞のインパクトは絶大だった」(正木翔夢・七州会)
開会式に登場したのは、昨年度「中学2-3年男子57kg未満の部」優勝者で文部科学大臣賞に選ばれた正木翔夢(七州会)。高校進学後の現在はフルコンタクト空手とは離れているが、同賞受賞で環境や気持ちが大きく変化したという。
「文部科学大臣の受賞は本当に嬉しかった。周囲から褒めてもらえる回数も桁違いに多くなりました。自分の名前だけでなく、お世話になった道場の名前(七州会)がたくさん取り上げられたので本当に良かった。小さい時から本当に良くしていただきましたから」
「フルコンタクト空手は、まだまだマイナー競技です。友人とかにも『五輪種目なの?』って聞かれるレベルです。今までは全国優勝しても『すごいね』くらいの感じでしたが、文部科学大臣賞はインパクトが違いました。競技へのは関心を持ってくれる人が増えた感じはありました」
「フルコンタクト空手は魅力的だし面白いと思います。多くの人に知ってもらって競技にも触れてもらいたい。『もう少し知って欲しいなあ、悔しいなあ』と今でも常に感じています。そして、インカレとジュニアがもっと盛り上がって欲しいです」
「僕自身、中学3年の最後の大会で優勝できて文部科学大臣賞もいただけたのは、一生忘れない宝物です」と満面の笑顔で締め括ってくれた。
~「早稲田のフルコンタクト空手を知ってもらいたい」(早稲田大・細矢涼太)
試合に先立って選手宣誓を務めたのは、男子1部軽量級(65kg未満)の早稲田大・細矢涼太と女子1部重量級(55kg以上)の神奈川大・本田志帆の2人だ。
細谷が在籍する早稲田大は野球、ラグビーをはじめとする他競技部が有名。インカレができたことで、「早稲田のフルコンタクト空手を1人でも多くの人に知ってもらえるように頑張りたい」と語る。
「早稲田といえば、さまざまな部活動が強豪として知られています。僕自身も今までは六大学野球などに足を運んで応援する立場でした。インカレができたことで、僕の試合も大学の仲間に見てもらえるようになったことが嬉しかったです」
「大学生の活躍を見せられれば、ジュニア選手たちも『時間を作って練習すれば大学でも続けられる』と思ってくれるはず。『良いところを見せたい』という気持ちは常にあります。また、インカレとジュニアが一緒の大会だと観客も多いので勇気付けられます」
「大人になるにつれ時間も少なくなり、道場へ行く機会も減ってしまうかもしれません。でも、そこでやる気をなくさないで、可能な時でも良いので道場へ足を運んで欲しい。結果にはすぐに繋がらなくても、無駄なことは何1つないはずですから」
~「フルコンタクト空手をずっと好きでいたい」(神奈川大・本田志帆)
昨年のインカレ王者である本田は全国的に知られる強豪選手だ。「フルコンタクト空手を好きという気持ちを大事にして欲しい」と後輩たちへ伝える。
「インカレはフルコンタクト空手をやっている大学生なら誰でも参加可能です。大学4年間という出場期限が決まっているので、世代交代のサイクルが早い大会でもあります。学生時代の短期間に集中して勝利を目指す、挑戦しがいがある大会だと思っています」
「インカレに対しての準備や気持ちの入れ方は、他の大会とは変わらないと思います。でも、大学代表として出場できるのはやはり嬉しいです。神奈川大・本田という名前が記録には残り続けますから」
「フルコンタクト空手の知名度は今は低いかもしれないですが、やっていることは他競技と変わらないと思います。道場で練習を重ねて、大会があれば状態を整えるだけ。何よりも競技を好きでいられることが喜びになっているます」
~「インカレ日本一になったことで周囲の反応が激変」(愛知教育大・岡田葵)
大会前から注目を集めていたのが、3連覇を目指す女子1部軽量級(55kg未満) の愛知教育大・岡田葵。大学卒業後は教員の道へ進むことを公言して迎えたインカレだったが、見事に優勝を果たして有終の美を飾った。
「嬉しいのはもちろん、ほっとした気持ちも強いです。3連覇がかかっていたのもあるし、今日の試合を第一線での最後に決めていました。怖さもあったと思います。でも、多くの人から声をかけてもらいパワーを頂け、打ち勝つことができたと思います」
2022年にインカレが立ち上がってからの全大会で優勝を果たしている。子供の頃からフルコンタクト空手を続けてきた中、「インカレができたことは大きな転機になった」と語る。
「子供の頃から『フルコンタクト空手って何?』と言われてきました。私の中では存在が当たり前にある競技だったのでショックを感じたこともありました。『この状況は変わらないのかな…』と思ったこともありました」
「大学に入った当初は、『優勝した』と言っても周囲に理解してもらえない。クラスメートや先生からの反応も、『すごいね』くらいだった。インカレができて大学日本一になった時には周囲の反応が違ったので、本当に嬉しかったです」
小学校の教員試験に合格したことで、来春からは福井県で教壇に立つ生活が待っている。
「今後も何かの形では関わっていきたいです。フルコンタクト空手では打たれるので、痛いし怖い。大会ではプレッシャーもある。そういったことの積み重ねで学んだこと、頑張り抜いた力や礼儀礼節は今後に活かせるはず。子供たちにも少しでも伝えられたら良いですね」(岡田)
フルコンタクト空手界では試合中の暴力行為が社会問題となったばかりだった。試合で熱くなった末の行為だったとしても、断じて許されるものではない。しかしインカレと全日本ジュニアの現場では、そのような取り組み方をしている者は誰一人いなかった。心と身体を徹底的に鍛え上げ、対戦相手に全力をぶつけていく姿には胸を打たれた。
拳や蹴りを必死に出し続けるジュニアや大学生の姿からは、大きなパワーと可能性が伝わってくる。世間では我が国の未来に対して何かと悲観論も多いが、そういう心配すら吹き飛ばすような風景があった。
フルコンタクト空手の未来には光を感じる。同大会の行方、そしてどのような素晴らしい選手たちが現れるのか、今後には楽しみしかない。
(取材/文:山岡則夫、取材協力/写真:全日本フルコンタクト空手コミッション)