離れても消えぬ「きらやか魂」 JR東日本東北が都市対抗野球大会準優勝…B-net/yamagataの“戦友”に伝わった2投手の思い
第95回都市対抗野球大会で、JR東日本東北(仙台市)が初の決勝進出を果たし準優勝に輝いた。3試合に先発して2勝を挙げ、久慈賞を受賞した小島康明投手(32、TDKからの補強選手)と、中継ぎで貢献した武田龍成投手(26)は、2022年まできらやか銀行(山形市)でプレーしていた投手。二人はきらやか銀行硬式野球部の無期限休部を機に、翌年から同じ東北の企業チームへ移籍した。
都市対抗と時を同じくして、山形では硬式野球クラブチーム「B-net/yamagata」(山形市)が全日本クラブ野球選手権初出場を目指し東北二次予選に挑んでいた。そこには、かつて小島、武田とともに戦った“元きらやか銀行戦士”の姿があった。
大きな一歩踏み出すも、遠かった「あと1勝」
B-net/yamagataは初戦の弘前アレッズ戦で完封負けを喫するも、オールいわきクラブとの敗者復活戦では逆転勝ちを収め第3代表決定戦に進出。創立2年目での初の全国切符獲得まで「あと1勝」と迫った。
対するは全国大会常連の東北マークス。初回にいきなり3点を先制されると、その後も投手陣が相手の勢いを止めることができなかった。終わってみれば、17安打を浴びて10失点。打線は1、5回以外は走者を出し食らいつくも本塁が遠く、0-10で完敗した。
試合後、主将の稲毛真人内野手(31)は、目を真っ赤にしながら「『悔しい』しかないです」と言葉を絞り出した。「B-netは初めて社会人野球でプレーする選手も多いので、クラブチームの全国にかける思いや必死さを目のあたりにして経験できたという部分では絶対今後につながると思う。ただ、山形に応援してくれている人がたくさんいるので、経験で終わらせたくなかったという気持ちはあります」
B-net/yamagataはきらやか銀行のメンバーを中心に発足したが、続々と新入団選手が加わっており、今年は14人が入団した。6月の都市対抗東北二次予選では企業チームのトヨタ自動車東日本を破り、昨年は出場できなかったクラブ選手権東北二次予選でも1勝。チームは着実に歩みを進めている。それだけに、悔しさが募った。
「嬉しい」が99.9%、良い意味での「悔しい」が0.1%
7月29日、天童市スポーツセンター野球場で行われた東北マークス戦。敗戦の中、4番に座った新井諒内野手(28)は四球と二塁打で2度出塁し、気を吐いた。
新井は法政大を卒業後、きらやか銀行で5年間プレーした。元チームメイトである小島、武田が出場する都市対抗はライブ配信や速報でチェックしていたといい、「武田が投げて吠えているシーンを見ると鳥肌が立ちましたし、小島さんもさすがの投球をしていた。二人が東京ドームの舞台で輝いているのはすごく嬉しかったです」と声を弾ませた。
「ただ…」と新井。「自分も現役で野球をやっている以上、頭の片隅には、自分たちも全国の舞台に立って、小島さんや武田に『俺らも頑張っているよ』『負けていないよ』というところを見せたい気持ちがありました。(二人の活躍は)『嬉しい』が99.9%、良い意味での『悔しい』が0.1%。頑張るモチベーションには確実になっています」と続けた。
社会人3年目までは投手をしていたこともあり、ポジションが同じで年の近い武田とは特に仲が良かった。今も連絡を取り合ったり、山形で会って野球の話をしたりしているという。「武田も『きらやか銀行時代があるから今の自分がある』と話してくれている。最後に戦ったメンバーの思いを背負って、『きらやか魂』で覚悟を持って投げてくれていると思う」。画面越しに、戦友の気迫が伝わってきた。
新井は「表面上は『あと1勝』で全国だったんですけど、(本選出場チームとの)差は大きいと感じました。同じように練習して次のシーズンを迎えたら、来年も同じようにやられてしまう。どこに差があるかを見つけていかないといけない」と気を引き締めつつ、「それを見つける楽しさは去年以上に増しています」と笑みを浮かべた。クラブと企業の違いはあれど、新井も「きらやか魂」を原動力に前へ進んでいる。
大学、社会人でともに戦った後輩と交わした約束
東北マークス戦で3番を打ち、4回に好機を広げる安打を放った林弘樹内野手(32)も、きらやか銀行で9年間プレーした選手。「自分たちはきらやか銀行の選手として都市対抗の舞台に立つ権利を失った。その中で二人が活躍している姿は嬉しいですし、うらやましいとも思います」と率直な思いを口にした。
小島は東京農業大時代からの後輩で、都市対抗初出場を果たした2016年を含め3度、東京ドームの舞台でともに戦った。小島の移籍後も頻繁に連絡を取っており、今大会中も「俺も勝つからお前も勝てよ」とメッセージを送っていた。
林自身はきらやか銀行の無期限休部が決まった際、「いつクビを切られてもおかしくないと思っていたので、野球を続けるか続けないか迷った」。ただ、埼玉出身で、当初は縁もゆかりもなかった山形への愛着は年月とともに深まっており、「山形の野球を盛り上げることに自分も貢献できるのならば、体が続く限り野球をしよう」とB-net/yamagataで継続する決断を下した。林もまた、「きらやか魂」を貫く男の一人だ。
敗戦は「死に物狂いで」全国目指す1年の始まり
今大会は佐藤航太投手(21)、先崎友太投手(23)、齋凌矢投手(24)と新入団の3投手がマウンドに上がり、野手も東北マークス戦でバント安打を決めた本間樹真内野手(18)ら若い選手が積極的に起用された。ベテランと若手が競い合う土壌ができ、チーム力が高まってきていることは間違いない。これからは新井の言う「クラブ選手権予選に向けた気持ちの持っていき方」などの課題をあぶり出し、差を埋めるための努力と工夫をする時間が必要になる。
今年もまだ半ばだが、来年まで、全国大会につながる公式戦はない。だからこそ、それまでの過ごし方が飛躍の鍵を握る。「応援してくれている人たちのためにも、来年こそは死に物狂いでクラブ選手権の出場権を取りにいく」とは林。その思いは、B-net/yamagataの選手たちの共通認識だ。
新天地で奮闘する元きらやか銀行戦士が歴史を変えたように、B-net/yamagataが明るい未来を切り開くことを期待する人は少なくないはず。山形の地で、次なる挑戦が始まる。
(取材・文・写真 川浪康太郎)