香川県営野球場と丸亀市民球場は、香川県が全国に誇る特産品

香川県営野球場(=レクザムスタジアム、以下県営球場)と丸亀市民球場(=レクザムボールパーク丸亀、以下丸亀球場)。

四国・香川には新旧2つの素晴らしい野球場が存在する。歴史や形状など、それぞれ全く異なる個性を持ち、多くの野球関係者から愛されている。

丸亀球場の一塁側ピクニックデッキ後方に美しい夕焼けが広がる。

『野球どころ』と言われる四国の中でも、香川県の野球熱はひときわ高い。中等学校野球大会時代には、高松中と高松商が2強として名を馳せたのは有名。高校野球となってからも高松商、尽誠学園、坂出商業、丸亀城西、高松、丸亀など、全国に知られる学校がいくつも現れた。

今夏甲子園でベスト8進出を果たした高松商も大きな話題となった。プロ注目のスラッガー浅野翔吾は、自慢の長打力を大舞台でもいかんなく発揮し清原和博(PL学園)の高校通算本塁打を超えてみせた。昨年12月、同校を指導に訪れたイチローが絶賛したのも記憶に新しい。

高校野球予選も行われる県営球場には青い空と白い雲が似合う。

~県営野球場は香川の野球人にとって憧れ

「浅野(翔吾)は真面目で気さくな好青年。あの打席はどうでしたか、とか気軽に聞いてくる。うちらが育てたようなもんです(笑)」

冗談まじりに話し始めたのは、県営球場のグラウンドキーパー加島謙二氏。開場初期から関わってきた加島氏は、香川球界の伝統が詰まった県営球場に自信と誇りを持っている。

県営球場は、高松市立中央球場の老巧化に伴い1982年7月17日に開場。西武ライオンズ球場(現ベルーナドーム)等が参考とされ、両翼96m中堅122m、収容人員22,000人というプロ並みの規模感となった。高校野球の他、四国アイランドリーグplus・香川オリーブガイナーズ(以下ガイナーズ)も本拠地とする。地元名産品にちなみ『オリーブスタジアム』と命名されていた時期もある。

「古い球場なので設備などは新球場に劣る。しかし適材適所で改修を重ね、野球を滞りなく行うためには十二分のものを準備するように心掛けている。多くの名勝負が繰り広げられ聖地といえる存在です。県営球場でプレーするのは、香川の野球人たちにとって憧れです」

「夏の県予選を行うので高校球児にとっては決戦の場所。地元・高松商の試合には超満員のお客さんが詰めかけることでも有名です。試合数時間前から球場周辺は大渋滞に見舞われてしまうほど。ホームと言える状況になるので、対戦相手が気の毒に感じることもあります」

県営球場の土には歴史と伝統が詰まっている。

~丸亀球場は米国仕様の新球場

「新球場のメリットは最新の設備を導入できること。選手が快適で最高のパフォーマンスを発揮できる球場です」

開場時からグラウンド整備の仕事に就き、丸亀球場と共にキャリアを重ねているのが中村直人氏。先輩キーパーたちにノウハウを学びながら最適な整備方法を模索し続け、今ではリーダー的役割として取り仕切っている。

丸亀球場は、丸亀市城内グラウンドに代わる施設として2015年3月1日に開場。収容人員10,000人ながら両翼100m中堅122mと十二分な大きさを誇る。高校野球やガイナーズの他、プロ野球オープン戦やファーム公式戦が行われることもある。各ベンチ裏には3人同時に投球練習可能なブルペンや素振りスペースなど、豪華な施設が備わっている。

「広島・マツダスタジアムや米国などの球場を参考に、時代に即した最新式球場というコンセプトで建設されました。球場内、どこの席からでも見やすいのが特徴。一塁側がピクニックデッキ、三塁側が天然芝のフリースペースと非対称になっているのも個性的です。伝統や歴史は浅いですが楽しいボールパークになっています」

「当球場は開場7年となり、季節や使用条件等に応じての土、芝の管理ノウハウを専門業者と共に積み重ねてきました。グラウンド整備においては、トラクターを入れるか、水を撒くのかなど、当日のグラウンド・コンディション等を分析して、最適と思える整備方法を決定します。使って良かったと思えるような球場を常に心掛けています」

丸亀球場では試行錯誤を続け、最高のグラウンドを求め続けている。

~球場劣化とノウハウ蓄積という異なる課題

球場が異なれば、管理する側には全く異なった苦労が存在するのが当然だ。築年数の長い県営球場では、劣化との戦いに神経をすり減らしている。一方、新しい丸亀球場では、球場管理に関する最善方法をノウハウとして蓄積している最中でもある。

「球場改修は県予算で行いますが、全ての部分に予算は下りません。例えば、夏の県大会には多くのお客さんが集まるので、トイレなど観客側の改修はできました。しかしグラウンド内の傾斜修復やベンチ内の床補修などは不完全です。段階を追っての改修になるので、選手にもどこかで負担をかけている状態で申し訳ない気持ちです」(県営球場・加島氏)

「市民球場なので十分な予算確保に苦慮しています。また新しい球場なので、良さを実感してもらえないとリピーターになってくれない。そのためグラウンド整備のために最低限の日程確保が必要です。短時間で効率的にコンディションの良いグラウンドを作り上げるように努力しています。土などは産地が異なるものを使ってみたり、土と砂の割合を変えたりと色々試しています」(丸亀球場・中村氏)

県営球場には野球人の魂が集うような独特の雰囲気がある。

~ガイナーズは両球場を味方にして戦う

築年数だけでも両球場には30年以上の開きがあり、それぞれに長所、短所がある。選手、監督として両球場と常に関わってきたガイナーズ・近藤智勝監督はどう見ているのだろうか。

「全くの別の思いを抱いている球場です。県営球場には、プロ選手として育ててもらった恩を感じます。ガイナーズに入団して、良いも悪いも多くの経験を積んだ。築年数が長く、ロッカーなど古いですが多くの思い出が詰まっている大事な球場です。丸亀球場はプレーする側としては快適そのもの。監督の立場としては、設備や衛生面等を含め、選手のコンディション維持に最高の球場です」

「県営球場は長い伝統が詰まった球場で、米国で言うとフェンウェイ・パーク(ボストン)やリグレー・フィールド(シカゴ)。丸亀球場はメジャーやマイナー、独立の新球場の雰囲気です。ガイナーズは両球場を使わせていただいています。異なった雰囲気の中で試合ができるので、気分転換などにも役立っています。今後も両球場を味方につけ勝ち星を重ねていきたいです」

丸亀球場はボールパークの香りがする快適な空間。

~ライバル心を抱えながらもDNAを共有

「常に最高の環境を整え香川県を代表する球場でいたい。新しい球場には負けない、という良い意味でのライバル心もあります。(県営球場の立地する)高松と丸亀は車で1時間弱の近距離ですが、そこに素晴らしい球場が2つ存在する。香川の野球界にとっては誇りです」(県営球場・加島氏)

「私の師匠は元々、県営球場でグラウンド整備をしていて開場と共に移ってきた方でした。だから丸亀球場の中には、(県営球場の)伝統やDNAが混ざっているとも言えます。野球の神様が香川の野球を盛り上げろ、と言っているように感じる時もあります。これからも腕を磨きながら最適な方法を見つけ出し、最高の球場を作り上げます」(丸亀球場・中村氏)

日本特有の明確な四季の存在に加え、近年は地球温暖化が急激に進む。ビジネス的見地からは稼働日数の問題も関わる。土と天然芝の野球場が減少傾向にあるのは仕方ない部分もある。そのような状況下でも、世界に誇れるような野球場が複数存在するのが羨ましく感じる。県営球場と丸亀球場へ行くだけでも、香川県へ足を運ぶ価値がある。うどんだけではない、野球場は香川の特産品だ。

(取材/文/写真・山岡則夫、取材協力・香川オリーブガイナーズ、香川県営野球場、丸亀市民球場)

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