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仙台大に現れたスーパールーキーの素顔 佐藤幻瑛は「うまくなる」ため野球を追究する

 オリックス・宇田川優希投手やソフトバンク・大関友久投手ら好投手を次々と輩出している仙台大に、またしても将来有望なルーキーが現れた。佐藤幻瑛(げんえい)投手(1年=柏木農)。最速149キロの速球と落ち着いたマウンド捌きが光る右腕だ。

 今春のリーグ戦では開幕2戦目の先発に抜擢されると、5回8奪三振3失点の力投で大学初白星をマーク。第4節からは1回戦の先発を任されるようになり、ここまで5試合、28回を投げ3勝0敗、36奪三振、防御率3.21と申し分ない成績を残している。負ければ勝ち点を失う重要な一戦となった東北学院大3回戦では、9回2失点で大学初の完投勝利をやってのけた。優勝がかかる最終節の東北福祉大戦でもマウンドに上がることが予想される。

開幕から先発ローテーションを守っている佐藤

 1年生ながらもはやエースと呼んでも過言ではない活躍ぶりを見せている佐藤だが、数か月前までは青森の農業高校にいた高校生。試合後の取材ではあどけなさやぎこちなさが滲み出る一方、方言が残る独特のイントネーションで受け答えする姿はその場を和ませる。そして決して多くを語らずとも、野球を心の底から楽しんでいることはひしひしと伝わってくる。そんなスーパールーキーの素顔を探るべく、リーグ戦真っ只中の5月上旬、佐藤にじっくりと話を聞いた。

地元・青森で知った投手の醍醐味

 青森県黒石市出身。男3兄弟の次男として育ち、一つ上の兄の影響で小学3年の頃に野球を始めた。始めた当初から投手で、「試合を決めるポジション。ピッチャーが一番面白い」と投げる喜びを感じながらプレーしていた。

 「負けた時は自分のせいだと思って投げていた。勝つためにはどうすればいいんだろう、今日はこれがダメだったから次はこうしよう、と考えるうちに、できないことができるようになっていくことが面白かった」。小中で所属していたチームは本人曰く「弱小チーム」で、目立った実績を残せない中でも、試行錯誤の日々に充実感を覚えていた。

東北学院大3回戦で完投勝利を挙げ、充実した表情の佐藤(中央)

 高校は隣接する平川市の県立校・柏木農に進学。青森県内にはプロ野球選手を輩出するような高校も多数存在するが、「強豪校に対しての興味はあんまりなかった」という。

 田植えの体験をしたり、リンゴを育ててジャムを作ったりして農業を学びつつ、野球に打ち込む毎日を送った。1年次から「エースで4番」の座をつかむと、秋はチームに39年ぶりの秋季県大会出場、創部初の同大会勝利をもたらす投球を披露。3年夏の県大会では140キロ台の直球を連発し、特に1回戦の五所川原商戦は9回16奪三振無死四球2失点と快投した。

進化のための努力と周囲の支え

 チーム力を考えると甲子園とは縁遠く、強豪校ではないためスカウトの注目も集まりにくい。高校時代は何をモチベーションにしていたのか、尋ねてみた。

 「とにかくうまくなりたい。それだけですかね。プロに行きたい気持ちもあるんですけど、それよりもうまくなりたい気持ちが強い。うまくなるために頑張ると、『この試合は負けられない』『絶対に勝ちたい』と考えられるようになる。うまくなるとプロに行ける。一番必要なのはうまくなることだし、自分は単純なので、ピッチャーが好きで、うまくなりたいんです」

懸命に投げる佐藤

 「うまくなりたい」。この言葉を佐藤は何度も口にした。うまくなるための飽くなき探究心が佐藤を大きく成長させたことは、想像に難くない。では、どんな方法でうまくなったのか。

 まずは自身の投球を動画で撮影し、フォームをチェックする。その後、似た体型で速球を投げるプロ野球選手らの動画を見て、それを参考にフォームや体の使い方を改善していく。ある選手を真似て球速が伸びなければ、球速が伸びるまでひたすら他の選手の真似を繰り返す。

 参考動画を探し、そのたびにアドバイスをくれたのが、高校の監督と父・智則さん。高校は「チームメイトに球が速いピッチャーがいるわけでもないし、球速アップできる指導者がいるわけでもない」環境だった。それでも、周りの大人たちの手厚いサポートが成長を後押しした。

まだ見ぬ未来へ、努力は続く

 高校卒業後は大学で野球を続けたいと考えていたものの、高校野球を引退してしばらくはどこからも声がかからなかった。「ここで野球が終わるのか…」。諦めかけていた矢先、仙台大から誘いを受けた。仙台大については「全く知らなかった。(宇田川や大関の名前も)分からなかった」と頭をかくが、「プロに行くような人と比べたら努力が足りていない。もっと成長してプロに行くために、ここで頑張ろう」との思いで故郷を離れた。

 うまくなりたい。そのためにうまい投手をとことん研究する。貫いてきた姿勢は大学でも変わっていない。しかも動画を通してしか研究できなかった高校時代とは異なり、今は隣に、日常的に、速い球を投げられる投手がいる。オフ期間に合流して以降、ジャクソン海投手(4年=エピングボーイズ)ら先輩投手に質問をぶつけ続けた。教えの通りにフォームなどを微修正するとすぐに効果が現れ、3月中旬の練習試合では高校までの最速を3キロ上回る149キロを計測。リーグ戦でも140キロ台中盤~後半の球速を安定して出している。

爽やかな笑顔でベンチへ戻る佐藤

 「『この人、球が速くていいな』という嫉妬から始まって、『じゃあこの人を真似してみよう』となる。結局、うまくなりたいんです。成長しないと怖いんですよね」

 現在は身長178センチ、体重70キロと体が細い。また本人はリーグ戦のマウンドを踏む中で直球に手応えを感じている一方、サインミスが原因で失点したり、変化球をジャストミートされたりといった課題にも直面している。まだ大学に入学してから2か月も経過しておらず、伸び代は十分すぎるほどある。

 取材の最後に大学4年間の抱負を問うと、しばらく沈黙したのち、「考えていないですね…分からないです」とこぼした。先のことは考えず、一日一日の成長を噛みしめているのが現状。ただ、努力を続けた4年の先には、佐藤が想像する以上の明るい未来が待っているはずだ。

(取材・文・写真 川浪康太郎)

読売新聞記者を経て2022年春からフリーに転身。東北のアマチュア野球を中心に取材している。福岡出身仙台在住。

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