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元プロ野球選手 喜田剛 「野球から離れた時は抜け殻状態に」アンダーアーマーでの再起とこれまでの道のり

かつて広島東洋カープなどでプロ野球選手として活躍し、現在はアンダーアーマーの日本総代理店である株式会社ドームでマーケティングの仕事を行っている喜田剛氏。

11年に現役を引退後、「抜け殻状態でした」と語り先の見えない不安と戦った中、10ヶ月に及ぶ就職活動の末にアンダーアーマーの店舗スタッフを経て、今はマーケティング領域でリーダー職を務めている。

今回は連載企画として、現役時代を含む喜田氏のこれまでの軌跡を追った。

(取材協力:アンダーアーマー、写真 / 文:白石怜平 ※以降、敬称略)

現在はマーケティングでのリーダー

現在、喜田は株式会社ドームのコンシューマーマーケティング部でチームリーダーを務めている。

アンダーアーマーに関する発信やイベントなどを企画運営するチームのリーダーとしての立場である。動画コンテンツやソーシャルメディアなどのオウンドメディアの発信から、外部メディアでの記事掲載といった、ブランドからユーザーに向けて発信するコンテンツ制作全般が”守備範囲”。

主な担当カテゴリーは、自身がプレーしていた野球に加えバスケットボール、そしてランニングを担当。イベントの企画から運営までの統括を担っている。

「お客様が”スポーツをしたい”と考えたとき、頭の中に一番にアンダーアーマーを思い浮かべていただけることを意識して日々取り組んでいます」

4月30日にはBリーグ 宇都宮ブレックス協力のもと、「アンダーアーマー キッズデー」を開催。子どもたちに向けた職業体験の場を企画・提案し、5月26日には120名が参加する大規模のランニングイベント「UAオールアウトマイル JAPANチャレンジ」を主催するなど、GW期間中も関係なく、この春はフル回転していた。

4月の「アンダーアーマーキッズデー」の様子(写真左が喜田)

野球から離れ”抜け殻状態”からのリスタート

喜田は2011年に横浜(現:DeNA)ベイスターズを退団し現役を引退した。

小学校3年から野球を始め、高校・大学そしてプロと”野球一筋”。これまでの人生の大半を共にした野球から離れ、その喪失感は喜田から活力を奪っていった。

「他にやりたいこともなかったので、野球を離れた時は抜け殻状態になってしまいましたね、当時は…」

そんな中始めた就職活動。周囲に相談しながら方向性を見出だした。

「周りからアドバイスをいただいた時、『野球界だけが仕事じゃないよ』と。スポーツに関わる仕事、例えばメーカーとかブランドなどでも野球に関われるので、そこに気づいてから方向性が見てきましたね」

履歴書を国内の主要なスポーツメーカー各社に送り、同時にパソコン教室も通い資格を取得するなど準備を重ねた。

そして約10ヶ月に及ぶ就職活動の末、株式会社ドームの関連会社でアンダーアーマーの店舗スタッフなどが所属する「株式会社ドームヒューマンキャンパス」に入社しキャリアをスタートさせた。

アンダーアーマー ベースボールハウス 川崎久地店(喜田剛公式noteより)

ベースボールハウスの店長として13ヶ月連続目標達成

最初に配属となったのは、現在もオフに現役選手がイベントなどで訪れる「アンダーアーマー ベースボールハウス川崎久地店」。しばらくして、店長の大役を任された。

「当時33歳、それまでアルバイトもしたこともないですし、サラリーマンとして働いたこともなかったので、まずおじぎから勉強しました」

その言葉が表すように、まさにゼロからのスタートだった。何もかもが初めての中で、課された目標を達成しなければならなかった。日々模索していたが、さすがは元プロのアスリート。競争社会を生き抜いてきた男の本領がここで発揮された。

「どうせやるんだから目標は達成したいなと。アスリートとしての血が騒いだと言いますか。店舗で野球クリニックなどを立ち上げたりして、その他も試行錯誤を続けました」

店長時代、野球に関する企画で売り上げ目標を達成し続けた(喜田剛公式noteより)

店舗ではお客様の前に立ちアンダーアーマー製品を販売。販売だけにとどまらず、子どもたちを対象にした野球教室の開催など、野球の魅力を伝える活動を積極的に企画した。

その努力は実り、13ヶ月連続で売上目標を達成するなど確かな結果を残した。

15年からは親会社の株式会社ドームに転籍。スポーツマーケティング部に配属され、野球担当としてアンダーアーマー契約プロ野球選手をサポートすることになった。

アンダーアーマーと契約している現役プロ野球選手には、柳田悠岐選手(福岡ソフトバンクホークス)や吉田正尚選手(オリックス・バファローズ)、山﨑康晃選手(横浜DeNAベイスターズ)など球界を代表する選手がおり、野球ギアやウェアを使用している。

喜田はシーズン中に球場へ行き、選手と直接会話を重ねながらギアの使い心地や改善点などをこまめにヒアリング。選手が試合でベストパフォーマンスを発揮するべく球場に通う。

競技の域を超え、バスケットボール担当に

2019年からは、現場担当の域を超えてマーケティング全般のブランドマーケティングを担う部署に異動、翌20年からは野球に加えてバスケットボールも担当範囲となった。

この時期は、米アンダーアーマー契約選手で、NBAでレギュラーシーズン歴代最多の3Pシュート成功数を誇るステフィン・カリー(ゴールデンステート・ウォリアーズ)が手掛ける「カリーブランド」のローンチのタイミングでもあった。

「バスケはやったことがなかったので最初は大変でした。スラムダンクを1巻から全部読むところから始めました。最初の仕事がカリーブランドのローンチという大役だったので、これから創るカリーブランドとは何か・そしてカリー選手本人の想いなども勉強しましたね」

他にも、社内のバスケ担当と共にBリーグの試合に視察へ何度も足を運んだ。現地で人脈を増やすために名刺を配ったりなどできることを少しずつ積み重ねていった。

約1年半ほど経験する中で理解を深め、現在はプロデューサーの立場として球団と共同のイベントを企画するなど、相互の信頼関係を厚く築いている。

上で触れた「アンダーアーマー キッズデー」も、喜田が発案した子どもたちに向けた体験型イベントである。小学生の親子を当日招待し、観戦のほかに試合運営の仕事に挑戦したり、試合後に選手へのインタビューを行う企画。

4月に行ったアンダーアーマーキッズデーも喜田の発案で実現した

カリーの想いである「世界中の若者たちが平等にスポーツを楽しむ機会を創出する」を日本でも実現させるために、「子どもたちに何か特別な体験を提供できないか」とブレックスへアイデアを出したことがきっかけだった。

その提案や想いは球団も共感し、約3ヶ月という期間で実現することができた。

当日参加した子どもたちは、初対面でも友だちになるほど打ち解け、「どうやって場内演出がされているのか勉強になりました」と語るなど、発見と思い出に残る1日となった。

「参加してくれる子どもたちにとって特別な思い出になることは大前提です。ブランドとしての取り組みをより多くの方に知っていただきたいですし、さまざまな側面からスポーツを好きになって、プレーする子どもたちが増えてほしいと願っています」

喜田の担当は競技関連だけではない。プロモーション関連においても「それぞれ本気で取り組んでいます」と強く語るものがある。

(つづく)

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