関メディベースボール学院・大学通信科が目指す「大学生活内における野球時間の価値を高めたい」
「大学生活の中で学業と野球の比重を逆にすることを考えました」
関メディベースボール学院(以下関メディ)・総監督の井戸伸年氏は、従来とは真逆の発想から“大学通信科”を始めたという。

「野球を上手くなって上のカテゴリーでも続けたいから、推薦やセレクションで強豪大学へ進学します。でも部員数が多くなり過ぎて、指導者の数が足りていないチームが多い。そのような環境では、十分なレベルアップは望めないと思います」
少子高齢化が進み、大学は学生数確保に必死な時代になった。部活動は大学の宣伝ツールであり、生徒数を集めるための手段になっている。
「名門大学なら、部活動が卒業後の就職にもプラスになります。しかしそれ以外の多数の大学では、学生数確保が第1目的となっている場合が多い。『お金と時間を費やす価値はあるのか?』と不思議に感じます」
4年間大学に通った場合の学費、生活費は安くない。人間形成に大事な時期の4年間という貴重な時間も費やすことになる。
「部内の人数バランスがおかしく、サービス(=技術向上)も提供してもらえない。学生は野球を上達したいから大学に行く。『大学4年間を野球に特化して、有効活用すべきでは…』と考えました」

~野球に打ち込めないから間違った方向へ進む
野球専門校・関メディは、ポニーリーグ所属の中等部が有名だが、それ以外にもプロ入りを目指す“野球選手科(社会人チーム)”や“高等学校通信科”が存在する。また昨年からは“軟式(中等部)”が発足するなど勢いに乗っている中、時代の変化に即した形で“大学通信科”にも注力する。
「大学では野球が上手くなって、その先の将来に繋げたい。また、大学生活も充実させて卒業すれば、野球が終わった(=引退)後にも活きる。でも現状は“どっちつかず”になっています」
部員数が多ければ練習を納得いくまでできず上達に繋がらない。試合に出られる学生も一握りで、それ以外は応援係に回される。その上、部活優先のために学業が疎かになることも少なくない。
「部によってはアルバイトを禁止しているケースも多い。部活以外の世界や社会を知ることもできない。野球に本腰を入れて取り組まないと、大学進学した意味をなさないと感じる」
「競技に打ち込めないので、間違った方向へ行ってしまうのが現実。大学生は自由に生活を送ることもできます。女性、お酒、ギャンブル…。野球が充実していないから、そういった方向へ流れてしまう選手が少なくない」
「野球に集中できる、打ち込める環境を周囲が作る必要がある」と力説してくれた。「誰だって流されることがあります。僕だって学生時代はそういう時期がたくさんありました(笑)」と振り返る。
「一般学生なら、それを“社会勉強”の1つにすることも可能です。しかし野球に特化して入学した場合、人生が狂ってしまいます。そこに対して、大学側が責任を持つこともないですから」

~“大学通信科”は野球と学業の比率を逆にする
関メディ“大学通信科”は、星槎大学(神奈川県)と提携、オンライン授業で大学卒業資格や教員免許の取得が可能だ。月-金曜日は“野球選手科”と共に、午前9時から午後5時まで練習。土-日2日間はオンライン授業に充てるという(学部によっては実技等でキャンパスへ行く必要もある)。
「星槎大学とは2022年7月13日に提携を結びました。同大学の存在を知り、『通信教育を効率良く活用することで、野球によりコミットできるのでは』と思った。さまざまな可能性をシュミレーションしていく中、関メディとしてもトライすることにしました」
プロ野球という最高峰でプレーするには、大学時代にやるべきことも山ほどある。しかし、「大学時代に効率的に上達できたかは、わからない」と振り返る。
「当時は目先のことを必死にこなしていたが、今考えると『もっと有意義な時間の使い方があったのでは…』と思えます。大学生なので学業優先なのは当然。でも『野球をやるため』に推薦進学したわけなので、違和感を感じてしまうこともありました」
「自分自身の経験も踏まえ、『野球と学業の比重を逆にしたい』と思いました。それを可能にするのが“大学通信科”。野球へ存分に打ち込める環境ができれば、選手自身も違和感なく生活できる。自分自身のレベルや方向性も客観視できるはずですから」
“大学通信科”は全国から募集するため、学生寮も準備する。昨今の高校野球界では、野球部寮の存在が問題視されているのだが…。
「(“大学通信科”は)やるべきことが明確なので、ストレスも溜まらず道を踏み外す確率も下がるはず。寮で問題行動が起きるのは、部員人数も多く、野球に真剣に取り組める場所がなくなるからだと思います」
「“野球選手科”の選手達は、プロという明確な目標を持って野球に取り組んでいます。また年齢的に大人の選手もいます。そういった選手達と共にトレーニングすることで、より真剣に取り組めるようになると思います」
“大学通信科”選手寮は、活動拠点である甲子園周辺に準備される。「関西圏在住で通える学生の入学も大歓迎です」と付け加える。

~野球(=スポーツ)を通じて人生が豊かになって欲しい
「大人のためではなく子供のための大学。学生・選手が本当に求めているものを準備したい」
大学運営もビジネスであるため、学生数確保に執着するのも仕方ない部分もある。しかしそのような状況下でも、関メディは“学生第一主義”を追求する。
「“大学通信科”だけでなく、関メディ全体で最も重視したい部分。カテゴリーによって学生・選手が求めているものも異なります。それらをしっかり理解、体現できる組織を作り上げたいです」
「『どのように時間を使い、何を学ぶのか』が大切。学生・選手の時間を無駄なものにしたくありません。仮に野球を諦める瞬間がきても、その後にプラスになるのなら、時間とお金を費やした意味があるはずです」
関メディは野球専門校として、「野球を長く続けられる選手を育てる」ことを重要課題とする。しかし同時に、「人生が豊かになるための“人材育成”」も考える。
「“スポーツの在り方”の問題です。スポーツの目的は、人生が豊かで幸福なものになることだと多います。選手として素晴らしい活躍をしても、競技引退後の人生が荒んでしまっては意味がない」
「グラウンド以外でもステップアップして欲しい。そのためには他競技、ジャンルからも貪欲に学んでいける組織にしたい。人間としての器が大きくなれば、プレーにも好影響が出ますから」
大学生年代は、その後の人生設計においても重要な時期。関メディが“大学通信科”に力を入れるのは必然かもしれない。

~マネージャーや裏方さんの推薦やセレクション入学
「大学進学時の選択肢が変わるようにしたい。野球強豪大、就職にも有利な名門大だけではなく、“大学通信科”が選択肢に加わるようになれば…」
「マネージャーや裏方さんが、大学野球部へ推薦やセレクションで入学できるようになったら最高ですね」というアイディアも披露してくれた。
「高校時代から裏方仕事に本気で向き合っている学生は、大きな戦力になれます。経験豊富で覚悟も持っている。いわば究極の専門職で、どこへ出しても恥ずかしくない人材になれるはずです」
大学部活動では、各々の理由で選手から主務(=マネージャー職)へ転職するケースが多い。選手をやりたかった人間が裏方になるのは、多くの葛藤もあるはず。裏方の専門家が、「道を極めるため」に進学するのは素晴らしい考えだ。

カテゴリーを問わず、部活動環境の問題が多発している。学生・選手達の本当のニーズや思いが現場に反映されていないのが大きな原因かもしれない。
「学業と野球の比重を逆にすることに意味があるようにしたい。そのためにも学生・選手にとって本当に必要な大学環境を作り上げていきたい」
時代に即した形を柔軟に取り入れることが、昨今の関メディ躍進に繋がっていると言っても過言ではない。本腰を入れて取り組む“大学通信科”で、今度はどのような化学反応を見られるのか楽しみだ。
(取材/文・山岡則夫、取材/写真/協力・関メディベースボール学院、井戸伸年)
