リコーブラックラムズ東京 メイン平 長期のリハビリを進化に変え迎える復活のシーズン「ポジティブに向き合い、強化できた一年半」

現在リコーブラックラムズ東京でプレーするメイン平選手。
ラグビーの強豪であるニュージーランドで2年間過ごし、20歳でブラックラムズに入団した。
2年目のオフには日本代表の座を勝ちとるなど順風満帆に見えたが、2023年からは度重なる大怪我との闘いがあった。
ついにピッチに戻ってきた今、これまでの活躍そして復活までのプロセスを振り返る。
(取材 / 文:白石怜平 ※以降、敬称略)
2年間ニュージーランドでプレーしブラックラムズへ
宮崎県出身のメインは、御所実業高校(奈良)を卒業後にニュージーランドへと渡った。
父の出身地であった縁から、小さい頃からニュージーランドのラグビーを見ていた。そのため、かねてから現地でラグビーをしたい想いを抱いていた。
「大学進学の選択肢もありましたが、若い時にチャレンジしたいという気持ちから思い切ってニュージーランドに行く決断をしました」

メインが入団したのは「ノースハーバーマリスト」というクラブチーム。
18歳の青年が屈強な大人たちに混ざり、世界的にハイレベルなニュージーランドのラグビーを体で学んだ。
ただ、今後の成長を考えていち早くプロのチームに行きたいと考えた時に、ブラックラムズからオファーを受け、日本でのプレーを決意した。
最初は練習生としてスタートした日本でのキャリア。
それでも「当時はコーチから『2〜3年目くらいで出られるようになれればいいよ』と声をかけてもらってましたが、僕は一年目から勝負だと思っていました」と、高い意識で日々臨んだ。
結果、21年2月20日に行われたトップリーグ開幕節の(現:埼玉)パナソニックワイルドナイツ戦で途中出場し早速プロデビューを果たした。
「開幕戦はリザーブでした。しっかりアピールして臨んで、メンバーに入れた時はすごく嬉しかったです。両親にすぐ報告して東京に来て観てもらったのもあって、とても思い出に残る試合でした」

以降は本職のFBの他にCTBでスタメン出場を重ねるなど、シーズン全試合でメンバー入り。
リーグワン初年度となった2年目の2022シーズンも、CTBとFBに加えてWTBでも出場。チームに欠かせない存在へと駆け上がった。
合宿で質問とアピールを重ね、日本代表へ
シーズン後には、将来の日本代表に選ばれる可能性のある人材が召集されるナショナル・ディベロップメント・スコッド(NDS)にも選ばれた。
21歳にしてチームの中心を担いつつあったメインの活躍は確かに評価されていた。NDSに合流後は持ち前の積極性を発揮し、各所にアドバイスを請いに行ったという。
「その時は田村優さん(横浜キヤノンイーグルス)やベテランの先輩方もいらっしゃったので、話を聞きに行って『新人だったらこうした方がいいよ』『コーチに質問に行きな』などとアドバイスをいただきました」
そのアドバイス通りコーチにも自ら助言を求め、早速練習でアピールを重ねる。チームに必要なピースであることを示し、晴れて日本代表のメンバーへと選出された。

代表初キャップは22年6月18日のウルグアイ戦だった。目標にしていた桜のジャージを着てついにピッチへ立った時の心境を鮮明に覚えている。
「もう緊張よりもワクワクしていましたね。疲れることなく楽しいという感情でラグビーができたので、嬉しい思い出しかなかったです」
欧州遠征では悔しさが残るも「無駄ではなかった」
また、9月下旬にも再び日本代表合宿の参加メンバーに名を連ねた。
試合ではメンバー入りを果たせなかったが、イングランド・フランスと戦った欧州遠征に帯同。ここでも国と国が戦う雰囲気を体感する機会となった。
「メンバーには入れず正直悔しい思いもありました。その一方で日本と違う雰囲気であったり、何万人も入る場所かつアウェイの中での試合でしたので、スタジアムにいるだけでも価値がある経験ができました。
テストマッチに向けてどう準備するべきかを肌で感じられたので、決して無駄ではなかったです」
世界で戦う経験を積んだ後に臨んだ2022-23シーズン。この頃からメインにとって大きな試練が待ち受けることになる。
日本代表の活動を通じて「練習の質一つひとつが変わった」と語るなどさらに進化し、開幕から出場を重ねた。チームの勝利と共に、翌年に向けても並々ならぬ想いを抱いていた。
「FBからWTBで臨んだシーズンでした。秋の日本代表でWTBに取り組む機会があり、しっくり来た状態でブラックラムズでプレーする年になりました。あとはこの後にW杯もあるので、アピールしたいと意気込んでいたシーズンでした」

しかしそんな中、23年3月4日第10節のNECグリーンロケッツ東葛戦で最初の大きなアクシデントに見舞われてしまう。
「左ハムストリングの肉離れでした。タックルに行く時に疲労が残った状態で左足を踏み込んでしまい、その時に足を広げてしまいました」
全治は半年。このままシーズンを終えるとともに、目標にしていたW杯での日本代表入りも逃すことになってしまった。
開幕前最後の試合でシーズンを棒に振る大怪我に
それでもリハビリを経て、秋にピッチへと戻ってきたメイン。「状態も良かったと思います」と、コンディションを上げて新シーズンへと臨むところだった。
だが、開幕前最後のプレシーズンマッチというタイミングでさらに大きな試練に当たってしまった。
「右膝の前十字靭帯を断裂してしまいました。あの場面は、ジャンプしてボールをキャッチしたのですが、着地した際に上からのタックルを受けたんです。その時にスパイクが地面に刺さったまま膝が持って行かれた形でした」
前十字靭帯断裂は再建手術を受けると復帰までは約一年を要する。つまり、シーズン全試合を棒に振ることになった。当時の複雑な心境を明かしてくれた。
「前のシーズンでも怪我をして半分ほど試合に出られていない。そして開幕間際に前十字靭帯を切ってシーズン全部出られない。
つまり、1シーズン半何もできない状態だったわけですよね。
ハムストリングの肉離れをした時に、ここの強化をしてすごく状態が良かった。足も速くなったような感覚も得られたので、とにかく悔しい・焦りもありました」
それでも1年半という長期間の離脱を、むしろ前進するための充電期間へと自ら変えた。
「考えていたこととしては、前の怪我に戻るのですが、ハムストリングを肉離れした時に自分の体を見つめ直したんです。そしたら先ほど話した動きが良くなった。
だとしたら、『一年あるなら怪我する前よりもっと良い状態にできるな』という考えを持っていました。(1年半は)長いようで短かったです」

相手そしてラグビーの分析でナレッジでも進化
メインが長期のリハビリ期間で鍛えたのはフィジカルだけではなかった。グラウンドに立つことはできなかったが、別の形でチームの戦力となっていた。
「昨シーズンHCだったヒューイ(ピーター・ヒューワット)から『自分と向き合うことも大事だけど、チームに向けて何かできることはないか?』と相談をいただきました。
なので、『僕はスクラムのアタック担当をしたいです』と答えて、コーチングに挑戦するシーズンでもありました」
対戦相手を分析し、次戦に向けて展開するべきラグビーについてをチームへプレゼン。毎週継続することで己だけではなく、相手そしてラグビーを深く知ることへとつながった。
「練習はできなくてもナレッジが養われたシーズンでもありました。練習の段階で相手を分析し、情報を事前に頭に入れてプレーすると相手が見えやすいことを体感しました」

状態は「(靭帯断裂の)怪我をする前よりも上がっている」と語っていたメイン。
ブラックラムズはタンバイ・マットソン新HCのもと、2024−25シーズンを戦っている。今シーズンそして未来に向けての想いを語ってくれた。
「よりスピードを増したランとキャリー、そしてトライも見てほしいです。
チームの勝利に貢献するとともに、個人的にはもう一度日本代表に返り咲きたい想いが強いので、強みを発揮できればチャンスはあると思います。
怪我をしないでシーズンでの出場を続けて、再び日本代表に入りたいです」
またもや大怪我もついにグラウンドへ復帰
しかし、この後にも試練は続いていた。インタビューの数日後のプレシーズンマッチで膝の半月板を損傷してしまい、またもや手術を受けることになってしまった。
「靭帯断裂時と一緒(開幕直前での大怪我)だったのでフラッシュバックしました…本当に悔しかったです。ずっとリハビリやっててまた復帰して怪我したので、戻ってしまったわけですから」
それでも逆境を力に変えた男は不屈の精神で乗り越えた。約2ヶ月半後の今年2月1日、第6節のコベルコ神戸スティーラーズ戦でついにグラウンドへと帰ってきた。
リーグワン公式戦では23年3月4日のNECグリーンロケッツ東葛戦以来約2年ぶりだった。
「700日以上空けての公式戦だったので、ワクワクしながらグラウンドに立っていました」

その言葉通り、復帰戦では前半開始2分でトライを決めるなど自らの復帰を祝う活躍を早々に見せた。
試合を重ねるごとにパフォーマンスを上げ、15日の浦安D-Rocks戦では80分間フル出場。
そして、22日の東芝ブレイブルーパス戦でもトライを決めるだけでなく、素速いランでのボールキャリーで観衆を大いに沸かせるなど、上で述べた持ち味を存分に発揮した。

「最初はパフォーマンスが上がらないことは覚悟してやっていました。ですが、体もフィットしてきて80分間自分の好きなことができる感じを持ってプレーできています」
重ねての充電期間を経てさらにステップアップしたメイン平。ラグビー人生における新しい幕が、ピッチで再び開かれている。
(おわり)