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「グローブにも第二、第三の人生を歩んで欲しい」野球グローブの修理・リメイク専門店Re-Birth

野球グローブの修理・リメイク専門店Re-Birthが注目を浴びている。

使い古されたグラブが新たな生命を宿し時代を超えていく。世界的課題のSDG’sだけでなく、野球のロマンにも通じるものを感じる。

2021年に東京・蒲田に「野球グローブ再生工房Re-Birth」1号店が開店した。

「グローブ(以下グラブ)は革製品なので、方法によっては100年くらい使えると思います」

Re-Birthを展開するグローバルポーターズ株式会社の代表・米沢谷(よねざわや)友広氏。

2020年2月からオンラインを通してグラブ修理や不要グラブの再生販売を開始。翌21年1月には東京・蒲田に1号店となる「野球グローブ再生工房Re-Birth」をオープンする。

「最初はインターネット経由での対応でしたが、グラブは実際に手を入れないと感覚がわからない。また実際に話し合うことで最適なモデルを準備することができるので、対面できるショップの必要性を感じました」

「多摩川・河川敷グラウンド近くの蒲田は『野球どころ』ですが野球専門店がなかった。大田区内で事業を始めた中、ちょうど良い物件が見つかりました。また買取や譲り受けで集まったグラブ数が増え過ぎ保管場所に困ったのも理由の1つです(笑)」

Re-Birthでは再生グラブに加え、新品グラブも扱っており年間3000個を超える販売数を誇る。業務成績は右肩上がりを続けており、蒲田以外にも世田谷区、多摩市にショップを構えている。

「再生グラブならば販売価格を抑えられる」と考えてスタートした。

~中古ゴルフクラブ市場を参考に再生グラブ販売を開始

「時代の変化もあり野球ギアの価格高騰は避けられない。しかしユーザー側には大きな負担で野球離れの原因の1つとも感じています」

Re-Birthで扱う再生硬式グラブの中心価格帯は¥29,800で、各メーカーが発売する新品の約半額に当たる。

「ここ10年余りで野球ギアの価格は高騰、硬式グラブなら6万円以上が通常ラインです。しかし、高校入学時など新チーム加盟時にポジションが決定している選手は少ない。『何度も買い換えるわけにはいかないので再生品から』という方も増えています」

「今のグラブ市場は中古品、再生品、新品という3つがあります。メルカリさんなどで手に入る修理されていない中古品。そして修理・リメイクした再生品。メーカーさんが販売する最先端の新品。それぞれが棲み分けできていると感じます」

「Re-Birthでは再生品だけでなく新品も扱っています。既にポジションが決まっているなら新品をお勧めすることも多々あります。再生品と新品の両方を扱っていることで選手の選択肢も広がります」

「再生グラブというアイディアを生み出したのは前職の経験もあった」と語る。高校時代は秋田商業で野球に没頭、大学では経営学を学んだ。卒業後はスポーツ用品小売のゼビオやアマゾンジャパンに勤務、流通の専門家としての経験を積んだ。

「原価構造上、新品価格が上がるのは仕方ない。生産と流通に関わる方々の利益が出ないといけないので価格に上乗せすることになるからです。でも再生品では方法次第で価格を抑えることが可能だと考えました」

「参考となったのが中古ゴルフクラブ市場です。ゴルファーの方は入門時はフルセットを買いますが、そこから単品クラブを中古で購入します。そしてレベルアップした先で最高級品やオーダーをする。パーソナルユースかつ高額で長く使えるところが野球グラブと似ていると思い、再生品グラブを始めるきっかけになりました」

グラブマスター・大木賢氏(写真左)とグローバルポーターズ株式会社の代表・米沢谷友広氏(同右)。

~グラブマスターが再生、修理、ケアを行う

「(価格が)安かろう(品質が)悪かろうでは意味がない」と迷いなく言い切る。選手が信頼して使える再生グラブを作り出すため、Re-Birthではブロンズからプラチナまで4段階の「グラブマスター制度」を採用している。

「例えばブロンズは紐交換や型付け、シルバーは革の裁断やミシンを使ったラベル交換、ゴールドは手のひらの革や指袋交換、プラチナは最終検品や指導…。グラブマスターの段階ごとに任される役割があり、基準を完璧にクリアしなければ次のレベルへ進めません」

グラブマスターが職人技を駆使してグラブを再生させる。その上でユーザー側の都合を考慮したアフターケアも大事にしている。

「再生品購入後の1週間は送料無料で返品可能です。また1年間の紐切れ保証をします。再生グラブは全て新しい紐を使いますが、それでも1年以内に切れたら無料交換します」

アフターケアへの注力は、「野球界が直面する問題解決へ繋げたい」という思いもあったから。

「以前は野球専門店も多くオーナーや店員が修理やケアをしていた。しかし近年はそれをできる人が激減、メーカー修理に頼らざるを得ない。修理代金も高く納期まで時間がかかる。グラブマスターがそういう部分も支えられると思います」

「選手を大事に思う、技術を持ったグラブマスターを増やしたい。日本のグラブ生産技術は世界一と言われます。もちろんアフターケアも同様です。グラブマスターを増やせば野球を側面から支えられると信じています」

「再生品、新品を問わず、知識と経験があるグラブマスターがグラブの販売もアフターサービスも行う。各メーカーさんからはそういう部分も評価していただいており、素晴らしい関係性を築け始めています。共に野球界を盛り上げていければと思います」

豊富な知識と経験を持ったグラブマスターたちが古くなったグラブを生き返らせる。

~1つのグラブが世代を超えて使い継がれるため

「選手がプレーしやすい野球環境」を目指し、再生グラブ市場を活性化させている。そして「1つのグラブを時代を超え長生きさせたい」という思いを同時に持っている。

「1つのグラブには思い出と愛着が詰まっています。修理したりリメイクをして1つのものを長く使って欲しいです。世代を超えて使っていただければ最高です」

「何らかの理由で使用されず、自宅等で眠っているグラブも多いはず。それらが最終的に廃棄されることがないようにしたい。Re-Birthのことを知ってもらえれば再生して次の人に繋がるはずです」

「グラブ再生で繋ぐ未来」を掲げる。そのためにも高校生を中心に人気が高い刺繍入れに関しては現時点では遠慮しているそうだ。

「場合によっては家族以外の方々にも使い継がれて欲しい。刺繍が入ると個人のものになってしまい繋がることが難しくなる。刺繍入れは人気があるのも理解していますが、そこは大事にしたい部分です」

「見える思い出」としてのグラブも提案している(写真は二子玉川店)。

~グラブにはどのような形でも長生きして欲しい

「最近もおじいちゃんが『自分のグラブをお孫さんに渡したい』と来てくれました。優しい思いがストレートに伝わるはずです。そしてグラブ自身も次の人生を迎えられ嬉しいのではないでしょうか」

世界的課題となっているSDGsに取り組む企業は多い。Re-Birthの再生グラブ事業は選手ファーストでの試みだが、実は究極のSDGsなのかもしれない。

「再生グラブの質を高めたりケアをしっかり行うのは、選手1人1人のお悩み解決に繋がると思うからです。悩みが少なくなれば顧客満足度が高まるはずです」

「SDGsに繋がるかもしれないですが、まずは1つのグラブが生き続けて欲しい。米国では過去の名選手のグラブが飾られているのを見かけます。実際のプレーで使えなくても、再生・リメイクして『見える思い出』として受け継がれていくのも嬉しいです」

「ギアを大切に扱え」と言われる。選手時代は手入れを欠かさず大事に扱っていても、野球から離れると忘れてしまう人も少なくない。1つ1つのプレーを通じて多くの思い出が詰まったグラブだからこそ長生きして欲しいものだ。

「グラブにも第二、第三の人生がある」と米沢谷氏は付け加えてくれた。自宅にある古いグラブをRe-Birthへ持ち込みたい思いにかられてしまった。

(取材/文:山岡則夫、取材協力/写真:グローバルポーターズ株式会社)

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