関メディベースボール学院総監督・井戸伸年氏「今を知り、今に活かすためのアメリカ視察」

関メディベースボール学院(以下関メディ)総監督・井戸伸年氏がレッドソックス春季キャンプ視察を行なった。MLB屈指の伝統球団が取り組む「現在の野球」を、同球団副社長(ヴァイス・プレジデント)から直々に案内してもらい徹底的に学んだ4日間。「ジュニア世代を含めた日本野球のレベルアップのため、取り入れたいことは多い」と語る。

~守備時における細かいプレーの徹底は学ぶべき部分
「現時点で得ている米国の情報を、自分自身で確認したかった」のが渡米の最大目的だった。
井戸氏は2月17日から20日までの4日間、フロリダ州フォートマイヤーズでのレッドソックス春季キャンプを視察。「短期間でしたが可能な限り全てのものを見せてくれた。素晴らしい体験を今後に活かしたいです」と満足そうに振り返ってくれた。

全行程の案内をしてくれたのは球団副社長ガス・クアトルバーム氏。「何かあればすぐに言ってくれ」と伝えられ、視察初日に紹介されたのがアレックス・コーラ監督だった。
「ようこそレッドソックスへ、という普通の挨拶です(笑)。コーラ監督の選手時代の活躍も知っています。身体も決して大きくないのに、長年に渡りメジャーでプレーしていたことに心から敬意を持っています」
コーラ監督はドジャースなどでMLB通算14年間で、1273試合出場、828安打を記録したユーティリティー内野手。現役引退後はアストロスでコーチを務め、2018年レッドソックス監督就任1年目で世界一に輝いたことでも話題になった。
「(レッドソックスは)セオリーを大事にした野球をやっている印象。球団とコーラ監督の野球哲学だと思います。チームプレー等の細かい部分も大事にしているで、学ぶべき部分は多いと感じました」
「守備練習時におけるカットプレーやバックアップを徹底しているシーンが印象に残った」という。ポテンシャルを活かした飛び抜けたパフォーマンスも米国野球の魅力だが、細かいプレーの徹底は日本野球と何ら変わることはない。

~今の選手は海外への興味を当たり前に持っている
「アジアを含めた海外チームとの対戦経験ができることで、選手個々の意識にも変化が生まれつつあります」
関メディは2024年からポニーリーグへ転籍した。1団体から複数チーム参加が可能で多くの選手が試合出場できることが最大の理由。加えて、ポニー日本代表として海外大会への参加機会もあり、多くの経験を積むことが可能だ。
「子供の頃から大谷翔平(ドジャース)らの活躍を当たり前に見ています。メジャーリーグを含めた海外の野球への意識は、ほとんどの選手が普通に持っている。ポニーリーグでは海外チームと対戦機会もあるので、海外への思いが強くなっているのは感じます」

レッドソックスのコンディショニング部門には日本人スタッフが3名在籍しており、彼らとの交流を深めたことで今回の視察も実現した。「将来的には選手たちの進路構築も頭の片隅にはある」というが…。
「『中学卒業後に渡米したい』という選手が出てくるかもしれない。そういった可能性を考えた時に、『関メディとして何かしらのルートがあった方が良いのかな?』と頭の片隅にはあります。具体的にそこまで考えている選手は、まだいないですけどね」
井戸氏は2002年にホワイトソックス傘下ルーキーリーグでプレーした。自身の経験から、早期渡米に関して現時点では「?」を感じている部分もある。
「米国マイナーには、ずば抜けた素材がヤマほどいる。そういう選手でもメジャーまでは辿り着くのは並大抵ではない。実力、精神面、運…、全てで抜けていないと上に行けない。マイナー選手の多くは、メジャーがまだ視界にすら入っていないと思います」
「NPBで経験を積んで、少しでも多くの知識を持って渡米することが有利に働くのは間違いない。また、『過去に日本人選手を受け入れている球団かどうか?』も大事。レッドソックスは日本人スタッフもいるなど、そういった意味でも可能性を感じる球団です。もちろん、ドジャースやマリナーズなども然りです」
「個人的な意見ですが、佐々木麟太郎(スタンフォード大)は賢明な進路を歩んでいると感じる。米国の大学生として多くの経験を積めます。仮にネガティブなアクシデントがあった際にも対応できるはず。高卒で米国の大学を経由してメジャーを目指すのは、素晴らしいルートだと感じます」

~実戦に即した方法で基礎固めの練習をする
指導者としては、現場態勢やコーチング方法の違いなどに注視した。想像以上に食事面やデータなどを細かく徹底管理していることを知った。
「選手ラウンジで一緒に食事をさせてもらった。栄養バランスにこだわり抜いたメニューが多種多様で、贅沢だなと思いました。選手個々の意識も高く、筋力重視、ウエイト管理重視など、用途によって食事を摂取していた」
「データ部門については想像以上に細かく、重視されている。ライブBPの際、球場のビデオビジョンに1球毎のトラックマンデータが表示されるようになっていて驚きました」
MLBという野球界最高峰と日本のアマチュアカテゴリーでは規模感の比較はできない。しかし、「取り入れられるものもあった」と表情は明るい。
「基礎は国やカテゴリー関係なく大事だと痛感しました。日本のジュニア層(=中等部)への参考になることも多かった。例えば、ワンハンド捕球からスローイングの流れなどは、守備の基礎としてメジャー、マイナーの両方で徹底的に取り組んでいます」
「守備に関しては、ノックにおける打球の質も大事にする。ノックと実際の打球ではスピンの質が異なります。守備の基礎固めはノック、その先は打球(=実弾)捕球をやる。ノッカーがティー打撃の要領で投げられたものを打ち返し捕球練習するのも取り入れたい」
「打撃練習では、投球角度を変化させているのが素晴らしい。マシン打撃等での投球が正面からズレた斜めから来るようにすることで、実戦により近い球道を打つ練習ができます。右投手、左投手に即した投球角度をつけることの重要性を学びました」

~本質に沿った正しい情報を得ることが上達に直結する
短期間の限られた時間だったが、レッドソックス側の最大限の配慮で多くのものを得ることができた。
「最新の野球、練習方法を自分の目で見ることができたのが最大の収穫。動画サイト等を通じ、米国式の野球スタイルを簡単に見ることができる。最も危険なのは独学で本質と異なったことを体得することです」
「例えば、打撃へのアプローチも多くの形が伝わってきています。練習ドリルとして実に優れた方法でも実戦には向かないものもあります。実際のリアルな現場でしかわからない部分を見られたのが大きかった。吉田正尚とそういった部分を1時間近く話せたのも良かったです」

多くの野球理論が簡単に入手できるようになった現在だからこそ、「今を知り、今に活かすため」の研修が必要だった。
「改めて米国野球のレベルの高さと懐の深さを感じました。良いものを正確に取り入れられるよう、これからも毎年、足を運ばないといけないと痛感しました」
関メディは初のプロ野球選手(阪神・今朝丸裕喜)を輩出するなど、日本球界に旋風を起こし続けている。井戸氏を中心に組織としての貪欲な向上心があれば、今後も素晴らしい選手を育て上げてくれるはずだ。これから先も何を見せてくれるか、本当に楽しみである。
(取材/文・山岡則夫、取材/写真/協力・関メディベースボール学院、井戸伸年)