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ポニーリーグ・U15女子日本代表が3連覇「女子野球の未来を感じさせる大会での経験は大きい」

中学硬式野球・ポニーリーグ(ポニー)のU15女子日本代表がワールドシリーズ3連覇を達成した。

大会自体の立ち上げから関わり、今大会ではU13監督を務めた那須勇元氏(日本ポニーベースボール協会・専務理事/事務総長)が、選手達の思いと大会意義を語ってくれた。

「国際舞台での経験は選手にとって大きな財産です。そしてこの大会には、女子野球発展のヒントになる規則が採用されているので注目して欲しいです」

『ポニー・ガールズベースボール・ワールドシリーズ』(以下女子WS)が、8月12-17日にインドネシアで開催された。参加選手27名の日本はU15とU13の2チームで参加。開催国・インドネシアと米国を加えた4チームで2回総当たり形式の予選を行い、勝ち抜いた2チームで決勝が行われた。

「日本以外のアジア各国はソフトボールが盛んで、野球の浸透度がまだ低い。またインドネシアは米国から距離が遠く、参加選手が減ってしまいます。そういった理由から、今年は4チームでの大会になりました」

3カ国4チーム(日本は2チーム)が参加、女子世界一を決める熱戦が行われた。

~現時点では日本のレベルが頭1つ抜けている

U15日本は1回目で、U13日本に「6-0」、米国に「9-1」、インドネシアに「18-3」で勝利。続く2回目も、U13日本に「4-2」、米国に「3-2」、インドネシアを「19-1」で下した。そして、米国代表(予選2位)との決勝にも「6-2」で勝利して、世界一に輝いた。

「米国は野球を始めて時間が浅い、成長段階の選手が多い感じでした。インドネシアはソフトボールが主流なので、選手達のさ立ち方が野球とは違います。現時点では、両国共に日本とは差があると感じました」

「日本選手達は、普段は男子チームの中で練習に励んでいます。『男子に負けず、レギュラーになって試合に出よう』と強い気持ちを持っています。技術、精神力の両方が他国より優っており、世界一になれたと思います」

結果は予想通りだったが、大会を重ねるごとに各国レベルが飛躍的に上がっていることにも驚かされている。

「アジア諸国の成長度合いが早い。第1回大会では米国式の野球を目指しているようでした。本塁打や長打を狙って強く振る攻撃です。でも体型等の違いに気付いたようで、野球スタイルが大きく変化しました」

「アジア人の特性を活かした、速さと丁寧さを大事にした野球へ完全にシフト。日本式野球を参考にしているのも見て取れます。『野球は心理戦』ということも理解し始め、多くの作戦を試している感じもしました」

大会後には日本式野球を学ぶために、「インドネシアで野球教室を開催して欲しい」というリクエストまで受けたという。

U15日本代表は実力を発揮して全勝、日本勢としての大会3連覇を成し遂げた。

~MLBも承認しているワールドシリーズ

2023年から始まった女子WSは、日本ポニーベースボール協会が主導となって開催にこぎ着けた。「『選手達の純粋で熱い思いに応えたい』ということで、実現に向けて動きました」と当時を振り返る。

「2021年に、『ポニーの未来を真剣に考えよう』ということで、全国の選手達に希望や思いをヒアリングしました。女子選手から、『なぜ男子にはアジア大会があって女子にはないんだ?』と意見をぶつけられました」

「ポニーの理念の1つに、『機会均等』があります。性別においての区別をしないということも、当然、含まれます。ポニー協会として、女子の世界大会を検討しない理由がありませんでした」

ポニーは登録全選手に『機会均等』を約束している。スタメン選手に限り、交代でベンチに戻った選手も再度試合に出場できる“リエントリー制度”を採用しているのもその1つだ。

「同年10月、全世界のポニー役員が集うボードミーティングで女子WS立ち上げを提案しました。『アジア発祥での世界大会を開催させてください」とリーグ会長に直談判しました」

「“ワールドシリーズ(WS)”の呼称はMLBが権利を保有しており、ポニーは使用許可を受けています。『女子も同様にWSの呼称を使用させて欲しい』と伝えました。紆余曲折ありましたが承認され、女子WSの呼称になりました」

ポニー内での女子選手人数は、世界的には決して多くない。初回開催地の選択には頭を絞り、「観光も兼ねて日本が良い」ということで栃木県・小山市が会場となった。

「日本観光も“ウリ”にしたことで多くの国が参加してくれた。米国、オーストラリア、中国、台湾、香港、そして日本の6カ国。U15とAbove16(青年女子)の2カテゴリで開催できました。日本はU13を加えた3チームで参加しました」

2024年の第2回がフィリピン、そして今年はインドネシアで開催。「フィリピン、インドネシアは距離等の問題があって参加人数が少なくなる。やはり日本が人気ですね」と付け加えてくれた。

U15とU13による日本代表同士の対戦は、高レベルで注目度が高かった。

~『ポニーサイズ』にすることでスピードや迫力がアップ

女子WS開催の大きな目的は、『世界における野球振興』。大会を見てくれる人が「面白い」と感じてくれることも大事にしている。

「選手同士の真剣勝負が第一ですが、同時に見ている人達を『魅了する』ことも必要。重要なのは、“スピード”や“迫力”です。女性が体格や筋力で劣るのは仕方がない部分。『ルールやレギュレーションで補おう』と考えました」

「『ポニーサイズ』というものがあります。U13など身体が出来上がっていないクラスが使う、通常よりひと回り小さいダイヤモンドです。このサイズなら女子選手のプレーにも、“スピード”や“迫力”が出ると考えました」

通常のポニーでは、成人サイズのダイヤモンド(投球間:18.47m/60.6フィート、ベース間:27.43m/90フィート)を使う。『ポニーサイズ』(投球間:17.41m/57.1フィート、ベース間:25.84m/85フィート)は各1-2mほど短縮されており、女子WSの“スピード”や“迫力”を高めることに繋がっている。(*)

「その下のクラス向けに、『ブロンコサイズ』(投球間:15.54m/51フィート、ベース間:22.86m/75フィート)もあります。しかし、近過ぎると危険もあるので『ポニーサイズ』を採用しました。ちょうど良いバランスだと思います」(*)

他競技においても、女子選手の身体能力とグラウンドサイズがアンバランスで、“スピード”や“迫力”を感じにくいことがある。「素晴らしい技術があっても、面白く見えなければもったいないです」と続ける。

「成人サイズの広いグラウンドで無理にプレーするのではなく、女子選手の最適なサイズで開催する。それによって『面白い』『すごい』と感じてもらえれば、競技人口の増加にも直結するはずです」

中長期スパンに立ち、大会自体の成長と野球振興の両方を考えている。ブロードバンド中継を活用して、各国へ向けてのライブ配信を行うのもそのためだ。

「今はまだ小規模ですが、こういった大会があることをアピールし続けることが大事。『女子野球も注目されている』と感じられれば、選手自身のモチベーションも高まります。選手人口も増えていくと信じます」

(*)数値は概算値

成人サイズより若干小さい『ポニーサイズ』のダイヤモンドを使用することで、見ていてスピードや迫力を感じられる。

~野球は人生を豊かにするためのツールの1つ

グラウンドサイズ変更など、女子WS開催に対しては従来の形に拘らない柔軟な姿勢が目立つ。“多様性”を重視するポニーの理念からであり、「野球だけにフォーカスする必要ない」という思いがあるからだ。

「ポニーはジュニア年代で唯一、世界大会が行われるリーグ。女子WSも同様です。野球を通じて多くの国々の選手達と交流でき、“多様性”を体感・体現することが目的だと思います。この先、国際社会で生きていく上でプラスになるはずです」

同じ環境で野球をすれば、あっという間に仲良くなれる。SNSの交換をして、国を超えた友好関係もすぐに始まる。「3年連続で参加している選手もいますが、我々より顔が広い」と笑顔を見せる。

「女子WSを行うことは、アジア各国の野球振興に貢献していると思います。世界という目標ができたことで、日本国内も盛り上がり始めている。この先もずっと継続していくことが大事です」

女子WSは大会規模も小さいため、現状は知名度が高いとは言えない。しかし女子野球の振興と発展、そしてエンタメ化を着実に進めている素晴らしい大会(=イベント)であることは間違いない。

多くの国々の人達と交流して、“多様性”を体感・体現することが国際試合の目的。

「第1回大会の出場選手達が、女子野球の強豪高校で中心選手になっている。第2回大会の選手達も負けずに頑張っています。世界一になった誇りを忘れずに、野球はもちろん、この先の人生を楽しんでもらいたいです」

「野球は人生を豊かにするためのツールでしかない」ことを感じさせる言葉が最後まで続いた。ポニーが大事にする部分は不変のようだ。

「男子と女子の両方を掛け持ちして世界一になる選手が出れば、面白いですね」と、最後に“二刀流選手”誕生の夢を語ってくれた。これこそ“多様性”の究極系かもしれない。今後のポニー女子には、さらに大きな可能性があることを感じさせてくれた。

(取材/文・山岡則夫、取材協力/写真・日本ポニーベースボール協会)

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