「責任の重いポジション」「成長を実感できる」 東北大新2年生の4投手は全員、大学から投手挑戦
2020年秋以来のAクラス(3位以内)入りを目指す東北大硬式野球部。昨年はやや手薄だった投手陣が、今年は徐々に整備されつつある。昨秋リーグトップタイの3勝、リーグ2位の防御率2.28をマークした新3年の佐藤昴投手(仙台一)をはじめ、最上級生にも道下大洋投手(仙台二)、阿部哲也投手(国立)、野瀬陸真投手(春日部)と経験豊富な右腕がそろう。
そんな中、鍵を握りそうなのが新2年生の投手陣。投手登録の4人はいずれも高校時代は野手としてプレーしていた。その分伸び代があり、可能性を秘めた4人が戦力になれば、チーム力は大きく向上するはずだ。
受験勉強中に目撃した東北大「大金星」の瞬間
中でも右腕の越智晴紀投手(県立船橋)は、先発候補に入ってきそうな注目株。昨年は右肩痛の影響でリーグ戦の登板はかなわなかったが、秋の新人戦でベールを脱いだ。1回戦の東北工業大戦に先発し、4回2安打2失点。この時は左脇腹を痛めており、万全な状態ではなかったものの、最速137キロの直球とキレのある変化球を披露し強い印象を残した。
「結果的には自分が失点してチームも負けたので悔しかった。ただ、(登板に)間に合って春に向けた課題を見つけられたのはよかった」。越智にとっては大きな一歩だった。
2022年4月24日、東北大は東北福祉大から32年ぶりの白星を挙げた。当時浪人生だった越智は、予備校の一室でこの試合の速報を見つめていた。「興奮しました。本気で野球をやっているのだと感じ、『自分も入りたい』という思いをより一層強くしました」。東北大を志望したのは、工学部に研究したい分野のコースがあったから。その一方、硬式野球部の一員になることも受験勉強のモチベーションになった。
そもそも大学でも野球を継続する意思は、高校3年生の頃に固めていた。高校野球を不完全燃焼で終えたからだ。県立船橋では遊撃を守り、高校の同期で現在もチームメイトの森数晃優内野手(新3年)とは三遊間を組んでいた。高3夏は兼任で投手を務める予定で練習していたが、県大会初戦の4日前、マシンのボールが顔面に直撃し顎(あご)を骨折。最後の夏はグラウンドに立つことのないまま、あっけなく幕を閉じた。
「人生で一回はピッチャーをやりたかった」理由
1年間の浪人生活を経て、東北大に合格。昨年4月から野球を再開した。しかしいざ再開すると、体を動かす機会が減っていたこともあり、肩が痛くてまともに投球することができなかった。
それでも走り込みやウエイトトレーニングで一から体をつくり直し、徐々に感覚を取り戻すと、昨秋の新人戦で念願の公式戦マウンドに立った。今では自ら練習メニューを考案するほど、新2年生投手陣を牽引する存在になっている。
「ピッチャーは責任の重いポジション。ピッチャーが試合を壊すこともあれば、ピッチャーのおかげで勝つこともある。どんな場面でも、どんな相手でも強気のピッチングをできる持ち味を発揮して、監督やチームの信頼を勝ち取りたい」と越智。今オフは打撃練習や走塁練習にも取り組んでいるが、まずは投手としてチームに貢献するつもりだ。
新2年生は檜垣丞投手(生野)、山下直輝投手(仙台一)、布川進一郎投手(東桜学館)も高校時代は野手がメインだった。檜垣は内野手、山下は外野手、布川は捕手としてプレーしていた。檜垣は昨秋のリーグ戦で2試合に登板。同期の投手陣で唯一、1年目からリーグ戦デビューを果たした。
中学、高校と三塁を守り、大学から投手に転向した。檜垣は「ピッチャーは練習の成果が現れやすく、成長を感じることのできるポジション。人生で一回はピッチャーをやりたかった」と話す。
大学1年目は早くも「成長」を実感した。初の公式戦登板となった昨春の新人戦では、準決勝の東北福祉大戦に2番手で登板し、2死しか取れずに5失点。被安打0ながら6与四死球と制球を乱し、暴投を繰り返した。悔しさを原動力に制球力を向上させるための基礎練習を積み重ね、先輩に教わって習得した変化球5種類(スライダー、カットボール、フォーク、チェンジアップ、ツーシーム)を磨いたことが、秋につながった。投手経験が浅いからこそ、4人とも大学で急速に成長している。
正捕手確立も「Aクラス」入り達成の鍵握る
正捕手候補の大橋周吾捕手(新4年=八戸)は、「(新2年生の4投手が)良くなると、投手陣がぐっと変わると思う」と期待している。「これまでピッチャーのオフシーズンを過ごしていないので、ノウハウを持っていないはず…」と気にかけ、練習のペースや内容について後輩捕手を通してアドバイスすることもあるという。
大橋自身は、3年時までは指名打者や代打での出場がほとんどだった。ここ3年は1学年上の大澤亮捕手(秩父)が正捕手の座を守り続けた上、前主将の小林厳捕手(江戸川学園取手)もいたことから、「自分が守ることはないだろう」と考えることもあった。今春卒業を迎える大澤と小林から授かった「キャッチャーは守備」との教訓を胸に、今オフは守備練習に力を入れ、投手陣とのコミュニケーションも積極的に図っている。後輩へのアドバイスはその一環だ。
昨秋は打撃を強化するも、打率.063(16打数1安打)と奮わず。一方、守備面では収穫もあった。リーグ戦で初めてマスクをかぶった東北福祉大2回戦。先発の佐藤昴を好リードし、途中交代した6回まで強力打線を1失点に抑えた。大橋は「ベンチから見る景色と全然違った。守る経験をできたのは大きい」と振り返る。個性豊かな投手陣をリードする捕手の存在も、チームの命運を左右することとなりそうだ。
東北大は3月に入ってから独立リーグの球団とのオープン戦を組むなど、対外試合をこなしながらリーグ戦開幕に向け調整を進めている。今年こそ上位に食い込み、飛躍の1年とすることはできるか――国立大の逆襲が始まろうとしている。
(取材・文・写真 川浪康太郎)