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「福祉大、仙台大を倒す」実現へ 宿敵から7年ぶり勝ち点…生まれ変わりつつある東北学院大

ジャイアントキリングではない。実力で勝ち点を奪い取った。仙台六大学野球秋季リーグ戦第3節で東北学院大が仙台大に連勝。東北学院大が仙台大相手に勝ち点を挙げるのは2018年秋以来、7年ぶりだった。

その翌シーズンの19年春以降は12季連続で東北福祉大と仙台大が優勝と準優勝を分け合っている(20年春は新型コロナウイルスの影響で中止)。かつては東北福祉大と双璧をなした東北学院大は徐々に優勝争いから後退し、近年は「2強」状態が続いていた。そんな状況下で手にした勝ち点には大きな意味がある。

念願の勝ち点…エース堀川大成が好投「本当に嬉しい」

東北学院大は19年春から22年秋まで、リーグ戦では仙台大相手に14連敗を喫した。好右腕・古谷龍之介投手(現・JR東日本)を擁した23年は春秋ともに1戦目で勝利するも、その後連敗し勝ち点は奪えず。昨年は僅差で敗れる試合も多く、何度も悔しい思いをしてきた。

今秋は第1戦はタイブレークの末、4対3でサヨナラ勝ち。第2戦は3対2で勝利し、いずれも1点差ゲームを制した。23年春からチームを率いる星孝典監督は「勝つっていいなと改めて実感しました。優勝するためには必ず倒さないといけない相手なので、合言葉のように『まずは仙台大、福祉大から勝ち点を取ろう』という話をしていた。それを一つ達成できたのは喜ばしいことだと思います」と手応えを口にした。

エースらしい投球を披露した堀川

連勝に大きく貢献したのが、エース左腕の堀川大成投手(4年=東日本国際大昌平)だ。1戦目は先発し8回途中3失点と粘投。2戦目は1点リードの6回から登板し、4回無安打5奪三振無失点と圧巻の投球で仙台大打線を封じ込んだ。マウンド上では気迫を全面に出し、勝ち点獲得の瞬間も歓喜の輪の中心には堀川がいた。

春は防御率1.01、秋は同1.09と安定した成績を残した昨年は、仙台大戦も計15回3分の2を投げて自責点3と奮闘。それでも白星には届かなかっただけに、堀川は「毎回あと一歩というところで負けて、自分が投げる時も接戦にはなるけど追いつかれて降板していた。手強い相手から最後の最後に勝ち点を取れて本当に嬉しいです」と安堵の表情を浮かべた。

不動の1番・高橋琉が殊勲打…際立つ4年生の存在感

苦汁をなめ続けてきた最上級生の感慨はひとしおだ。第2戦で先制の適時二塁打を放った高橋琉外野手(4年=久慈)は「あちらは思っていないかもしれませんが、自分たちにとって仙台大はライバルでした。簡単には勝たせてくれない強い相手にようやく勝ち切れてよかったです」と笑顔だった。

「1番・中堅」に座る高橋

レギュラーに定着した2年秋に最多盗塁賞を獲得。リードオフマンとして走攻守で引っ張ってきたが、今秋は開幕前に新型コロナウイルスに感染した影響もあり調子を崩した。先制打を放った前の打席まで開幕から15打席連続無安打で、「チームに迷惑をかけてしまっている」と感じていた高橋。「個人の結果というよりはチームの勝利のためにできることをやろうと決めました」。大事な試合、局面でその思いをかたちにした。

「今秋は4年生の力と意地が伝わってきている。土壇場に強いメンバーが揃っています」とは星監督。開幕以降、投手では堀川、野手では高橋のほか、田村虎河捕手(4年=駒大苫小牧)、奥山蓮外野手(4年=聖光学院)、山田将生外野手(4年=東北学院)、齊藤柊外野手(4年=鶴岡東)らがそれぞれの役割を果たしている。

オープン戦倍増…激しいチーム内競争で新戦力も台頭

今年の東北学院大はバランスの取れたチームでもある。力のある上級生がいる一方、早い段階から主力を張る下級生も多い。

今夏はオープン戦を例年の倍程に増やし、アピールの機会を平等に与えた。星監督は開幕戦の試合後に「みんな疲れていましたね」と笑いつつ、「学年関係なくチーム内競争が活発になっているし、それはチームを強くする上で必要なこと。『今日ベンチに入れなくても明日入るチャンスがある』という状況は選手にとって良い刺激になると思います」とも語った。

スタメンには下級生も多く名を連ねる。佐藤辿柊内野手(1年=学法石川)は今秋から台頭した一人

現在の1、2年生は星監督が就任後に見初めて自ら声をかけた選手たちでもある。星監督は以前、「ずば抜けた能力を持つ選手は他の大学に行ってしまう。学院大に入って福祉大、仙台大を倒して優勝するんだという意欲があるかどうかを見ています」と話していた。実際、1、2年生に「東北学院大を選んだ理由」を尋ねると、多くの選手から「星監督の『福祉大、仙台大を倒して一緒に神宮に行こう』という言葉が決め手になった」との答えが返ってくる。

1年時からたびたび重要なマウンドを任され、仙台大戦でも2戦連続で好投したアンダースロー右腕・小野涼介投手(2年=一関学院)は、「打倒・2強」を掲げて入学した一人。2戦目でその小野と同じく2年生の田口天太(2年=角館)からバトンを受け取った堀川は「本当に頼もしい後輩。『先を見ないでいいから目の前のイニングを抑えてくれ。最後は俺が行くから』と伝えていました」と目を細めた。

投手も野手も、切磋琢磨し合う上級生と下級生の間に強固な信頼関係がある。全員が同じ方向を向く土壌が整っているからこそ、年々チーム力が高まっている。

「あくまでも通過点」…次節は日本一・東北福祉大戦

まだリーグ戦は始まったばかり。今週末は今年の全日本大学野球選手権で優勝した東北福祉大に立ち向かう。

「一喜一憂していられない。成し遂げたことを自信にしつつ、みんなが『これ(仙台大戦)は通過点だ』とどこまで思えるかですよね。次は日本一の大学ですが、臆することなくぶつかっていきます」と星監督。堀川も「勝ち点を取れたことは嬉しいけどあくまでも通過点。残りの勝ち点3つも取って優勝します」と前を向いた。

小野も投手陣に欠かせない存在となっている

明治神宮野球大会出場を懸けた東北地区大学野球代表決定戦に、今秋は主管連盟の仙台六大学から上位2チームが出場する。「それは関係ないです。2位で進んで勝ち抜く力はないので、勢いでてっぺんを獲ってそのまま神宮に行きます」と強気な指揮官のもと、文字通り「てっぺん」を狙う。

(取材・文・写真 川浪康太郎)

読売新聞記者を経て2022年春からフリーに転身。東北のアマチュア野球を中心に取材している。福岡出身仙台在住。

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