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日本一になって知った“1点”の重み 「打倒・福祉」の圧と戦う大学選手権優勝チームの現在地

「日本一」の重圧は想像を絶する。今春の全日本大学野球選手権(以下・大学選手権)で日本一に輝いた東北福祉大。仙台六大学野球秋季リーグ戦の優勝候補と目されていたが、東北学院大戦で勝ち点を落とし暫定2位に甘んじている。東北福祉大が東北学院大に勝ち点を献上するのは2017年秋以来、8年ぶり。東北学院大は今秋、仙台大からも7年ぶりの勝ち点を奪っており、強い相手であることは間違いない。ただ、大学選手権優勝メンバーが「打倒・福祉」の圧に苦しんでいるのも確かだ。

聞こえてくる「日本一の福祉から1点取ったぞ!」の声

「日本一になった後の練習試合で全然勝てていなくて、『このままではやばい』という雰囲気はありました。相手に1点が入った時の相手ベンチ、スタンドの声や盛り上がりが以前とは違うと守りながら感じています」

大学選手権の全5試合で1番に座って打線を牽引し、9月22日の東北学院大2戦目ではサヨナラ打を放った辻村大我(3年=龍谷大平安)。タイブレークの延長11回までもつれた死闘を制した直後にそう本音を吐露した。

東北学院大2戦目では辻村(背番号3)が試合を決める一打を放った

「日本一の福祉から1点取ったぞ!」。試合が動くと、そんな声が耳に入る。たった1点でも、東北福祉大投手陣から得点した際の相手の喜びや気迫は優勝以前と以後で大きく異なるという。

東北学院大戦3試合は3対4、6対5、5対6といずれも1点差。3試合とも先制したのは東北福祉大だったが、1戦目は櫻井頼之介(4年=聖カタリナ学園)、2、3戦目は猪俣駿太(3年=明秀日立)と大学選手権でも活躍した好投手が攻略され、2戦目以外は競り負けた。

大学選手権MVPの強打者も吐露「守っていて嫌だった」

大学選手権で打率.440をマークし、青山学院大との準決勝で特大のバックスクリーン弾を放ってMVPに輝いた佐藤悠太(3年=報徳学園)も、「圧」を感じていた。

「どの大学も『打倒・福祉』で臨んでくる。(相手が)勝ちに来ているというか、綺麗な野球ではなく、しぶとく粘る野球をされている印象があります」

大学選手権でMVPを獲得し今秋も中軸を担う佐藤

中でも「攻撃のしぶとさがあって、守っていて嫌だった」と強く感じたのが東北学院大。簡単に凡退せず、粘ってつなぐ打線は外野の守備位置から見ても脅威だった。粘り強さは東北学院大投手陣にも伝播しているようで、佐藤は「チャンスを作っても要所で踏ん張られた。試合をしていてきつかったですね」と険しい表情を浮かべた。

ルーキーが味わった大学初黒星「1点で取り返しが…」

一方の投手陣はどうか。今秋は先発、中継ぎで6試合に登板しフル回転の活躍を見せている櫻井椿稀(1年=鶴岡東)は、「(東北学院大戦が)大学に入ってからの公式戦で初めての負けだった。1点差で勝ち点を落としてしまう、1点の重みが響いてしまうと気づかされました」と口にした。

東北学院大戦3試合はいずれも救援登板。1、2戦目は無失点に抑えたが、3戦目は手痛い2失点を喫した。「春と比べて三振が少なく、しぶとく内野安打を打たれる場面もあった。どんどん押すだけでなくかわすピッチングもできれば抑えられたかもしれない」。佐藤の言う「しぶとさ」はやはり、マウンドに立つ投手も肌で感じていた。

首脳陣の信頼度が増している櫻井椿

「1点で取り返しがつかなくなってしまう。先発でも中継ぎでも1イニングずつ、一球一球大切に投げようと意識するきっかけになりました」と櫻井椿。敗戦を機に「1点」の大切さを胸に刻んだのは野手も投手も同じだ。

「秋、もう一回神宮に行きたい」仙台大との最終節へ

優勝争いは東北学院大が一歩リードしている。とはいえ、東北福祉大ナインは誰一人下を向いていない。優勝の可能性が消えたわけではない上に、今年は明治神宮野球大会出場を懸けた東北地区大学野球代表決定戦に主管連盟の仙台六大学から2チームが進出するため、準優勝チームにも神宮切符のチャンスがある。

辻村は「1点の重みは感じていますが、秋、もう一回神宮に行きたいという思いの方が強いです」と前を向く。勝つためには、野手陣が相手より1点でも多く点を取るほかない。

佐藤は警戒される中、最終節を残した時点で.406と高打率を残している。東北学院大戦では計7安打。勝ち点を落とした翌週の東北大1戦目では、初回に場外へ消える3点本塁打を飛ばしてチームに再び勢いをもたらした。「率を残すことよりも、勝負どころで打つことの方が大事。マークされるのは分かっているので、春同様、チャレンジャー精神はぶらさずに戦いたい」と気を引き締める。

残すは最終節、下を向く者はいない

櫻井椿は東北大2戦目で0対0の4回途中から救援登板し、4回3分の2を投げて2安打6奪三振無失点と快投。勝利に直結する投球を披露して前節の苦い記憶を払拭した。「先輩たちが打って守ってくれる。自分は1年生らしく全力で投げるだけです」。堀越啓太(4年=花咲徳栄)らの不在で台所事情が厳しい投手陣の中で懸命に腕を振っている。

最終節でぶつかる仙台大も、東北学院大に勝ち点を落とした後は4連勝。前節の宮城教育大戦でエースの渡邉一生(4年=日本航空/BBCスカイホークス)が復帰を果たし、打線の調子も上向きだ。近年稀に見る混戦模様の仙台六大学はどんな結末を迎えるか。

(取材・文・写真 川浪康太郎)

読売新聞記者を経て2022年春からフリーに転身。東北のアマチュア野球を中心に取材している。福岡出身仙台在住。

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