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準硬式野球の魅力を映し出す「真剣勝負」は1勝1敗~東北地区大学準硬式野球連盟VS東京六大学準硬式野球連盟~

 8月10日、仙台市民球場で、東北地区大学準硬式野球連盟と東京六大学準硬式野球連盟による親善交流試合が行われた。連盟間の交流を通じた選手のレベルアップを目的として、2006年に初開催。今年が7回目で、新型コロナ禍では初の開催となった。

 東京六大学準硬式野球連盟は立教大、明治大、早稲田大、法政大、慶應義塾大、東京大からなり、硬式野球同様高いレベルを誇る。一方の東北地区大学準硬式野球連盟には1部リーグ(仙台大、東北学院大、青森大、山形大医学部、福島大、東北大)と2部リーグ(東北文化学園大、東北工業大、岩手大、東北大医学部、東北学院大工学部、福島県立医科大、東北医科薬科大)の計13チームが加盟。加盟校は東北5県にまたがるが、リーグ戦の試合は主に宮城県内で行われている。

 この日は各連盟が選抜チームを組み、2試合を戦った。第1試合は東京六大学選抜の投手陣が4安打2失点にまとめた一方、打線が11安打8得点と機能し8対2で圧倒。第2試合は東北地区選抜が1点を追う8回に敵失につけ込んで逆転し、5対4で接戦を制した。球場では、東北ゆかりの選手をはじめ、様々な思いで準硬式野球に取り組む選手たちによる真剣勝負が繰り広げられた。

愛工大名電に勝った東北学院の元エース・伊東大夢が仙台凱旋

 昨年、東北学院でエースを務めた伊東大夢外野手(立教大1年)が、仙台市民球場に帰ってきた。第1試合は「3番・左翼」、第2試合は「6番・指名打者」でいずれもフル出場。第1試合の初回と第2試合の4回に安打をマークすると、第1試合の7回には好機で犠飛を放ち、計8打数2安打1打点と1年生ながら結果を残した。球場と母校は目と鼻の先。「思い入れのある球場。高校時代を思い出して、懐かしい気持ちになった」と表情は柔らかかった。

 その「高校時代」には、ひと夏で歓喜と絶望を味わった。1年前の夏、「4番・エース」として東北学院を甲子園初出場に導くと、初戦の愛工大名電戦では3失点完投勝利。強豪校を打破し、地元・仙台も盛り上がりが増す最中、チーム内で複数の新型コロナ感染者が確認され出場辞退を余儀なくされた。

第1試合の初回に右前打を放つ伊東

 辞退が決まった直後はなかなか立ち直れずにいたが、「野球も勉強も本気でやりたい」との思いから準硬式に転向することは早々に決意した。大学に向けた練習に励む中で、徐々に気持ちを切り替えることができたという。ボールの違いに苦戦しながらも、この春は新人戦で本塁打を放つなど大器の片鱗を見せた。

 「準硬式を背負って立つ、投打でナンバーワンの選手になりたい」と、将来的には本職である投手としての出場も見据えている。「(辞退から)1年経って気持ちを整理することができて、やっぱり高校野球は楽しかったなという思いが一番強くなっている」。失意を乗り越え、今再び、大好きな野球と向き合えるようになった。

東京六大学で活躍の場を見つけた、東北の強豪校出身選手たち

 東京六大学選抜には、東北の強豪校出身選手も名を連ねた。2年前に仙台育英で副主将を務めた吉原瑠人捕手(明治大2年)はその一人。第1試合に「8番・捕手」でスタメン出場し、安打こそ出なかったものの、古川端晴輝投手(法政大2年・花巻東)、高橋浩成投手(早稲田大2年・早稲田実業)を好リードし6回まで無失点に抑えた。

 高校2年の6月、試合中に打球が顔面を直撃し、右目に大怪我を負った。競技復帰までには約7か月を要したが、副主将としての働きが評価され、高校最後の夏は甲子園で開催された交流試合でメンバー入りを果たした。しかし怪我の後遺症は残り、従来のパフォーマンスはできない状態に。引退後、「それでも野球を続けたい」との思いを打ち明けると、須江航監督に準硬式の道に進むことを提案された。

東京六大学選抜の主将も務めた吉原

 明治大入学後は1年次から正捕手の座をつかみ、チームに欠かせない存在となっている。吉原に準硬式の魅力を聞くと、「硬式野球をやっている人からすると、『(準硬式は)ふざけてやっている、手を抜いてやっている』という見方もあると思うけど、本当に真剣にプレーしている。高校時代にうまくいかなかった人や怪我で苦しんだ人が成長できるのが準硬」と話してくれた。挫折を味わったからこそ、準硬式に出会えた喜びを噛みしめながらグラウンドに立っている。

 先発した古川端も岩手の強豪・花巻東出身。佐々木洋監督から「硬式野球にこだわらず、自分の活躍できるところで野球をやりなさい」との助言を受け、準硬式に転向した。吉原同様、1年次から主に中継ぎで活躍。この日は先発のマウンドを任され、2回から5回をいずれも三者凡退に抑えるなど5回1安打無失点と好投した。

「投げたいし、打ちたい」準硬式にもいる“二刀流”選手

 準硬式には、投打で活躍するいわゆる“二刀流”の選手も少なくない。今回の交流試合では、東北地区選抜の長谷川友哉投手(青森大2年・東奥学園)と嶋田友外野手(東北学院大3年・浦和学院)が投打で出場した。

 長谷川は第1試合に「1番・右翼」でスタメン出場し、第1打席で内野安打をマーク。第2試合は投手として先発し、気迫あふれる投球で5回3失点と粘投した。元々大学では野球を続けない予定だったが、小学生の頃からの親友でこの日も選抜チームに入った相馬意織内野手(青森大2年・青森北)に誘われ入部。二刀流に挑む理由は「両方やりたいから。投げたいし、打ちたい」とシンプルだ。「全国の人に知ってもらえるくらい、打撃力と投手力を磨いていきたい」。一度は辞めかけた野球だが、今は志高く白球を追っている。

帽子を飛ばしながらの全力投球を見せた長谷川

 嶋田は第1試合に「6番・中堅」でスタメン出場し、3打数無安打ながら8回に得点を呼び込む四球を選び出塁。第2試合は逆転した直後の8回からマウンドに上がると、左腕から鋭い速球を投じ、9回に犠飛で1点を失ったものの試合を締めくくった。石巻市出身で、高校は埼玉の名門・浦和学院でプレーしたが、大学では地元で野球を続ける道を模索。準硬式の伝統校・東北学院大の主将として東北地区をけん引している。

2部所属選手や1年生も躍動、楽しみながら極める準硬式野球

 東北地区選抜では、2部リーグ所属選手や準硬式に転向したばかりの1年生の活躍も光った。北村陸内野手(東北文化学園大3年・山形中央)は、チームの赤いユニホームをまとい躍動。第1試合は途中出場し最終回に安打を放つと、「1番・二塁」でフル出場した第2試合は3打数1安打1打点とバットで結果を残したほか、安定した内野守備も見せた。「2部リーグと比べると速い直球やキレのある変化球を投げる投手が多かった。その中で打てたのは自信になった」。準硬式は秋で引退する予定。この試合で得たものを、チームに還元するつもりだ。

攻守にわたり持ち味を発揮した北村

 準硬式で使われるボールは、硬式と軟式の間のようなボール。打球は飛びにくく、バウンドの処理も難しい。また、ボールの縫い目が見えないことや、打者が金属バットを使用することなどもプレーに大きく影響する。そんな中、硬式から転向して間もない1年生の活躍も目立った。柳沢友哉外野手(東北学院大1年・仙台商)は第2試合の第3打席で特大の三塁打を放つと、第4打席では敵失を誘うスクイズを敢行。逆転劇に大きく貢献し、笑顔を輝かせた。第1試合では米倉希胤内野手(東北学院大1年・仙台育英)が遊撃でフル出場し、内山京吾投手(青森大1年・青森明の星)が好救援を披露した。

 練習環境に違いはあれど、吉原の言葉通り、真剣に野球に打ち込む姿は硬式と変わらない。一方、練習時間が短い分、学業や学生生活と両立しやすいのも魅力の一つだ。準硬式野球を選ぶ理由は様々だが、選んだ誰もが野球を楽しみ、かつ野球を極めている。その根底にある、「野球が好き」な思いが垣間見える交流試合だった。

(取材・文・写真 川浪康太郎)

読売新聞記者を経て2022年春からフリーに転身。東北のアマチュア野球を中心に取材している。福岡出身仙台在住。

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