「日本海オセアンリーグならではの優位性を作り出す」-滋賀GOブラックス柳川洋平監督の“既成概念を変える戦い”に迫る(後編)
「日本海オセアンリーグ(NOL)を“安心してプレーできる場所”にしたい」
かつて、選手として独立リーグ(福井ミラクルエレファンツ)・NPB(福岡ソフトバンクホークス)を経験した柳川洋平監督は、新たな挑戦に挑んでいる。
彼は、平塚学園高校時代の先輩である黒田翔一氏(現:NOL CEO)に招かれ、滋賀GOブラックスを預かることになった。現状では、給与面やセカンドキャリアの観点からNPB以外でプロとしてプレーすることに対する不安の声も多い。
しかし、柳川監督は「NOLならではの優位性を作り出せる」と意気込む。彼はプロ野球界の既成概念を変えるために、野球以外の魅力作りにも興味を持っている。
後編となる今回の記事では、チームと滋賀県・リーグとの関わり、柳川監督がスポンサーやファンに抱いている思いについてお届けする。
※前編はこちら
日本海オセアンリーグは「ファンが選手を育てる感覚」が醍醐味のひとつ
――地元・滋賀県とどのような関わりを持ちたいと思っていますか?
柳川氏:野球の成績もさることながら、多くのスポンサー様に応援していただいている以上、面白いイベントを企画していけたら地元との繋がりもさらに良くなると思っております。
スポンサーからしますと、どうしても費用対効果が気になると思うんです。正直、昨年は「これだとスポンサーはメリットを得られない」と感じていました。
スポンサーの名前がより注目されるように、今年はチームの露出も増やしていけたら良いですね。そのために、私は他競技の取り組みも参考にさせてもらっています。
例えばバスケットボールの試合を見て、音響や光・映像の使い方などを勉強する。野球界で言えば、MLB(メジャーリーグベースボール)、NPB(日本野球機構)、KBO(韓国野球委員会)の取り組みが良い例ですよね。
エンターテイメント性を取り入れて、私が幼い頃に観戦したNPBの試合と比べて明らかにお客さんの層が変わりました。野球の魅力だけでなく、球場に華やかさを演出して女性ファンが増えています。
闇雲に「お客さんを入れる」と言っても難しいと思うので、私はターゲット層を絞っていく必要があると思っています。お客さんが1人でも増えれば、スポンサーの名前を見ていただく機会も多くなる。お客さんに多く球場へお越しいただくには、企画力が大事だと思っています。
あとはメディアとの関わり方をどうするか。私が独立リーガー時代に過ごした福井県のチームでは、テレビ局や新聞社がスポンサーとして全面的にサポートしてくれていました。滋賀GOブラックスの場合、球団として今後どのようにメディアとお付き合いしていくかも課題の1つです。
「監督は野球のことだけに集中しろ」という意見があるかもしれませんが、球団を良くしたいという思いは現場もフロントも同じ。
ときにはフロントと私で白熱した議論を交わすこともあります。球団にとってプラスになる材料を、1つでも多く生み出したいんです。私は日ごろから「球団に携わっている以上、スタッフ全員で良くしていきたい」と話しています。
それと、ご支援いただいているスポンサー様との関係性は大切にしたい。人と人の繋がりである以上、挨拶をはじめ当たり前がしっかり出来るように意識したいと思っています。スポンサーから応援され続けるチームになれるよう、信頼関係を築いていきたいです。
――ファンの方との交流についてはどうでしょうか?
柳川氏:NPBに所属しない独自のリーグならではの面白さに、「ファンが選手を育てる感覚」があると思っています。NPBと比べるとファンと選手の距離が近い。
私は独立リーガーのときに福井のチームに所属していたのですが、今でも福井時代のファンから実家へ越前ガニが届きます。
当然、福井で試合があるときは今も声を掛けてもらいますし、NPBでの現役生活が終わったことを報告したときは「よく頑張った、一緒に育ててきた感がある」と仰ってもらいました。
滋賀GOブラックスでも、コロナ以前はファンと直接交流するイベントを開催していました。感染対策の観点から今は開催を見送っていますが、今後もファンの皆様と直接触れ合えるイベントを開催していきたいと思っています。
――地元・滋賀との繋がりについて、何か課題に感じていることはありますか?
今の課題は、いかに継続して球場へ足を運んでもらえるかです。いくら地元の球団とはいえ、魅力がない限りは「球場に行こう!」と思ってもらえない。
今年、球団は「#開幕戦を真っ黒に染めよう!」という目標を掲げています。当然、開幕戦にファンがたくさん来てくださるのは嬉しいことです。ただ、開幕戦だけ黒く染めても2試合目、3試合目と続かなければ意味がないと思っています。
ファンの方々に継続して足を運んでもらうには、野球以外の部分に力を入れることも重要なのかなと。何をどこまで実現できるかは今後の課題ですが、色々な人の知恵もお借りしつつ、ファンの皆様に楽しんでもらえたらと思っております。
地域によって住む人の年齢層が違うので、県内各地で“試合が開催される地域ごとにターゲットを絞ったイベント”を企画できたら面白そうですね。
例えば、ある球場では若い女性ファンが増えるように華やかさを演出するとか、ある地域では高齢者と直接触れ合うイベントを企画するとか。そういった部分は球団としてまだ手をつけられていないので、伸び代があると思っています。
あとはやっぱり子ども達との距離を縮めるだけでなく、NPBへ多くの選手を送り出して「将来、滋賀GOブラックスでプレーしたい」と思ってもらえるような、そんなチームを作っていけたら良いですね。
――最後に、柳川監督のビジョンを改めてお聞かせください。
柳川氏:当然、野球の目標もありますが、NOL所属選手に “野球選手としての夢を追いつつセカンドキャリアも補償される状態”で、安心して夢や目標に向かって突き進んでもらえたらと思っております。
例えば大学野球を続ける場合、学費や遠征費などで数百万円レベルの出費が必要になります。それに対してNOL所属選手は、給料をもらいながら野球が出来る。
なおかつ、引退後のセカンドキャリアも補償されていれば「NOLでプレーしたい」と考える方も増えると思います。野球で育てた人材が滋賀に残れば、地元の人にも喜んでもらえると思うんです。
実際に、地元企業から引退した選手の紹介を打診されることもあります。滋賀GOブラックスへ声を掛けてくださるということは、野球の世界でチャレンジし続けた選手の経験に何かを求めているのかもしれません。
このような事例を増やしていければ、入団時の安心感に繋がると思うんです。今後、滋賀GOブラックスで“魅力的なチーム作り”にも力を入れていけたらと考えております。
インタビュー終盤、「読者へ伝えたいメッセージは何ですか?」と尋ねると「とにかく選手が主役です。選手に注目してください」と柳川監督は答えた。彼は野球の技術指導はもちろん、選手の人生と真剣に向き合っている。
「幼少期から大好きな野球に携わらせていただいている以上、責任を持って徹底的にやり抜きたい。私達は見られる仕事なので、口だけでなく行動で示します」
柳川監督と話していると、滋賀GOブラックスの将来が楽しみで仕方ない。2022シーズン、新たな船出となるNOL。ここ滋賀県から、野球界に新たな旋風を巻き起こして欲しい。
(取材 / 文:ライター兼編集者 濵崎侃)
(写真提供:滋賀GOブラックス)