フルコンタクト空手「大学生とジュニアの盛り上がりが中高生の競技人口増加に直結」
フルコンタクト空手の競技人口が右肩上がり、特に中高校生年代での増加が顕著に見られる。JKC(全日本フルコンタクト空手コミッション)、およびJKJO(全日本空手審判機構)代表として、同競技普及に尽力する酒井寿和氏が現状を語ってくれた。

~ニューウェーブの“全日本インカレ”、伝統の“全日本ジュニア”
今年もフルコンタクト空手(以下フルコンタクト)の季節がやってきた。
11月23日、『第4回JKC全日本フルコンタクト空手道選手権大会(以下全日本インカレ)』と『第19回JKJO全日本ジュニア空手道選手権大会(以下全日本ジュニア)』が、国立代々木競技場第一体育館で開催される。
「“全日本インカレ”は今年で4回目、創設当時の大学1年生が4年生の最終学年を迎えたということです。『大学大会の開催は難しいのではないか…』という声もあった中、多くの方々のご尽力でここまで来られたことが嬉しいです」
「『第1回から出続けています』という選手もいて、本当にありがたく思います。今年は強豪大学から新設大学まで、過去最高数116大学から選手が参加、“全日本インカレ”が定着しつつある手応えを感じます」
「“全日本インカレ”は最大で4度しか出場できない大会。精一杯戦い、楽しんで、思い出を作ってもらいたいです」と優しく笑う。
「“全日本ジュニア”は、来年20回という大きな節目を迎える伝統ある大会です。“文部科学大臣杯”が正式名称でもあり、選手・関係者にとっては『ここで勝つことが大きなステイタス』になっています」
「最優秀選手“文部科学大臣賞”が役員投票で1人選ばれますが、その選手の注目度も高くなります。政府から正式に認められた大会なので、関わるもの全てが自覚を持たないといけません」
伝統と格式ある大会だが、「『参加したい』と誰もが感じる、魅力ある大会にすることが大事」と選手ファーストを強調する。

~中高生の競技人口が増加している
「フルコンタクトが社会的に認知され、幅広い年齢層に親しまれることを目指しています。ジュニア選手はもちろん、大学生や中高生の競技人口が増えているのは本当に喜ばしいことです」
フルコンタクトは、ジュニア選手の競技人口が多い。水泳などの“習い事”と同感覚で始める選手が多いからのようだ。しかし年代が上がるにつれ、大会等の目標が減ってしまうために競技を離れる人が多かったという。
「2022年に“全日本インカレ”を創設、“全日本ジュニア”と同日開催にしました。ジュニア選手は大学生の試合を間近に見て、憧れ、現実的な目標を立てることができる。フルコンタクトの未来へ繋がる大会になり始めています」
大学日本一を決める“全日本インカレ”のレベルは高い。ジュニア選手が競技を続けるためのモチベーションにもなっているようだ。
「“全日本インカレ”創設目的の1つは、大学生の競技人口を高めることだった。以前は大学生が一般大会に出場するしかなく、競技を辞める人も多かった。同年代で戦える大会ができたことで、目標が定まったと思います」
“全日本インカレ”ができたことで、中高生で諦めることなく競技を続ける選手も増加しているという。
「中高生の競技人口が昨年より20%ほど増えています。競技に残ってくれているのが、何よりも良いこと。『高校で辞めようと思っていたが、あと4年頑張ってみます』という声も聞きます」
「保護者の方々にも、『大学での目標ができて良かった』と言ってもらえたこともあります」と、嬉しそうに語ってくれた。

~コート内外が新鮮であり続けることが大事
「“慣れ”が出始めた時が大事です」と、気を緩めるつもりはない。
「マンネリ化が一番良くない。スポーツ大会では、同じようなイベントが多くなりがちです。選手達が「1回出場したから…」と感じないようにしたい。常に新鮮で刺激があり、『今年も出たい』と思ってもらえる大会にしたいです」
代々木第一体育館の全体に16面のコートを設置。“全日本インカレ”と“全日本ジュニア”が同時進行できるようにしているのも理由の1つだ。
「“全日本インカレ”と“全日本ジュニア”が、同じ会場でやることの意味は大きいと思います。ジュニア選手が試合をしている近くで大学生の決勝が行われる。『自分達もあそこに立ちたい』と思ってもらいたいです」
昨年からはビデオリプレイシステムを導入、ジャッジの正確性を高めることにも務めている。
「今年からは全16コートで同システムを導入します(前回までは4コート)。ジャッジは人間が下すので、ミスも起こります。しかし同システムで確認できれば、選手の納得度も上がるはずです」

コート外の運営面では、全日本学生フルコンタクト空手道連盟(学連)が中心となった取り組みも活発化している。
「今年はクラウドファンディングで予算を集め、参加賞を出すようです。『選手個々の思い出になることをしたい』という素晴らしい思いからです。学生が主役の大会、こういう動きは、どんどん広がって欲しい」
今年2月には読売テレビとの共催で、『第1回西日本学生フルコンタクト空手道選手権大会(西日本インカレ)』も行われた。
「秋の“全日本インカレ”は東京開催なので、大学所在地によっては物理的に参加が難しい場合もあります。“西日本インカレ”を立ち上げ、『関西以西の選手達が少しでも参加しやすくなれば…』という思いからです」
“西日本インカレ”は読売テレビ内のフロアにコートを設置、同局を通じて放映されたことでも注目を集めた。
「テレビの持つ影響力は大きい。普段は体育館で開催する大会を、テレビ局内で行ったことでの新鮮味も大きかったようです。今後は“東日本インカレ”も開催できればと考えています」
“西日本インカレ”と“東日本インカレ”があり、その先に“全日本インカレ”がある。各地域の選手達にとっても、目標や選択肢が広がっていく。

~“戦う”“観る”の両方が楽しめる大会
大会は回を重ねるごとに注目度も右肩上がりだ。“全日本インカレ”3連覇の岡田葵(当時・愛知教育大)の名は、全国に知れ渡った。“全日本ジュニア”で“文部科学大臣賞”を受賞した選手は、周囲からの反応が激変したとも聞く。
「今年の“全日本インカレ”注目は、昨年度覇者で9月の『第17回JKJO全日本空手道選手権大会』でも優勝した女子の小林由依菜。男子は一昨年度覇者・河合透吾です。この2人を脅かす選手が出てくるか、楽しみです」
「“全日本ジュニア”参加選手は、誰もが成長の真っ只中。1年前とは別人のように強くなっていたり、身体も大きくなっています。そういった物語も楽しめますし、何よりもジュニア選手と思えない激しい戦いが見られます」
“全日本インカレ”では、注目を集める強豪選手達の高レベルな戦いを満喫できる。また、“全日本ジュニア”では、将来への期待を感じられる。「選手だけでなく、“観る”側も十二分に楽しめるはずです」と付け加えてくれた。
「技術と同様に、気持ちの動きが勝敗を左右する競技です。2分という短い試合時間の中、“流れ”を変えるのは難しい。表情や所作を見ながら、選手の胸の内を想像すると見え方も違ってくると思います」
「打撃音の激しさに注目が集まりがちですが、メンタル競技としても楽しめます」と観戦のコツまで指南してくれた。

「最も大事なのは『大会に出て良かった』と選手達に思ってもらうこと。そういった思いの積み重ねが、フルコンタクトを続ける活力になる。選手達の必死で純粋な戦いに注目してください」
フルコンタクト空手は、プロスポーツや他競技に比べて露出度は決して高くない。しかし少子高齢化が問題になる我が国で、競技人口が増えているのは取り組み方が間違っていないことの証明でもある。
同競技のビッグイベントが、間もなく開催される。代々木公園の綺麗な紅葉を眺めながら、会場へ足を運ぶことをお勧めしたい。涼しくなり始めた時期だが、観ている方も熱くなれる熱戦が楽しめるはずだ。
(取材/文:山岡則夫、取材協力/写真:全日本フルコンタクト空手コミッション)
