スポーツガバナンスってなに? ビジネスだって「ルール」が大事です
スポーツビジネスでは、「集客」や「イベント」「マーケティング」といった、「お客さんに対していかに魅力を届けるか」という取り組みが注目されることが多いです。
一方で、近年では「スポーツの暴力問題」「人権侵害」「不正会計」といったような、「ルールや倫理を守らない行為」などが問題になることも増えています。
以前は、インターネットやSNSが現在ほど普及していませんでしたので、こうした問題はあまり世間一般に知られることがありませんでした。
しかし、現代ではそうした問題があっという間に世間に広まってしまい、責任者の辞任や選手の選手生命・引退といったことにまで影響が及ぼしてしまいます。
今回は、そうしたスポーツ活動における様々なリスクに対応する取り組みとして実施される「スポーツガバナンス」という分野について解説していきたいと思います。この記事で学べること
✔ 「スポーツガバナンス」の意味
✔ 「スポーツガバナンス」の重要性
✔ 「スポーツガバナンス」が必要な分野
もくじ
- 1 スポーツガバナンスってなに?
- 2 スポーツでどんなことをガバナンスするの?
- 2.1 「意思決定」に関するガバナンス
- 2.2 「運営」に関するガバナンス
- 2.3 「財務」に関するガバナンス
- 2.4 「不祥事や紛争」などに関するガバナンス
- 3 日本のスポーツガバナンスの問題点
- 3.1 体罰・暴力
- 3.2 不正受給・裏金
- 4 まとめ : スポーツは「ガバナンスが命」
スポーツガバナンスってなに?
まず、「ガバナンス(Governance)」という言葉はどんな意味なのでしょうか?
日本語に訳すと、「統治、支配、管理」といった意味があります。
「マネジメント(Management)」という言葉も「管理」という意味合いで使われることがありますが、「ガバナンス」の場合は、「守るべき事をきっちりと守る仕組みを作る」という概念になります。
企業経営における「マネジメント」は、企業が持っている「ヒト・モノ・カネ」といったリソース(資源)をいかに効率よく、効果的に使っていくか、ということになります。「スポーツマネジメント」ってどんなことをするの?
一方、「ガバナンス」という言葉は「法律・ルール・倫理」といったことをきちんと守るための取り組み、ということになります。
先ほど述べたように、スポーツは暴力問題、人権問題、不正会計などの様々な問題を常に抱えています。
特に、「スポーツ」というものは世間一般的には「爽やかなイメージ」であったり、「少年少女にとって、とても役に立つもの」というイメージを持たれています。
プロスポーツクラブやオリンピック、ワールドカップ、アスリートなどに対して支援をするスポンサーも、単純な経済効果だけではなく、「スポーツが持つクリーンなイメージ」に対して支援をすることで、自社の価値を高めようとするケースが大半です。
なにより、スポーツを応援するファンも「正々堂々とした試合」や「スポーツマンシップ」といったことをスポーツに対して期待をしています。
そうした中で、「ガバナンス」がきちんとできずに、スポーツが問題を起こしてしまうとどうなるかは、みなさんにも想像しやすいと思います。
スポーツに限らずですが、一度なくしてしまった「信頼や信用」というものを、回復させるということはとても大変なことです。
例えば、オリンピックやワールドカップでは、たびたび「裏金」といったことが話題になったりします。
特にオリンピックは、国民や市民が納めた「多額の税金」を使ってスタジアム建設や周辺インフラの整備、イベント運営などを実施します。
それなのに、「オリンピックで裏金が使われた」ですとか「役に立つと思えない部分に多額のお金が使われた」と知ったら、どう感じるでしょうか?
せっかく多くの人が努力して作り上げたオリンピックも、「不正なことをしてまでやる意味があるのか?」「税金が無駄に使われているなんてショックだ」といって、オリンピックを見なくなる人や、スポーツそのものを嫌いになってしまう人も少なくないでしょう。
ですから、スポーツビジネスにおいても「法律・ルール・倫理」といったことをきちんと守る、「ガバナンス」が必要なのです。
スポーツイベント、あるいはスポーツクラブといったものは、協会や経営者だけのものではありません。
特にスポーツは「公共性がある」と言われるように、「広く市民の役に立つもの」であります。
したがって、スポーツ活動やスポーツビジネスにおいては、一般のビジネスよりもきちんとガバナンスをする必要があるということです。
スポーツでどんなことをガバナンスするの?
では、スポーツ活動やスポーツビジネスにおいて、実際に何を「ガバナンス」する必要があるのでしょうか。
ここでは、「公益財団法人 日本スポーツ仲裁機構(JSAA: Japan sports Arbitration Agency)」がスポーツ団体向けに作成した、「ガバナンス チェックリスト」を簡単にご紹介したいと思います。
参考:http://www.jsaa.jp/guide/governance/p04.html
そのチェックリストの中では、以下のような4つの分野について「ガバナンス」が求められています。
① 「意思決定」に関するガバナンス
② 「運営」に関するガバナンス
③ 「財務」に関するガバナンス
④ 「不祥事や紛争」などに関するガバナンス
日本スポーツ仲裁機構の「ガバナンスチェックリスト」
1つ1つ見て行きましょう。
「意思決定」に関するガバナンス
チェックリストにおいては、以下のような項目が「意思決定に関するガバナンス」のチェック項目として取り上げられています。
✅ スポーツ団体の意思決定に関わる役員は、スポーツ団体内の情報を共有していますか?
✅ スポーツ団体の意思決定において、競技者、指導者、ファン、メディア、地域社会、スポンサーなどの多様な意見を踏まえていますか?
企業経営においては日々多くの「意思決定」をしていく必要があります。
例えば、「この選手を獲得するべきか?」とか、「AとBというイベントがあったときに、どちらを先にやるべきか?」といったような具合です。
「意思決定」は「経営者」だけが行うものではありませんが、スポーツ事業を行う団体や企業は、小規模な組織が多いため、経営者あるいは役員といったポジションの人が、決断を下さないといけない場面はかなり多いでしょう。
このように、スポーツ団体や組織をまとめる経営者や役員は、常にスタッフや仲間に、経営状況の共有などをしなければなりません。
また、スポーツは「多くの人の支え」があって成り立つものですから、色々な人たちの意見をしっかりと聞く姿勢や、寄せられた意見をきちんと経営に反映させていかなければなりません。
これが「意思決定に関するガバナンス」の一例です。
「運営」に関するガバナンス
次は「運営に関するガバナンス」です。
チェックリストにおいては、以下のような項目が「運営に関するガバナンス」のチェック項目として取り上げられています。
✅ 「役員会運営、経費使用といったスポーツ団体運営のルール」や「選手登録基準、代表選手等の選考基準」、「処分の基準」等について、このようなルールや基準等を作成されていますか?
✅ このようなルールや基準等は、スポーツ団体内外の関係者が容易に知ることができるようホームページなどで公開されていますか?
スポーツを「する」ときにも必ずルールがあるように、スポーツビジネスやイベント運営、協会運営などをするときにも「明確なルール」が必要になります。
特に、オリンピックなどの「代表選手選考」については、これまでも度々問題になることが多く、「選考基準が明確でない」などの理由で、選手が協会に対して異議を申し立てるケースがありました。
また、スポーツ界は全体的に「閉鎖的な世界」と言われることもあるように、情報の開示や発信が十分でない場合が多くなっています。
ホームページなどを持っていても、ほとんど更新せずにほったらかしでは、持っていないのと一緒です。
スポーツ活動をする組織や企業は、きちんとホームページを更新するなどして正確な情報提供に努める必要があります。
「財務」に関するガバナンス
3つ目は、「財務に関するガバナンス」です。
チェックリストにおいては、以下のような項目が「財務に関するガバナンス」のチェック項目として取り上げられています。
✅ 財産目録、計算書類をはじめとしたスポーツ団体運営の結果は、公正な会計原則にのっとっていますか?
✅ 公認会計士など、外部の有識者からチェックを受けていますか?
これは「お金をもらったり、使ったりしたときの記録を、きちんとつけているか?」ということです。
企業経営においてはこうした「会計・財務・税務」をきちんと実施することは当たり前のルールではありますが、スポーツ界は先ほど述べたように小さな規模の企業や、NPO法人などの「非営利活動法人」と呼ばれるような団体が多く、上場企業のように「財務諸表の公開の義務」がないことから、適当な会計処理をしてしまっている団体が多いと思われます。
小さな企業であっても、きちんと「税理士」や「公認会計士」といった人たちに財務諸表を作ってもらったり、資金繰りのアドバイスなどをしてもらうことは大切です。
税理士や会計士が自ら進んで「不正会計」を勧めてくることはないとは思いますが、経営者に会計や税務の知識が全くなければ、知らず知らずのうちに不適切な会計処理をしてしまうことにもなりかねません。
また、プロスポーツクラブやスポーツメーカーなどで働く人の中にも、「自社の財務諸表を全く見たことがない、知らない」という人が結構いますが、経営者がきちんと情報共有をするべきです。
「会計・財務・税務」といったことは、スポーツビジネスや総合型スポーツクラブのようなクラブ運営においても、とても大切です。
「不祥事や紛争」などに関するガバナンス
最後は「不祥事や紛争などに関するガバナンス」です。
チェックリストにおいては、以下のような項目が「不祥事や紛争などに関するガバナンス」のチェック項目として取り上げられています。
✅ 不祥事の事実調査は、公正さを担保するために必要な場合、弁護士等の外部の有識者が担当することになっていますか?
✅ 公正中立な、利害関係のない第三者を構成員とした紛争解決機関を利用できるようになっていますか?
これは、「スタッフや選手が不祥事を起こしてしまった場合に、客観的な第三者がきちんと事実調査をする体制を整えているか」といったことになります。
一般企業の経営においても、「不正会計」などの不祥事があったときは、「第三者委員会」というものを設置して、不祥事の原因究明をすることが多いです。
また、「スポーツ活動中における紛争解決」としては、先述の「スポーツ仲裁機構」が問題解決の仲裁や調停申し立てをしています。
ただし、スポーツに関する紛争を何でも仲裁できるわけではなく、原則としては「競技団体が競技者等に対して行った懲戒処分や代表選手選考などの決定」に対して、不服があれば申し立てができる機構という位置づけになっています。
ですので、「スポーツ用品の欠陥があって事故を起こしてしまった」ですとか、「プロスポーツにおける移籍の制限」といったことを扱うことはできません。
きちんとした「ガバナンス」を実施するためには、弁護士などの法律の専門家と相談することも必要になってくるでしょう。
日本のスポーツガバナンスの問題点
最後に、日本における「スポーツガバナンス」で問題・課題とされるトピックをいくつかご紹介したいと思います。
体罰・暴力
これは、近年毎年のようにニュースで取り上げられますので、みなさんもよくご存じのトピックかと思います。
具体的な名称はここでは述べませんが、高校や大学の部活動での顧問や監督、先輩部員による暴力事件のみならず、オリンピックに出場するレベルの選手に対しての暴言・暴力なども過去に起こりました。
部活動や、いわゆる「スポーツの現場」は、あまり「外部の目」にさらされる機会が少ないと言います。
「指導者と選手」しかいない閉鎖的な空間では、一般社会の非常識(暴言や暴力など)も「常識」として通用してしまうことがある、ということです。
スポーツ界全体として「風通しの良さ」が求められています。
不正受給・裏金
「不正受給や裏金」も度々世間を賑わせるニュースになることがあります。
過去には、2000年シドニーオリンピックの直後、JOCに加盟する柔道や陸上、テニス、バレーボールなど11競技団体が国庫補助金など約9,330万円を不正に受給していたことが発覚しました。
最近では、2020年東京オリンピック・パラリンピックの招致活動を巡り、招致委員会が時計メーカーなどに数千万単位の資金を支払ったと報道されました。
また、招致委員会は海外のコンサルティング企業に11億円もの「不透明な用途の資金」を支払った、という報道もされています。
プロ野球でも、2000年代後半頃に「選手への裏金」といったことが大きな問題になりました。
こうした不透明な資金の流れが明るみに出ると、スポーツファンの信頼を失います。
スポーツイベントやスポーツクラブに対して大きな金額で支えているのは企業などの「スポンサー」である場合が多いですが、一番大切にするべきは「ファン」です。
ファンがそっぽを向いてしまうようなスポーツに対しては、企業が支援する意味もなくなってしまいます。
まとめ : スポーツは「ガバナンスが命」
今回は、\スポーツガバナンスってなに? ビジネスだって「ルール」が大事です/ というテーマで、「スポーツガバナンス」という分野についてご紹介してきました。
「スポーツガバナンス」は、スポーツ活動やスポーツビジネスにおいて関係してくる「法律・ルール・倫理」といったことをきちんと守る仕組み作りや、取り組みのことです。
日本のスポーツ界は、「ガバナンス」がきちんとできていないことによって、これまで多くの問題を生み出してきてしまいました。
スポーツというものは、とても「クリーン」なイメージを人々に与えることができます。
ですから、「経営や運営」といったことも、きちんとガバナンスをして「クリーン」にやっていきたいものですよね。
「スポーツガバナンスについてもっと知りたくなりました!」という方や「これはどのようにガバナンスをすればいいのですか?」といった疑問がある方はぜひLINEでお友達になってお気軽にご連絡くださいね!
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記事提供
ゼロからのスポーツビジネス入門 須賀 優樹
「世界で一番優しくスポーツビジネスを学べる場をつくる!」を目標に、スポーツ業界に入りたい人、活躍したい人をこれまで多数支援。学生時代の専門は「スポーツマーケティング」。現在は大手企業のデジタルマーケティングやビッグデータ分析のコンサルティング、スポーツ団体の新規事業支援などをやっています。