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コロナ禍の大分の街が抱く、トリニータへの期待とは…【僕らだから繋げるパスがある ~ 大分トリニータ、クラウドファンディングでの挑戦(中編)】

7月20日、大分トリニータはクラウドファンディング第二弾として、「『次は 大分のために。 #ニータンの恩返し!』大作戦」の開始を発表した。

第1弾「『本当に無観客!?段ボールサポーター(愛称:トリボード)でゴール裏を埋めよう!』」での、選手やチームへの応援・支援とは変わって「大分への恩返し」というテーマで、勝利数に応じた地元への寄附やスポンサー商品の購入を行う企画となっている。

クラブが、本企画に込めた想いは何か。この挑戦は、クラブ・選手・サポーター・地域にとって、どんな意味をもっているのか。本特集では3回にわたって様々な視点から取り組みに光を当てる。

<各回テーマ>
(前編)プロジェクトに、クラブが込めた想い
(中編)地域、スポンサーが望む大分トリニータ
(後編)皆にとっての、プロジェクトの意味


前編は、皆でこの危機を乗り越え、大分トリニータを活用して共に成長していきたい、というクラブ側の想いについて紹介した。中編では、受け手である大分の街や企業の視点から、コロナ禍での状況や、今回のプロジェクトに対する感想やクラブへの期待を取り上げる。

大分の街を取り巻く厳しい現状とスポーツへの関わり


「大分県、市街地は(繁華街である)都町含め、非常に寂しい状態です。飲食、アパレル…、どの業界も本当に厳しい状況だと思います」

そう語るのは、現役時代「ミスター・トリニータ」と呼ばれ、現在は「スポーツを活かした街づくり」をスローガンに、大分市議会で議員を務める高松 大樹(たかまつ だいき)氏だ。

「飲食業界でのテイクアウトなど、皆できる限りの努力をされています。が、(大都市と比べて)大分は人口、という部分からもどうしても限界があります。行政としても、大分市独自の家賃保証など、色々とサポートを実施していますが、まだまだ十分ではありません。

企業にとっては、まず会社を守らなくてはいけない。会社の生き死にが掛かっている状況です。行政も同じですが、企業にとってはスポーツへの支援、というのはどうしても二の次にせざるを得ないのでは、と思います。」

(議員生活3年目となる高松氏。言葉の端々から、地域への心配や対策に関する言葉が飛び出し、現役時代とはまた違った一面を見せていた)

厳しい環境をも超える大分トリニータへの想い


では、スポンサー企業はこの状況をどう捉えているのか。2018年より大分トリニータを支援、今期はアドボードスポンサーとして関わるリブサル株式会社の代表取締役 渡邊 陽一郎(わたなべ よういちろう)氏に話を伺った。

「事業として物流関係のコンサルティング、超小型電気自動車販売などを行なっています。物流事業をしていると、モノの動きが分かりますので、(世の中の事業の好不況などの)大きな動き、というのは把握しやすい立場です。端的にいうと、今年4月からは悲惨な状況です。従業員が会社に来ても、運ぶ荷物がない、そんな状況に追い詰められていました。当然、(動くモノの元、先にある)他の業界の事業者の皆様も同じような状態だと思います。」

 事業を取り巻く厳しい状況。しかし、「スポンサーを再考されましたか?」という問いに渡邊氏は首を横に振る。その背景にあるのは、大分トリニータというクラブへの想いだ。

「元々、サッカーが大好きでした。日本にJリーグができただけでも感動していましたが、地元大分にクラブが立ち上がると聞いて、非常に嬉しかったんです。その頃から何か応援をしたい、と考えていました。でも当時はサラリーマンをしていて色々制約もあり、難しかった。でも、自分の出来る範囲で何かしたい、とずっと思っていました。夢だった、といってもいいかもしれません。

その後、自分の会社を立ち上げました。そして、少し事業が軌道に乗ってきたとき、自分からクラブに連絡したんです。何か支援ができないか、と。そしてスポンサーとして関われることになりました。本当に嬉しく思っています。ようやく夢がかなったんです。

(撤退ではなく)これを継続、更に応援して行ける様に事業を進めていくことが、私たちの使命だと考えています」

チームを応援したい、という気持ちを元に、この状況を乗り越えたい、と話す渡邊氏。初めてスポンサー契約についてクラブと打ち合わせした時も、契約内容そっちのけでこれからのトリニータについて(クラブの人と)熱く議論したんですよ、と笑いながら語った。

(今まで以上に支援できるよう、事業を頑張りたいと語る渡邊氏。こういったスポンサーの想いにトリニータは支えられている)

コロナ禍で生まれた新たな支援と事業


今まで以上の支援、という言葉。それはすでに始まっていた。業界全体が苦しい状況にある中にも関わらず、6月にはリブサル社からのクラブへの新しい支援が行われていた。コロナ禍の中、大きな話題となったマスクだ。

5月29日、Jリーグより、2020明治安田生命J1リーグの7月4日からの再開が発表された。クラブ、サポーターが待ちに待った再開。しかし、そこには感染拡大防止に向けた様々な条件が各クラブに課せられていた。その一つが、「3万枚のマスク」だった。

チーム関係者用やホームゲームで使用するマスク。これを各クラブが事前に手配する必要があった。しかし当時は報道でも度々話題に挙がる程マスクが不足していた時期。クラブ関係者が入手の為に奔走せざるを得ない状況となった。ここで立ち上がったのがリブサル社だった。

『困るクラブに対して、なんとかしてあげたい』という想いから動き出した。販売する超小型電気自動車の部品に使用するフィルター。その製造機械を転用してマスクの生産が可能なことを把握した。製造を行う会社と掛け合い、生産まで一気に漕ぎつけた。2週間後には3万枚のマスクを準備し、クラブに提供した。

この取り組みから、新しい事業として、リブサル社のマスク販売事業が始まった。今回、クラウドファンディングのリターンとしても提供される「大分トリニータ応援パッケージマスク」はここから生まれている。

(リターン商品であるマスク。そこには、クラブの危機とスポンサー企業の想いから生み出された、という秘めたエピソードが存在した)

一丸となる機会、スポーツの利活用…クラブ・選手にできること


渡邊氏は、第2弾のプロジェクトに感謝している、と語る。

「非常に素晴らしいプロジェクトだと感じています。サポーター、スポンサーもきっと待ち望んだものなのではと思っています。

(愛する)クラブと一緒に何かを成し遂げていける、というのは、私たちには非常に勇気を与えてくれます。昨年、非常に印象に残っていることがあります。大分でラグビーワールドカップが行われた時のことです。大分トリニータは試合を(昭和電工ドーム大分ではなく)大分市営陸上競技場で行うことになりました。この裏では、備品の設置・保管・回収といった様々な作業が発生していたのですが、その部分を私たちが(物流部分を活かして)お手伝いさせていただきました。試合終了後、試合自体もそうですが、一緒に達成できたことに何より深く感動を覚えました。

そんな風にして、お互いの強みを活かしながら、今回も皆で一緒に一丸となって打ち勝てればと思っています。今回のプロジェクトは、スポンサーは強みを活かして良いものを作る。クラブは支援を集め、その商品を買って届ける。お互いの力を活かして、皆で支援しあう形を作れています。こういう取り組みを継続して実施してもらえれば非常にありがたい。

その先には、一緒に取り組みたいことが沢山あります。その為にもまず、手を取り合ってこの試練を乗り越えられれば

(大分トリニータと協働したプロジェクト。このような取り組みを増やしていきたいと考えている)

高松氏は、大分トリニータに更なる期待を掛けている。

「良い取り組みだな、と思っています。大分トリニータの様な地方クラブでは、サッカーだけやっておけばいい、という時代ではもうなくなっていると思います。地域の中で注目を集める存在として、地域に貢献していく取り組みが求められる。

 じゃあ、クラブや選手に何ができるのか。やれることは色々ありますが、個人的には、『発信』を期待したいと考えています。コロナ禍を経て、『当たり前と思っていたことは、当たり前じゃない』ということにクラブに関わる皆が気づいたのでは、と思います。当たり前にサッカーができること。(大きな経済的メリットが提示できていなくても)スポンサードしてもらえること。これは、サポーター、スポンサーは勿論、医療従事者含め、様々な人たちのおかげで成り立っています。そういった一つひとつのことに、『感謝している』というのを選手・クラブに発信してほしい。その上で、『自分たちも(経営的に今)こう苦しい』であったりとか、『感謝の想いを、プレーに込めている』、『こういう形で返していきたい』というのを、言葉にして伝えて欲しいと思います。きっとそれが、選手自身のプレーを更に強くしますし、クラブとして新しい取り組みを生むきっかけにもなるのではないでしょうか。そういった意味では、今回のプロジェクトは大分トリニータの『感謝の発信』から生まれている。モデル事業の一つになり得ると思います。

オリンピックも話題に挙がっていますが、今はスポーツの価値、というものが問われているタイミングだと思います。行政としても、スポーツに関わる部分は現在後手に回っています。だからこそサッカー界、そして大分トリニータ独自の成功事例として、なにか形をつくっていって欲しいと期待しています

高松氏は引退後、プロサッカー選手という立場が持つ力に改めて気づいた、と言う。だからこそ、現役の選手やクラブに大きな期待を掛けている。

(大分トリニータへの期待を語る高松議員。インタビューの中では次の打ち手に対する様々なアイディアも飛び出した)

大分トリニータが旗を振り、発信すること。そこから、協働する取り組みが生まれて、サポーター、地域が一丸となっていく。これは、大分トリニータ自体がまさしく望むところでもある。本プロジェクトをリードする、ブルースタジアム推進部の水島氏は語る。

 「私たちは、トップリーグであるJ1に絶対に居続けなければいけないと思っています。だから、もっとチームが強くなる必要がありますし、その為にはもっともっと会社が強く、成長し続けなくてはいけません。それは私たちだけでは実現できません。地域やスポンサー、サポーターの皆様と一緒に手を組みながら、助け合って、事業を作っていく。これを具体化することで成長の先が見えてくると思っています」

(サポーター、地域との協働こそが、チーム、そしてクラブを強くしていく)

想いを受け止めて、クラブは歩み出す


スポンサーやサポーターが望むのは、勿論、事業的な部分だけではない。試合の中で、戦い、勝利する姿も期待している。インタビューの最後に、リブサル社の渡邊氏は大分トリニータのサッカーについて、こう語った。

「(8月初旬の5連敗を振り返って)今はチームとしてもJ1という試練を受けている時だと思います。選手には、とにかく、ファイトあるプレイ、ボールをがむしゃらに追いかける、そんな姿を見せて欲しい。それが(同じ様に試練の中にいる)私たちに、勇気や希望を与えてくれます。

 そして遠くない将来、胸のエンブレムにもう一つ、星を増やしてくれたら

(エンブレムに輝く、ナビスコ杯優勝に伴う星)

その期待は、選手も受け止めている。チームの中心選手の一人である岩田 智輝(いわた ともき)選手はタイトルへの想いを言葉にする。

「サッカー選手である以上、できる一番の恩返しは、試合で頑張っている姿を見せて少しでも勇気を与えること、そして結果を出すことだと思っています。だからこそ、やはりタイトルを取りたい

(気迫あふれるプレーの下には、プロとしての使命感、結果へのこだわりがある)

勝利、タイトル、地域貢献、地方の活性化、スポーツを活かしたモデル事業…。地域が苦しい状況だからこそ、大分トリニータには多くの期待が寄せられている。大分トリニータはクラウドファンディングという形で一つの旗を振り始めた。

後編へ続く)

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