“神戸で育ち、神戸を愛する”エベイユスポーツクラブオーナーの地域貢献に迫る(後編)
エベイユスポーツクラブは神戸市北区を中心にサッカーを通じた地域貢献を目指して活動しているチームである。2006年に設立され、社会人チームのエベイユFCは兵庫県1部リーグに所属、ユースチームも活動している。
園児から始まり、小学生・中学生そして大人を対象にサッカースクールを運営しており、エベイユでサッカーを続けられる環境を実現している。現在、会員数は600名を超える規模だ。
前編では選手の自立を求めるスタイルやコロナウイルス感染防止の取り組みについて触れたが、後編では佐藤代表理事の指導方針について触れたい。
佐藤代表理事の選手時代の経験を活かして~選手のやる気を引き出す~
――選手時代は悔しい思いもされたと思います。どのように指導に活かしていますか?
今思い返すと(全国高校サッカー選手権に出場した)高校1年生のときが選手としてのピークだったかもしれません。全国大会に出て燃え尽きていたのかも。大学時代は2軍も経験しましたが、その時に頑張り切れなかった。
その経験を活かし、活躍できない選手ともコーチが積極的にコミュニケーションをとって、モチベーションを下げないように心がけています。特にトップチームに入れなかったセカンドチームの選手には私の経験も含めて話をするようにしています。
――トップチームにコーチの指導を集中させた方が勝利には近づくのでは?
私たちはそうはしていません。トップチーム以外の選手の指導も手厚くできるようコーチの数を増やしています。また、より多くの選手が試合に出られるようリーグ戦に参加するチームの数も増やしています。
(競技スポーツである以上)クラブに入った選手たち全員がトップチームで活躍することはできませんし、試合で勝ち続けることもできません。それでもみんなが「このクラブにいてよかった」と思えるようなクラブは実現可能だと思っています。
このようなスタンスで取り組んでいるので、トップチームの選手がセカンドチームの試合を全力で応援することもあります。最近途切れてしまったのですが、退会ゼロを長い期間続けていました。
前編で佐藤代表理事が語っていた「子供たちがサッカーをする環境をもっと良くしたい」という想いが色濃く出ている指導方針である。またコーチの数だけでなくコーチの指導の質も重視しており、全員が日本サッカー協会公認指導者ライセンスを取得している。A級ライセンスを取得しているコーチもおり、指導の質が高そうだ。
トップチーム以外の選手の指導を手厚くすることで、古川皓也コーチは「練習や試合のスケジュール調整に特に苦労している」という。
――スケジュール調整でどんな工夫をされているのでしょうか?
入団した選手には「エベイユに入って良かった」と感じて欲しいので公式戦に出場できなくても試合に出場できるようプライベートの大会を開催したり、個別の進路指導を行ったりしているため、一層スケジュール調整が難しくなります。それらも含めてスケジュール調整には特に神経を使っています。
――進路指導はどのように行うのでしょうか?全員に行っているのですか?
まず、2年生の3学期に様々な選択肢を示し、その中から自分に合った進路をどのように選べばよいかをアドバイスします。そして、3年生になってから保護者と一緒に面談します。もちろん全員に行います。私たちにとって選手が巣立った後まで考えて指導することは「当たり前」ですから。
面談以外のサポート、例えば高校の指導者からの情報収集、高校生との合同練習、進学先の指導者への連絡も行っています。巣立った後に輝いている姿を見ることで我々も幸せを感じられるので。
コロナウイルスによる活動停止で発揮できたチームの特色
――コロナウイルスによる活動停止の経験を選手たちにどう活かして欲しいと感じていますか?
今回が特別ではなく、いつも言っていることですが「今の状況で何ができるかを考える」ように伝えてきました。今回の休校・活動停止で時間はできたわけですから、その時間を使って「考えて行動すれば飛躍のきっかけになる」と言い続けてきました。普段の指導が今回のような逆境に活きたのではないかと考えています。
中学生とはリモートでのコミュニケーションも行いました。ボールを使った練習ができないならフィジカルの強化、例えば走力を伸ばすトレーニングといった感じで考えてもらいました。
3年生にはサッカー以外のこと、進路のことも考えてもらいました。それによって選手の自宅での行動が変わったようで、保護者からの評判が非常に良かったです。
活動停止中、選手たちはどう過ごしたのか、そして再開したときどう感じたかを小学生チームのキャプテンを務める谷祐太朗さんに伺ってみた。
――活動停止中はどう過ごしていましたか?
クラブからリフティングの課題が出ていたので家でリフティングの練習をしました。また、トランポリンを使ったトレーニングもやりました。
――長い間クラブ活動ができないことは初めて?
怪我をした時にクラブ活動を休んだことがありました。その時は家でもサッカーができなかったけど、今回は家でならサッカーができると思いました。
――再開したときはどう思いましたか?不安はなかったですか?
まずチームをうまくまとめられるか不安でした。うまく(プレー)できるかも不安でした。でも、友達に会えるのは楽しみでした。サッカーをやってみてやっぱり楽しかったですし、思ったよりうまくできました。試合も再開しましたが、やっぱり疲れました。試合も楽しかったです。
祐太朗さんはインタビューが初めてで、オンライン取材だったこともあってか終始緊張気味だった。しかし「サッカーは楽しい」「試合は楽しい」と話すときには笑顔がこぼれる。
祐太朗さんの一家は兄も父も従弟もサッカーをしている。そんな環境をどう感じているのか母・由佳さんに伺った。
――家族みんなが同じサッカーをしていると楽しそうですね?
(コロナウイルスの影響で)しばらくは試合がなかったのですが、最近は同じ日に兄と弟が違う会場で試合があったりしたりして、賑やかな日々ですね。
――(みんながサッカーをしていると洗濯物が増えるので)洗濯は大変なのでは?
子供が自分で洗濯をしてくれるときもあるので、それほど大変ではありません。
試合が土日両方あるときは土曜の試合から帰った後、(翌日の大会で着られるよう)その日のうちに洗濯しれくれます。
前編で佐藤代表理事が語っていたようにエベイユスポーツクラブでは選手の自立を重視している。このような自立した行動ができるのはクラブの指導方針による影響もあるのだろう。
佐藤代表理事が指導経験の中で一番嬉しかったこと
佐藤代表理事はクラブ運営に関わるようになって14年にもなる。長い間、指導を続ける中でどんなことに喜びを感じているのだろうか?
――クラブでの指導を続けてきて一番嬉しかった経験を教えてください。
クラブを巣立った選手が指導者としてクラブに戻って来てくれたことです。「私たちの背中を見て何かを感じてくれたかな?」と思うと嬉しくなりました。
もちろん選手が成長してどんな分野でも良いから活躍してくれることは嬉しいのですが、この経験は特別な想いがありました。
佐藤代表理事の指導方針からはスポーツを楽しむことを通じて「人間として成長して欲しい」、という強い想いを感じる。
今回話を伺った谷祐太朗さんを始めとするクラブのメンバーたちがサッカーを通じて、そしてサッカーの経験を活かして今後どのように成長していくのか楽しみになる取材だった。
エベイユスポーツクラブ、エベイユFCの今後に注目していきたい。
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