中学硬式野球・ポニーリーグが注目される理由「多様性の時代に即したリーグ」
中学硬式野球『ポニーリーグ(以下ポニー)』への注目度が高まっている。ポニーの大きな特徴は、「野球は試合に出て覚えよう」を理念に掲げ、独自制度を取り入れている点。また“ポニー・ワールドシリーズ”が毎年開催されるなど、グローバル化にも積極的だ。「“多様性”が求められる現代に即したリーグ」とも言えるだろう。
ポニーリーグの第50回関東連盟春季大会開会式が、2月23日に柏の葉公園野球場(千葉)で行われた。同大会は全日本選手権(東京他)の予選を兼ねており、チーム関係者の他、リーグやスポンサーに関わる多くの人々が参加。「ポニーに注目が集まる理由」について話を聞いた。

~ポニーは通過点なので、全選手にプレーして欲しい
「ポニーは、決してNPBや高校野球の下部組織ではありません」
日本ポニーベースボール協会理事長・広澤克実氏は、同リーグの立ち位置について明確に語ってくれた。
「プロ野球(NPB)やメジャーリーグを目指す選手も数多くいるはずです。しかし、『ポニーは選手を供給するだけの下部組織ではない』ことを強調したい。ポニーには、『日本の宝である選手達の成長を守る』という理念があります。そのためにも選手みんなが試合に出て、楽しめることを最も重要と考えています」
ポニーでは「選手全員が試合に出る」ために、多くの工夫がなされている。例えば、1団体から最大4チームのエントリーが可能。先発選手は1度退いても再出場が可能な、“リエントリー制度”も導入されている。
「機会均等、試合に出ない選手を作らない。将来、野球部員が多い高校へ進学したら、スタンド応援をするようになる場合もあるはずです。でも中学生からそれ(スタンド応援)をやって何が楽しいのか。ポニーは高校へ送り出すための組織、通過点でしかありません。だからこそ、全選手に野球をプレーしてもらいたい」
ジュニア年代から“勝利至上主義”に走って、固定選手で戦うチームや団体も少なくない。ポニーはある意味で、異色な存在にも思えてしまう。
「選手達にはそれぞれに夢や目標があるはず。それを追い続けるのが素晴らしいことで、“青春”なんです。そのためにも、健康で怪我なく送り出すのがポニーでありたいです」
広澤氏は、明治大時代に出場した1984年LA五輪で日本代表の金メダル獲得に貢献。プロ入り後もヤクルト、巨人、阪神で中心選手として活躍した。野球界を知り抜いた男の言葉は、説得力を感じさせるものだった。

~選手は試合に出て経験を重ねるのが楽しい
関係者の中に、小柄な女性コーチを見つけた。桐生南ポニーの鈴木姫羅氏は、同チームの母体である桐生南スポーツアカデミーで“育成サポートコーチ”を任されている。
「『ポニーは、個人を尊重した野球団体』だと感じます。スポーツ界でよく見かける、チームや勝利重視での団体行動ではなく、個人が楽しめて上達することが考えられています。今の時代に即したリーグで、参加団体が増えているのも理解できます」
「『試合に出たい、プレーしたい』という気持ちは誰もが持っています。ポニーでは選手全員が試合に出られるように、多くの趣向が凝らされている。試合に出て初めて成果を発揮できるし、楽しくありません。『プレーができる場所を大人達が作ってあげようと』いう姿勢を感じます」
鈴木氏は小学生から野球を始め、中学では部活とクラブチーム・群馬エンジェルスの両方に所属して軟式でプレー。花咲徳栄高(埼玉)に進んでからは、女子硬式野球部に所属した。その後、教員を目指して大学に進学、桐生南スポーツアカデミーが行う小学生対象の野球塾を手伝い始めた。
「大学4年時から同アカデミーでバイトを始め、今年から正社員という形。大学で教員免許は取得したのですが、『野球に関わる機会があるなら…』と考えました。自分自身が感じていたことを、少しでも選手に還元したい思いもあります。『ポニーという素晴らしい組織なら、いろいろできる』とも感じています」
「野球が大好きで、楽しくプレーできる環境にしたい。練習は時に厳しくやるけど、それでも楽しく、自ら率先して取り組める場所が理想。前向きにやって自分ができることが増えていけば、野球がどんどん好きになるはず。そこから何かを学べて、成長にも繋がると思います」
「(私は)子供の頃から野球のことしか頭になかった」と付け加える。身体の大きさで劣る男性に混じってのプレーも多かったが、「辛いとか、辞めようと思ったことはなかったです」とも断言する。
「野球が少しでも上手くなることしか考えていなかった。上手くいかないことも多かったですが、『できるようになりたい』と思って練習しました。何よりも、実戦で練習の成果を出せた時は最高の気分。その積み重ねで現在に至るという感じです(笑)」
「やはり試合に出て、経験を積み重ねるのが1番楽しいです」と何度も繰り返す。ポニーにはそのための環境が備わっており、魅力を感じている。

~選手育成のためには実戦が何よりも重要
「ポニーはプレー環境を増やすため、リーグ戦を大事にします」と語るのは、高崎中央ポニー監督・倉俣徹氏だ。
同チームは2024年秋にボーイズからポニーへ転籍、直後の第48回関東連盟秋季大会で優勝を果たした強豪だ。
また倉俣氏は、東京学芸大時代には栗山英樹氏(前侍ジャパン監督)とプレー。高校教諭を経て、米国でトレーナー資格を取得。巨人軍でもトレーニングコーチやアカデミーコーチを経験しながら、高崎で硬式野球を26年間指導している。中学硬式野球の現状を聞くのに最適な人物と言える。
「一発勝負のトーナメントを重視する団体は多い。そこには参加チームや登録選手数が多いから、リーグ戦を組めないという物理的要因もあると思います。ポニーはそこの部分でのバランスに優れており、『選手全員が試合出場』という理念を形にできています」
中学硬式野球では、リトルシニアやボーイズが約2万人以上の登録人数を誇るのに対し、ポニーは約3,500人となっている(『野球普及振興活動状況調査2024』日本野球協議会 普及・振興委員会)。人数が少ないことでリーグ戦開催が可能となり、選手達にプレーの場を多く提供することもできている。

「うちの息子はサッカー選手で、高校では選手権優勝2回の前橋育英(群馬)、そして大学は明治大という強豪でプレーしました。高校時代から教育リーグ等があって、控え選手も数多く試合に出られる環境。前橋育英は当時から5軍(現在6軍)まであり、それぞれで実戦が積めました。ピッチ内外で大きく成長でき、サッカーを心から楽しむことができたようでした」
実息がサッカーをやっていたことで、野球以外の競技での組織や育成方法を知ることができた。「試合に出ることが何よりも大事、ということを再認識させられた」とも語る。
「野球は1872年に日本へ伝来して150年以上が経ちます。サッカーも同時期(1873年)だという。しかし、『選手育成には試合出場が重要』という考え方の部分では、劣っていると言わざるを得ない。ポニーは、そこを大事にしているのが素晴らしいと感じます」
自らが関わることが、他より劣っていることを認めるのは難しいことだ。しかし倉俣氏は現実と向き合った上で、他競技の優れた部分を認めて、積極的に受け入れようとしている。
「もちろん、野球がリードできていると思う部分もあります。1番は大谷翔平選手(ドジャース)という、野球の母国・米国でも有名なスーパースターがいること。サッカー界でも欧州で活躍する日本人選手は多数いますが、大谷選手ほど知名度がある選手はいない。そこは野球界の人間として胸を張れます(笑)」
「久保建英選手(レアル・ソシエダ)はすごい選手だけど、知名度では大谷選手には追いついていないですから」と笑顔も見せる。野球界だけでなく、サッカー界の若手スター選手の名前が出てきたことにも驚かされた。日本野球界が少しでも良くなるため、競技を問わずアンテナを広く張っていることが伝わってくる。

「世間は冬季五輪やWBC(ワールド・ベースボール・クラシック)の話題で盛り上がっています。スポーツに光が当たっている時期だからこそ、ポニーの存在意義を改めて考える良い機会です。プレーするからこそ野球は面白いんです」(広澤氏)
ポニーの理念は上辺だけの“建前”ではなく、リーグ加盟チーム全体にまで浸透し始めている。
全選手が試合出場することで、野球への“思い”が強まるのは間違いない。「好き」という気持ちは、何にも勝る強力なものだ。その“思い”を持ち続ければ、“未来の大谷翔平”が生まれる可能性もある。
ポニーリーグが注目される理由の一端に触れられた気がした。
(取材/文/写真・山岡則夫、取材協力/写真・日本ポニーベースボール協会)
