小江戸・川越に新たな象徴を!サッカークラブCOEDO KAWAGOE F.Cが目指す文化創造
平日にもかかわらず多くの観光客で賑わう埼玉県屈指の観光地・川越。「小江戸」と称される蔵の街並みの一角に、COEDO KAWAGOE F.Cのクラブ事務所はある。事務所が入る建物は古くからの蔵造りで、一見するとここにサッカークラブの事務所があるとは思えないあたりから、COEDO KAWAGOE F.Cの「異質さ」を感じた。
この「異質さ」は、単なる外観の話をしているのではない。2020年、コロナ禍という未曾有の事態の中で創設されたこのクラブは、サッカー界の常識を覆すようなスピード感と、徹底した事業戦略(地域戦略)を両輪に、2030年までにJリーグ加盟承認を目標に掲げて突き進んでいる。 代表の有田和生氏は、現在このクラブが戦う社会人リーグを「登竜門と考えている」と話す。Jリーグに参入するにはこのリーグで昇格を重ねていくことが必須であり、それを目指すクラブが乱立する社会人サッカー界を勝ち抜き、COEDO KAWAGOE F.Cを川越という土地の文化にするという、明確な目標を持っているのだと感じた。

勝利への確率を上げる「投資」
「サッカーはもちろん、スポーツという勝負ごとに100%勝つというのはありえないことです。ただ、フロントサイドとしては多面的にその確率を限りなく上げることができるかが重要なのです」
有田氏は語る。その戦略は極めて的確であり大胆でもある 。クラブは創設した初年度から強化費を毎年上げ続け、昨年は前年比150%以上へと大幅に引き上げた。Jリーグ各クラブのデータにも表れているが、「勝点と強化費には強い相関関係がある」という根拠に基づいた意思決定だ。結果=勝利の確率を上げるための経営判断である。アマチュアリーグに所属するサッカークラブとしては、他に類をみないスポンサー企業を獲得しているクラブだからこその強みと言える。
しかし、実績ある選手の獲得に資金を投じるだけでは、過酷な社会人リーグを勝ち抜くことはできない。「条件だけで動く選手は、また別の条件で動いてしまう。我々が求めているのは、COEDO KAWAGOE F.Cというクラブに自らの意志で賭けてくれる選手です」と有田氏は話す。
所属選手の約6割にあたる17名が埼玉県にゆかりのある選手であるという事実が、そのことを証明しているのではないだろうか。元Jリーガーの小池純輝選手をはじめ、地元出身や埼玉の高校・大学を経た選手たちが、関東リーグ2部(J6相当)に所属するクラブに集結した。
「埼玉には浦和レッズやRB大宮アルディージャという偉大なクラブがありますが、埼玉ではこの2クラブ以外に0からJリーグ参入という壁を越えたクラブはなく、このプロセスを経験した選手もいません。このような厳しい戦いが続くリーグ戦において、歴史を一緒に作りたいという熱量が、勝負を分ける一歩を生むと思っています」
今季の補強では、昨シーズンの課題であった得点力不足を解消すべく、攻撃陣の刷新に加えてチームを統括するコーチ陣の強化にも着手している。埼玉出身でJリーグや社会人リーグで選手としても指導者としても活躍してきた福田俊介氏を、ヘッドコーチに招聘した。個の能力をチームの勝利へと繋げるために、マネジメントの強化が必要であるとの考えに基づいた人事だ。2026シーズンの関東リーグ2部を勝ち上がり、翌シーズンに1部へ昇格することは、達成必須の目標として掲げている。

過酷な社会人リーグを戦うことは必要なプロセスと考える
Jリーグ参入を目標とするクラブにとって、現在の社会人リーグというカテゴリーは、ある意味で「理不尽」との戦いでもある。連戦や真夏の炎天下での試合、くじ運が大きく影響する一発勝負のトーナメントなど、独特なレギュレーションで行われている社会人リーグ。リーグ戦で勝ち点を重ねても昇格に直結しないことがある難しさを「理不尽」と表現する人が多い。多くのサッカー関係者がその過酷さに改善を求める声を上げている。有田氏も現状に疑問を持ってはいるが、捉え方は決してネガティブではない。
「レギュレーションに対して改善の声を上げることは必要です。しかし、この厳しいリーグを突破できなければ、Jリーグという舞台で戦う資格はないとも思っています」
学生時代に野球に明け暮れた有田氏から見れば、アマチュアからプロまでが一本の道で繋がっているサッカー界の仕組みは、それ自体が「夢のある素晴らしいもの」だという。サッカーに将来性を感じた。だからこそ、過酷な環境を言い訳にするのではなく、その過程をクラブの歴史として刻み、マインドを醸成するためのプロセスとして受け入れる。この覚悟こそが、COEDO KAWAGOE F.Cを異質な存在たらしめている。
目指すのは、単に美しいプレーをするサッカークラブではない。川越の歴史的背景にも通ずる、泥臭さや戦う姿勢を体現するゲームモデルが確立された「川越のサッカークラブ」だ。クラブが選手たちに求めるのは、地域の人々が自分たちの代表として誇れるような戦い方で勝利することだ。

なぜ川越なのか。空白地に見えた「これから100年続く文化」
有田氏は川越市に近接する富士見市出身だが、なぜ川越を活動地域として選択したのか。その問いに対する有田氏の回答から「経済的」「文化的」視点の戦略が見えてきた。
川越地域から見ると、東(さいたま市)には浦和レッズとRB大宮アルディージャ、西(所沢市)には西武ライオンズ、北(熊谷市)には埼玉武蔵ヒートベアーズとパナソニックワイルドナイツなど、強豪プロスポーツクラブに囲まれている。しかし、川越地域に限ればプロスポーツの「空白地」とも言えるのだ。この地域にはこれまで、地元の人々がおらがクラブとして熱狂できるクラブがなかったのかもしれない。
「川越の人々は、この街に対して非常に強い誇りを持っています。それはかつての川越藩から続く城下町としての深い文化に根ざしているものです」
その誇りの象徴の一つとして、COEDO KAWAGOE F.Cを街に根付かせようとしている。有田氏がその中の一つの指標として設けるのは、単なる試合の勝敗を数値化するのではない「COEDO LIFE TIME」という指標だ。サポーターをはじめとする川越地域の方々のクラブに対する夢中時間・彩り時間を、オンラインおよびオフラインの象限ごとに分け、それぞれでクラブに触れた時間の総和を非財務価値として可視化する。3世代にわたってクラブが日常と共にあることを目指しているのだ。その他事業としては、ハブとしての役割を持つ地域通貨を作りファンやスポンサーとの共創の機会を創出する構想など、ITを駆使した事業展開も積極的に進めている。
「100年続いて初めて文化になる」
派手なことをやりたいのではない。あくまでもクラブ目が指す先は、川越という街の歴史にCOEDO KAWAGOE F.Cを刻むことだという。より多くの川越地域の人々の生活に彩りを創出できるクラブになりたいと考えているのだ。

COEDOと共にある時間を増やしたい。そのための拠点を創る
有田氏の視線は、さらにその先の未来を見据えている。現在進行中の自前グラウンド建設構想だ。「自前の拠点を持つことは、クラブと街に計り知れないインパクトをもたらします」と有田氏が語るように、COEDO KAWAGOE F.Cが目指すのは、単なるトレーニング施設としてのグラウンドではない。地域の人々が集い、新たな活力を生み出すコミュニティの核となる場所だ。まだ多くを明かせないとしながらも、そのプランは着実に進行しているという。
近い将来、Jリーグの舞台に「川越」の名が刻まれるかもしれない。それは、一人の経営者が抱いた「異質」な挑戦が、街の「文化」へと進化した瞬間になるはずだ。
「Jリーグに上がる、売上を上げる。それだけでなく、川越地域の人々がどれだけ我々とともに時間を過ごしてくれたか。その時間の蓄積こそが、我々の本当の価値になる」
事務所を出ると、蔵造りの街は相変わらず賑やかだった。数年後、COEDO KAWAGOE F.Cのユニフォームを着てこの街を歩いている人々が、どのくらい増えているのだろうか。
(取材・文・写真:阿部 賢 写真提供:COEDO KAWAGOE F.C)
