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「三冠」に王手なるか 昨春の大敗を機に求めた変化…女子野球・クラーク仙台が体現する“自立”

2018年4月に東北初の高校女子硬式野球部として創部されたクラーク記念国際高校仙台キャンパス女子硬式野球部(以下・クラーク仙台)。3月23日に全国高校女子硬式野球選抜大会(以下・選抜大会)の初戦を迎える。昨年の同大会は履正社高との準々決勝で5回コールド負けを喫した。それ以降、あるテーマと向き合ってきたクラーク仙台は、「三冠」に王手をかけることができるか。

恵まれた環境下…指摘し合うミーティングで「指示待ち」を回避

クラーク仙台の強みの一つが、恵まれた指導環境だ。株式会社楽天野球団と業務提携している関係で、選手たちはいずれも元プロ野球選手の広橋公寿総監督、金刃憲人コーチや、楽天イーグルスアカデミーコーチから指導を受けることができる。

確実なスキルアップが見込める一方、課題もある。渡邊崇部長兼監督は「スタッフが優秀な分、どうしても『指示待ち』になりがち。得られる情報が多く、精査できない生徒もいます。今年で創部9年目を迎えて、ある程度基盤はできたので、『生徒が自立して動けるチーム作り』という新たなチャレンジをしている段階です」と話す。

選抜大会に向け練習に励む選手たち

3月上旬に練習グラウンドを訪れると、選手たちは練習の合間にミーティングを開き、意見をぶつけ合っていた。指導者から選手への一方通行ではなく、選手間で良かった点を称え、時には改善点を指摘する。昨春以降導入した、「自立」を促す取り組みの一環だ。また、ケースバッティングでは状況(アウトカウントや走者)や作戦(ヒットエンドランや送りバント)を選手自ら設定する場面も見られた。

2年生以下の新チームで競う全国高校女子硬式野球ユース大会(以下・ユース大会)は3連覇中だが、春の選抜大会と夏の全国高校女子硬式野球選手権大会では頂点に立てていない。昨春の大敗を機に、「スタイルを変えなければ」と危機感を覚えた渡邊部長兼監督のもと、改革が進んでいる。

ユース大会3連覇…勝って兜の緒を締めた主将と新2年生内野手

伊藤結月主将(新3年)も「クラークは選手同士、仲が良いのですが、仲が良すぎて意見を言い合えないのが勝ち切れない要因でした。今年は指摘し合う場面を増やしています」と話す。「日本一を獲るためには厳しさも必要。チームのために、心を鬼にして頑張っています」。気心の知れた仲間に意見するのには勇気がいる。それでも、勝ち続けるためには現状を打破しなければならない。

昨年、主将に就任した直後のユース大会では打率5割8分8厘(17打数10安打)をマークし、3連覇に貢献した。主将として経験した日本一は格別だったが、満足はしなかった。「クラークはユースだけ」。以前耳にしたそんな言葉が脳裏にこびりついていたからだ。喜びに浸りつつ、「今年こそ言われないように、まずは春、日本一を獲ろう」と勝って兜の緒を締めた。

ミーティングで意見を口にする伊藤

伊藤は仙台市出身。県外の高校に進学する選択肢もある中、中学時代に在籍した女子軟式野球クラブチーム「宮城デイジーズ」からクラーク仙台に進んだ先輩たちと「もう一回一緒にプレーしたい」と地元に残る道を選んだ。「(指導者や家族に)試合を観に来てもらって、活躍をすぐに伝えられるのが地元の良さだと思う」と伊藤。高校ラストイヤーはチームを三冠に導く姿を届けるつもりだ。

ユース大会優勝を素直に喜べなかった選手は他にもいる。下級生ながら二塁の定位置に座った萬谷紗也選手(新2年)は、全試合にスタメン出場するも打率0割7分7厘(13打数1安打)と苦しんだ。好機で凡退する場面も多く、「チームメイトに助けてもらった日本一。迷惑をかけてしまった」と唇を噛んだ。

萬谷は攻守ともに「自分が引っ張る」意識で臨む

「打撃も守備も気持ちの弱さが出てしまっている。試合に出る以上は責任を持って、思い切って強気なプレーをしたい。もう、迷惑はかけたくないので」。大好きな家族のもとを離れ、覚悟を決めて地元・北海道からクラーク仙台へ進学した。一時はホームシックになりながらもレギュラーを掴むまでに成長したからには、結果にこだわりたい。次こそは、歓喜の輪の中心に立ってみせる。

「お姉さん的存在」の新コーチも加入…躍進期す創部9年目へ

クラーク仙台には“新戦力”も加わった。今年2月に就任したばかりの佐合桃果コーチだ。女子野球の強豪である神戸弘陵高、IPU環太平洋大を経て、中米・コスタリカでJICA海外協力隊員として野球を指導した経歴を持つ。

貧富の差が激しいコスタリカでは、道具代などの費用がかかる野球はマイナースポーツ。幼少期は「女性はソフトボール」という風潮が残っており、紅一点で白球を追いながら肩身の狭い思いをしたこともあったが、異国の地で「今まで野球をできていたのは当たり前ではなかった」と実感した。

指導に熱が入る佐合コーチ

だからこそ、「勝つために一生懸命頑張るのも大事ですが、野球だけやって上手くなったところで、辞めたときに何が残るのか」との考えで技術面以外の指導にも力を入れる。そして、「人として大切なことを学んでほしいし、『野球で人の役に立ちたい』と思ってもらえたら嬉しい」と願う。女子野球界の後輩たちに伝えたいことは山ほどある。

選手と同性で歳も近いため、「良いお姉ちゃん的存在になれたら」とも思い描く。経験豊富な佐合コーチとのコミュニケーションが「自立」のヒントになるかもしれない。変わりゆくクラーク仙台の新しい春に注目だ。

(取材・文・写真 川浪康太郎)

読売新聞記者を経て2022年春からフリーに転身。東北のアマチュア野球を中心に取材している。福岡出身仙台在住。

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