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連敗「68」でストップ 0-34の”悪夢“から3年…負け続けた国立大が手にした特別な1勝

長い、長いトンネルを抜けた――。5月3日、宮城教育大硬式野球部が2022年秋以来、実に1315日ぶりとなるリーグ戦勝利を挙げた。連敗は「68」でストップ。たかが1勝かもしれない。ただ、勝ちに飢えていた選手たちにとっては特別な1勝だった。

「苦しみ、もがいてきましたが、今日やっと報われた」

5月3日の東北工業大戦。4点ビハインドの六回に打者10人の猛攻で追いつくと、八回に1死満塁から芳賀智也(4年=東北学院榴ケ岡)が押し出し死球を受けて勝ち越し、そのまま逃げ切った。

決勝点をもぎ取った芳賀は遊撃の守備位置で最後の打者のゴロを捌き、歓喜の瞬間、ガッツポーズを作った。「歴史を変えてやったぞ!」。心の中でそう叫んだ。

攻守にわたって欠かせない存在となった芳賀

「本当に気持ちが昂ぶりました。嬉しかったです。僕たちは1年生の頃からずっと負け続けて、1勝にこだわってきました。うまくいかないことばかりで、何をやっても1勝が見えない。苦しみ、もがいてきましたが、今日やっと報われた。今後忘れることのない1勝だと思います」

試合後、芳賀は興奮冷めやらぬままに歴史的な一戦を振り返った。今年の選手は誰一人勝利の味を知らない。年々増える連敗の数字は嫌でも意識した。今オフ期間は当時の「64」という数字を直視し、ミーティングで「絶対に俺らの代で連敗を止めよう」と誓い合った。有言実行の1勝だった。

1死も取れず…何度も見返した「0-34」のスコア

芳賀には苦い思い出がある。2023年4月9日。宮城教育大は東北福祉大に0-34で敗れた。1試合34失点は連盟ワースト記録。当時投手だった芳賀は二回から救援登板し、打者9人に対して3被安打、6与四死球、9失点で1死も取れずにマウンドを降りた。

1年春の入学直後に訪れた、あまりにも屈辱的なデビュー戦。蓋をしてしまいそうな過去だが、芳賀は向き合い続けた。「今でもたまにスコアを見返して、思い出すようにしています。最初にあの試合を経験したからこそ、ここまで野球をやろうと思えました」。いつの日か報われると信じて成長の糧にした。

1315日ぶりの勝利を挙げ盛り上がるベンチ

投手と野手の二刀流に挑戦するも結果が出ないまま、1年冬には「野球以外のことをやろう」と部を離れる決断を下した。しかし野球への未練は拭えず、元チームメイトがリーグ戦でプレーする姿を目にすると「また一緒にやりたい」と思いが再燃した。そんな矢先に高橋顕法監督から「戻ってきてくれないか」と電話があり、「戻ります」と即答。2年春に復帰し、その後は野手に専念した。

復帰後も「心を折られてばかり」の日々は続いた。ヒットが出ず、毎試合のようにエラーをする時期もあった。それでも前を向き、「チームを強くしたい。勝ちたい」という一心で練習に励んだ。大学卒業後は小学校の教員になる予定。どん底から這い上がった芳賀は「子どもたちに『辛いことも乗り越えられる』という話をして、何かに打ち込むことの良さを伝えたい。これからの人生にも生きる1勝です」と爽やかに笑った。

投手陣支える新コーチ、現役時代の“後悔”生かした指導

5月3日の試合では先発の泉陽泰(3年=三本木)が7回途中4失点と粘投し、2番手の山田悠太郎(3年=東北学院)が好救援で締めた。近年の課題だった投手力が改善されつつある。高橋監督は「常に学生のそばにいてくれる野口コーチが練習メニューを作成してくれていて、その効果が試合の中で出ている」と“右腕”の存在に言及した。

「野口コーチ」とは、昨年まで投手陣の中心として腕を振った野口武琉コーチのこと。宮城教育大の教職大学院に進んだ今年からコーチに就任した。

高橋監督(右)と野口コーチ

現役時代は先発、中継ぎ問わずフル回転して通算34試合に登板するも、白星はつかめなかった。4年秋の東北大戦で仙台一高時代の同期・佐藤昴と投げ合って9回163球完投をやってのけ、「踏ん切りがついた」はずだったが、引退後に「もっとできたのではないか」と後悔した。現在は走り方や歩き方を矯正するトレーニングなど、当時やり残したことを選手たちに伝えて実践させている。

勝利の瞬間はベンチで「震えました」。1年秋に経験した勝利とは別物だった。「どれだけ勝てていないかを知っていて、その道のりを歩んできたから(1年秋と)感じ方が違ったのだと思う。やっと1勝を刻めて、コーチというかたちですが彼らの勝利に関与できたのはすごく嬉しいです」。大学院を卒業する来年まで、投手陣を中心に後輩たちの指導・育成に注力する。

「希望」の1勝、翌日は連勝で22年秋以来の勝ち点奪取

高橋監督は5月3日の試合後、「一つ勝ったのを機に、学生が自信を持って、欲を持って練習に取り組んでくれれば良い。『勝ったからいいや』ではなく、『こういう練習をすればもっとうまくなって、結果が出る』というように考えて、明日からも頑張ってもらいたい」と話した。

芳賀も「この1勝をただの1勝にするのではなく、今後の希望になるような1勝にしたい。この先のリーグ戦でもたくさん勝ちたいです」と気を引き締めた。

東北工業大戦で粘投し久々の勝利に貢献した泉

実際、翌日の試合でも東北工業大を9-5で下し、こちらも22年秋以来となる勝ち点を奪った。久々の勝利が偶然ではなかったことは証明済みだ。教員養成の国立大で、他大学と比べて部員は少なく、練習環境も恵まれているとは言えない。だからこそ身につけた逆境を乗り越える術を生かし、歴史を変える次の「1勝」をつかみにいく。

(取材・文・写真 川浪康太郎)

読売新聞記者を経て2022年春からフリーに転身。東北のアマチュア野球を中心に取材している。福岡出身仙台在住。

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