「野球の入口になるスポーツ」名将・小倉全由氏も感じたBaseball5の可能性 教員約50人が躍動した「スピボン杯」
Baseball5の強豪チーム「Spirit Bonds」が、7月18日に交流大会「スピボン杯」を開催した。
昨年に続き教員をテーマに実施し、都内の小学校4校の教員約50名が参加。普段は子どもたちと向き合う先生たちが、この日は一選手として一つのボールを全力で追いかけた。
その様子を見届けたのが、高校野球界を代表する名将・小倉全由さん。
Spirit Bonds代表・宮之原健さんが日大三高時代に全国制覇を成し遂げた恩師でもある小倉さんは、教員たちが笑顔で躍動する姿に感銘を受け、Baseball5に野球界の未来へつながる新たな可能性を感じ取っていた。
(写真 / 文:白石怜平、以降敬称略)
教育現場への競技浸透への想いを込め今年も開催
Spirit Bondsは昨年そして今年と、日本選手権で2年連続ベスト4入りを果たしたBaseball5の強豪チーム。
2011年の日大三高時代に夏の甲子園で全国制覇を果たし、卒業後は東京学芸大を経て独立リーグ・福島ホープスと埼玉武蔵ヒートベアーズでプレーした宮之原健さんが24年4月に設立した。
21年限りで現役を引退した翌年にBaseball5と出会うと、同年には日本代表として世界大会にも出場。競技者として第一線を歩みながら、普及にも力を注いできた。
昨年3月からはチーム名を冠した「スピボン杯」を開催しており、日本選手権でしのぎを削ったチーム同士による真剣勝負をはじめ、東海や北陸など地方の教育委員会と連携するなど、各回にテーマを設けながら競技の魅力を発信している。

今回は昨年に続いて教員にスポットを当てており、テーマは「教員同士の交流」と「教育現場への普及」。競技経験の有無を問わず誰もが同じコートに立ち、Baseball5ならではのスピード感やチームワークを体感した。
自身も小学校教員である宮之原さんは、これまでも授業や学校行事を通じてBaseball5を教育現場へ取り入れてきた。
「自分たちで考える力も養えるので、Baseball5は教育にとってもすごくいい教材なんです。自主的・意欲的に取り組むことで、子どもたちの表情や動きが変わっていくのがすぐ分かります」
ただ競技人口を増やすだけではなく、Baseball5が持つ教育的な価値を広げることもSpirit Bondsの活動における大きな柱の一つである。

そのためには、子どもたちへ直接届けるだけではなく、日々教育現場で向き合う教員自身に競技の魅力を知ってもらう必要があると考えた。
「Baseball5が発展していくには、学校教育での理解&導入が不可欠と考えました。そのためにまずは、現役の教員のみなさんにプレーしていただき、『このスポーツの魅力を肌で感じていただきたい!』そんな想いから企画しました」
普段は子どもたちに教鞭を執る先生たちが、この日は一選手としてコートで躍動する。チーム一丸となってフォーメーションや戦略を練り込むなど、各チームが真剣に勝負に向き合った。
中でも大会を通じて存在感を示したのが、MVPを受賞した増谷剛先生と山本絵理先生だった。男女それぞれが攻守でチームを牽引し、大会を盛り上げる活躍を見せた。
決勝戦では中島信夫先生がトリプルプレーを完成させるビッグプレーを披露し、チームの優勝に大きく貢献。安田八志麻先生も相手守備の位置を見ながらコースを狙い分けるなど、複数安打を放って存在感を示した。
競技経験の違いを越えて、それぞれが考えながらプレーし、成功すれば仲間と喜び合う。真剣勝負の中にも笑顔が絶えず、教育とスポーツをつなぐ場として充実した時間が流れた。


全国制覇の恩師・小倉全由監督も来場「野球の入口になるスポーツ」
今年のスピボン杯には、宮之原さんにとって特別な存在が会場を訪れた。それは日大三高時代の恩師・小倉全由さんである。
高校野球界を代表する名将として長年第一線を歩み、一昨年・昨年と侍ジャパンU-18代表監督も務めた小倉さんは現在、日本高野連の技術振興委員として野球人口減少という課題とも向き合っている。
その多忙な合間を縫って足を運んだ理由もまた、「Baseball5が野球界の未来につながる可能性」を自らの目で確かめるためだった。

宮之原さんにとっては、高校3年間で野球だけでなく自身の生き方にも大きな影響を与えた存在だった。
「私の人生を変えてくれたこと、私の心身を大きく成長させてくださったのが小倉全由さんです。お忙しい中、時間を作ってくださったことに感謝の気持ちでいっぱいです」
2011年夏にはともに全国の頂点へ立った。それから15年の時を経て、今度は教え子自ら立ち上げたチームの大会に恩師を迎えることとなった。
競技開始前、小倉さんは宮之原さんから初めてBaseball5を教わった日のことを懐かしそうに振り返った。
「健がボールを持ってきて、『こういう競技なんです』って教えてくれたんです。それでグラウンドで選手やマネージャーも一緒にやってみようとなりました。みんな本当に楽しそうで、『これは面白いな』と思いました」
高校野球の現場で実際に取り入れてみると、野球経験のないマネージャーも機敏な動きを見せ、野球部員も夢中になったという。
その光景を見て、小倉さんは競技としてだけではなく、「野球への入口」としての可能性を感じた。
「体育の授業でもできますし、道具もほとんど必要ありません。バットは授業では危ないと言われる時代ですが、これなら誰でも安全にボールを扱える。ここから『今度はバットで打ってみたい』『硬式野球もやってみたい』という子どもが一人でも増えてくれたら嬉しいですね」

背景には、高校野球界が直面する現実がある。
現在、小倉さんが所属する日本高野連技術振興委員では、笹川スポーツ財団が公表した「10代で年に1回以上野球をする人の推計人口は約20年間で半減した」という調査結果も共有され、現状について議論を重ねているという。
「裾野を広げるというより、まず野球に興味を持ってもらうこと。そのきっかけをつくらないといけない。今日のような取り組みも、その一つになればいいと思っています」
開会式では、その思いを参加した教員たちへ直接届けた。
「Baseball5は本当に素晴らしいスポーツです。先生方から子どもたちへ、ボールを追う楽しさ、スポーツの楽しさを伝えていただきたい。そして手でボールを打っている子どもたちが、いつか『バットを振ってみたい』と思ってくれたら嬉しいです」

一方で、その先に期待する未来は野球だけではなかった。野球人口を広げながら、一つの競技としても発展してほしい。その二つの願いを込めて「Baseball5で世界を目指す選手も育ってほしい」というメッセージも添えた。
競技が始まると、小倉さんはコートの近くで一試合一試合を食い入るように見つめた。
教員同士が真剣にプレーしながらも笑顔を絶やさず、好プレーが生まれるたびに歓声が上がる。年齢や経験を問わず一つのボールを追いかける姿は、小倉監督が理想とするスポーツの姿そのものだった。

閉会式で小倉さんは「いい汗をかいて、いい顔で終われるスポーツ。それを子どもたちへ伝えてください」と全員へエールを送った。
イベント終了後、教員たちが選手としてプレーする姿をこのように振り返った。
「まず、大人がみんな熱い。本当にいい顔をしてやっている。スポーツってこうじゃないとと思いましたよ。見ていると、自分もあの中に入ってやりたくなる。その空気がすごく良かったです」

実際に大会を見届けたことで、小倉さんが以前から抱いていたBaseball5への期待は、さらに大きくなった。
「ボールを扱う楽しさを知って、そこから『バットでも打ってみたい』と感じてくれたら嬉しいです。いろいろなスポーツをやることは大切だと思います。
さまざま経験した中で、『やっぱり野球がやりたい』という子が一人でも増えてくれたら。その入口として、このBaseball5には大きな可能性があると思います」

恩師と教え子が見据えるBaseball5の未来
宮之原さんもBaseball5がスポーツや野球と出会う一つの入口になる可能性を感じながら、まずは自身が立つ教育現場から、その輪を広げようとしている。
今回参加した教員たちには、大会で得た経験をそれぞれの学校へ持ち帰ってほしいと願う。
「様々な発達段階にもおすすめなのがBaseball5です。単元として複数回にわたってBaseball5の授業をしていただいたり、近隣の学校や異動先の学校でもこの競技で得られる学びを広げたりして、Baseball5の授業を導入する学校を増やしたいです」
宮之原さんは今回、小倉さんに現在の活動を見てもらえたことを一つの節目として受け止めながら、恩師から教わったことを次世代へ継承している。
「Baseball5の魅力発信や、このスポーツの発展に向けて、力をいただけたら幸いです」
全国制覇をともに成し遂げた教え子が恩師にこのように想いを寄せ、今は野球界の未来を見据えながら新たな競技の普及に取り組む。その歩みを見届けた名将もまた、Baseball5の価値を「野球を広げる一つの答え」として確かに感じ取っていた。
(了)
