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「1年間かけてファンへ恩返しを」背番号1の“誇り”を未来へ継承する「PR1DEシリーズ」の舞台裏

8月30日の試合を最後に、25年間に及ぶ現役生活にピリオドを打つ栗山巧選手。

ライオンズ一筋25年、生え抜き選手として球団史上初の通算2000安打を達成し、通算2151安打を積み重ねる“ミスター・レオ”。

今シーズンはそんな背番号「1」の花道を栗山選手と球団、そしてファンが想いを一つにしながら築いている。その中心にあるのが、シーズンを通じて展開されている「PR1DEシリーズ」である。

栗山選手がファンへ恩返しをし、ファンが栗山選手へ感謝を伝える。それと同時に球団が両者の想いをつなぎ、形にするプロジェクトでもあった。

球団史上初とも言える壮大な取り組みは、どのようにして生まれ、形作られてきたのか。その舞台裏に迫るべく、プロジェクトの中心を担う事業部の栗原一彰さんに話を伺った。

(取材 / 文:白石怜平、表紙写真:©SEIBU Lions)

引退発表の直前、ロッカーで伝えられたこと

さかのぼること昨年の11月24日、栗山選手は契約更改後の会見で26年シーズン限りでの現役引退を表明した。

シリーズの始まりはその発表の少し前、ロッカーで交わされた会話にあった。

選手や監督、コーチといった現場と、イベントや広報などの球団運営をつなぐ役割を担う栗原さんは、栗山選手とも長年にわたって直接関わりを持ってきた。

引退の意向を公になる前に聞くこととなった栗原さんは、その時のことを明かしてくれた。

「私がロッカーで『ちょっといい?』と呼ばれまして、来季の去就についての想いを伝えられたんです。突然のことだったので、率直に言えば衝撃でした」

一度は言葉を失ったが、続けて語られた栗山選手の考えを聞き、その衝撃は使命感へと変わった。

「栗山選手の想いとしては、『1日だけの引退試合だと、その日しか機会がない。ずっと応援してくれた熱心なファンでも、そこに合わせられないかもしれない。

なので1年間かけてシリーズとして行うことで、ファンの皆さんに還元できる機会をたくさん作りたい』というものでした。その言葉を聞いた時、これはすぐに形にしなければならないと奮い立ちました」

記者会見を終えた直後から球団内では関係部署を横断した調整が始まり、プロジェクトが立ち上がっていった。

応援し続けてくれるファンへの想いから自ら提案した(©SEIBU Lions)

企画の数々は栗山選手と共につくり上げる

シリーズ名の「PR1DE」は“誇り”を意味する「PRIDE」に、背番号「1」を組み合わせたもの。このフレーズの選出からも、球団が抱く栗山選手への想いがすでに一つだった。

「自分の芯や軸を持っているという意味で、候補として他はあまり出なかったと思います。“PRIDE”という言葉がすぐ出てきて、全員一致で決まりました」

栗山選手の姿を表した「PR1DE」シリーズのロゴ

企画を考える上でも、記録を並べるだけでは栗山選手の魅力を十分に伝えることはできない。勝負師としての姿や人間性、社会貢献活動も含めて栗山巧という野球人の全てを表現することが運営側の役割だった。

「球団が一丸となって、栗山選手にふさわしいものを作っていこうという想いでやっていますので、より一層気を引き締めなければならないと感じています」

ただ、球団が一方的に企画を作っているわけではない。栗山選手自身もアイデアを出し、共につくり上げてきた。

その一つが今年限りで設立された「TEAM PR1DE ~栗山巧 OFFICIAL FANCLUB~」。球団として初めて設立する選手個人のファンクラブでは、“ファンと一体になってかけがえのない時間を過ごす”想いが込められている。

その象徴として生まれたのが、栗山選手も試合で身につけるリストバンドだった。

「ファンの皆さんと一体になれるものは何かと話をした時に、『リストバンドだったら付けられるよ』と栗山選手からお話をいただきました。実際に試合で着用していますので、ファンの皆さんと一体になれている実感があります」

今季はそのリストバンドを着用しプレーする(©SEIBU Lions)

PR1DEシリーズはベルーナドームで行われる公式戦にて3回に分けて実施されている。

第1回は4月11・12日のオリックス戦、第2回は6月26日〜28日までの北海道日本ハム戦、そして8月28日〜30日までの東北楽天戦。

注目を集めた企画の一つが、栗山選手の軌跡をたどる特別展示「PR1DE SERIES Episode」である。

4月開催時のEpisode1では、歴代ユニフォームを通じて25年間の歩みを振り返り、実際に使用している選手ロッカーも再現された。展示品を集める過程にも、栗山選手らしい裏話があった。

「『何か飾れるものはないですか』とロッカーで相談したところ、『そこにいろいろあるよ』と言って、遠征バッグに取り溜めてあった過去のユニフォームの数々をその場で見せてくれたんです。これはすぐに展示できると思いました」

「Episode1」では栗山選手のロッカーも再現された(©SEIBU Lions)

その他にも現役選手や監督、コーチが語る印象や、若手選手からの質問に栗山選手が答える企画も設けられた。ここでも本人の協力があったからこそ、展示が実現した。

「『(08年に獲得した)最多安打の盾も実家にあるから一緒に見てもらえる?』と伺わせてもらい、実際に見せていただきました。タイミングが合う時に栗山選手も(実家に)来て一緒に見ながら選びました。ですので、一つ一つの企画を一緒につくり上げているんです」

「PR1DE SERIES Episode」では自らも視察に訪れた(©SEIBU Lions)

心に残る1シーンにあった感動秘話

PR1DEシリーズでは、栗山選手の25年間の軌跡をファンと共に振り返る企画として、“心に残る栗山選手の1シーン”を決める投票も行われた。

数ある名場面の中で1位に選ばれたのが、2024年8月31日の北海道日本ハム戦で放った代打逆転2ラン本塁打だった。

1点を追う8回裏2死三塁、代打で登場した栗山選手は初球を捉え、ライトスタンドへ運んだ。この一打が決勝点となり、ベンチとスタンドは大きな歓喜に包まれた。

「私もこのシーンだと思いました」と予感していた栗原さん。その一打には知られざる物語があった。

「栗山選手は今も社会貢献活動を継続しているのですが、(栗山選手に)よくファンレターを送ってくれる子がいるんです。その子から、『またみんなと野球を観に行きたいです』という手紙が6月上旬辺りに届いたんです」

「心に残る一打」では24年8月の逆転本塁打が1位に選出された(©SEIBU Lions)

栗山選手はその子どもたちをこの試合に招待し、試合前にもスタンドで直接交流を深めていた。

14年に球団初のゴールデンスピリット賞を受賞するなど社会貢献活動には力を入れており、その姿勢を長く間近で見てきた栗原さんだが、この時だけは普段と違ったシーンがあったという。

「子どもたちに『今日打つから、あと勝つから!』と言っていたんですよ。普段、社会貢献活動の時に“打つ”とか“勝つ”とか成績に関することって言わないんですけども、その日は言ったことをすごく覚えてて」

そして、有言実行の一打。自身の本塁打で勝利へ導いてみせた。言葉に表しきれない感情と共に栗原さんが引っかかっていたあの“疑問”をやんわりと本人に質問した。

「翌日栗山選手に会った時『昨日の試合良かったよね?子どもたちもすごい喜んでくれて、本当嬉しかったよ!』って話されていました。

その時に『普段栗山さんって、社会貢献活動の時に打つ・勝つなど成績のことを言っていないですけど、昨日は言って本当に打ちましたね!』って言ったら、『そういえば、そうだね(笑)』と。

でも本当に打ったのがすごくて。うん、あれは忘れられないです」

有言実行の一発は熱狂と共に感動も合わさっていた(©SEIBU Lions)

背番号1が未来のライオンズへ残すもの

PR1DEシリーズは、ファンと共に栗山選手の功績を振り返るだけのものではない。この企画そのものがレガシーとなり、ライオンズの未来へ受け継がれる特別な意義を持っている。

「栗山選手は『今在籍している選手やこれから入団する未来のライオンズの選手に対して、示せるものを示していきたい』と話されています。それは事業側も同じ考えを持っています」

長くチームに貢献した選手へ、球団そしてファンと互いに1年間をかけて感謝し合う。その姿勢を示すことは、未来のライオンズに明るい未来を照らすことにもつながっている。

「球団そしてファンのみなさんがそう思えるきっかけを栗山選手が与えてくれたのだと、本当に感謝しています。PR1DEシリーズを、今後のライオンズの土台になる取り組みにしていきたいんです」

栗山選手と共に築いた「PR1DE」シリーズがライオンズの未来の礎になる(©SEIBU Lions)

4月と6月の開催を終え、残るのは8月28日から30日までのファイナル。最終日には栗山選手の引退試合が行われる。球団としてどのようにシリーズを締めくくりたいか。その問いに、栗原さんは力強く答えた。

「球団が選手のことを真剣に考え、ファンの皆さんと選手の絆をつなぐ役割を果たすこと。そして栗山選手が伝えたいことを、このシリーズを通じてそれぞれの思いで受け取っていただけたら嬉しいです」

栗山選手がロッカーで託した「1年間かけてファンへ還元したい」という想いから始まったPR1DEシリーズ。

そこには背番号1が築いてきた功績だけでなく、その想いを形にする球団の情熱と、長く支えてきたファンの感謝も交わっている。

この壮大なプロジェクトが幕を閉じる時、ライオンズに残されるのは一人の選手を送り出した記憶だけではない。選手と球団そしてファンが共につくり上げた新たな誇りが、未来のライオンズを照らす道標として受け継がれていく。

(了)

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