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「あの夏を取り戻せ」開催から1年 実行委メンバーの山形大4年生が綴る“熱戦の記録”

昨年11月、新型コロナウイルス禍で全国高校野球選手権大会が中止となった2020年の高校球児が集結する「あの夏を取り戻せ~全国元高校球児野球大会2020-2023~」が甲子園球場などで開催された。大会開催からまもなく1年。実行委員会は今年10月からメディアプラットフォーム「note」での発信を再開し、大会レポート記事を投稿している。実行委員会メンバーの一人でnoteを運用する山形大学4年・二瓶祐綺さんに話を聞いた。

全試合の“詳細レポート”をnoteで公開予定

「残せるものは情報として残したいので、すべての試合のレポート記事を投稿する予定です。当時大会が開かれることを知らなかった人にはどんな試合が行われたかを伝え、大会を知ってくれていた人には振り返る機会を提供したいと考えています」

noteの記事は1試合ごとにアップされており、試合展開が写真とともに詳細に記されている。両チームのスタメンや各選手の個人成績も掲載。単なる試合結果にとどまらない、臨場感あふれる文章と構成が目を引く。

noteのレポート記事を執筆する二瓶さん(左端)

記事を執筆する二瓶さんは、「あの夏」のプロジェクト発足から約3か月後の2022年10月から運営に参加。当時からnoteに各参加校の代表選手を対象にしたインタビュー記事などを投稿し、大会周知に努めた。開催が正式に決まってからは当日のスケジュール調整なども担当。最終的に学生約50人が集った実行委員会の中心メンバーとして活躍した。

選手、保護者でなくとも残った“モヤモヤ”

二瓶さんは仙台市出身。小学4~6年の3年間野球をプレーし、中学時代は卓球部、高校時代は文芸部に所属した。

競技を離れてからは野球観戦が趣味になった。特にのめり込んだのが高校野球。宮城県大会を観戦するため、暇さえあれば県内の球場に足しげく通った。

野球経験は3年、その後野球観戦が趣味に

高校最後の年である2020年は、自身が通う仙台一高の同級生が野球部の主力を張った。また小学生の頃「野球をやろう」と誘ってくれた友人の鎌田健太郎選手(現・東北工業大学4年)が仙台高でエースを務めていたこともあり、二瓶さんは「あの夏」の高校野球観戦を例年以上に楽しみにしていた。

そんな矢先、新型コロナウイルスの感染拡大を受け全国高校野球選手権大会の中止が決定。宮城では独自大会が開催されたが、試合は原則無観客で、観戦できるのは控え部員と部員の保護者だけだった。「仕方ないと分かっていてもショックでした。選手、保護者のための大会だと理解しているつもりでも、どうしても納得できない、モヤモヤしたものが残りました」。仙台一は4強入りし、鎌田は準優勝投手になったものの、その雄姿を球場で目に焼き付けることはできなかった。

成功につながった「選手を幸せにしたい」思い

大学進学後も「モヤモヤ」は消えなかった。サークルにも所属せず、時間を持て余す日々が続く中、ネットニュースを読んで知ったのが「あの夏」のプロジェクト。思いに共感し、発起人の大武優斗さん(武蔵野大学4年)にSNSのダイレクトメッセージで「何かできることがあればお手伝いさせてください」と連絡した。

運営への参加を快諾してもらい、文芸部で小説を書いた経験があったためnoteの運用を任されることに。ほぼすべての出場校を取り上げ、二瓶さんは約40校の代表選手のインタビュー記事を執筆した。大会の成功に向け没頭する日々。「あの夏」以降、止まっていた時間が動き出した。

昨年3月、2020年夏の独自大会優勝校など42チームが参加するかたちでの大会開催が正式に決定。noteで地道に情報発信を続けた効果もあり、大会の知名度も徐々に高まっていった。

参加選手全員が甲子園のグラウンドでプレーした

当初は自身の「モヤモヤ」を晴らすのが目的だったが、大会が近づくにつれ「選手を幸せにしたい」との思いが強まった。例えば大会初日のスケジュールと内容。当初の案では、実際に甲子園のグラウンドでプレーできるのは抽選で当たった数チームや一部選手だけだった。しかしすべての参加選手にプレーの機会を与えるため、これを変更。午後は抽選で当たった4チームが特別試合2試合を戦い、午前中はそれ以外の38チームが5分間のシートノックを行った。

大会は3日間開催し、2日目以降の交流試合は甲子園ではない兵庫県内の5会場で行ったものの、参加した約700人の選手全員が「あの夏」踏むはずだった甲子園の土の上で白球を追った。大会終了後、選手たちから「ありがとう」の言葉を受け取った二瓶さんは胸をなで下ろした。

後世に伝えたい“一度きり”の貴重な体験

「あの夏の甲子園が中止になってよかったとは言えないですけど、中止になったからこそ貴重な体験をすることができました」と二瓶さん。一度きりの特別な3日間を後世に伝えるべく、今も熱戦の記録を綴っている。

大会は無事成功を収めた

そして「今は配信環境が整って離れていても野球を観られるようになりましたが、球場で生の野球を観て現場の空気を感じるのは格別です」と話すように、野球観戦が当たり前にできる日常のありがたみを再認識している。大学では情報工学などを学んでおり、将来的に野球と結びつける方法も模索中。これからも野球を愛し続けるつもりだ。

(取材・文 川浪康太郎/写真提供 あの夏を取り戻せ実行委員会)

読売新聞記者を経て2022年春からフリーに転身。東北のアマチュア野球を中心に取材している。福岡出身仙台在住。

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