レッズランドから世界へ フットゴルフ日本代表 平野靖之選手の挑戦

2022年から2023年は国際的なスポーツイベントの開催が多い。サッカーW杯、野球のWBC、バスケットボールW杯、ラグビーW杯など。盛り上がるスポーツシーンにおいて、注目してほしいもう一つのW杯がある。フットゴルフW杯だ。日本ではまだあまり知られていないフットゴルフというスポーツ。名称から想像できるかもしれないが、足でボールを蹴るゴルフだ。世界的にプレー人口は増え、今回の2023年アメリカフロリダ大会で4回目を迎える。日本でもプレーできる場所(主にゴルフ場)は増えているが、埼玉県さいたま市にある総合型地域スポーツクラブのレッズランドもその一つだ。今回はそのレッズランドを拠点に活動するフットゴルフ選手、平野靖之選手にフットゴルフの現状について伺った。平野選手は自ら選手として第一線でプレーしながら、日本での普及活動の中心メンバーとしても活動している。

フットゴルフは気軽に始められるスポーツ

フットゴルフはとてもシンプルなスポーツだ。それが魅力の一つであり、年齢や性別に関係なく誰もが一緒にプレーできる。ルールはゴルフとほとんど一緒。大きな違いはサッカーボールを足で蹴ってカップに入れるというもの。ワールドカップが行われるほど競技としての盛り上がりを見せる一方、エンジョイスポーツや生涯スポーツとしても注目される。

埼玉県さいたま市にレッズランドという総合型地域スポーツクラブがある。Jリーグの浦和レッズの関連施設として、サッカーをはじめとしてフットサルやテニス、ランニングなど様々なスポーツを楽しめる、荒川河川敷にある広大なスポーツフィールドだ。現在は不定期ながら、フットゴルフの大会も開催されている。「レッズランドオープン」として誰でも参加可能なこの大会には、実は筆者も出場したことがある。日本フットゴルフ協会公認の大会ではあるが、参加資格に制限はない。同協会の主催大会含め全国各地で開催されているフットゴルフの大会には、基本的に誰でもエントリー可能なのだ。

「ジャパンオープン」などの、日本代表選考につながる競技志向のツアーもあれば、普及活動の一環で行われるエンジョイ志向のワンデイ大会もあり、興味のある方は検索してみてほしい。レッズランドではサッカー場の周りに簡易コースが用意されており、不定期で練習場として開放されたり、イベントが開催されたりしている。

レッズランドで子供たちにフットゴルフを教える平野選手

日本代表選手から見るフットゴルフの現状

レッズランドオープンを運営するのは平野選手だ。平野選手は現役フットゴルフ選手だが、普段は浦和レッズ後援会で勤務しながら、レッズランドで大会やイベントを運営している。

日本代表に初選出されたのは2016年に開催されたアジアカップのとき。それ以降、普及活動にも尽力しながらトップ選手として活躍し続けている。その平野選手が感じる日本のフットゴルフ界の現状とは、どのようなものだろうか。

「2016年と比べるとかなり成長しました」というのが第一声だった。フットゴルフコースには、ゴルフ場が独自に作ったコースと日本フットゴルフ協会の公認コースの2種類がある。フットゴルフがプレーできる施設は全国に約30箇所あり、北は北海道から西は山口県まであるという。

同時に選手も増え続けている。選手と言っても競技レベルの選手だけではない。フットゴルフの魅力の一つに、生涯スポーツとして誰もが簡単に気軽にプレーできるという点が挙げられる。サッカー経験など必要なく、ボールが上手く蹴れなくても、ゴルフに比べると意外にもカップインできてしまうのだ。

「SNSでも話題にあがるようになってきましたね」と平野選手が話す通り、最近は著名なサッカー選手やタレントがプレーするようになり、SNSで発信されることが増えた。レッズランドでは、三菱重工浦和レッズレディースの選手たちがプレーする姿が度々投稿されている。

コンテンツとして盛り上がりを見せつつあるフットゴルフだが、平野選手は競技者目線で以下のように語った。

「マネタイズができていないのが課題です。プロライセンスがあるわけではなく、純粋なプロ選手は数多くは存在しません。またイベントや大会は、認知度は上げられてもほとんど収益にはならないのが現状です」

2022年には、日本フットゴルフ協会が主催するジャパンツアーの一つである静岡オープンを制した

一部のトップ選手にはスポンサーがつくケースがあるが、得られた資金の大半は施設使用料や遠征などの活動費に充てられる。大会で入賞すれば賞金が出るが、ゴルフほど大きな金額にはならない。

それでも平野選手は普及活動を止めない。露出も環境も増えたことで、フットゴルフに興味を持った人が参加しやすくなったと感じている。次のステップとして「子どもたちがもっとプレーできる環境を作ることが大事。小学生〜大学生の選手を増やしたいです」と話す。

そのためにはもっと気軽に立ち寄れる施設や、サッカー関係者がもっとフットゴルフに触れられる環境が必要だと考えている。フットゴルフの発祥の地であるオランダのサッカー協会には、フットゴルフがプレーできる場所があるとのことだ。

レッズランドとフットゴルフ

レッズランドはフットゴルフを気軽にプレーできる施設である。現在はコースは常設ではなくなったが、サッカーコートの周りにはフットゴルフ用のカップが用意されており、コース開放やイベント時にはすぐに使えるようになっている。

なぜレッズランドがフットゴルフを始めたのだろうか?

2人の存在が影響している。一人は平野選手だ。その平野選手がレッズランドで活動するようになるきっかけとなった人物が、もう一人である。平野選手が「ホリさん」と呼ぶその人は、元浦和レッズの選手で現在はスタッフとしてクラブに在籍している堀之内 聖氏だ。

現役引退後に営業部スタッフとしてクラブに戻ってきた堀之内氏。当時、いち早くフットゴルフを経験していた堀之内選手が、首都圏でもプレー可能な場所を設けるべくレッズランド内にコース作成を打診した事が始まりであり、レッズランドオープン開催時にも頻繁にゲストとして登場していた[1] 

参加者も増えてきた第3回大会あたりから、人手が足りなくなり始める。そこで日本フットゴルフ協会経由で派遣されたのが平野選手だった。平野選手と堀之内選手は、平野選手が日本代表に初選出されたアジアカップの際に同部屋だった仲だそうだ。その後、平野選手はレッズランドで勤務するようになり、レッズランドオープンの担当者となる。浦和レッズ後援会に籍を移した現在も、平野選手によって大会は運営されている。直近では2023年5月4日に開催された。

レッズランドオープンの優勝者が着るのは、グリーンジャケットならぬレッドジャケット

「ゴルフコースほど敷居は高くなく気軽に来場できますし、都心からも近いのがレッズランド。フットゴルフのショールーム的な存在にしたい」と平野選手は考えている。フットゴルフが今ほど認知されていない頃にコースを設置したレッズランド。その貢献度は大きい。基本的にはサッカーで利用されることが多いレッズランドにとっても、フットゴルフが種目として存在することのメリットはあるだろう。総合型地域スポーツクラブとしてサッカー以外のスポーツの普及にもなるからだ。サッカーとゴルフが融合したスポーツであるフットゴルフの普及には、サッカーの力も必要だと平野選手は考えている。これからもレッズランドは、フットゴルフの普及のための重要な拠点となるだろう。

誰でも世界を目指せるのがフットゴルフ

誰でもプレーできるのがフットゴルフだ。それ故に、レッズランドのように気軽に訪れることができる施設は、もっと多く存在していても良いのではないかと思う。しかし、緩やかに拡大を続けているのが日本のフットゴルフ界だ。それには理由がある。「日本フットゴルフ協会が安易な普及活動はしない方針なんです」平野選手が口にしたのは、一見これまでの話とは矛盾しているかのように聞こえる意外な言葉だった。

つまり、一過性のブームにしたくないので、安売りはしないという意味だ。目先の利益を求めるのではなく、時間をかけて浸透させたい。そうすることで日本にフットゴルフが確実に根付いていく。そんな狙いがあるのだ。

「もっと現場(ゴルフ場など)に提案すれば増えていたかもしれません。でも逆に現場側から興味を持ってもらう状況にしたいと思っています」選手によっても考え方は違うが、平野選手はこの状況を悲観してはいない。

普及メンバーとして小学生にフットゴルフを教える

それでも2023年はチャンスの年だ。ワールドカップが開催される。直近の日本代表としての活動は、コロナ禍の影響で2018年ワールドカップにまで遡る。それから現在までの間には日本開催のワールドカップも予定されていたのだが、中止は避けられなかった。

約5年ぶりに開催されるワールドカップの舞台はアメリカのフロリダだ。5月28日に開幕するが、エントリー選手は1000人を超えているという。前回のモロッコ大会は約400人から倍以上になった。世界中でフットゴルフが普及していることがわかる。各国に割り当てられるエントリー数は、選手登録数によって決まるが、日本からは過去最高の52人[1] が出場し、個人戦と団体戦を戦う。

今大会は日本開催も提案したそうだが実現しなかった。しかしアメリカで開催されることにより、フットゴルフ関係者はあることに大きな可能性を感じている。2028年に五輪がアメリカのロサンゼルスで開催される。そう、フットゴルフはオリンピック種目を目指しているのだ。2024年のパリ五輪での正式種目入りを目指したが、叶わなかった。今回のワールドカップがアメリカで開催されることについて平野選手は「開催されることを信じているし、自分自身もその目標達成に向けて努力していかなければなりません。2028年のオリンピックを目指したいです!」と力強く語った。

緩やかに、でも確実に普及している日本のフットゴルフ。成長途上の日本においては誰にでも日本代表になれるチャンスがある。レッズランドオープンのような初心者歓迎の大会は、全国各地で開催されているので調べてみてほしい。レッズランドでは2023年夏から廻り放題のコース開放を予定しているそうだ。(2023年5月26日現在、詳細は未定。決まり次第Webサイトにアップされるとのこと。)フットゴルフは観るのも楽しいが、プレーしてみることをお勧めする。

(取材・文:阿部 賢 写真:平野 靖之)

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