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今年は何が!? 今、北海道の社会人野球が面白い! ~室蘭シャークスの全国大会出場を振り返る~

2018年、北海道ガス野球部の創部により、北海道の社会人野球は間違いなく面白くなりました。
 
「超成長 北の青い炎となれ!」というスローガンの通り、とてつもないスピードで成長していった北ガス。創部からたった5ヵ月後の9月に行われた社会人野球日本選手権北海道地区予選では、室蘭シャークス・JR北海道硬式野球クラブ・航空自衛隊千歳と比肩するまでのチームになっていました。


 

そして、ここ数年全国大会への切符を全て手にしてきたJR北海道を下し、室蘭シャークスが社会人野球日本選手権への出場を決めたのも、2018年の変化のひとつでした。地域全体の競争が激化することは、北海道のチームが全国の頂を目指すためには必要不可欠。今年は更に面白い戦いを見せてくれることでしょう。
 
2019年のシーズンをより楽しむために、北海道の社会人野球が大きな変化を見せた昨年秋を振り返ります。
 

※役職、在籍年数などは2018年度のものです

 
 

室蘭シャークス、5大会ぶりの社会人野球日本選手権出場

 
 

それは、未知の世界への挑戦でした。
 
多くのメンバーが全国の舞台を知らない若手。そんな室蘭シャークスが、5大会ぶり4回目の社会人野球日本選手権出場を決めたのです。


 

北海道地区代表の座をかけて戦ったのは室蘭シャークス、JR北海道硬式野球クラブ、北海道ガス、航空自衛隊千歳の4チーム。総当たりで1戦ずつ行われ、2日目には3チームが1勝1敗と並ぶ中、昨年まで4大会連続出場のJR北海道が2連勝で王手をかけました。


 

JR北海道の3戦目の相手は室蘭シャークス。延長戦までもつれこんだこの試合は、崖っぷちだった室蘭シャークスがサヨナラ勝ち、これで2チームが2勝1敗となり、翌日に代表決定戦が行われることとなりました。
 
運命の代表決定戦、1回裏に先制したのはJR北海道です。2回にも2死から連打で満塁のチャンスを作ったJR北海道でしたが、追加点は取れず。5回表、今度は室蘭シャークスがチャンスを作ります。突然の天気雨の中、1死1,2塁からルーキーの青木健太選手(駒大苫小牧-駒澤大)がレフト線に適時2塁打を放ち1-1の同点に。
 
束の間の雨が止んだと同時に6回7回と試合の動きも止まり、迎えた8回表。2死1,2塁から11年目のベテラン比嘉泰裕外野手(沖縄水産-富士大-高松アークバリアドリームクラブ)の放った打球は、ライト線への適時2塁打に。2点を追加した室蘭シャークスがこのままリードを守り切り、念願の京セラドーム行きの切符を手に入れました。
 

自分が投げない方がいいんじゃないか、と思ったこともあった

 
この大会で最高殊勲選手賞を受賞した下川原駿投手(3年目・浦河‐日体大)は全4試合に登板、気迫溢れるピッチングでチームの優勝に大きく貢献しました。4試合で計14回1/3を投げ、失点は先発した初戦で北ガスの寺田和史外野手(1年目・聖望学園‐東北福祉大)に打たれた3点本塁打のみ。


 

しかし、このとき打たれた3点本塁打は、下川原投手、そしてチームを絶望の淵に突き落とすこととなったのです。
 
「ボール球だったし投げミスではありませんでした。前の打者にチェンジアップを打たれていたのでインコースの速い変化球を投げたのですが、ホームランにした相手の技術が上でした。」
 
2点をリードしていた室蘭シャークスはこの3点本塁打で逆転を許し、そのまま敗戦。


 

この大会では各チームと1戦ずつしか戦わないため、3勝すれば最短で京セラドーム行きが決まります。初戦の相手、北ガスは今年4月に創設された新しいチーム。成長著しいとはいえ、室蘭シャークスも北海道を代表するチームのひとつとして長年戦ってきた自負があります。その上、3戦目には4大会連続出場のJR北海道が控えているため、初戦は絶対に落としてはいけませんでした。
 
このあと2勝できても、他のチームが3勝した時点で京セラドーム行きはなくなる。次の試合に向け気持ちを切り替えなければならないことはわかっていても、絶望感が襲ってきます。「絶対に勝たなきゃいけない試合で負け投手になってしまった」と、下川原投手も失投ではないあの1球に悔しさを募らせました。
 
その夜、チームはミーティングを行いました。磯貝剛監督が常に言う「勝負に対する根性が勝(まさ)っている方が勝つ」の言葉。投手にとってはあの1球、野手にとってはあと1本、それが足りなかったこの負けはよりナインを奮い立たせました。
 
翌日の航空自衛隊千歳戦。何かが吹っ切れたかのように室蘭シャークスの打線が爆発、7回までに11点を挙げ、11‐1でコールド勝ちとなりました。初めて鹿児島から北海道まで来てくれたという両親の前で先制の1点本塁打を放ったのは、3年目の岩下誠弥選手(鹿児島実‐第一工業大)です。


 

高校入学間もない頃、ファウルボールを追って捕手と衝突し右足を粉砕骨折、14本のボルトを入れたままの生活を余儀なくされ、リハビリの日々だったという岩下選手。ひざを途中までしか曲げることができないため走塁もままならない状態でしたが、その分バッティング練習に励み3年時には代打の切り札としてベンチ入り。今でも右足は骨折前のようにとはいきませんが、本塁打も打てるバッティングと磯貝監督が言う「絶対決めるという強い気持ちがある」ところは大きな魅力です。
 
そして、この日は2番手で投げた下川原投手。5回裏から登板、3回を被安打0に抑え勝ち投手となりました。前日の敗戦後には、磯貝監督に「終わったことは仕方がない。明日もまたあるから次に向けて準備するように」と言われ、「今日も投げるとは言われていたので、準備はできていました。3イニング投げ切れたので結果としては良かったです。(昨日)負け投手になってしまったので、自分がチームの勝ちに貢献できるような投球をしようと気持ちを切り替えました。もう1個も落とせない。JRに勝たないことには(本戦に)行けないので、JRを倒したいです」と、さらに気を引き締めていました。

 
 

ここまでの道のり

 

3戦目のJR北海道戦では2回、代表決定戦では4回1/3を投げ、いずれも無失点に抑えた下川原投手は、最高殊勲選手賞に輝きました。
 
この1年、苦しんで苦しんで手にした京セラドーム行きの切符と名誉ある賞。閉会式後、溢れんばかりの笑顔で勝利の余韻に浸る下川原投手に近づいていくと、その第一声は「疲れました。早く帰って休みたいです(笑)」でした。


 

ドラフト解禁年であった前年、下川原投手はプロ野球への並々ならぬ思いを抱えて過ごしましたが、願いは叶いませんでした。社会人3年目となった2018年、再びプロを目指して日々練習に励むも実戦では結果が出ず焦るばかり。思いつめた下川原投手は、半田勇気コーチ兼捕手のところへ向かいました。
 
「頑張ってはいるが上手くいかない。気持ちが入らない。このままだとみんなに迷惑がかかるので、自分が投げない方がいいのではないか。コーチはそんな僕の話をうんうん、ってただ聞いてくれたんです。それですっきりしました」
 
半田コーチは、ギリギリまで思いつめてから来た下川原投手に「悩みがあるならその都度言え」とも言ってくれ、磯貝監督や夏井大吉コーチ兼内野手も下川原投手を気にかけてくれました。
 
「マウンド上の気迫を出した投球がチームに必要になるときが来る」と磯貝監督に言われた下川原投手は、「マウンドに上がるからには、上がれないピッチャーの思いも背負っていいピッチングをしなければ」と気持ちを取り戻します。


 

「プロに固執してきた自分がいたのかな、と思います。考えるのをやめてチームの勝ちのために自分のピッチングをしようと思いました。都市対抗の予選後からストレートを磨いてきました。困ったときには原点に返る。それはやっぱりストレートで、打たれたとしても悔いがないような球を選択したいと思いました」
 
室蘭シャークスには、瀬川隼郎投手(日本ハム)、佐藤峻一投手(オリックス)、鈴木駿也投手(ソフトバンク)とプロ野球経験者も3人います。「学ぶことは多いです。技術的なことも多いけど、リラックスして投げることについては佐藤さん、フィールディングは鈴木さんというように、いろいろなことが学べます。ライバルと言ったらおこがましいですが、あの3人に負けているようじゃいけない。(今大会、磯貝監督に)4試合全部投げさせてもらえたことは粋に感じていました。僕が引っ張って3人や他の投手陣の刺激になれたらと思っています」
 
どん底を味わったとは思えないくらい、強い気持ちを見せる下川原投手。日々の成長に加えて、この大会での4日間は下川原投手にかけがえのないものを残したのでしょう。
 
「今日の勝った瞬間、マウンドに集まった瞬間が今までの野球人生で一番嬉しかったです。実は今までそういう経験がなかったんですよ。試合も、社会人に入ってから今日が一番良かったです。僕も4日連続投げたけど今日が一番体のコンディションが良かったし、チームも負けていて追いついて勝って!(他チームの補強選手での出場はあるが)チームでの全国大会は初。元々失うものはないですし、周りのチームは絶対自分たちより上なので胸を借りるつもりでいきます」

 
そして迎えた社会人野球日本選手権。室蘭シャークスは東海理化と1回戦を戦いました。1回表に1点先制されるも、9回裏2死1塁から田中貢大内野手(2年目・神村学園‐第一工業大)の適時3塁打で同点に追いつきます。ここでも、今年の室蘭シャークスらしい底力を見せましたが、タイブレークとなった延長12回に3点を失い惜しくも敗戦。
 
下川原投手は、7回表に登板し先頭に四球を与えたものの、無失点で終えました。
 
「珍しく緊張しました。初めての(京セラドームの)マウンドで、最初は思うように投げられなかったけど、四球を出してからは投げられました。去年から成長したと感じる部分はいっぱいあったけど、試合に出て結果を出してなんぼなのでそこは納得できていません。こうやって全国大会に来ることがチームとしての当たり前になるようにやっていきたいと思います」
 
 
 
こうして2018年、北海道の社会人野球は全ての公式戦を終えました。そして2019年4月、新シーズンはすでに始まっています。北ガスの創部により、一度はなくなってしまったJABA北海道大会も復活し、ますます盛り上がりを見せるであろう北海道の社会人野球。今こそ観るべきときではないでしょうか。

 

5月には桜が咲き、6月には過ごしやすい気候となる北海道。グラウンドでは熱き戦いが観られます。もちろん、全国各地で行われる大会にも北海道のチームは参加していますが、一度にたくさんのチームが観られるのは北海道で開催される大会だけ。

 
ぜひ、サイトをチェックして足を運んでください。

JABA北海道地区連盟
http://www.jaba-hokkaido.ne.jp/

JABA
http://www.jaba.or.jp/

山本祐香
好きな時に好きなだけ神宮球場で野球観戦ができる環境に身を置きたいとふと思い、OLを辞め北海道から上京。「三度の飯より野球が大好き」というキャッチフレーズと共にタレント活動をしながら、プロ野球・アマチュア野球を年間200試合以上観戦。気になるリーグや選手を取材し独自の視点で伝えるライターとしても活動している。記者が少なく情報が届かない大会などに自ら赴き、情報を必要とする人に発信する役割も担う。趣味は大学野球、社会人野球で逸材を見つける“仮想スカウティング”、面白いのに日の当たりづらいリーグや選手を太陽の下に引っ張り出すことを目標とする。


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