首都大学野球秋季リーグ戦、開幕間近! 各チームの特徴は?①<桜美林大学・帝京大学>
首都大学野球秋季リーグ戦が、今年も始まる。
6校で戦う1部リーグ戦は9月11日(土)、10校で戦う2部リーグ戦は9月18日(土)に開幕予定だ。1部においては、新型コロナウイルス感染拡大の影響で、昨年の春はリーグ戦自体が中止となり、秋は1戦総当たり・勝率制、今年の春は2戦総当たり・勝率制と、シーズンごとに違う運営方式が採用された。
今季は、9月4日(土)の開幕と、従来の「同カードで2勝先取したチームに勝ち点が入る勝ち点制」で行われることが発表されたが、その後開幕日と運営方式の変更が改めて発表された。試合は9回までで延長戦はなく、2戦総当たり勝ち点制(ポイント制)で1試合ごとに勝ち1点、引き分け0.5点が与えられる。
新しいルールの中で、各チームはどんな戦い方をしてくるのだろうか。また、新チームのお披露目となる春とは違い、秋は1年の集大成が見られるシーズンだ。
この秋から新しく出てくる戦力も楽しみだが、今回は春の戦いを振り返りながら、各チームの注目ポイントをあげていきたい。全3回の連載で2チームずつ紹介する。第1回は、桜美林大学と帝京大学を取り上げる。
春季リーグ1位 桜美林大学
上には上がいる。
身を持って知ることができたのも、リーグ戦で優勝したからこそだ。
春季リーグ戦で9季ぶり2度目の優勝を飾った桜美林大は、首都リーグの代表として全日本大学野球選手権大会に挑んだ。初戦の相手は、上武大だった。神宮球場の3塁側を陣取ったナインは、いつもと変わらず元気に声をかけ合いながら試合に臨んだ。
チャンスはさっそく訪れた。先頭の河原木皇太外野手(3年・横浜)が、試合開始と同時にレフト後方へ2塁打を放つ。2番・稲村紀外野手(2年・健大高崎)の犠打で1死3塁とすると、チーム打率ナンバーワンの森田智貴内野手(3年・霞ヶ浦)に打順が回った。3球目だった。森田の打球は、先制の右越え2点本塁打となった。
先発の多間隼介投手(4年・北海)も、ランナーを出しながらも点を与えないピッチングを続けていた。一発勝負のトーナメント戦、投打共に勝負どころでは思い切った判断が必要だ。5回裏、多間が四球を与えて1死1塁としたところで「相手のバッティングのタイミングが多間に合ってきている」と感じた桜美林大は、早めの継投に入った。首都リーグで中継ぎ投手ながら最高殊勲選手に選ばれた、山本雅樹投手(3年・中越)をマウンドへ送り出す。
ところが、神宮のマウンドでは、山本の本来のピッチングを見ることはできなかった。安打と四球で1死満塁とした上武大に犠飛で1点を奪われると、6回裏にはストレートの四球2つを含む与四球3でマウンドを降りることになってしまった。
その後、追いつかれた桜美林大は随所に好守を見せたものの、7回裏にエラーを重ねて無死3塁とされ、上武大の山脇彰太主将(4年・九州国際大付)に勝ち越しの2点本塁打を許した。
スタートは良かったが、6回以降はひとりも出塁できないまま、初の大学選手権が終わった。試合後には、津野裕幸監督、松江京主将(4年・二松学舎大付)、多間投手のオンライン取材が行われた。
先発した多間は、上武打線との対決を「やっぱり全国の舞台だと、全員が手強いと感じました。ひとりひとりに神経を使わされたので、普段以上に疲れました」と、振り返った。
9回表に代打で出場した松江は「相手の山脇選手がホームランを打ったのに対して自分は三振という結果。多間もピッチングは頑張っていましたし、キャプテンの力で差がついてしまったと感じています」と自身の打撃を反省し、チームとして足りなかった部分については「すべてですね。打撃、守備、送球、雰囲気もそうですけど、ここひとつの粘りだったり」と語った。
今年の春は、投高打低の傾向がある首都リーグでの戦い方を徹底的に研究した。連打を待つのではなくサインプレーを多用し、積極的に次の塁を狙う野球で少ないチャンスをモノにしてきた。観ている側にも、試合を通してチームがどんな野球をしようとしているかがはっきりとわかり、指導者、選手、スタッフがブレずに同じ方向を向いて戦っていることも伝わってきた。その結果がリーグ優勝だった。
前回、桜美林大が全国大会に出場したのは2016年秋の明治神宮大会。今、在籍する選手たちにとっては、この大学選手権が首都リーグ所属チーム以外と戦う初めての公式戦だった。全国大会での1勝はおあずけとなったが、初戦の相手を分析し、戦略を立て、それに向けて練習をして、実際に神宮球場でプレーをしたという経験は、またチームを一回り大きくしたに違いない。
津野監督は「リーグ戦からキャプテンの松江、副キャプテンの多間、七井(祐吏/4年・作新学院)、遠藤(幹太/4年・修徳)を中心にずっと戦ってきて、今まで以上にチームがひとつになったというところは、選手を褒めたいなと思います」と、いつも通りの優しい口調で春を振り返った。そして「秋にもう1回チャンスがあります。また彼らと全国大会を狙えますので、(今回の負けは)悔しいですけど楽しみと言いますか、また一緒に戦っていきたいなと思います」と前向きな思いを口にした。
その思いに呼応するように、主将の松江も「監督さんも言っていましたが、今回はもちろん悔しいですけど、秋が楽しみでしかないです。この仲間となら秋には、上武大学さんのような強い大学とでも戦えるチームになると思うので、死んでも倒すという勢いでやってやろうという気持ち、自分たちならできるという気持ちでいます」と、力強く話した。
指導者と選手が、同じ温度感で同じ方向を見ていることは、桜美林大の最大の強みだ。いわゆるスター選手がいるわけではないが、それぞれが自分の役割を全うすることで勝ちを掴んでいく。その中で、あえてひとり秋の注目選手をあげるとすれば、大学選手権でホームランを打った森田智貴だろうか。
フットワークのいい軽快なショートの守備でチームを盛り上げる森田は、「ピッチャーが打ち取ったボールを確実にアウトにすること、打球と衝突しないこと、一歩目をしっかり切ることを大事にしている」と言う。「タイプ的には今宮選手より源田選手だと思うので、源田選手をお手本にしています」と、使用するグローブもZETTの源田モデルだ。また、打撃では長打を打つことも細かい攻撃にも対応ができ、春はリーグ3位の打率を残している。
桜美林大は、春の王者として、そしてリーグ戦連覇に向けて、どんな夏を過ごしてきたのだろうか。開幕が待ち遠しい。
春季リーグ2位 帝京大学
優勝まで、あと一歩だった。
2戦総当たり・勝率制で行われた春季リーグ戦。帝京大は、全10試合のうち6試合を終えて2勝4敗と、1敗でもすれば優勝の可能性がなくなる絶体絶命に陥っていた。それでも「チームの士気は下がらなかった」と、宮川将平主将(4年・成田)は言う。ここから怒涛の4連勝で、東海大・桜美林大と同率1位になり、3校での優勝決定トーナメント戦へと望みを繋げた。トーナメントは昨秋の順位をもとに組まれ、帝京大はシードとなった。
勝ち上がってきたのは桜美林大だ。
昨年の秋は、あと1勝でリーグ2位が確定し横浜市長杯争奪関東地区大学選手権への出場が叶う、という大事な試合で桜美林大に負けた。この春も、優勝、そして大学選手権出場のかかった大事な試合の相手は桜美林大となった。「去年の思いもあり、チームの雰囲気も高まっていました」そう、宮川は試合前の様子を語った。
その思いが、初回の猛攻に繋がった。先発した岡野佑大投手(4年・神戸国際大付)が1回表を3人で終わらせると、その裏、帝京大は宮川の犠飛、佐久間崇太内野手(2年・享栄)と今﨑圭秦外野手(1年・智辯学園)の連続適時2塁打で4点をあげた。ベンチの盛り上がりを見ていても、このまま帝京大が勢いに乗っていくかに見えた。
ところが2回表、3点本塁打であっという間に1点差とされると、4-11とまさかの大量失点で大逆転負けを喫してしまった。試合後、主将の宮川は敗因について「初回に先制点を取れて有利に試合運びができるかなと思ったのですが、桜美林大学さんもすぐ取り返してきて、相手の気迫にやられたというか……。点差はついてしまいましたが、力の差はそんなになかったと思います。ただ、向こうの方が優勝したいという気持ちがひとつ上回っていたのかな、と感じました」と、静かに述べた。
「気持ちの差」については、唐澤良一監督もこんなことを言っていた。
「正直、こういう悔しさに涙を流す選手がひとりふたりいてもいいのかな、と思いました。表面的にただ泣くという意味ではなくね。そういうやつがいなかったので、(優勝に喜ぶ桜美林大の姿を)目に焼き付けておけ、と言いましたけど」
どのくらいの悔しさを感じたかは本人たちにしかわからないことだが、少なくとも筆者には、負けを素直に受け止め、自分たちに足りないものを考え、学ぶ姿勢があるチームに見えている。そう感じた理由のひとつに、筆者が優勝した桜美林大について書いた記事を帝京大野球部で運営しているSNSアカウントでシェアしていたこと、がある。一般的に、そのようなアカウントは広報目的で運営しているため、自チームに関係ない情報は発信しないことが多いだろう。
とはいえ、運営しているのは学生たち本人で、見るのも外部の人だけではない。すべてのチームが優勝に向けて最大限の努力をしている中で、自分たちが少しでも上に行くために、プラスになる可能性がわずかでもあるものは共有しようと考えることは、とても自然で大切なことに思える。たとえそれが、最後に負けたライバルチームのものだとしてもだ。いや、だからこそかもしれない。帝京大の強みは、その素直さ、まっすぐさにあるのではないだろうか。
主将の宮川にとっては、自身の調子が上がらないまま終わったシーズンとなってしまったが、唐澤監督に「キャプテンが沈んでいたらチームの士気も下がる」と言われ、気持ちを奮い立たせてきた。「副キャプテンの大友(宗/4年・鳥羽)とか、4年の草野(里葵/4年・市船橋)とか、他のメンバーもみんなで声掛けしてくれたので、本当に助かりました」と、連敗で苦しいときもみんなで乗り越えた。
最後の最後、あとちょっとのところで目標に手が届かなかった。昨年の秋も味わった「あと、ちょっと」の思い。
「試合の中で、勝負の分かれ目があると思うんですけど、そこで決め切れるかというところの差だと思います。ここぞの場面での勝負強さというか。リーグ戦で4連勝できたのは、少ないチャンスの中で1本出せていたからだと思いますが、今日は、相手は中野選手が勝負どころで1本出して、こっちは自分にチャンスがあったのに打てませんでした」そう目を伏せた宮川は、まずは個々のレベルアップをはかり、その力を結集させてチーム力を高めることを秋までの目標とした。
唐澤監督いわく、春はスタンドで応援していた部員の中にも、まだまだいい選手がたくさんいるそうだ。「その選手たちも秋に向けて鍛えていく。その中で、今までユニフォームを着ていた選手もどうするか見ていきたいですね」 と激しいレギュラー争いがある一方で、常にチームの先頭に立つのは主将の宮川だ。思うような結果が残せなかった春の分も、秋はプレーでチームを引っ張る姿が見たい。