”本気でJリーグを目指す” 新社会人サッカークラブ 「FC NossA 八王子」クラブ誕生のきっかけと子どもたちへの想い。
今年2月、新たなサッカークラブ「FC NossA(ノッサ) 八王子」が発足した。
「本気で Jリーグを目指す」「東京都初のサッカー専用スタジアムを目指す」この2つの大きな目標を掲げ、新たなチームが産声を上げた。
現在、東京都社会人サッカー連盟4部リーグに所属し、Jリーグを目指すべく新たな挑戦が始まっている。
設立の経緯や今後のビジョンなどについて、誕生して間もない3月に杉本浩司代表、土屋征夫監督、平本一樹アドバイザーに話を伺った。
(取材協力 / 写真提供:株式会社⼋王⼦Jリーグプロジェクト、以降敬称略)
2021年2月、八王子に新たなサッカークラブが誕生
設立の経緯は2018年にさかのぼる。ホームタウンの八王子は人口は約56万人おり、20を超える大学をはじめ、中高合わせて130校以上を有することから学園都市として発展してきた。
スポーツも盛んで、特にサッカーは子供から大人までの競技人口が5,000人を超えるなど市内各地で活動が行われている。
市内では、「八王子フットボールクラブ(八王子FC)」「アローレ八王子」と、共に東京都社会人サッカーリーグ1部に所属しているチームが存在している。
ただ、共に1部に所属しているチームであることもあり、八王子の持つ競技人口拡大の可能性が分散しているという課題があったという。そのため、2チームの統合を目指し18年に有志団体「八王子からJリーグを目指すプロジェクト」が発足した。
杉本はじめ当時八王子FCでプレーしていた平本も、新チーム実現に向け奔走していたが、各クラブはそれぞれ方向性を持っていることから、合意には至らず難航。
そこで今年に入り、杉本らは後にFC NossA 八王子の運営会社となる「株式会社⼋王⼦Jリーグプロジェクト」を設立し、2チーム個々に「合流しようと」再度アタックする。
加えて八王子サッカー協会とも協議を重ねたが、両チームとも各自の路線でチーム運営を行うと表明したため合流を断念、新チームとして活動することを決断した。
そして2月1日、「FC NossA(ノッサ) 八王子」が誕生した。
”ぼくらの八王子” 子どもたちの夢を抱けるクラブに
杉本代表は、地元の不動産会社「エスエストラスト」で社長を務める傍ら、14年からブラジルフットボールバー「NossA」を運営している。チーム名は市民に親しまれているこのお店の名前から冠した。
”NossA”は、ポルトガル語で「ぼくらの」という意味を持つ。
「ぼくらの八王子」を盛り上げ、市民から心より愛される Jリーグクラブを本気で目指すという想いも込めた。
市民が熱狂し、子どもたちが真剣に夢を抱けるクラブ。そして、東京都初のサッカー専用スタジアムを創ることも目指している。
実は杉本、かつてブラジルでサッカー留学の経験を持ち、帰国後もプロを目指していた選手である。今回、チーム結成におけるビジョンを語った。
「スタジアムが八王子にできて、(土屋監督や平本アドバイザーが長く在籍した)ヴェルディと試合をして市民が盛り上がる。そんな姿を描いています。八王子出身の選手が躍動するところを地元の子どもたちが観て憧れる。これがビジョンです」
チームを率いる監督にはJリーグ通算580試合に出場した土屋征夫が就任した。
土屋は高校卒業後、ブラジルにサッカー留学し1997年にヴェルディ川崎(現:東京ヴェルディ)に入団。その後6チームを渡り歩き、東京23FCに所属していた2019年に現役を引退。45歳までプレーし、18年にはJリーグ功労選手賞を受賞している。
杉本とは、同時期に共にブラジル留学した”同志”である。帰国してからも交流は続き、今回、代表と監督というそれぞれの役割を変えて再度同じチームになった。
「八王子の人たちはすごく陽気な人たちが多くて大好き。僕はブラジルの陽気さも知ってるので特にそう思います。
僕も一樹もそうだけど楽しいことが大好きなんですよ。とにかく仲間が好き。その仲間と楽しいことをして何かを達成するっていうのは人生でなかなかできるものではないですが、その目標を掲げていきたいし八王子を盛り上げたい。すごく大きい目標だし難しいことですが、絶対実現したい想いでこのチームの監督をすることを決めました」
「子どもたちは宝」平本が描くクラブ像
また、アドバイザーでは平本一樹氏・常盤聡氏が加わった。共に八王子出身の元Jリーガーである。
今回取材に協力いただいた平本は八王子出身初のJリーガーで、98年にヴェルディ川崎に入団。07年に横浜FC、12年にFC町田ゼルビア、13年にヴァンフォーレ甲府にいずれも期限付き移籍でプレーした後16年にヴェルディに復帰した。
17年に一度引退しFC町田ゼルビアのチームPRリーダーに就任するも、翌18年8月に八王子FCに入団し現役復帰した。
現在はFC町田ゼルビア強化部に在籍しながら、地元八王子を盛り上げるべくクラブをサポートしている。
生まれ育った八王子で新しいチームを立ち上げることになり、「地元って特別じゃないですか。どうにかして恩返ししたいと思っていますよ」と期待に満ち溢れた想いを語った。
平本は地元を盛り上げるにあたり、参考になった話を紹介してくれた。
「以前、女性で初めてJリーグの理事になった米田(恵美)さんという方が『Jリーグをつかおう!』という考え方があって、その記事を読みました。それが共感することしかないほどすごくいいこと言っていて。『”応援してもらう”じゃなくて”応援してもらうための活動をする”』と。
八王子だったらJリーグにはもちろん行きたいですけども、まずはサッカーやスポーツを流行らせて市を盛り上げる。その過程で”気づいたときにはJリーグが近づいてきた。”それが理想だなと感じているんです」
そして、平本が最も大切にしていること。それは未来を担う子どもたちである。既存の2チームを統合する際にも「子どもたちが八王子でJリーグを目指せるチームを作りたい」と訴え続けてきたほど子どもたちへの想いは強い。
「社会人リーグはサポーターとの距離がとても近いので、そこを保っていきたいです。子どもたちに向けて試合前にサッカースクールをやって、その子たちに応援してもらうこともやっていきたいなと。手を伸ばせば触れられる位の距離に選手がいるのは本当に良い環境だなと思うので、大事にしたいです」
ヴェルディ時代、平本がジュニアユースの頃から共にプレーしてきた土屋もその考えは全く同じだ。平本の会話に入り想いを重ねた。
「一樹が言うように八王子の子どもたち、大人も含めて一緒にプレーしたり、サッカー教室をやったりというのをどんどんやって行けたらと思ってるんです」
平本は続けて、クラブと子どもたちと触れ合ったエピソードに心打たれた話を披露した。
「以前、ブリオベッカ浦安の試合を観に行った時に、応援しに来てくれた子どもたちと試合後にも触れ合ったりしているんですよ。選手のことはまだ分からないのでしょうけども、子どもたちがすごくキラキラしてるんですよ。うれしそうにしていて。
『10番の選手が一緒にボール蹴ってくれたんだよ』って親子で話しているのを見てすごい良いことだなと思って。
そんなチームが地元にあって市民と関係を築いて行けたらすごい選手が育ってくると思うんですよ。八王子には子どもも多いですし、そのポテンシャルはありますよ。子どもたちは宝ですから」
スポンサーは約半年で100社を超える
2月に発足してから約半年、スポンサー数は早くも100を超えた。コロナ禍で打撃を受ける企業もありながら、「”八王子のため”・”チームのために”と協賛していただいています」(杉本)と順調にスポンサー数を伸ばしている。
杉本も立ち上げから、反響の大きさを感じているという。
「1口10,000円からなのですが、法人に加えて個人のお客様もいらっしゃいます。土屋監督の知り合いとか、僕も小学校や高校の友人から『すごいのやってるね』と協賛していただくなど、ありがたくも自然と集まってきていますね」
また、行政との関係も順調に築いている。3年前の統合プロジェクトから杉本らの想いは理解しており、FC NossA 八王子についても前向きなことと捉えている。
「行政の方々も3年前からJリーグに向けたチーム設立について知っています。弊社もコワーキングスペースの運営を通じて市と関わりもありますので、知り合いも多いです。ただ、行政と話ができるのは関東リーグに上がってからなのでこれからですね」
「楽しみながらしっかりと戦う」
3年越しの想いから生まれた新たなチーム。初年度である今年、どんな1年にしていきたいか、最後にそれぞれ抱負を語った。
「今年1年間は企業としての基礎を作りたい。大体役割分担がわかったり社員の採用が決まったり組織を作り上げる年にしたいです」(杉本)
「とにかくチームを知ってもらうってことです。八王子の隅から隅までまずは知って興味を持っていただいて、試合を観て『面白いことやってるんだ』と感じてもらうことがまず一番と思っています」(平本)
「選手たちにとにかく全力で戦ってもらう。東京都4部であろうが、サッカーやる以上は楽しんでもらいながら、しっかり戦って行く。それをみんなに伝え続けていきたい」(土屋)
4月4日、東京都社会人サッカー連盟4部リーグの開幕戦。大宮けんぽグラウンドで行われたONsenZEとの試合は6−0と快勝。白星スタートとなった。
ただ、今は緊急事態宣言によりリーグ戦が中断。チームは可能な限り活動を続け、再開した際にベストプレーができるよう鍛錬を重ねている。
いつか八王子から「Jリーグのチームが誕生した」3人の夢が実現する日はそう遠くない。