鎌倉インターナショナルFCが実現する「みんなでつくる」スタジアム

Jリーグクラブが最も多い神奈川県において、面白い取り組みで注目を浴びるアマチュアサッカークラブがあるのをご存知だろうか?鎌倉に創設されたサッカークラブ 鎌倉インターナショナルFC(以下、鎌倉インテル)である。世界とのあらゆる境界線を持たないサッカークラブとして『CLUB WITHOUT BORDERS』をコンセプトに掲げる。チームとして目指すのはJリーグ参入であるが、目標はそれだけではない。サッカークラブでありながらも、その存在価値は「サッカークラブであること」にあるのではなく、「サッカーをハブにしたコミュニティであること」である。

鎌倉をホームタウンとする鎌倉インテルの試合やイベントには、年齢や性別、国籍問わず地域の人々が集まる。それを可能にしているのが、2021年10月に完成した人工芝グラウンド、みんなの鳩サブレースタジアム(以下、鳩スタ)だ。鎌倉に建設したフルサイズのサッカーコートに、各種イベントが開催可能なパークを有するグラウンドとなっている。公式戦ともなると多くの観客が訪れるこの場所だが、2022年8月に開催された夏祭りには、約2000人もの人々が来場した。なぜ地域のサッカークラブが、このような取り組みを行うのか?その理由を紐解くべく、選手兼フロントスタッフの岡崎氏に話を聞いた。

ロゴのメインモチーフであるEVOLVING MARBLEには様々な意味が込められている

鎌倉インターナショナルFCの歴史と現在

まずはクラブについて簡単に紹介したい。鎌倉インテルは2018年1月に設立され、神奈川県サッカーリーグに所属。2022年シーズンは2部リーグを戦っており、来季の1部昇格を目指しているところだ。さらにはその先にある関東リーグを経て、アマチュアトップリーグであるJFL、そしてJリーグ参入を見据えて活動している。一方で、国境をはじめとした、あらゆる境界線をもたないことを理念としたサッカークラブとして、国際都市・鎌倉で地域に根付く存在となり、単なるサッカークラブにとどまらない活動を続けている。多くのスポンサー/パートナー企業がその活動に賛同し、ホームゲームやイベントには多くのサポーターが集まるという事実が、それを証明していると言えるだろう。

現在はセカンドチームやエンジョイ志向のチーム、子供向けスクールなど、あらゆるカテゴリをカバー。さらには、サッカー以外のスポーツも展開する。年齢、性別、国籍問わずあらゆる人々を受け入れる総合型スポーツクラブになっている。

みんなの鳩サブレースタジアムには多種多様な人々が集まる

みんなのスタジアムを建設した理由

鎌倉を拠点に活動するクラブは、昨年まである問題を抱えていた。「鎌倉のクラブで在りながら、鎌倉市内に天然芝はおろか、人工芝のフルコートのサッカー場は1か所もなかったために鎌倉で活動ができていませんでした」と岡崎氏は言う。鎌倉には土の多目的広場を有する運動公園があるだけだったそうだ。鎌倉インテルが湘南深沢の地に鳩スタを建設したことでこの問題は解消されたことになる。ただし、それがゴールではない。

「市内に整備されたスポーツ環境がないという地域の課題が見えてきて、グラウンドを鎌倉につくることはそうした課題の解決に繋がるのではないかと思いました」と岡崎氏は話す。さらに「ホームタウンである鎌倉で活動するため」という目的がある。活動とは、サッカーだけを指すのではない。人工芝グラウンドを活用した様々な取り組みを行える、地域の交流拠点としての役割を果たすことだ。

「常に根本には、スポーツやサッカーの持つ世代や立場の違いを越えられる力や街のコミュニティとしての可能性を広げたいという想いがあります」と力強く語る通り、その想いは多くの人々に届き、鳩スタ建設資金を集めるために資金を募り、目標金額を上回る支援があった。それでも問題がすべて解決したわけではない。湘南モノレールの湘南深沢駅から徒歩数秒という好立地にあり、既に地元に認知された鳩スタだが、この土地に存在できるのは2024年までの約3年間なのだ。期間終了後の予定は未定だが、いずれにしても短期間で建設費用を回収する必要がある。建設後も継続的に支援を募り改修を続け、2022年10月には水溜りやぬかるみが課題であったパークスペースの排水工事が行われた。

支援金は建設費用の回収に使われるだけでなく、スタジアムの改善や「鎌倉インテルこども未来基金」に充てられることで、多くの賛同を得ているのだろう。鳩スタは存続を目指しており、どういう形になるかはわからないが、鎌倉インテルの明確なビジョンとそれを実現しようとする熱量、またそれに共感する人々が、奇跡を起こす予感がしてならない。

予想の2倍以上の人々が集った夏祭り

2022年8月11日、鳩スタで開催された夏祭りは、老若男女多くの人々で賑わっていた。当初見込んでいた最大800人程度という予想来場者数を大きく上回る約2000人が集ったのだ。「地元鎌倉深沢を活気づけたい。そしてこの祭りを機により多くの人に鳩スタに足を運んで頂きたい」という想いで開催したのがこのイベントであった。客観的に見れば、既に多くの地域住民やサポーターが集う場所になったように思える鳩スタ。そこでの開催ともなれば、成功に終わるのは当然だと考えられる中、岡崎氏からは意外な言葉が返ってきた。

夏祭りに約2000人が来場した鳩スタは間もなく開業1周年を迎える

「サッカー以外の競技での活用や近隣の幼稚園の園児の散歩コースや高齢者向けの健康教室などを定期的に実施していました。しかし、鳩スタの近隣や鎌倉市内にはまだ一度も鳩スタには行ったことがないという方がほとんどでした」地域住民の多くにとっては、まだまだ未知の場所だったのだ。新型コロナウイルスの影響で、2年以上も各地で野外イベントが相次いで中止される状況において、鎌倉市内のお祭りも例外ではなかった。そんな中「商店街や地域の方にも「是非鳩スタで街の夏祭りに代わるお祭りをやって欲しい!」と背中を押されたとのこと。地域のニーズに応える姿勢が成功の要因だろう。

お祭りには複数の屋台が出ているほか、チアリーディング演技やバンド演奏、地元の少年少女サッカークラブによる試合など、多くの催しで来場者を楽しませてくれた。そして最後にはサプライズで、湘南深沢出身で湘南乃風メンバーのHAN-KUNが登場。仕事ではなくプライベートで訪れたとのことだが、名曲『純恋歌』の鎌倉インテルバージョンを歌い、祭りの終わりを盛り上げた。

選手兼フロントスタッフの岡崎氏(左)と湘南乃風HAN-KUN(右)

鳩スタの今後の構想

「成功というには、まだまだハード・ソフトともに改善の余地が多くあると思っています」と岡崎氏は話す一方で、「本当に有難いことに、毎試合200名の観客スタンドは満席になります。鳩スタ祭りには約2000人の方にお越し頂きました」と、一定の成功を実感しているようだ。また、鳩スタで試合を観た方の「ピッチとの距離が想像以上に近くて驚いた」という意見に対して、岡崎氏はとても印象的な表現で語った。

「それは物理的な距離だけでなく、スタジアムの建設の時から積み上げてきた「みんなでつくる」というコンセプトがスタジアム全体の一体感を生み、また来ようとか、今度は友人を連れてこようと思っていただけることに繋がっているのではないかと思います」

これがみんなの鳩サブレースタジアムである。まさに「みんなでつくる」スタジアム構想は、Jリーグが掲げるスポーツで地域振興を図る取り組みである「百年構想」の目指すところではないだろうか。Jリーグクラブだけではなく、地域のサッカークラブでも実現可能だということを証明した。鎌倉インターナショナルFCの次の挑戦を楽しみにしたい。

(取材・文・写真:阿部 賢 写真提供:鎌倉インターナショナルFC)

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