サッカークラブのサポーターという存在

ゴール裏スタンド最前列、大声を張り上げながら選手たちを鼓舞する姿はサッカースタジアムでは当たり前の光景となっている。サッカー日本代表のサポーター団体「ウルトラス・ニッポン」は広く知られる存在だが、Jリーグや、Jリーグ参入を目指す多くのサッカークラブにも必ずそのクラブを応援する人々がいて、その中心には必ずサポーター団体の存在がある。時に激しく、時に優しくスタンドから選手たちを見守り叱咤激励するその姿は、まるで我が子の成長を見守る親の存在と重なる。そんな、「おらがチーム」を目一杯応援するサポーターは、実際どのようにクラブと関わり、どのような想いを抱いているのか。Jリーグ入りを目指すある社会人チームのサポーター団体の代表に話を聞いた。

(写真はイメージ)

アローレとの出会いのきっかけは『社会人野球チーム』

前田良平、27歳。

東京都社会人サッカーリーグ2部に所属する「アローレ八王子(旧称:アローレはちきたFC)」のサポーター団体、「Unity八王子」の代表を務める前田氏は、クラブと関わるようになり2年が経とうとしている。

アローレとの出会いは偶然だった。もともと学生時代野球少年だった前田氏は、八王子市にある社会人野球チーム「セガサミー」を応援する為グラウンドに通っていた。その中で、近くで活動をしていたアローレの存在を知り、自然と興味を持つようになったと言う。

「Jリーグ昇格を謳っていて魅力に感じました。」

アローレは当時から「Jリーグ参入」を明確な目標に掲げており、そのビジョンに前田氏は共感した。そして、クラブ2人目の個人ソシオ会員(個人スポンサー)となりクラブとの関係がスタートすることとなった。

実は前田氏、もともとスポーツビジネスに興味をもっていた。大学もスポーツビジネスが学べる学校へと進学し、茨城県に祖父母がいるという縁から、大学時代は水戸ホーリーホックでインターンとして働いていた経験も持つ。自宅のある西国分寺から週に2~3回水戸に通う生活も、その現場に浸れる事を考えると苦にはならなかったというほどサッカーの世界にのめり込んだ。

サポーターでありながら”スタジアムDJ”もこなす

そんな前田氏がアローレと密接な関わりを持ち始めたのは、個人ソシオ会員になってしばらくたってからだった。写真が趣味の前田氏が、アローレのゲーム中にピッチサイドで一眼レフを構え撮影を行っていたところに、クラブの紙本代表が歩み寄り、チラシを手渡してきたのがクラブとのファーストコンタクト。

「実は私、ソシオ会員なんです。前田と言います。」

そう紙本代表に告げると、その存在をクラブから認識されることとなり、その後急速にその距離が縮まっていくこととなった。

次第にサポーターの数も増えていき、自然とサポーター団体を立ち上げ、その代表になった。クラブ側とコミュニケーションを図るにつれ、信頼をも得るようになり、現在はクラブとサポーターの調整役を担っている。
もちろん、試合になればスタンドの最前列でチャント(応援歌)を大声で歌い、拍手や叱咤激励で選手たちを鼓舞する。しかし、試合外では、クラブ側から設けられている「ソシオ会議」というクラブとサポーターとの意見交換の場で、サポーター代表として忌憚ない意見をクラブ側にぶつけている。

時には地域のイベントに選手やスタッフと一緒に参加しチャントで盛り上げ、またある時は、アローレの応援ソングを歌っている地元パンクバンドのライブにも飛び入り参加し、クラブ地域活動に一役買っている。

極めつけは、前田氏は現在アローレのホームゲームでスタジアムDJを務めているということ。サポーター団体代表がスタジアムDJをやるなどという話は聞いたことがないが、そこにクラブと前田氏の関係性が垣間見えた。

「ほど良い距離感で言いたいことは言う」

スタジアムDJを任されるくらいクラブからの信頼を得ているという話を聞き、ある事を尋ねてみた。

ーもともとスポーツビジネスに興味があるにも関わらず、なぜサポーターにとどまっているのかー

このクラブとの距離感であれば、アローレ八王子のスタッフとして同じ夢を追うということも、雲をつかむような話ではないのではないかと思ったからだ。しかし前田氏からは意外な言葉が返ってきた。

「チーム、クラブを強くする為にはあえて苦言を呈する事も必要になります。中の人になってしまってはそれが出来なくなる可能性があるんです。もちろんクラブ側にもそういった考えは無いとは思いますが、あえてクラブ運営に参画するのではなく、サポーターとしての立場を貫くことで、愛ある意見をぶつけていきたいんです。程よい関係で、言いたいことを言うといった感じですかね。」

前田氏は現在、本業の休暇を利用し、無報酬でチームに関わる。そして、その上で一定の距離を起き、サポーターにしか出来ないことをやっていくという姿勢を貫くという覚悟が感じられた。

今後の想い

「今は責任で動いています。手弁当で活動していますが、そこは苦になりません。アローレでしか出来ないこと、アローレでしか会えない人がいて、それは全てアローレがあるからこそなんです。」

地域を巻き込んでいくビジネスモデルであるサッカークラブにおいて、クラブと地域を結びつける人間の存在は大きい。前田氏はいま、アローレにとってそういった存在になろうとしている。

「アローレにクラブハウスが出来たんです。ジュニアユースやユースの選手たちとも交流が持てるし、いつでもそこにいけばクラブと触れられると思うとやっぱりすごいことですよね。」

嬉しそうにクラブハウス完成を喜ぶ前田氏。ユースチーム(高校生世代)、ジュニアユース(中学生世代)の各チームに所属する選手たちとも積極的なコミュニケーションを図り、トップチームのスタンドには度々育成チームの選手たちが合流し盛り上げてくれるという。

決してまだまだ大きくはないクラブだからこそ、クラブを愛する一人ひとりが大切なアドバイザーになっているのかもしれない。

「いつかJのピッチでチャント歌いたいです。」

前田氏は大きな夢を語った。しかし、その大きな夢もまた、実現不可能ではない。クラブを愛する人々の思いが結集した先に、目指す大きな舞台は必ず用意されている。

「J昇格」を夢見て、前田氏と「アローレ八王子」の挑戦はまだまだ続く。

鈴木蹴一
ジュニアサッカーシーンをお届けするWebサッカーマガジン【ジュニアサッカーWeekly(http://j-s-w.jp/)】編集長・カメラマン。主に関東地域にて、サッカー育成年代の取材・撮影に力を入れている。その他、カメラマンとして様々な種目の撮影を行う。

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