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「選手と意見交換」「競争意識を生む」新監督とともに戦った桜美林大の春季リーグ戦(前編)

 桜美林大の春が終わった。

 4月1日から行われていた首都大学野球春季リーグ戦。桜美林大は、4勝7敗 勝率0.36 勝ち点2で4位という成績だった。思い描いた結果ではなかったかもしれないが、今後に期待が持てる、内容の濃いシーズンだったのではないだろうか。

 桜美林大は、他の5チームと違う事情を抱えて開幕を迎えた。リーグ戦まで1ヵ月を切った今年の3月、2013年から監督を務めていた津野裕幸氏が退任し、桜美林高校のコーチに就任することになったのだ。それにともない、2014年からコーチを務めていた藤原悠太郎氏が桜美林大の新監督に昇格(始動は3月上旬、就任日は4月1日)。選手たちは昨秋のリーグ戦終了後からすでに新チームとなって始動していたが、開幕まで1ヵ月弱でさらに改良を加えてリーグ戦に臨んだ。

 そんな桜美林大の春を前編・後編で振り返る。

「競争意識を生む」新監督の野球

 首都大学野球連盟で一番若い監督が誕生した。横浜高校時代は同期の倉本寿彦選手、1つ下の筒香嘉智選手らとともに夏の甲子園に出場。桜美林大野球部OBでもある藤原悠太郎新監督は、現在32歳だ。

三塁コーチャーズボックスからサインを出す藤原悠太郎監督

 開幕直前の人事で、新しい常任コーチの招集もなかったため、平日は藤原新監督ひとりで選手の指導にあたっている。試合中も、コーチ時代と変わらず三塁コーチャーズボックスに立つ。コーチとしてずっとチームに関わってきた藤原氏が、監督という立場になったことで、選手側に何か変化はあったのだろうか。森田拓斗主将(4年・真颯館)は、こう話した。

「結構変わったと思います。今まで以上に選手に競争意識が生まれたと思いますし、メンバーに入っていない選手もリーグ戦でしっかり応援してくれていて、チーム全体が強くなっていると感じます」

 さらに、森田と監督の関係にも変化があったという。「コーチのときからお話はしていましたが、僕がキャプテンになったのもあり、監督になられてからは前よりも特に話す機会は増えました。チームを良くするために僕たちの意見も欲しいと言ってくださるので、こちらから意見を言わせてもらったり、藤原監督から何か相談していただいたり、フランクなスタイルでやってくださっています」。

 「フランクなスタイル」を象徴する出来事があった。3月上旬からオープン戦の指揮も取り始めた藤原監督だったが「打順がハマっていなかったんです」と、打順の組み替えを選手たち自身に任せることにした。「一番は誰が打つ?」と立候補を募る形で決めていった打順は「試合をしてみたらハマりました」と、手応えを感じられるものだった。

 藤原監督のリーグ戦初勝利は、開幕から2戦目に訪れた。前日は武蔵大相手に11安打しながらも2-6で敗れたが、2回戦のこの日は4-3で勝利。

 「昨日は監督として初の試合で、選手たちはよくやってくれたのに自分自身がフワフワした感じだったのがスコアに反映して、申し訳なく思いました。選手たちがフォローしてくれて、スタンドからも声をかけてくれたことで、今日は私も地に足をつけて、1試合通して自信を持って采配できたのかなと思います。選手に頭が上がらないですね」。試合後、そう言って笑顔を見せた藤原監督だったが、同時に自分自身と選手それぞれの反省すべき点も明確にしていた。

 試合中の各場面を振り返りながら質問すると「あそこは私の監督としての経験不足のせいです。申し訳ないです」「そこは選手がもう一度練習し直すべき部分ですね」「それに関しては、チームでもう一度話し合う必要があります」と、責任の所在や問題点について明快な答えが返ってくる。さらに細かく説明が必要なときは、その作戦を選んだ意図をわかりやすい言葉で伝えてくれ、迷いがあった場面については「もっと考えてやるべきでした」と反省する。

試合中も会話をする藤原監督(右)と森田主将(左)

 毎試合後、取材を重ねていく中で、選手起用において藤原監督が大切にしていることも見えてきた。その日活躍した選手の話をするときに、必ずと言っていいほど口にするのが「普段からしっかりとした取り組みをしている選手」という言葉だった。森田主将についてもこう話していた。「森田はリーダーシップと人間性、学業、すべてにおいて模範となる選手です。1年生のときからしっかりとした取り組みをして一軍に上がってきた選手で、それが今キャプテンもやって、スタメンでも主力として活躍しています。野球だけではなく、私生活の注意などもしっかりやってくれていますし、こういう選手がやっぱりリーグ戦でも活躍できるんだぞ、と例に出して他の選手に伝えられる存在なのでありがたいですね」。

 一朝一夕ではない、継続的な取り組みの先に結果を出せる選手になることが、ベンチ入りへの近道のようだ。さらに、4勝6敗で迎えたリーグ最終戦では、スタメンに2人の1年生を抜擢し、試合中盤にもレギュラーメンバーと1,2年生の控えメンバーを同時に4人入れ替えるという出来事があった。

 これについて「秋季リーグ戦に向けて、下級生に経験を積ませたかったのですか」という質問をしたところ、「それもありますが、レギュラー陣に対して『このメンバーだとリーグ戦4位の戦力しかないよ。新しい戦力もいるよ』というサインですね。同時に、1,2年生に対しては『チャンスあるよ』と。でも、やっぱり若さが出たゲーム内容だったので『その内容だと、やっぱりレギュラーになれないよね』という意識もついたと思うんですよね。秋まで3ヵ月くらいあるので、そこを目指す練習の材料になったかなと思います」という答えが返ってきた。

 監督自身の采配も含めて、どこが良くてどこを修正すべきか。修正が必要な場合は、どんな取り組みをしていけばいいか。藤原監督の言動はとても理解しやすい。選手たちの間に、森田の言っていた「今まで以上の競争意識」が生まれた理由は、そこにあるのではないだろうか。

ゲームリーダーに副主将を置く

 オープン戦ではそれほど良かったわけではないという打線が、開幕から大爆発。開幕戦こそ結果は黒星だったが、2戦目から4連勝と「打のチーム」を印象づけた。その理由について、主将の森田は「技術の向上もあると思いますが、一番変わったのはマインド、心の部分です。ピッチャーに対してどういうアプローチをかけていくのかが、個人個人ではなくチームとして共有されています。今までは誰かひとりで崩していく感じだったのが、9人全員でひとりのピッチャーを崩していく意識が共有されていることが、打線のつながりに表れているのだと思います」と語った。

経験豊富な揚野はゲームリーダーとしてチームを引っ張る

 そんな野手の中心となっているのが、副主将の揚野公匠内野手(4年・二松学舎)だ。「僕も今はスタメンで出ていますが、揚野は必ずスタメンで出る選手なので、試合の中での統率は揚野に任せる、それ以外の統率は自分、とふたりで決めています」と話す森田とともに、チームを引っ張る。藤原監督は、ふたりについてこう話した。

「揚野は内野どこでも守れて、試合で活躍できる技量はかなりある選手なので、下級生のときから信頼を置いています。背番号も1を渡し、チームのゲームリーダーとして期待しています。森田は、私が三塁コーチャーをやっているので、攻撃中はベンチメイクもやってくれています。私がいなくても森田がいれば大丈夫、そんな存在です。ふたりとも、コミュニケーションをとりながら練習を進めていくという上でかなり大人な選手ですし、一軍の練習が終わってから残って二軍の練習に出てくれたりもして、本当に頼りにしています」

 ゲームリーダー揚野の先制打が、桜美林大の今季初勝利を呼んだ。翌週の東海大2回戦では7回裏に長嶋悠人外野手(4年・千葉明徳)が逆転の3点本塁打を放ち、7-6で勝利した。「一番を打っていたんですけどなかなか自分らしさを出せなかったので、思い切りバットを振っていける四番に立候補しました」と、開幕前の打順決めで自ら選んだ「四番」にふさわしい活躍をした。

 長嶋は、藤原監督の大学時代の同級生、斉藤直紀さんの経営するジムに通い「怪我をしない体づくり」をテーマにトレーニングをしてきた。「怪我をしなくなったというのと、どうやったら打球の飛距離が出せるかとか、どうやったら強い球を投げられるかなどの、体の使い方も教えてもらっていて、それがだんだん力になってきているかなと思います」と、自身の変化について話した。

四番・長嶋の豪快なスイング

 優勝に向けて元気よく前進していた桜美林大。風向きが変わったのは、4連勝で迎えた筑波大1回戦だった。9-3の6点リードで迎えた9回表に7点を取られ、まさかの逆転負けを喫する。チーム打率はリーグ1位だったが、防御率はリーグ最下位だったため、ここまでは失点を得点でうまくカバーしていた形だった。それゆえに、リーグ戦序盤は先制されてから逆転する展開も多く、ビハインドでもいけるという雰囲気が漂っていたが、すこぶる良かった打率が少しだけ下がってからは、あと一歩で勝てない試合が続いた。結局、最後まで勝利を手にすることができず、6連敗でシーズンを終えた。

 ただ、負けた試合も内容が悪かったとは思わない。「リーグ戦序盤はたまたまバッティングが良くて大量得点もありましたが、基本的にはセーフティースクイズや足を絡めて1点取るという、桜美林大学の根底としてあるような野球を練習でもずっとやっています」というのは森田の言葉だが、リーグ戦終盤は、打ち勝てていたときには必要のなかった細かい作戦が随所に見られた。結果的に負けとなったが、いろいろな攻め方を試せたことは、秋の勝利につながるのではないだろうか。

 忘れてはいけないのが、リーグ3位の打率.356と、シーズンを通して結果を出し続けた高松陸内野手(2年・浦和学院)だ。二塁手でベストナインにも選ばれた安打製造機が、秋はどんな活躍をするか注目したい。

 次回、後編では投手について振り返る。

好きな時に好きなだけ神宮球場で野球観戦ができる環境に身を置きたいと思い、OLを辞め北海道から上京。 「三度の飯より野球が大好き」というキャッチフレーズと共にタレント活動をしながら、プロ野球・アマチュア野球を年間200試合以上観戦する生活を経て、気になるリーグや選手を取材し独自の視点で伝えるライターに。 大学野球、社会人野球を中心に、記者が少なく情報を手に入れづらい大会などに自ら赴き、情報を必要とする人に発信することを目標とする。

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